全身性動脈性高血圧症(Systemic Arterial Hypertension:SAH)が世界的な公衆衛生問題になっている。
現代の生活習慣はストレス、座りがちな生活、劣悪な食習慣を招き、肥満、糖尿病、腎臓損傷、心血管疾患の併存疾患を増加させている。
それら疾患の高有病率にもかかわらず、高血圧の制御は難しく、適切な血圧レベルを維持できているのはごく一部に過ぎない。
SAHでは高血圧が活性酸素種(ROS)の増加と関連しており、酸化ストレス(OS)増加の結果として血管恒常性の変化、内皮機能不全、および一酸化窒素(NO)の生体利用能の低下をもたらす。ROSの増加は内因性抗酸化システムに不均衡を生じさせ、細胞や組織の膜脂質、タンパク質、その他の高分子に損傷を与え、極端な場合にはミトコンドリア呼吸の阻害によってクレブス回路を中断させ、細胞内低酸素とATP産生の低下(ミトコンドリア機能不全)を生じさせる。さらに、核DNAに損傷を与えてアポトーシスを引き起こし、最終的には急性心筋梗塞(AMI)に至る。
一過性受容器電位バニロイド1(TRPV1)は、ニューロン、内皮、血管平滑筋などの様々な細胞型、および粗面小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官の膜を介してCa2+、Na+、K+の通過を可能にする非選択的カチオンチャネルで、TRPV1は、pH、温度、せん断応力の変化などの内因性刺激、ならびにアナンダミドや17β-エストラジオールなどの分子によって活性化される。
TRPV1は薬剤によって外因的に活性化または不活性化され、カプサイシン(CS)は低用量で受容体活性化剤となる(高用量では阻害剤)。CSによる長時間の刺激は、受容体を不応期に移行させ、いかなる刺激にも応答できなくなる脱感作状態にする。作動薬の種類、用量、曝露時間によって、この期間は数分から数日間続く。
CSは唐辛子の辛味成分である有機ポリフェノール型化合物で、痛み、心血管疾患、高血圧、乳がんなどの疾患におけるTRPV1の機能的および治療的特性を研究するために用いられている。
しかし、TRPV1活性化によるOSおよび血管拡張の調節作用メカニズムは十分に解明されていない。今のところ、NOとともに、特に心臓において重要な血管拡張作用を持つサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの神経ペプチドの作用が関与すると考えられている。
最近の研究で、4日間のCSの皮下投与がSAHにおけるNO欠乏による損傷に対して予防効果を有すること、およびラットの虚血再灌流(I-R)損傷に対して保護作用を有することが報告され、この効果はNO経路の回復によって生じることがわかった。一方で、CSの皮下治療は薬剤の段階的な吸収をもたらしたが、適用部位に軽度の損傷を引き起こしている。
リンクの研究は、CSによる局所治療を介したTRPV1活性化が、OS、細胞損傷、および炎症に関連する代謝産物の全身レベルの調節、SAHおよびI-Rにおいて心臓保護作用を生じるか否かを評価することを目的としたもの。
【結論】
実施された研究で、カプサイシン(CS)の局所適用が、特に全身性動脈性高血圧症(SAH)によって生成される酸化ストレス(OS)において変化したメカニズムが調節された。これは、CSが細胞外および細胞内の両方で循環するOSを減少させることで、内因性抗酸化システムを調節するため可能となると考えられる。
この効果により、CSはTRPV1が膜間Ca2+輸送を調節することを可能にし、受容体におけるその輸送を変化させる活性酸素種(ROS)を減少させる。これによってNO産生と、NO/グアニル酸シクラーゼ(GC)経路を含む様々なNO依存性血管弛緩経路の活性化が調節される。
CSによるNO産生の調節とTRPV1受容体を介したCa2+輸送の調節は、細胞および全身の生体利用能と完全性にとって重要な様々なペプチドの発現を刺激し、これらが炎症性分子のレベルおよび組織とDNAへの損傷を調節する。その中には、主にCGRP受容体に作用することにより血管拡張と心臓保護を媒介するカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が含まれることがわかった。
Cardioprotective and Antihypertensive Effects of Topical Capsaicin in a Rat Model
・全身性動脈性高血圧症(SAH)は主に酸化ストレス(OS)を介して血管恒常性を破壊し、内皮機能不全、一酸化窒素(NO)の生体利用能低下、および組織損傷を引き起こす。この過程で関与する主要なメカニズムの一つは、テトラヒドロビオプテリン(BH4)のジヒドロビオプテリン(BH2)への酸化であり、これは内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)のアンカップリングとNO合成の障害をもたらす。この研究では、既知のTRPV1作動薬であるカプサイシン(CS)の局所投与が、L-NAME誘発性高血圧ラットモデルにおいてこれらの病理学的プロセスを効果的に軽減することが示された。
・CSによるTRPV1活性化は、複数の相互接続された経路を介して血管機能を回復させるようだ。CS治療後に心臓組織においてTRPV1の発現亢進が観察され、これはカプサイシンがTRPV1の発現を維持するだけでなく、その機能的能力を高めることを示唆している。CS治療はBH4レベルを維持してBH2濃度を低下させ、全身的および心室組織の両方でBH2/BH4比を著しく低下させた。これはeNOSカップリングの改善とNO生体利用能の増強を示している。
・CS治療した高血圧ラットでは、平均動脈圧の著しい低下と、NO、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ2レベルの著しい増加が観察され、全身性および心筋の酸化能力(OxCap)の減少も伴った。これらの変化は、脂質過酸化(MDAおよびMTO)およびDNA酸化(8OH2dG)マーカーの減少を伴い、CSが酸化損傷を効果的に減少させたことを確認するもの。CSの心臓保護効果は、Langendorffモデルによって評価された虚血再灌流(I/R)誘発性心機能不全の著しい減弱によってさらに裏付けられた。
・CSによるTRPV1活性化は、強力な血管拡張作用と抗炎症作用を持つ神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の発現および組織レベルの増加につながることが示された。CGRP発現亢進は、観察された心臓保護における主要メディエーターの可能性があり、特に炎症反応の減弱および内皮機能の増強における役割を考慮すると重要。
・この研究で特に重要なことは、CS治療が高血圧ラットにおけるプロ炎症性サイトカインTNF-αおよびIL-6のレベルを低下させたこと。この効果は、全身的レベルと心臓組織レベルの両方で観察された。CSの効果は血管系の生理学的状態によって異なり、既存OSおよび内皮機能不全の状況下でより大きな恩恵が観察される可能性がを示唆された。
・・皮膚が弱い方、胃腸が弱い方etc …各人がより効果的で副作用のない体内への導入方法を考えたい。いくつがアイデアがあるので、形になり次第ブログとインスタでご紹介したいと思います。