今回のメモは、世界クラスのビーチバレーボールビーチバレー(BVb)アスリートにおける代謝および免疫に関する先駆的な調査をまとめてみたい。ビーチスポーツ全般に関する研究が不足していることや、屋外競技全般に関する研究が不足していることを考慮すると非常に興味深い内容だと思う。
BVb以外の屋外競技の女性アスリートにも参考になると思う。
BVbが行われるビーチ環境は、不安定な砂のコート面といった環境的課題によって運動負荷に大きく影響する。さらに選手は幅広い気温差、湿度、風、太陽光など様々な気象条件に晒されが、これらの要因は選手の代謝に著しく影響を与える可能性が高い。
しかし、ビーチバレーやその他のビーチスポーツの代謝的および免疫的負荷を評価した研究は著しく不足している。これはデータ公開に対するインセンティブの欠如や競技上の秘密のため、エリート選手においてはさらに顕著となっている。
女性アスリートは運動パフォーマンスや運動誘発性代謝ストレス応答に関する研究において、他の研究と同様に過小評価されることが多いことから、高レベルビーチスポーツ女性選手における運動誘発性の代謝応答に関する調査が急務となっている。
リンクのデータは、オリンピックメダリストの女性ビーチバレーボール選手の競技日の様々な段階における代謝的および免疫的応答を、スポルトミクス調査によって実施したもの。
2名の選手が2試合からなる模擬競技日を実施。標準化プロトコルを用いて7時点(競技中および回復期を通して分析するため)で血液と尿のサンプルを採取。分析には様々な電解質に加え、血液学的、代謝的、炎症性マーカーが含まれた。さらに、インスリン、セロトニン、ACTH、コルチゾールなどの特定のホルモン、およびエネルギー代謝と神経伝達物質合成に関連するアミノ酸を評価。
【結果】
両選手ともに電解質異常、特に低カリウム血症の傾向を示し、試合後に平均15%減少し、個々の値は最低3.3mmol/Lに達した。これはビーチバレーがそのような異常リスクをもたらす可能性があることを示している。加えて、試合により筋損傷マーカーが20%から60%増加し、1日の休息後でも回復が不完全であり、競技後の持続的な生理的ストレスが示唆された。この増加はストレスホルモン(ACTHが最大4倍、コルチゾールが最大3倍上昇)の刺激、および乳酸やアンモニウムなどの運動強度マーカーと一致した。
模擬ビーチバレー競技日はアミノ酸応答にも影響を及ぼし、フィッシャー比(BCAA/AAA)と血中トリプトファンが初期レベルの最低60%まで減少し、血中セロトニンが最大180%増加した。これは中枢性疲労発症リスク増加の兆候である。
【結論】
両アスリートが電解質異常、特に低カリウム血症の傾向を示したことは特筆すべき。
適切な電解質バランスはパフォーマンスを最適化し健康問題を予防するために不可欠。
ビーチスポーツは電解質異常異常リスクを高くする可能性があることを考慮して、ビーチバレーボール選手は特にカリウムに関してモニタリングする必要がある。
このデータは筋微細損傷マーカーの応答によって示されるように、長期の回復期間がアスリートの生体マーカーのシグネチャを完全に回復させない可能性があることを強調している。これらのマーカーの動態を理解することは、アスリートが直面する生理学的課題と彼らのパフォーマンスに対する環境の影響を洞察する上で不可欠。
赤血球系パラメータと電解質
・ヘマトクリットは試合後に急増し、短い回復セッション中に速やかに運動前値に戻り、両選手で同様のパターンを示した。2選手は同様のヘマトクリット変化を示し、観察された代謝および免疫応答に関する差異は、血液濃縮または希釈に起因するものではなかった。クレアチニンも両選手でヘマトクリットと同様の動態を示したが、これは血漿量変化が観察された測定値の差異に影響を与えなかったという見解をさらに裏付けている。
・ごくわずかな急性ナトリウム変化でも、その狭い正常範囲のため有害となりうるが、本プロトコルではナトリウム変化が5%を超えることはなかった。この研究では、カリウムとマグネシウムが最も影響を受けた電解質だった。選手は試合後に一時的な低カリウム血症の傾向を一貫して示したことは注目すべき。ビーチスポーツ選手は日射、高温、高湿度への曝露による電解質変化異常リスクが高いことが知られており、スポーツを理解する上で極めて重要。オリンピック金メダリストのビーチバレーボール選手を対象とした過去の研究では、日焼け止めやUVカット長袖シャツの効果を比較することで電解質濃度に有意な差があることが測定された。一時的な低カリウム血症はビーチバレーボール以外の様々なビーチスポーツにおける異なるスポルトミクス研究でしばしば観察されており、環境条件との関連性が指摘されている。
・低カリウム血症は、発汗量、インスリンおよびカテコールアミンの放出が血球カリウムシフトに影響を与える要因、ならびにアルドステロンおよび抗利尿ホルモンによる血漿量調節が尿およびカリウム排泄に影響を与える要因によって影響を受ける。根底にあるすべての生理学的および生化学的影響は環境条件と強く相互作用し、運動誘発性ホルモン分泌、代謝ストレス、および血液量の変化に影響を与える可能性がある。
細胞損傷マーカー
・ビーチバレーボールの試合は筋細胞損傷マーカー(CK、LDH、MB、CKMB)を増加させ、このスポーツが筋微細損傷を引き起こす可能性を浮き彫りにした。また、運動後サンプルではAST、ALT、GGT、ALPが最大50%増加した。MBは最も影響を受けたマーカーだったが速やかに減少し、2試合目および長期回復(LRec)前にはプロトコル前レベルに戻った。この変動はビーチバレーボール競技日におけるストレス応答が全身性であり、筋細胞および肝細胞の両方の損傷を示唆している可能性があり、これは以前サッカー選手を対象とした研究でも示されている。
