このところパワーリフティング選手のご来院が相次いでおり、BIG3種目の中でも特にベンチプレス時の筋骨格系症状のご相談が多いことから、今回のメモはベンチプレスについて掘り下げた論文を簡単にまとめてみたい。
受傷リスクに大きく関連する疲労とオールアウトまでのプロセス、代謝要因の一端を理解することで肩関節障害でお悩みになる選手が減れば幸いだ。
いわゆるレクリエーション向けのレジスタンストレーニング(RT)プログラムのデザインにおいてもその作業は複雑な作業で、トレーニング刺激を構成する複数の変数を慎重に管理・操作する必要があるが、パワーリフティングにおける超高負荷・高強度トレーニングの世界では、強度、ボリューム、動作速度、休息時間、種目の種類および順序、トレーニング頻度、回復時間などの変数をより厳密に考慮して大会までのピーキングを設計する必要がある。
これらの変数の組み合わせは、機械的、代謝的、心血管系応答、ならびに長期的な適応に直接影響を及ぼす。
Faillure(限界・疲労限界・反復不能点)までの近接度はトレーニング刺激に影響を与える重要な変数であり、failureへの近接度が急性の機械的および代謝的応答に影響を及ぼし、回復に要する時間を延長する。
RT後に基準値まで回復するために必要な時間を把握することは非常に重要で、回復が不十分なだと他の身体的、技術的、または戦術的要素の発達を妨げる可能性が高くなる。また、過負荷と回復のバランスが崩れると不適応反応が生じる可能性があることから、最適な回復を促進するためにトレーニングセッション間の休息期間を熟考することが不可欠。
高負荷トレーニング中に疲労を軽減するための一つの戦略としてクラスターセットがある。この方法は、トレーニング中のパフォーマンス低下を防ぎ、トレーニング後の回復時間を短縮することが先行研究で示されている。その研究では、反復間に約10~20秒の休息を設けることで、連続反復と比較してセッション中の機械的および代謝的疲労を軽減できることが報告されている。
さて、高負荷トレーンニングにおける身体反応の重要指標である心拍数(HR)にも注目してみよう。
1セット内での連続RepがHRおよび血圧を上昇させることは自明である。最初のRepにおける収縮期血圧(SBP)は高強度ほど高くなる傾向があるものの、RT中のSBP応答に最も大きな影響を与える要因はボリュームであることが示唆されている。
また、低強度で反復回数の多いセットは、高強度で反復回数の少ないセットよりも大きな心血管系応答を引き起こすことが観察されている。さらに、Rep間に短い休息を導入することはRT中のSBP上昇を抑制する有効戦略であることが報告されている。
上記のような知見は蓄積しているものの、異なるトレーニングボリュームの急性効果を検討した研究は少なく、3種類の異なるベンチプレス(BP)トレーニングボリュームが、機械的、代謝的、心血管系の急性応答およびその後の回復経過に及ぼす影響を検討した研究はない。
リンクの研究は、各Repにおけるパフォーマンス低下に基づいて反復間の回復時間を個別化し、ベンチプレス(BP)トレーニングボリュームに対する急性の機械的、代謝的、心血管系応答に及ぼす疲労の影響を最小化した初めての研究。
中程度のレジスタンストレーニング経験を有する男性14名が1週間間隔、無作為化順序で、反復回数のみが異なる3つのBPプロトコルを実施:3回(LOW)、15回(MOD)、24回(HIG)。
反復間の疲労蓄積を最小化しトレーニング量の影響を単離するため、各反復の間に短い休息を挿入。休息時間は各反復で生じたパフォーマンス低下(速度低下)に基づき個別化。
評価はベースライン(Pre)および運動後に、以下の順で実施した:(a) 心拍数(HR)、収縮期・拡張期血圧(SBP、DBP)、動脈血酸素飽和度(SpO₂)、(b) 血中乳酸濃度、(c) 動的筋力テスト。動的筋力テストは運動後24時間および48時間にも実施。
【結果】
セッション内パフォーマンス(最高・平均・最終速度、ならびに速度低下率)は、すべてのプロトコルで同様だった。
