屋外の持久系アスリートが対象だが、炎天下の屋外での仕事に従事している方にも参考になりそうな興味深いデータをまとめてみたい。
高温環境(27℃以上)はアスリートの生理機能、特に持久力パフォーマンスと主観的知覚に大きな課題をもたらす。高温環境下での持久性サイクリングにおける疲労困憊までの時間とパワー出力を調べた研究によると、男性アスリートは平均17.7%、女性は12.4%のパフォーマンス低下を経験し、主に体温調節障害と心血管系の負担増加に起因していたという。
暑熱は中枢性疲労の調整に影響を与えることで運動パフォーマンスを低下させ、疲労困憊までの時間の短縮と最大随意収縮(MVC)の低下につながる。17℃、22℃、27℃と比較して、37℃ではアスリートの平均パワー出力は著しく低下し、随意的疲労困憊までの時間も短縮する。高温多湿は身体の熱負荷を著しく増加させ、深部体温の上昇、心拍数の加速、心拍出量の減少を引き起こすと同時に、主観的疲労感と熱ストレスを強める。
熱ストレスと主観的疲労を軽減して運動パフォーマンスを最適化するために、冷却介入、振動刺激療法、栄養補助食品といったいくつかの戦略が提案されている。
栄養戦略の観点からは、クレアチン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、炭水化物、カフェイン、ビートルートジュースなどの様々なサプリメントが、常温または低温環境下で潜在的なエルゴジェニック効果を発揮することが示されている。
しかし、暑熱ストレス下での知覚疲労の軽減と運動パフォーマンスの向上における栄養補助食品の有効性について体系的調査はまだまだ不足しており、介入の効果はかなりばらつきがある。
リンクの研究は、それらの知見のギャップを埋めるためにネットワークメタアナリシス(NMA)を用いて様々な介入の直接的および間接的効果を比較したもの。16種類のサプリメント介入を含み、主観的な不快指数をネットワークモデルに統合することで、サプリの比較に新たな視点を提供している。ネットワークメタアナリシスアプローチを用いた複数の介入の直接的および間接的効果を評価して有効性をランク付けしており、アスリートの暑熱環境下でのパフォーマンス向上に向けた最適な栄養戦略を選択する上で貴重な証拠を提供している。
【結果】
552人の参加者を含む25件のランダム化比較試験(RCT)が対象で22件の比較が得られ、そのうち18件が持久力パフォーマンスを評価し、11件が主観的知覚を評価。標準化平均差(SMD)と事後確率(ベイジアンランキングに基づくPスコア)は、ランダム効果モデルとベイジアンモデルを用いて算出された。メンソール(SMD = -1.83、95%信頼区間 [-3.15, -0.51];Pスコア = 71.04%)とタウリン(SMD = 0.91、95%信頼区間 [0.08, 1.73];Pスコア = 12.75%)は、持久力に有意な好影響を示した。メンソールエナジージェルは、温熱快適性において最大の改善を示した(SMD = 2.14、95%信頼区間 [1.01, 3.26];Pスコア = 99.54%)。
【結論】
- 持久力の面では、メンソールとタウリンが高温下でパフォーマンスを向上させる効果を比較的はっきりと示した。
- 主観的知覚の面では、メンソールエナジージェルが暑熱下での運動パフォーマンスを改善する最も明確な可能性を示した。他のサプリメントの効果はかなりばらつきがあった。
Effects of Nutritional Supplements on Endurance Performance and Subjective Perception in Athletes Exercising in the Heat: A Systematic Review and Network Meta-Analysis
・メンソールとタウリンは、主観的な温熱快適性と持久力パフォーマンスの改善に良い影響を示す。
・全ての介入の中で、メンソールエナジージェルは暑熱ストレス下での主観的知覚の向上に最も強い潜在能力を示した。
・高温環境下では、単剤介入よりもサプリメントの併用がより効果的であるように思われた。
一方で、クエン酸ナトリウム、高ナトリウム、低ナトリウムなどのサプリメントは効果が限定的か、あるいは潜在的に負の効果を示した。
暑熱環境下における栄養補助食品のメカニズムと研究状況の概要
・BCAAは理論的には中枢系セロトニン合成を抑制することで中枢性疲労を軽減し、暑熱ストレス下におけるRPEスコアの低下が複数の研究で観察されているが、持久力パフォーマンスの直接的な改善は一貫性がない。
