近年、身体活動が腸内細菌叢に大きな影響を与え、腸内細菌叢組成と身体機能的を独立して変化させることが様々な研究で示されている。
運動能力におけるマイクロバイオームの役割を調査した研究では、運動によって微生物多様性が増加し、筋肉のターンオーバー、回復、筋タンパク分解に関連する種や代謝産物が増加することが示されている。
ある研究では、マラソンランナーの腸内には非活動的なランナーよりも多量のべイロネラ・アティピカ菌が存在することが発表されている。この菌株をマラソンランナーから分離してマウスの腸に移植したところ、対照動物に比べてランニング時間が有意に増加している。この研究者たちの仮説では、べイロネラ・アティピカは運動中に骨格筋で産生される乳酸を代謝し、代謝された乳酸がプロピオン酸に変換されて労作筋の基質として働くとしている。
ところで、マイクロバイオーム研究の大半は他の研究分野と同様に男性を対象としたものが多い。女性の腸内細菌叢を調べた研究は限られており、一般女性と男性の腸内細菌叢を比較した研究における確たる知見はない。
動物とヒトを対象とした予備研究では、エストロゲン濃度の違いによるものと思われる腸内細菌叢組成のに性差があることが示されている。例えば、EUが実施したヒト対象研究では、バクテロイデス-プレボテラグループレベルは女性よりも男性で高いことが観察されている。
興味深いことに、胃腸の生理機能にも性差がある。健康な女性では胃排出、小腸通過、大腸通過が男性より有意に遅いことが示されており、エストロゲンレベルと腸内細菌叢の間には明らかな双方向の関係が確認されており、動物実験でにおけるその関係は、男性よりも女性の方が顕著だった。
このような性差は、ランナーのパフォーマンスにおいて消化管が中心的な役割を担っている可能性を示しており、他の生理学的・生物学的プロセスにおける性差を説明できる可能性がある。
しかし、女性ランナーと男性ランナーの腸内細菌叢組成の違いを調べた研究は少ない。
リンクの研究は、競技志向の非プロフェッショナル女性ランナーおよび男性ランナーの腸内細菌叢組成を性特異的に明らかにし、ランナーに発現している腸内細菌叢組成がエンデュランス系運動パフォーマンスと相関しているかどうかを調べることを目的としたもの。40名の対象者のうち22名がランナー(男性13名、女性9名)、18名が対照者(男性9名、女性9名。)
【結果】
腸内細菌叢組成の分類では、ランナーでは対照群と比較して腸内細菌科の存在量が低く、メタノスパエラ属の存在量が高いことが示された。
10種類の細菌(メタノスパエラ属、ミツオケラ、プレボテラ、メガモナス、ロシア、オシロスピラ、バクテロイデス、オドリバクター、ブラウティア、ブチリコッカス)が運動量(VO2max、血中乳酸濃度、オールアウトまでの時間、週間トレーニング量)と正の相関を示した。
腸内細菌叢の組成には、男性ランナーと女性ランナーの間に有意差は認められなかった。
【結論】
競技志向の非プロフェッショナル女性ランナーおよび男性ランナーにおいて、腸内細菌叢組成が運動パフォーマンスと正の相関を示し、女性ランナーは男性ランナーと同様の腸内細菌叢多様性を示した。
この知見は、腸内細菌叢が運動パフォーマンスにおいて重要な役割を果たし、エネルギー代謝、炎症、回復などの因子に影響を及ぼす可能性があることを示唆している。
また、ランナーの腸内細菌叢シグネチャーは性差がない可能性が高い。
・定期的な身体活動は腸内細菌叢にプラスの影響を与えるが、競技的エデュランス系スポーツは腸内細菌叢にマイナスの影響を与える要因となる。例えば、I-FABP血清レベルの上昇は顕著な腸の完全性の喪失、腸透過性の増加、ゾヌリンの増加を示している。
・個々のサンプルにおける微生物多様性と種の豊かさの主要な指標であるα多様性は、対照群よりも競技ランナーの方が有意に高かった。一方で、男性ランナーと女性ランナーの比較ではα多様性に差は見られなかった。
・競技ランナーでは腸内細菌科が少ないことがわかった。腸内細菌科は、常在菌と日和見病を引き起こす病原体から構成されている。しかし、腸内細菌科細菌は健康な腸内細菌叢の1%未満である。
ある研究では、IBD患者で有害な腸内細菌科細菌の割合が増加することが報告されている。
宿主における炎症反応が腸内細菌叢の不均衡を引き起こし、腸内細菌科の繁殖がIBDの炎症状態の持続につながる可能性が高いと考えられる。
・糖尿病マウスモデルでは、6週間の運動または座位活動の後、運動群では糖尿病対照群よりも腸内細菌科細菌が少なくなることが示された。
また、6週間の持久系トレーニングで、過体重の女性の腸内細菌が減少することを示した研究もある。集中的トレーニングはこれらの潜在的病原性細菌の存在を減少させる可能性があると考えられる。
・ランナーのVO2maxとオールアウトまでの時間に依存的な、8つの細菌集団の存在量が高いことを発見した。
・運動時の生理学的指標と正の相関を示す10種類の細菌を同定した。そのうち5種類は酪酸産生菌(プレボテラ、オシロスピラ、バクテロイデス、オドリバクター、ブラウティア)で、1種類(ミツオケラ)は乳酸、コハク酸、酢酸を産生する。ミツオケラを増やすことで乳酸産生を上昇させ、酪酸に変換できることも示唆されている。酪酸産生菌はそれぞれVO2maxとVO2peakに正の相関があることが示されている。
・酪酸のような短鎖脂肪酸(SCFAs)は運動選手の免疫力を高め、抗炎症活性を介して回復を促進し、運動パフォーマンスのためにさらなるエネルギー基質を提供する可能性が示唆されている。
・有酸素運動はファーミキューテス門の多様性と存在量を向上させ、「腸-脳軸」を通して脳に影響を与えることが示唆されている。本研究で運動と正の相関を示した10種類の細菌のうち、5種類(ミツオケラ、メガモナス、オシロスピラ、ブラウティア、ブチリコッカス)がファーミキューテス門に属している。この発見は、腸内細菌叢組成と脳に対する運動の有益な効果を媒介するファーミキューテス門の潜在的役割を強調する。
・ランナーは対照群よりもメタン生成古細菌であるメタノスファエラが多く、メタノスファエラと乳酸血中濃度およびオールアウトまでの時間に正の相関関係が認められた。メタノスファエラは非運動性古細菌で、水素を酸化してメタノールを還元し、メタンに変換する。
メタンは大腸通過を遅くすることが示されており、呼気メタン陽性と腸管通過時間の遅さとの間には正の相関がある。動物実験では、メタンそのものが腸管通過時間を遅くするという強力な証拠が提示されている。
長距離ランナーの最大80%が、上部消化管障害(胃痛、吐き気、嘔吐)および下部消化管障害(腹痛または不快感、腹部膨満感、下痢)を含む胃腸の不定愁訴を訴える傾向があるため、この知見は興味深い。
・細菌種の豊かさの指標であるα多様性は、対照群よりも競技ランナーで高いことが示された。週当たりのトレーニング量が多く、体力が高いほど、腸内細菌叢の細菌株の豊かさが向上し、より健康的なマイクロバイオームとアスリートの全体的な健康に寄与する可能性を示唆している。
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