現代のサッカーはそのゲーム自体が進化しており、選手は年々高い高い身体的、技術的、戦術的要求が課されている。
スプリント、方向転換、ジャンプ、ボールの奪い合いに加え、ドリブル、パス、シュートなどの技術的スキル、そしてパフォーマンスにおける感情的・心理的側面も要求される。
特にプロアスリートはより大きな身体的・心理的プレッシャーに曝されており、そのことがウェルビーイングを損なう可能性がある。
選手に生じたストレスに対する適切な回復がなされない場合、蓄積疲労、パフォーマンスの低下、そして身体的・心理的な脆弱性を招く。特に、激しい試合(高強度のトレーニングや試合数)、移動、不慣れな睡眠環境、概日リズムを乱す夜間のスケジュール、そして短い回復フェーズなどは選手に悪影響を及ぼすだろう。
最近の研究によると、エリートアスリートが筋損傷や炎症から回復し、ピーク時の身体パフォーマンスに戻るには72時間以上が必要であることがわかっている。
ここで言う『回復』とは運動後の生理的および精神的リソースの復元を指す。この概念には「不完全または不適切な回復」と「過剰な回復」の2つがあり、不完全な回復によるストレスの蓄積は睡眠パターンを乱し、疲労知覚を減少させ、怪我への脆弱性を高め、回復能力に影響を及ぼす。
この文脈における「疲労」は、筋活動に関連するパフォーマンスの低下と定義され、「急性」と「慢性」の2つの側面がある。急性疲労は単一の試合後に発生し、数日から数時間かけて進行する身体パフォーマンスの低下を特徴とする。一方で慢性疲労はより長期間続くことで、主な原因に関連する他疾患の症状となる。
また、慢性疲労には身体活動を補完する形で認知的な消耗を引き起こす「精神的疲労」も存在する。
「精神的疲労」は、選手が(特に競技中に)多数の過酷な環境要因に曝されたときに発生する。長時間の集中、高い知覚レベルの維持、相手からのプレッシャー下での意思決定の困難さにより、身体的ストレスだけでなく心理的ストレスも引き起こす。
身体的に疲労していても自動化された動作を続けられる選手はいるが、強度は低下し、パフォーマンスは著しく低下する。つまり、精神的疲労は身体的パフォーマンスにも影響を与える。
近年の複数の文献で、怪我予防における睡眠の役割に加え、「ストレスと回復バランス」という関連変数の考慮が必要であることが指摘されている。このペアリングは、睡眠の質と運動による生理的ダメージを修復する能力の両方に影響し、睡眠と回復の長期的不均衡は怪我のリスクを著しく増大させることが示されている。
女子サッカー選手における怪我の発生率は1000時間あたり5.63件であり、男子の8.1件より低い。しかし、女子の方が前十字靭帯(ACL)や足関節シンデスモーシス損傷など重症化しやすい傾向がある。
リンクの研究は、睡眠(質、量、クロノタイプ)がサッカー選手の怪我リスクに与える影響に焦点を当て、ストレスと回復のバランスといった関連変数の役割を調査したもの。
【結果】
睡眠の質または量の低さと、怪我や病気のリスク増加との間には関連があるというエビデンスが得られた。
クロノタイプ(朝型・夜型)は関心を集めている変数だが、まだ研究が不十分。
ストレスと回復については直接的なエビデンスは限られているが、両者の不均衡が睡眠の質を低下させ、怪我への感受性を高めることが示された。
【結論】
睡眠とストレス・回復のバランスは、サッカー選手の怪我リスクにおける主要かつ相互依存的な要因で、競技パフォーマンス、身体的回復、そして何より重要な怪我予防とアスリートのメンタルヘルスにおいて根本的な役割を担っている。
したがって、ストレスと回復を単なる睡眠不足の結果としてではなく、怪我の発生プロセスにおける「能動的な調節因子」として捉えるべき。そうすることで、パフォーマンスの向上とサッカー選手の総合的な健康増進に焦点を当てた、より効果的な介入策を設計することが可能になる。
Sleep, Stress, and Recovery as Predictors of Injury Risk in Soccer Players: A Systematic Review
・睡眠はスポーツ傷害予防における決定的な要因であり、身体的および認知的パフォーマンスの最適化因子であることが示された。
・研究では、競技レベルが低いアマチュアサッカーにおいても睡眠不足と不十分な身体的準備が組み合わさることで、通常よりも高い受傷率を招くことが示された。
・ジェンダーの視点から行なった比較では、女子サッカー選手は前十字靭帯損傷の発生率が高かった。
・サッカー選手は一貫して睡眠時間の不足、睡眠の断片化、入眠困難といった「最適レベルを下回る睡眠の質」を経験していることが示された。これは、睡眠と怪我の間の重大な関連性を裏付けるもので、アスリートであるか否か、あるいは競技レベルに関わらず、睡眠がウェルビーイングと回復に影響を与える最も重要な要因の一つであることを示している。
・睡眠の「量」「質」「クロノタイプ」はいずれも病気や怪我に影響を与えるが、競技会の要求レベル、競技プレッシャー、クラブのインフラなどの外的要因によって、その影響の度合いは異なる。同時に、アスリートのレベルや身体コンディションといった内因性要因も重要な役割を果たしていた。
・研究の中で最も頻繁に言及された「睡眠の質の低さ」と「休息時間の不足」はスポーツ傷害や病気のリスク増加と強い関連を示した。病気リスクは通常よりも最大3倍高くなった。
・午後のトレーニングルーチンが長いサッカー選手の大部分は、午前のトレーニングや試合のスケジュールに適応することに大きな困難を感じていた。午前の活動はパフォーマンスやその後の回復に悪影響を及ぼす可能性があり、ひいては怪我の確率を高めることにつながる。したがって、トレーニングや試合のスケジュールを可能な限りパーソナライズする(すなわち、各選手のサーカディアンリズムに合わせる)必要性を示唆している。
・スポーツ心理学のでは、ストレスと回復のバランスがサッカー選手の怪我の素因を決定付ける鍵であることが証明されている。心理的および生理的変数の複合的な相互作用は、怪我という現象を研究する際にバイオサイコソーシャルなアプローチを採用することの重要性を浮き彫りにしている。また、負の感情的側面や状態が、睡眠不足による健康への悪影響を媒介する場合があることも強調されている。