・運動負荷とトレーニングを管理する上で、ビーチバレーボールにおける回復時間は重要である。短い回復セッションは選手の完全な回復には不十分であることが判明した。これはCKおよびLDHの不完全な正常化と、MBのさらなる増加によって裏付けられ、継続的な筋ストレスを示唆している。結果として、2試合目はこれらのマーカーを1試合後で確認された濃度よりも高い濃度まで増加させ、累積的負担を示した。同様に、MBはサッカーの試合後にすでに増加することが他の研究で観察されており、最大約240%にまで達している。
CKとLDHはプロトコル終了時にも約20%高いままで、MB値の急速な基礎値への復帰とは対照的だった。SRecおよびLRecの両方で筋マーカーの回復が不完全であることは、そのレベルがしばしば低い運動耐性、前臨床的損傷およびオーバートレーニング症候群と関連付けられているため極めて重要。
炎症およびホルモン応答
・代謝ストレスが免疫応答と相関しうることを認識し、細胞およびその断片(好中球、リンパ球、血小板)およびタンパク質(A1AG)を含む炎症マーカーを測定した結果、好中球、リンパ球、血小板数は両選手でビーチバレーボールの試合により増加した。好中球とA1AGはより遅い回復を示したが、短い回復セッションはリンパ球と血小板をベースラインレベルに戻すのに十分だった。好中球の遅延回復は様々な運動強度において男性で文書化されているが、女性ビーチスポーツ選手ではまだ報告されていない。細胞損傷は炎症を誘発し、また炎症によって誘発されうる。
・炎症反応亢進は、他のスポーツでも観察されているように全身性ストレスホルモンであるACTHおよびコルチゾールの増加を伴っていた。ACTHおよびコルチゾールレベルは急激に上昇し、短い回復セッション中に急速に低下した。ストレス中止後のこの迅速な増加と減少は、以前報告されているように選手の効率的なストレス回復を反映している可能性がある。より高いフィットネスレベルを維持している者は、様々なストレス要因に対するHPA(視床下部-下垂体-副腎)活性化が通常短い傾向があるためと考えられる。
特にACTH(最大400%)上昇は、70% VO2maxで1時間の高強度サイクリングエルゴメーター運動を経験し、その後2分ごとに25Wずつ漸増して疲労困憊に至る男性トライアスリートを対象とした研究と類似していることは特筆すべき。
グルコースとエネルギー代謝
・ACTHとコルチゾールの急激な上昇は、血糖値の有意な増加を伴っていた。ビーチバレーボールは血糖値を増加させ、それに比例してインスリンが減少した。これは女性ビーチバレーボール選手で現在観察されている運動に対する典型的な血糖応答を示している。運動中の複雑な血糖応答は主に肝臓と骨格筋における臓器間のグルコース放出と取り込みの相互作用を伴うことに注意することが重要。激しい運動中、糖質コルチコイドと交感神経刺激によって促進される肝臓のグルコース放出増加は全身の取り込みを上回り、血糖値の上昇とインスリン血症の低下を引き起こす可能性がある。
・乳酸はより低いATP/ADP比と関連する解糖経路の副産物で、解糖経路における酵素活性を調節する重要シグナル因子である。ビーチバレーボール誘発性の増加は主に2試合目で起こり、これは累積的な負担のために、生化学的影響の観点から2試合目がより激しいことを裏付けている。同様の応答がアンモニウムでも観察され、1試合目よりも2試合目の方がより増加した。しかし両選手においてアンモニウムのピークが長期回復中に見られ、乳酸と比較して遅延応答を示したことは注意が必要。アンモニウムは運動中に様々な生化学経路、特にアミノ酸の脱アミノ化やAMPの分解を通じて生成される。
アミノ酸応答
・ビーチバレーボールが血中アミノ酸に与える影響は、分岐鎖アミノ酸(BCAA、すなわちイソロイシン、ロイシン、バリン)および芳香族アミノ酸(AAA、すなわちフェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)にも及んだ。BCAAの中で、バリンはプロトコル中に選手によって最大160%または210%まで増加し、最も顕著な変化を示した。逆にイソロイシンとロイシンはプロトコルを通して減少傾向を示した。BCAA応答のパターンは選手間で一貫していたことは注目に値する。
・BCAA/AAA比はフィッシャー比と呼ばれ、血流中のこれらのアミノ酸の濃度比は、血液脳関門(BBB)を介したそれらの輸送に影響を与え、神経伝達物質合成に影響を与える。この比率の低下は精神的疲労の発症の可能性または重症度の高さと関連している。ビーチバレーボールの試合後、両選手ともにフィッシャー比の減少を経験した。
・セロトニンはビーチバレーボールの試合後に急性増加した。同時に、血中トリプトファンはこれらのイベント後に一貫して減少した。これはトリプトファンの血流から中枢神経系(CNS)への取り込みが増加したことを示唆している。中枢性疲労の間接的マーカーはトリプトファンそのもので、これはBBBを介した輸送においてBCAAと競合する。トリプトファンはセロトニン前駆体で、運動中のセロトニン産生の急性増加が中枢性疲労の発症に重要な役割を果たすことは確立されている。
・・・シンプルに理解し実践できるヒントが含まれた良いデータだと思いますが、皆さんの印象はどうでしょうか?個別の栄養素はメジャーなものばかりなですが、個人的には筋細胞損傷とストレスホルモン応答のくだりが興味深い。この辺の解釈によって、栄養戦略の組み立て、トレーニング〜ピーキングの組み立ても変わってくるのではという印象。
皆さんも色々試してみてください。