タウリン(TAU)は、抗酸化作用、膜安定化作用、カルシウム調節作用を持つ条件付き必須アミノ酸で、高温環境下で持久力パフォーマンスを著しく向上させることが見出された。これは、熱によって誘発される中枢性疲労と情動障害を緩和することによる可能性がある。
・ドーパミンとノルエピネフリンの前駆体であるチロシンは、暑熱ストレス下で中枢神経系の調節を強化する可能性があるが、このレビューの結果は中立的であり、サンプルサイズが小さいことや介入プロトコルの一貫性がないことが原因である可能性が高い。
・ポリフェノールやアスタキサンチンなどの抗酸化物質は、熱によって誘発される酸化的ストレスに対抗し、ミトコンドリア機能を維持し、疲労の開始を遅らせる可能性がある。メタ解析では統計的有意な効果は見出されなかったが、暑熱順化トレーニングや長期的な暑熱曝露シナリオにおけるそれらの応用は依然として有望である。
・クレアチンは主にリン酸系に作用し、細胞の水分補給と熱安定性を改善する可能性がある。しかし、体重増加と熱放散の障害がその利点を相殺する可能性があり、暑熱下での使用については依然として議論がある。
・カフェインは、温帯条件下でのパフォーマンス向上剤として確立されているが、心拍数と深部体温の上昇により、暑熱下ではパフォーマンスを損なう可能性がある。
・電解質およびアルカリ性サプリメント(例:重炭酸ナトリウム、高ナトリウム飲料)は、体液バランスと緩衝能力の維持に役立つ可能性がある。いくつかの研究では、暑熱下での持久力延長に利点があることを示唆しているが、この分析では有意な効果は観察されなかった。
・メンソールベースサプリメントは、TRPM8冷受容体を活性化し、温熱感覚とRPEスコアを改善する。これらは、主観的な快適性を向上させるために、高温多湿環境でよく受け入れられている。またメンソールの冷却感覚が生理的負担を隠し、中枢性疲労を増加させる可能性があるという証拠もある。
全体として、タウリン、抗酸化物質、メンソールサプリメントは、暑熱条件下での主観的知覚と持久力の両方に有望な効果を示している。対照的に、BCAA、クレアチン、ナトリウムベースのサプリメントは結果が変動し、カフェインは慎重な使用が必要である。
持久力パフォーマンスへの影響
・メンソールは最も顕著な負の標準化平均差(SMD)値を示した。メンソールが温熱快適性を高めるか、または知覚疲労を遅らせることによって暑熱環境下でのパフォーマンスを効果的に改善する可能性が示唆された。
・タウリン(TAU)は統計的有意な正の効果を示した。その有益な効果は、運動誘発性酸化的損傷を減少させる抗酸化特性、および暑熱下でのミトコンドリア機能の保護と心血管応答の改善から生じる可能性がある。
・カフェインと高麗人参の組み合わせ(CAF + PG)は比較的大規模な効果量を示したが、信頼区間がゼロラインを横切っており統計的有意性はなかった。しかし、その成分のメカニズムを通じて相乗効果を発揮する可能性がある。
- カフェインはアデノシン受容体拮抗薬として、中枢神経系を刺激することで知覚疲労を遅らせる。
- 高麗人参(PG)は運動誘発性の炎症マーカー(例:IL-6)と酸化的ストレスを減少させるとともに、コルチゾールとDHEAのバランスを維持することで疲労の開始を遅らせ、回復を促進する。
暑熱環境下では、このような複合サプリメントは単剤使用よりも効果的である可能性がある。
主観的知覚への影響
・メンソールエナジーは、知覚アウトカムに対して最も顕著な正の効果を示した。この強い効果は、メンソールの独特の冷却感覚とエネルギー補給の組み合わせに起因する可能性があり、暑熱ストレス下での熱的不快感を効果的に緩和して疲労を遅らせる。
・電解質補給に関して、先行研究の知見とは対照的に高ナトリウム(High Na+)と低ナトリウム(Low Na+)サプリメントは有意ではない傾向を示した。これは、ナトリウム補給戦略の複雑さを反映しており、以下の影響を受ける可能性がある。
- 汗中のナトリウム濃度における個人差
- ナトリウム摂取のタイミング(運動前、中、後)が血漿量に異なる影響を与える。
・・・単独で使用すると効果が最小限であるものの、カフェイン+高麗人参のように組み合わせるとより良い効果を示すというのは非常に興味深い結果。アイデア次第でまだまだ効果的なサプリの組み合わせができそう。ここのアスリートによって体感も変わるでしょうから様々なバリエーションを試してデータをとってみては如何でしょうか?