スポーツ腱障害は様々な競技のアスリートに影響を与え、慢性化すると従来のリハビリテーションアプローチに抵抗を示すことが多い。
従来の腱障害マネジメントは、制御されている伸張負荷が適応的組織リモデリングを促進するというメカノバイオロジーの原理に基づいて、主に機械的負荷介入が採用されている。しかし、これまでのエビデンスはこの機械的負荷介入が全ての患者集団において最適な臨床アウトカムを得るには不十分であることを示唆している。
近年、腱障害の病態生理は単純な炎症モデルや変性モデルを超えて、機械的、細胞的、および全身的要因を含む複雑な多因子性の病因であるとの認識へと進化し、腱の治癒能力とリハビリテーションのアウトカムに影響を与える全身的要因、特に代謝状態に注目が集まっている。これまでの研究では、脂質、血糖代謝、および甲状腺ホルモンの間の相互作用が適応プロセスおよび腱損傷に対する感受性に重要な役割を果たすことがわかっている。また、神経代謝性疾患や遺伝的症候群が発達期に現れた場合も、腱の恒常性の変化や腱障害に対するアスリートの感受性を増加させる素因になる可能性があることが示唆されている。
現代のスポーツ医学では見過ごされがちな糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満などの代謝性疾患は腱障害の発症と予後不良な治療結果の重要なリスク因子として浮上している。
2型糖尿病は終末糖化産物(AGEs)の形成、慢性的な高血糖が腱細胞機能に及ぼす有害な影響、および組織修復能力を損なう血管新生の障害などの相互に関連しあうメカニズムを通じて腱障害リスクを高める。
メタボリックシンドロームの構成要素は、腱障害のリハビリテーションに採用されている機械的負荷介入に対する適応応答を損なう可能性のある全身性の炎症環境を生み出す。
これらの新たな知見にもかかわらず多くのリハビリテーションプロトコルは代謝状態を体系的に考慮しておらず、受傷集団における治療効果を制限している可能性がある。
と同時に、従来の機械的負荷介入を超えた先進的リハビリテーションアプローチも出現している。
栄養介入、特にコラーゲン由来ペプチドの補給は運動介入との相乗効果を示し、統合された代謝–機械的アプローチの潜在的利益を示唆している。
しかしその一方で、代謝因子と先進的リハビリテーションアプローチへの関心が高まっているにもかかわらず、過去の研究は分野を跨いで断片化されており、臨床への応用が制限されている。
リンクのレビューは、スポーツ腱障害のリハビリテーションアウトカムに対する代謝因子の影響を包括的に評価し、伝統的な機械的負荷プロトコルを超えた先進的リハビリテーションアプローチの有効性を評価したもの。
Semantic Scholarでの検索により、スポーツ腱障害における代謝的影響と先進的なリハビリテーション戦略を調査した研究を特定。慢性腱障害を持つアスリートおよび活動的な個人、代謝因子または先進的なリハビリテーション技術を標的とした介入、および妥当性が検証されたアウトカム評価指標を網羅。
【結果】
内訳はランダム化比較試験5件、系統的レビュー9件、コホート研究5件。
メタボリックシンドロームはアキレス腱障害における遠心性運動のアウトカムを著しく損なうことが示された。コラーゲン由来ペプチド補給を遠心性トレーニングと組み合わせたものは、運動単独と比較して安静時疼痛の優れた軽減を示した。
基準に基づく漸進、神経可塑性トレーニング、および段階的負荷プロトコルを含む先進的なリハビリテーション戦略は患者報告アウトカムおよび機能スコアの改善を示し、一部のアプローチは従来の遠心性プロトコルよりも優れていることを示した。
【結論】
このレビューは、代謝因子がスポーツ腱障害のリハビリテーションアウトカムに有意に影響を与えること、および代謝的項目を組み込んだ先進的リハビリテーションアプローチが治療効果を高める上で有望で、潜在的可能性を示すことについて説得力のあるエビデンスを提供している。しかし、エビデンスの確実性が低いため結論は慎重に解釈されるべき。
・代謝的病態、特にメタボリックシンドロームが標準的リハビリテーションプロトコルのアウトカムを有意に損なう一方で、代謝的事項を組み込んだ先進的アプローチが治療効果を高める上で有望であることが示された。これらの知見は、従来の画一的な腱障害管理アプローチが多様な患者集団において最適なアウトカムを得るには不十分である可能性を示唆しており、臨床診療に重要な意味を持つ。
•2021年の研究では、付着部アキレス腱障害における遠心性運動のアウトカムをメタボリックシンドロームが実質的に損なうことが実証されている。メタボリックシンドロームの参加者は同一のリハビリテーションプロトコルを受けていたにもかかわらず、代謝的に健康な対照群と比較して、疼痛レベル、満足度スコア、および投薬必要量に臨床的に意味のある差を示した。この知見は、慢性炎症、血管新生の障害および細胞代謝の変化を通じて組織修復能力に影響を与える全身性病態としてのメタボリックシンドロームに対する新たな理解と一致している。
・コラーゲン由来ペプチドの補給は、運動介入と組み合わせた場合に一貫した利益を示し、運動単独と比較して優れた疼痛軽減に中程度の確実性のエビデンスを提供した。このメカニズムは、運動誘発性の組織リモデリングに伴う代謝需要の増加の期間において、コラーゲン合成のためのアミノ酸基質を提供することに関与している可能性が高い。効果が反応性腱障害の段階で最も顕著であったという知見は、代謝的介入が活動的な組織修復期に最も有益である可能性を示唆している。
コラーゲン合成を最適化するためにビタミンCと併せて摂取し、加水分解コラーゲンペプチドの1日5〜15gの補給プロトコルが支持される。しかしコラーゲン補給は適切な運動介入を補完するものであり、それに取って代わるべきではない。
・代謝的病態のスクリーニングは、特に治療抵抗性の症状や標準プロトコルに対する初期反応が不良な患者を呈する腱障害の評価においてルーチンとして考慮されるべき。
・腱障害のリハビリテーションにおいて、メタボリックシンドロームはC反応性タンパク質、腫瘍壊死因子アルファ、およびインターロイキン-6のレベル上昇を特徴とする全身性の炎症環境を作り出し、組織修復プロセスを損なう可能性がある。慢性低悪性度炎症は、運動刺激後の効果的な組織リモデリングに不可欠な正常な炎症終息期を妨げる。
・糖尿病とメタボリックシンドロームで上昇する終末糖化産物はコラーゲン線維と架橋し、それらの機械的特性とターンオーバー率を低下させる。これは、代謝的病態を持つ患者がその治療効果をコラーゲンリモデリングに依存する機械的負荷介入に対して応答性の低下を示す理由を説明する。コラーゲン補給が利益をもたらすという知見は、これらの集団において基質利用能が制限されている可能性があることを示唆している。
・腱障害が筋損傷と共存したり、特に亜急性修復期に筋損傷から進化したりする可能性があることも考慮することが重要。両方の病態で観察される共通の炎症経路、細胞外マトリックスのリモデリング、および変化した神経筋制御は、筋腱ユニット間の連続性を示唆している。
・・・ネット上では一部の筋肉マン達が「食事内容は普段気にしない。好きなものを好きなだけ食べる」と豪語するかたもいますが、アマチュアならそれでいいかもしれませんが、少なくてもプロの世界で活躍しているアスリートに関しては、中長期的な代謝様態を考慮した食事管理が必須じゃないかなって上記のようなデータ見るといつも思うんですけどね。
ホルモンも代謝には関連するし、多面的に理解してアプローチすることが重要ですね。