心身の不調で悩むアスリートからのご相談が非常に多くなっている。
割合としては、エンデュランス系種目よりも筋肥大系の競技(柔術系も少し)の選手からのご相談が圧倒的に多い。
筋肥大は炎症反応を媒介することで起こる。よりハードに追い込んでいる選手の体内にはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)、IL-1β(インターロイキン-1β)、IL-6、IL-8などの炎症性サイトカイン炎症性サイトカインやケモカインが蓄積されており、特に神経系への炎症物質の拡散は鬱様症状(身体的症状も含む)との関連が多くの研究で示唆されている。
しかし実際に、選手ぞれぞれで何が原因でうつ病になってしまうのか診断するのは難しい。
ストイックと強迫観念の境界がなくなることで精神世界の崩壊が進むのかもしれない。
しかし、「真相はわからない」「難しい」からと言って手をこまねいているわけにはいかない。
今回ご紹介するのは、睡眠の質を改善することで有名な物質であるメラトニンについてのレビュー。内容はアスリートパフォーマンスとの関連性を示すもので鬱症状との関連性を示すものではない。ないですが、しかし、メラトニンの作用を理解することでアスリートの鬱症状の改善に新たな可能性が加わるのではと思う。
まず、神経ホルモンであるメラトニン(N-アセチル-5メトキシ-トリプタミン)は松果体によって合成され、中枢神経系の内部環境に分泌される。
メラトニンは睡眠・覚醒サイクルの調節や概日リズムの調節のみならず、神経や心臓の保護剤、抗腫瘍、抗老化能も発揮し、ミトコンドリアの構造的完全性と生体エネルギー活性を酸化的損傷から保護する。これらの特性から、メラトニンは抗酸化剤、抗炎症剤、免疫調節剤、抗腫瘍神経ホルモンとして分類されている。
上記の作用から、メラトニンは高強度運動による破壊的プロセスからの回復に重要な役割を果たすことが示唆される。
激しい運動に対する局所的・全身的な炎症反応は、スポーツパフォーマンスの低下、疲労、オーバートレーニングの原因となる。負荷の高いトレーニングは、特に骨格筋と肝臓における物理的・生化学的要求を飛躍的に増大させ、その結果フリーラジカルやストレスメッセンジャーなどの有害な代謝分子を体内に蓄積する。運動後の休息や回復のスケジュールを誤ると、高負荷ストレスが慢性炎症および/または全身性炎症に進展する可能性が高いことは、何度強調してもしすぎということはない。
近年では、最適なパフォーマンスを発揮し、生理的バイオマーカーを健康的な状態に維持するためには適切な栄養補給が重要であることはもはや常識となっており、様々な抗酸化物質や回復剤が機能的・構造的損傷に及ぼす影響を実証するために多くの研究が行われてきた。
そのうちの重要な分子の一つがメラトニンである。
リンクのレビューは、循環バイオマーカー(血糖値、脂質代謝、腎機能、肝機能、ホルモン反応、炎症反応、筋損傷)、抗酸化状態(抗酸化酵素、酸化ストレスバイオマーカー、抗酸化機能、グルタチオンの恒常性)、知覚・認知反応、生理学的バイオマーカー、メラトニンバイオ利用能、メラトニンの副作用、ハイレベルアスリートにおけるスポーツパフォーマンス(長時間運動、有酸素運動能力、筋力、パワー)のパラメータに対するメラトニン投与の効果について、関連研究の知見を特定、評価、分析、要約することを目的としたもの。
294の文献から21の論文が選択された。
メラトニン補充は、5mgから100mgの範囲で、急性投与(単回投与)、または3~30日間、運動前または運動後に継続投与された。
【結果】
抗酸化状態と炎症反応の改善、肝臓損傷と筋損傷の回復が認められた。
血糖値、総コレステロール、トリグリセリド、クレアチニンの調節については中程度の効果が報告された。
血中バイオマーカー、ホルモン反応、スポーツパフォーマンスにおけるメラトニンの潜在的な効果について有望なデータが見つかった。
【結論】
このレビューで示された研究結果は、メラトニンが高い安全性プロファイルを有することを示している。特定の健康バイオマーカーの改善に関するメラトニンの多面的効果は、酸化ストレス、炎症、骨格筋誘発性損傷など、ハイレベルなアスリートが行う高強度の身体運動によって誘発されるいくつかの影響対し軽減作用をもつ可能性がある。
メラトニン補給は、組織損傷を防ぎ、炎症を抑えることで間接的にパフォーマンスを向上させる可能性があり、ハイレベルアスリートが超高負荷運動を行う際に、正常範囲から外れる循環バイオマーカーを回復させる可能性がある。
