当院で腰痛(LBP)は治療しない日はないというくらい、慢性から急性まで様々な容態が寄せられる筋骨格系症状のうちの一つ。
原因と症状はおしり〜仙腸関節〜腰椎、鈍い痛みから鋭く激しい痛みまで多種多様で、重症度が高いと可動域の制限、あるいは足への放散痛を伴うケースもある。
腰痛の主因の一つに椎間板変性(IDD)がある。
IDDの評価はMRIで行われ、グレードI(正常)からグレードV(重度変性)まで分類する「Pfirrmann(フィルマン)スケール」が広く用いられている。
高Pfirrmannグレード(重度の変性)と高ODIスコア(強い痛みと機能障害)の間には一貫した関連が観察される。
一方で、非腰痛患者、特に高齢者においても椎間板変性が高頻度で観察される。実際、解剖学的な痛みのパターンに関わらずNPYやCOMTといった痛み関連遺伝子の遺伝子発現の違いが、腰痛において重要な役割を果たしていることが示唆されている。
腰痛は、機械的ストレス、外傷、遺伝、職業的負荷、加齢、性(生物学的性および社会的なジェンダー)のすべてが腰痛リスクに関連する。閉経後女性は同年代の男性に比べて腰痛の有病率が高く、より重度の痛みを報告することが一貫して示されている。この男女差のメカニズムは完全に解明されてないが、閉経が腰痛の基礎疾患を修飾する潜在的役割を果たしているとされている。
さらに初経や妊娠など、女性の生涯を通じて起こるホルモン変化も腰痛の病態生理に寄与する可能性も指摘されている。例えば、妊娠中に大幅に増加するリラキシンが骨盤や脊椎の靭帯の剛性を低下させ、脊椎への負荷を増大させることが示されている。
閉経と腰痛の関連を示す研究では、腰痛は閉経後半期(閉経開始から10年以上経過)の閉経関連症状の中で最も頻繁に報告され、生活の質(QOL)の低下と最も強く関連する症状と報告されている。
年齢調整後解析では、閉経前の女性と比較して、卵巣摘出後、閉経期(早期・後期)、または閉経後の女性で腰痛が有意に多いことも報告されている。
あるMRIを用いた研究では、閉経後女性は男性や閉経前・周閉経期の女性よりも有意に重度の腰椎椎間板変性を示している。これは閉経後の最初の15年間に特に顕著で、性ホルモンの大幅な変動を伴うこの時期が腰椎変性において重要であることを浮き彫りにしている。
mpact of Menopause and Associated Hormonal Changes on Spine Health in Older Females: A Review
脊椎組織の腰痛への寄与
椎間板
椎間板変性(IDD)は、バイオメカニクス的、生化学的、および構造的なメカニズムを通じて腰痛に関与する。具体的には、髄核変性はプロテオグリカンと水分含有量の減少として現れ、椎間板内の静水圧の低下を招く。最終的に椎間板は厚みを失い、荷重を効果的に分散する能力を失う。この機械的適応能の喪失は、周囲の椎間関節や靭帯への異常負荷を引き起こし、メカノレセプター(機械受容器)の調節を介して痛みの一因となる可能性がある。
さらに、変性した椎間板では細胞老化やアポトーシスが増加し、炎症性サイトカインや神経栄養因子の上昇、マトリックス分解プロテアーゼのアップレギュレートが認められる。この炎症性環境とマトリックスの完全性の喪失が、通常は神経や血管が存在しない椎間板内への侵害受容神経線維や血管侵入を促して痛みを永続させる。
閉経はIDDの寄与因子として認識されているが、男性の方がIDDのリスク要因を多く持つにもかかわらず、女性の方が重度の変性を示す。これはエストロゲン欠乏が椎体終板の変性を誘発し、椎間板への栄養拡散を阻害するためであるという仮説が立てられている。1566名の女性と1382名の男性を対象としたコホート研究では、女性は男性よりもMRI上でのIDD所見が強いことが判明している。この差は、年齢、身長、体重などの交絡因子調整後も有意だった。
