鋼のように強靭な体をしているのになぜか風邪をひきやすかったり、体調不良になるアスリートが周りにいないだろうか?
私も週7〜10回のトレーニングで追い込んでいた時期はよく風邪をひいていた。
ボディビルダーやハードトレーニー、エリートアスリートで頻繁に観察される高強度運動後の免疫抑制現象は、液性免疫の変化に起因する日和見感染やウイルス再活性化のリスクを高める。
特に上気道感染症(URTI)リスクが高くなることが知られている。
興味深いことに、エリートサッカー選手で試合後にURTI有病率が上昇することが報告されている。
プロバイオティクスは宿主の健康に役立つ生きた微生物群のことで、ビフィズス菌とラクトバチルス菌は最もよく使用されているプロバイオティクス細菌種。
プレバイオティクスは、イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、ポリデキストロース(PDX)、β-グルカンなどの難消化性炭水化物からなり、宿主微生物によって選択的に利用され健康利益をもたらす。
シンバイオティクスは主にプロバイオティクスとプレバイオティクスから構成され、腸内細菌叢の調節、消化器症状の緩和、免疫力の向上、炎症および酸化ストレスの軽減、血中脂質の改善など、宿主に健康上のメリットをもたらす。
プレバイオティクスとシンバイオティクスは、健康な成人、高強度トレーニー、長距離トライアスロン選手において、免疫防御のサポート、SIgAレベルの増加、URTIの発生率と重症度の減少をもたらすことが研究で明らかにされている。
さらに、プレバイオティクスとシンバイオティクスはオールアウトするまでの時間を延長するだけでなく、運動能力やエンデュランス能力を促進することが報告されている。
しかし一方で、サッカー選手における激しいトレーニングや激しい運動時の免疫機能に対するプレバイオティクスやシンバイオティクスの効果についての報告は少ない。
上記のような背景を元に、リンクの研究は男子大学サッカー選手におけるURTI症状の発生率と重症度、炎症マーカー、有酸素運動の体力特性に対するプレバイオティクスとシンバイオティクスの長期補給の効果を比較検討したもの。
男子大学生アスリート30名を募集し、プレバイオティクス群(PG、n=15)またはシンバイオティクス群(SG、n=15)にランダムに振り分け、プレバイオティクスまたはシンバイオティクスを1日1回、6週間摂取。
炎症性サイトカインと分泌型免疫グロブリンA(SIgA)の測定と、VO2max、最大心拍数(HRmax)、乳酸排泄速度(ER)を用いて有酸素運動能力を評価。上
気道感染症(URTI)の愁訴を質問紙で評価。
結果
URTIの発症率および発症期間はSG群がPG群に比べ有意に低かった.
ベースライン時,SG群ではSIgAとインターロイキン-1β(IL-1β),PG群ではIL-1βとIL-6が有意に上昇し,PG群ではIL-4濃度が顕著に低下した。
定荷重運動直後のIL-4、IL-10、トランスフォーミング成長因子-β1(TGF-β1)濃度は、PG群およびSG群で有意に減少した。
定荷重実験中および回復期において、PG群ではなくSG群でHRmaxの有意な低下とERの増強(193.78%の増加)がそれぞれ検出された。
しかし、VO2max値には変化がなかった。
これらのデータは、6週間のシンバイオティクス補給が、プレバイオティクスよりも男子大学サッカー選手の免疫機能と運動能力により良い影響を与えることを示唆している。
・男子大学サッカー選手において、シンバイオティクス補給は高強度トレーニング中のURTIの発症率と期間を減少させ、SIgAとIL-1βのレベルを増加させ、一定負荷試験直後のIL-4、IL-10、TGF-β1濃度を減少させることが明らかとなった。
プレバイオティクス補給はベースラインでIL-4を減少させ、IL-1βとIL-6を増加、また長時間の有酸素運動後にIL-4、IL-10、TGF-β1レベルを減少させた。
長時間の有酸素運動におけるER増加は、プレバイオティクス群ではなく、シンバイオティクス群で観察された。
・プレバイオティクスとシンバイオティクスは、URTI発症率と重症度の低減に寄与することが報告されている。
他の研究は、プレバイオティクスであるβ-グルカン摂取が健康な成人の免疫機能を高め、URTIの発症率、期間、重症度を低減させることを報告しています。