メラトニン補給
・100mgのメラトニンは、ヒトにおける推奨範囲(3~20mg)を超える用量。概日リズム睡眠障害、原発性不眠症および/または続発性不眠症治療では、健康な人には3-10mg/日、がん患者には3-20mg/日が使用される。小児では2~10mg/日である。
特に、メラトニンを20-40mg/日、進行期の転移性がんで従来の治療に反応しない患者に治療補助薬として経口投与した。高負荷運動が要求されるスポーツ種目に対する用量は、まだ確立されていない。
・外因性メラトニンは腸管吸収が速いため、経口投与では40分後に最大血中濃度に達し、半減期は45~65分。経口サプリメントの運動前投与時間は15分から60分で、ほとんどが30分だった。スポーツパフォーマンスで直接的効果を得るには30分前が適切と思われる。
・運動後にメラトニンを摂取すると、抗酸化作用、筋肉や肝臓の損傷を軽減する作用、抗炎症作用などによるアスリートの疲労回復に効果がある。このレビューで分析された9つの試験で、サプリメント非摂取群と比較してそれらの効果が有意に改善されていた。
・8mgのメラトニンを補給されたアスリートは、5mgのメラトニンを補給されたグループおよび対照群と比較して、筋力テスト(ハンドグリップテスト)およびパワーテスト(スクワットジャンプおよびカウンタームーブメントジャンプテスト)において有意な有害作用を示した。
抗酸化物質の状態
・消耗的で極端な高負荷トレーニングは酸化ストレス(OS)を引き起こす。OSとは、窒素種の産生が悪化し、酸化還元バランスが崩れて生体が生理的恒常性を維持できなくなることによって引き起こされる。OSは、特に筋肉、腎臓、肝臓組織に細胞損傷を引き起こし、炎症反応を引き起こした結果、スポーツパフォーマンスの低下、オーバートレーニング、早期疲労を引き起こす。
・メラトニンの抗酸化作用はOSを予防し、組織損傷を回避し、窒素腫による炎症を抑えるのに役立つ。また、メラトニンは核赤血球2関連因子2(Nrf2)経路を調節することで抗酸化酵素の遺伝子発現を改善する可能性がある。
・ハイレベルアスリートにおけるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性は、運動後に5mgまたは20mg、運動前に15mgを補給すると有意に増加した。
・グルタチオン(GSH)はOSに対する防御に重要な役割を果たす、細胞恒常性における重要分子。運動後30日間(入眠30~60分前)に5mgのメラトニンを補給すると、プラセボ群と比較してGSHレベルが有意に上昇した。また、グルタチオンレダクターゼ(GRd)、酸化型グルタチオン(GSSG)およびGSSG/GSH比の有意な減少がメラトニン補給後に対照群と比較して観察された。このことは、ハイレベル持久系アスリートではさらにGSHが増加していることを示している可能性がある。このGSHレベルの上昇は、メラトニン存在下での激しい運動に対する抗酸化防御の特別な適応を示している可能性がある。
・メラトニンは高度酸化タンパク質産物(AOPP)と脂質過酸化(LPO)レベルを有意に低下させ、さらに間接的抗酸化作用として酸化促進酵素を負に制御する。また、メラトニンは一酸化窒素(NO)合成に関与する誘導性NO合成酵素(iNOS)を抑制し、細胞膜の多価不飽和脂肪酸のヒドロペルオキシデーションに関与するリポキシゲナーゼを抑制する。摂取群では対照群に比べてLPOと亜硝酸塩が有意に減少したことが報告されており、より大きな抗酸化保護を示している可能性がある。
・メラトニンの抗酸化作用はDNAやタンパク質など多くの生体分子機能をOSから保護する。メラトニンは、アミノ酸の酸化指標で、炎症反応における重要な決定因子であるあるAOPP、LPO、DNA損傷を有意に減少させることが報告されており、したがって、メラトニンは運動誘発性窒素種の過剰産生を防ぎ、分子の機能や組織傷害を酸化的損傷から保護する強力で万能な抗酸化物質であると考えられる。
炎症反応
・激しい運動はホメオスタシスプロセスを乱すことで運動誘発性筋損傷(EIMD)を引き起こし、局所的・全身的な炎症過剰反応によって炎症性メディエーターの放出が誘発される。メラトニンをこの炎症反応と筋損傷を抑制するスポーツサプリメントとして使用ですることは、アスリートの健康状態とスポーツパフォーマンスにとって有益である。
・メラトニンはIL-6やTNF-αの分泌を有意に減少させてアスリートの炎症状態を改善し、