SBPについては「プロトコル×時間」の有意な交互作用が認められたが、プロトコル間の有意差はなかった。
DBPおよびSpO₂には有意差は認められなかった。
すべてのプロトコルで運動直後の乳酸濃度は同程度であり、24時間後および48時間後には60%1RM負荷での挙上速度が同様に増加した。
【結論】
疲労水準を均一化した条件下では、BPの異なるトレーニング量でも、力学的反応、代謝的反応、心血管系反応に差は認められず、トレーニング量そのものが急性の生理学的負荷を規定する要因ではないことが示された。
個別化された短い反復間休息は、パフォーマンスを維持し、心血管系および代謝的ストレスを軽減するとともに、回復を損なうことなく高いトレーニング量の実施を可能にした。
この結果は、レジスタンストレーニング(RT)におけるセット構成の重要性を強調し、短い反復間休息を取り入れることで、熟練プレッサー男性の疲労を最小限に抑えながら、より大きなトレーニング量を蓄積できる可能性を示唆している。
Effects of Bench Press Volume on Performance, Recovery, and Physiological Response
主な知見として、セット内の疲労レベルを均等化した場合、異なるBPトレーニングボリュームであっても、誘発される機械的、代謝的、心血管系応答に差は生じないことが示された。この結果は、本研究のデザインが、疲労(すなわちパフォーマンス低下)の潜在的影響を回避しつつ、ボリュームの効果を独立して検討できることを示している。
レジスタンストレーニングプロトコル中のパフォーマンス
累積トレーニングボリュームが異なるにもかかわらず(LOW:3回、MOD:15回、HIG:24回)、全プロトコル間で同様のパフォーマンス(すなわち平均推進速度[MPV])が認められた。この結果は、Rep間に短い休息時間を導入することで挙上動作の運動学的安定性が維持され、トレーニングセッション中のパフォーマンスが保持されると報告した先行研究を支持している。
先行研究では、短い休息間隔がアデノシン三リン酸(ATP)およびホスホクレアチン(PCr)といったエネルギー貯蔵を支える生体エネルギー因子の回復を促進し、代謝産物の除去を改善することでパフォーマンス維持に寄与することが示されている。
この知見は、より大きなトレーニングボリュームを蓄積しつつ疲労を最小限に抑えるためにRT設計においてセット構成を考慮する重要性を示している。
一方で、従来型プロトコル(すなわち反復間休息を設けない方法)ではセットが筋疲労限界に近づくにつれて速度損失(Velocity Loss:VL)が進行的に増大し、これは高ボリュームの不可避的な結果として解釈される。
研究結果は、疲労の蓄積が制御されている場合、高トレーニングボリュームであってもパフォーマンス低下が必然的に生じるわけではないことを示しており、急性機械的パフォーマンス低下を決定づける主因は、ボリュームそのものではなくVLであるという見解を支持している。
心血管系応答
先行研究では、レッグエクステンションにおける15RM後の血圧応答は4RM後よりも高いことが示さた一方で、ボリュームを等しくした場合(4反復)、負荷が異なっても(4RM vs. 15RM)血圧は同程度だった。しかし、強度を等しくした場合(15RM)、特に筋疲労限界に近づくにつれて、トレーニングボリュームの増加に伴い血圧は上昇した。
これらの知見から、急性の血圧応答を規定する要因は強度よりも、特に筋疲労限界付近におけるトレーニングボリュームの方が重要である可能性が示唆された。
さらに、筋疲労限界まで実施するトレーニングは、反復間や反復群間に休息を設けたセットよりも大きな心血管系ストレス(SBP上昇)を課すことが報告されている。
リンクの研究では、70%1RMで異なるボリュームのBP運動を行った際のSBPおよび拡張期血圧(DBP)は同程度だったことから、Rep間に短い休息時間を取り入れることで、実施ボリュームに関係なくトレーニングセッション中の血圧を安定的に維持できることが示唆される。