エストロゲン受容体(ER)は椎間板内に発現しており、盤源性(ディスコジェニック)の痛みを媒介しているようだ。ERシグナルがサブスタンスP(痛みに惹起される神経伝達物質)の放出を修飾し、炎症と変性を加速させていることも示唆されている。
椎体終板
椎体終板の変性も腰痛に関与する。
終板は軟骨と軟骨下骨で構成され、椎体と椎間板の間の重要なインターフェースとして荷重の伝達と栄養交換を担っている。終板が硬化、侵食、または微小骨折を起こすとそれらの機能が損なわれる。その結果、終板に炎症メディエーターが浸潤し、椎体自体で侵害受容的な感作が起こる。
また、骨量減少や脂肪浸潤による骨質の低下はバイオメカニクス的な負荷を変化させ、メカノレセプターを介して痛みに寄与する。
女性は男性に比べて腰椎前弯が平均7.3度大きく、椎体の断面積は約10〜25%小さいため、同じ荷重下でも女性の脊椎にはより大きなバイオメカニクス的ストレスがかかり、椎間関節変性、椎間板変性、および筋疲労が加速し、腰痛のリスクが高まる。
脊椎筋群
閉経が脊椎筋群に与える直接的な研究はまだない。
一般に閉経は骨格筋の減少(サルコペニア)を加速させることが知られている。エストロゲン受容体シグナルはミトコンドリア機能やサテライト細胞の活性化を媒介するため、閉経によるこれらの変化が脊柱起立筋の支持能力を低下させている可能性はある。
椎間関節
椎間板が厚さを失うと、椎間関節にかかる軸方向の荷重は通常の約25%から47%近くまで上昇する。この過負荷が軟骨下骨の硬化、軟骨変性、滑膜の炎症を引き起こし、椎間関節の変形性関節症(OA)を招く。
滑膜と軟骨下骨には侵害受容線維とメカノレセプターが豊富に分布しており、機械的な過負荷が痛み経路を刺激する。閉経は椎間関節OAのリスクと発生率を高めると考えられている。
黄色靭帯
椎間板の厚さの減少は、黄色靭帯を含む脊椎後方構造への機械的ストレスを増大させる。この負荷は弾性線維の断裂や線維化を促進し、最終的に肥厚を招く。黄色靭帯が肥厚すると弾力性が失われ、脊柱管や外側陥凹を圧迫し、神経根や硬膜嚢の機械的圧縮を引き起こす。
閉経に伴うエストロゲン欠乏がマトリックスのリモデリングを阻害し、この肥厚メカニズムを増幅させている可能性がある。
神経学的要素
腰痛発症と持続には、洞脊椎神経の解剖学的変化や交感神経の支配パターンの変化が重要な役割を果たす。変性した組織では、炎症によって侵害受容神経の活性化閾値が下がり、自発的な発火が促進される。
閉経はこれらの変化、特に神経発火を促進する。通常、エストロゲンは後角ニューロンにおいてNMDA受容体を介したシグナルを強化し、痛み調節に関与する。閉経によってこの調節能力が失われると、侵害受容活性化の閾値が下がり、痛みに対する感受性が高まる。
動物モデルでは、エストロゲン欠乏が背根神経節において炎症性サイトカインや痛みの伝達に関与するCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の発現を増加させ、神経とグリア細胞の相互作用を介して痛みシグナルを増強させることが示されている。
社会心理学的寄与
腰痛は心理的、社会的、行動的要因とも密接に関連している。男女共通して、抑うつ気分、不安、低学歴、身体活動の低下、睡眠の質の低さが重度の腰痛と関連している。
それらに加えて、閉経後女性の腰痛では性的虐待の経験、高い知覚ストレス、社交の減少、失業、過去の妊娠経験、若年での初産、対人関係の不良、障害への配慮(合理的配慮)の有無、飲酒、長時間の労働、コーヒーの摂取などが強く相関している。これらの要因は男性の腰痛とは強く関連しておらず、女性特有の経験や環境に起因する特徴である。
・・・閉経移行期〜閉経後のホルモン動態が脊椎と椎間板に及ぼす影響とその機序を理解する上で非常にわかりやすくまとめられたデータだったと思います。
今回ご紹介したデータ、治療法に関してはホルモン療法、腰痛予防エクササイズが紹介されていました。ホルモン療法は専門外なので掲載できませんが、エクササイズについては豊富にデータが揃っています。お気軽にお尋ねください。