、sTNF-α-RIIやIL1-raなどの抗炎症メディエーターを有意に増加した。また、NF-κB、JAK/STATおよびMAPKシグナル伝達経路の活性化を阻害することで、炎症を調節する。
組織損傷
・メラトニンの補給は筋損傷の2つのバイオマーカーであるCKとLDHを有意に減少させるか、減少させる傾向を示した。筋損傷の調節効果はメラトニンによる抗酸化活性、細胞膜脂質の過酸化抑制、あるいは抗酸化酵素活性の増加による。さらに、p300ヒストンアセチルトランスフェラーゼの活性を阻害することでシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性化因子の転写を阻害し、COX-2発現をダウンレギュレートする。このことがCKとLDH血中濃度の低下に寄与している可能性がある。
・メラトニンの肝臓保護特性は、脂質過酸化の抑制、抗酸化酵素レベルの上昇、およびRONSを除去する直接的能力という多峰性のメカニズムによる。メラトニンはこのシステマティックレビューで分析された研究で決定された肝障害のすべてのバイオマーカーを減少させ、OSから肝細胞を保護した
・腎臓に対するメラトニンの細胞保護特性は、クレアチニンの有意な減少(運動後に6mgを単回投与)で明らかになった。メラトニンを摂取した選手では、プラセボ群と比較して尿酸、尿素、クレアチニンが減少する傾向がみられた。
免疫系
・高負荷運動は免疫機能に悪影響を及ぼし、顕著な白血球増加と中程度のリンパ球増加を誘発する。これは運動後に増加し、1~3時間後に回復する。
・メラトニンの免疫調節作用はメラトニン11(MT1)受容体を介して確立される。
NF-κBを阻害し、iNOSなどの炎症性酵素やIL-2、TNF-α、インターフェロン-γ(IFN-γ)などのサイトカインの発現が減少する。また、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子などのサイトカインの発現を減少させる。また、MT1を介してIL-4とともにTGF-β(トランスフォーミング成長因子-β)のレベルを上昇させ、免疫細胞の活性を調節する。
・高負荷運動後に起こる一過性の免疫抑制は、一過性の白血球機能の低下をもたらす。この状況は、特に上気道におけるウイルスや細菌感染を助長する。上気道感染症(URTI)は、呼吸の速さと深さが要求されるエアロビック種目の競技者に最も多く見られる障害である。
ホルモン反応
・長時間の集中的な運動はテストステロン分泌を減少させ、コルチゾール分泌を増加させることで、ホルモンパターンの機能障害を誘発する。このようなホルモンプロフィールの変化は、回復能力に悪影響を及ぼし、カタボリックな状況を生み出す。
フィジカルパフォーマンス
・組織損傷緩和作用に関与するメラトニンの生理学的代謝経路が報告されており、ハイレベルアスリートにとってパフォーマンスを向上サプリメントとして注目される可能性がある。メラトニンの補給は、筋中グルコースを増加させ、脂質プロファイルを改善する(総コレステロールとトリグリセリドの有意な減少によって証明される)。
・一方で、メラトニンは筋力とパワーの低下をもたらすと言う報告もあった。これは、中枢神経系に対するこのホルモンの抑うつ作用、または他の研究で報告された低血糖症によるものかもしれない。しかし、このレビューに含まれる6研究では、有酸素運動能力、無酸素運動能力、バランス能力、下肢筋力/パワー、疲労指数、RPE、VAS、反応時間のテストにおいて、対照群と比較したメラトニン補給の有意な有益性が記述されている。
・・いかがでしたか?
アスリートパフォーマンスに対する有益性に関する研究結果はまちまちであるものの、Down Gradeしてしまったアスリートの身体を回復させるメラトニンの作用がご理解いただけたのではないでしょうか。
特に最後の一文で抑うつ作用の文言が出てきましたが、メラトニンの持つ抗炎症作用を考えるともっともな気もします。
メラトニンのみならず、アスリートの心身の不調の改善に向けた栄養学的アプローチに関するデータが当院には蓄積しています。より具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用をご検討ください。(アスリート以外の心身の不調でお悩みの方にも有効です)
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