また、マラソンランナーがプレバイオティクスであるβグルカンを摂取すると、URTIの発生率が有意に低下することを発見されている。
さらに、カヤック、マウンテンバイク、水泳、射撃、ランニング、サイクリングを行うアスリートがプレバイオティクスβグルカンを摂取したところ、URTI症状の発生率が有意に減少することが観察されている。この実験で使用したシンバイオティックのプロバイオティクス成分であるLactobacillus casei Zhangが健康な成人のURTI症状を緩和し、鼻、咽頭、および全身のインフルエンザ症状や全呼吸器疾患の期間を短縮し、激しい運動による病気を予防して健康を維持する可能性があることも証明されている。
・過去の研究では、健康な成人にシンバイオティクスを補給したところURTIエピソードの数と期間が有意に減少したことが明らかになった。
リンクの研究では、6週間のサプリメント摂取期間中、PG群よりもSG群でURTI発症率と期間が低くなった。
プレバイオティクスではなくシンバイオティクスを補給することで、サッカー選手におけるURTIの発生率と期間を減少させることができることが示唆された。
・唾液中SIgAは粘膜分泌物における主要な抗体であり、β-DF、AMS、LZMとともに病原体のコロニー形成を阻害する。SIgA分泌量の減少は、運動量の多い人の尿路結石発症の危険因子とされている。一部のエリートアスリートでは、安静時唾液中IgA濃度が低いことが報告されている。
プレバイオティクスとシンバイオティクスは、粘膜免疫細胞に直接作用してSIgAの分泌を促進し、それによって病原体の増殖を抑制し、免疫機能を調節することが報告されている。
・この研究では6週間のシンバイオティクス補給により、サッカー選手のSIgAレベルが有意に上昇し、最終テストではPGグループよりもSGグループの方が顕著に高いことが明らかになった。
この結果は、シンバイオティクスサプリメントが高強度トレーニーの唾液SIgAレベルを有意に上昇させるという他の研究結果とも一致する。
一方で、プレバイオティクス補給はSIgAに有意な影響を与えなかった。
したがって、シンバイオティクスはプレバイオティクスよりもSIgAレベルを上昇させることにより、呼吸器粘膜免疫機能をより高める可能性があることを示唆した。
・T細胞は適応免疫系に属し、侵入してきた病原体や既存の病原体に対する免疫反応を調整するために不可欠。T細胞はTh1、Th2、Tregsの3つのサブグループに分けられ、病気になりやすいアスリートの体内にはTh2サイトカインが多く存在することが報告されている。
Th2やTregが産生する抗炎症濃度の高いIL-4、IL-10、TGF-βは、Th1細胞の機能や免疫反応を抑制する。
シンバイオティクスがTh1反応を促進し、Th2活性を低下させ、身体の免疫機能を向上させることが過去に報告されている。
・VO2maxは酸素吸入〜運搬、利用する身体能力を反映しており、人体の有酸素能力を示す最も重要な指標の1つ。酸素運搬能力を評価する血液指標は、RBC、Hb、HCT、MCH、MCHCなど。本研究ではPG群、SG群ともに定荷重実験後にMCH、MCHCの有意な減少が見られたが、PG群でより顕著に減少した。シンバイオティクスは1回限りの高強度運動の悪影響を打ち消し、血液の健康に良い結果をもたらすことが示唆された。
これは、MCHとMCHCの有意な増加が血液の健康にポジティブな変化を促したという他の研究らの結果と一致する。
・プレバイオティクスとシンバイオティクス補給は、被験者のVO2maxレベルに影響を与えなかったが、PG群と比較してSG群ではERの有意な増加が観察され、乳酸代謝能力が高まっていることが示唆された。
プロバイオティクス補給後のロードサイクリストのHRmaxが有意に低下するという以前の結果と一致して、定負荷実験中のSG群で明らかにHRmaxの低下が認められた。
したがって、シンバイオティクスを補給は乳酸代謝を促進し、有酸素能力を高めることによってアスリートの運動能力の維持に役立つ可能性がある。
結論
サッカー選手における免疫機能改善においては、プレバイオティクスよりもシンバイオティクスの補給の方がURTI発症率と期間を減らし、SIgA値を増加させることに優れていることが判明した。
また、乳酸代謝や運動パフォーマンスの改善についても、プレバイオティクスよりもシンバイオティクスの方がより有益な効果があることがわかった。