この結果は、Rep間休息を導入することが、過度な心血管系負荷を生じさせることなく高ボリュームトレーニングを可能にする有効な戦略であることを示している。
総じて、血圧上昇の主因はボリュームそのものではなく、セット内で生じる疲労であることが示唆される。
RTは交感神経活動を亢進させ、活動筋への血流需要増大に対応するため心拍数(HR)を上昇させる。しかし、この研究では実施ボリュームが異なるにもかかわらずHRにプロトコル間差は認められていない。さらに重要な知見として、累積ボリュームに差があるにもかかわらず酸素飽和度(SpO₂)の低下も認められていない。
これは、Rep間に短い休息を導入することで持続的筋収縮による血流制限が防がれ、その結果としてSpO₂低下が生じなかった可能性を示唆している。
これらの結果は、高負荷トレにおける心血管系負荷が反復回数そのものではなく、持続的収縮および疲労蓄積によって主に媒介されることを支持する証拠と考えられる。
血中乳酸応答
運動後の血中乳酸濃度は、Rep数が増加しても上昇しなかった。
先行研究では、トレーニングボリュームの増加に伴い乳酸濃度が上昇することが示されているが、Rep間に短い休息を導入すると同一ボリュームでも休息を設けない従来型セットと比較して乳酸上昇が抑制されることが報告されている。
研究結果は、短い休息間隔が疲労を軽減し、代謝的ストレスを低減すること、および筋PCrおよびATPの部分的再合成を可能にすることで、イノシン一リン酸(IMP)の増加を抑制し、筋組織からのプリン喪失を防いだ可能性を示唆している。
筋疲労限界まで行う場合は、乳酸蓄積は高ボリュームの直接的結果と解釈されることが多いが、代謝的ストレスが連続Repおよび筋疲労限界への近接によって生じる疲労蓄積とより強く関連していることを示している。
血中乳酸値上昇は水素イオン(H⁺)の蓄積を引き起こしてpH低下をもたらす。III群およびIV群求心性線維は、pH変化や運動誘発性不快感に関する情報を中枢神経系(CNS)へ伝達し、その結果、重度の血漿アシドーシスはCNSから筋への神経シグナルを低下させ、運動パフォーマンスを阻害する。
リンクの研究では、各Repにおける被験者のパフォーマンスに基づいて回復時間を個別化することで、実施ボリュームに大きな差があるにもかかわらず、蓄積される代謝的ストレスレベルをプロトコル間で均等化することが可能だった。
回復の時間経過
トレーニングセッション中、高ボリュームプロトコルは低および中ボリュームプロトコルと同様の機械的応答を示した。この結果は、高ボリュームがより大きな神経筋疲労および遅延した回復動態と関連づけられる筋疲労限界ベースのトレーニングモデルとは対照的である。
先行研究によれば、Rep中に筋疲労限界に達することは筋エネルギーバランスを著しく乱し、筋内プリンの大幅な枯渇を引き起こす。一方で、1セットあたり最大反復回数の半分程度を実施することは細胞内恒常性の維持に寄与することが示されている。
したがって、Rep間に短い休息時間を導入することは神経筋疲労を最小限に抑えつつ高ボリュームを達成するための有効な手段であると考えられる。
また、高負荷プロトコルでより高いトレーニングボリュームを蓄積したにもかかわらず、低負荷および中負荷プロトコルと同様の回復速度を示した点は注目に値する。
セット内のVelocity Lossおよびセット構成(従来型セット vs. クラスターセット)が異なる4つのプロトコル間で回復経過を検討した研究では、VLが大きいプロトコルほど疲労が顕著で、回復が遅延することが示されている。しかし、クラスターセットは同程度のVLを伴うプロトコルよりも大きなボリュームを可能にし、同程度のボリュームを伴うプロトコルよりも速い回復を示している。
リンクの研究の結果と併せると、レジスタンス運動後の回復時間を規定する主因は総トレーニングボリュームではなく、VLおよび疲労蓄積であることが支持される。