様々な局面において語られる筋肉量・筋活性・筋力の左右差やアンバランス。
アスリートパフォーマンス向上のために、もしくは様々な健康状態を良好に保つためにその解決策を模索中の方も少なくないだろう。
一例としてレジスタンストレの文脈では、ベンチプレスはアスリートやフィットネス愛好家の間で人気のメニューの一つだが、上半身の非対称性を持つヒトがバーベルベンチプレスを行う際はバーベルの重心は筋力の強い側に向かって横方向にずれ、不均等な挙上につながる可能性が高くなる。これは左右の筋力差を悪化させ、優位側に過負荷を引き起こす。
この左右の筋力差を改善する方法として不安定な負荷でベンチプレスを行うことがあるが、一方で、非対称的な外部負荷位置(オフセットトレーニング)を用いたエクササイズの実施はほとんど研究されていない。片側を除荷したバーベルを持ち上げる際、アスリートはぐらつくことなく制御された状態でウェイトを持ち上げる必要があり、それによってアスリートは多くの動作を同期させることを強いられる。したがって、左右の負荷差は神経筋系が中和する必要のある不安定な効果の生成につながる。
リンクの研究は、ベンチプレス動作における非対称的負荷条件(25%、50%、75%の負荷差)が、主動筋群の筋活動に及ぼす急性的影響を比較したもの。
健康なレジスタンス運動経験を有する男性30名および女性5名が対象。
コンセントリック相およびエキセントリック相における優位側の大胸筋鎖骨部および胸骨部、上腕三頭筋、前部三角筋ならびに両側外腹斜筋のピーク筋活動(表面筋電図)を評価。
7つの異なる負荷条件下でのベンチプレスにおける筋活動、バーベル重心の加速度、および抵抗運動に対するOMNI知覚的運動強度スケール(OMNI-RES)の差異を評価するため、反復測定計画を採用。
【結果】
コンセントリック相およびエキセントリック相の両相において、筋活動に対する運動条件の有意な固定効果が認められた。特にエキセントリック相において、高負荷条件(50%および75%の負荷差)かつ非優位側の除荷条件下で、優位側の大胸筋鎖骨部および胸骨部において有意に高い筋活動が観察され、大きな効果量を示した。
コンセントリック相においては、全ての非対称的負荷条件下で優位側および非優位側の対側外腹斜筋において有意に高い筋活動が認められた。
【結論】
非対称的負荷を用いたベンチプレスでは、一方の負荷を軽減した場合、負荷側の胸部大胸筋のより高い活動を誘発した。最も非対称的な負荷条件下では、対側の外腹斜筋の筋活動は2倍に増加した。
高負荷(75%の除荷)で行った場合、優位側大胸筋鎖骨部および胸骨部の活動を有意に高め、これは主にベンチプレスのエキセントリック相で起こった。さらに、優位側および非優位側の対側の体幹筋(外腹斜筋)は、すべての非対称的な条件下で有意に高い活動を示した。
これらの知見は、ベンチプレスにおける非対称的負荷を用いたオフセットトレーニングが上半身の主動筋と体幹の安定化筋の両方の活動を選択的に高めるための有効な戦略となり得ることを示唆している。
Great Offset Loading Influences Core and Bench Press Peak Prime Mover’s Activity in Trained Athletes
・過去にベンチプレスにおけるこのトピックを調査した研究はわずか2件。両研究はおそらくオリンピックバーベルを使用していたのに対し、本研究ではフィットネスバーベルを用いて実施。
・コンセントリック相は両胸筋を明らかに要求したが、75%の非優位側除荷条件下のエキセントリック相でのみ有意な筋活動の増加が見られ、他の除荷条件では見られなかった。したがって、総負荷は低かったにもかかわらず、条件が非常に困難であるエキセントリック相でのみ差が現れた。両相において50%および75%の除荷条件下では、両胸筋部分の除荷側で予想される筋活動の減少が見られたが、25%の除荷条件下では有意な減少は見られなかった。
・非優位側でバーベルが除荷された場合(50%および75%)、優位側anterior deltoid(AD)の活動が増加した。肩の挙上筋としてのそれらの役割は、動きの安定化に役立っている。これは特に大きな非対称性で生じた大きな力モーメントの影響によって、ADは屈曲伸展運動を行いながら内転した腕の肩甲骨の安定化の役割を強化することを強いられた。さらに、triceps brachii(TB)活動はすべての条件下で同様であった。優位側のより高い除荷率(50%および75%)のみが筋力要求を有意に低下させた。
・外腹斜筋は負荷側の反対側において、すべての非対称的条件下で有意に高い要求があった。これらの報告された活動増加の大きさは両運動相で同様だった。非対称的条件は外腹斜筋の筋活動をほぼ2倍にし(優位側と非優位側の両方で100%から215%の間)た。これはおそらく、使用したバーベルによって生じたより大きなトルクによるもの。不安定な条件下での体幹筋の姿勢安定化における役割は広く示されている。外腹斜筋は内腹斜筋と協調的に体幹の屈筋および側屈回旋筋として作用する。非対称的な挙上中、この筋肉はベンチ上での股関節の位置を維持するために体幹をわずかに反対側に回転させる上で重要な役割を果たす。
・この研究の被験者は経験豊富なトレーニングアスリートであり、オフセットトレーニングに精通していた。したがって、これらのデータを経験のないレクリエーションアスリートに外挿することは困難である。
・・・面白いですね〜。こう言う研究て意外と少ないんですよね。トレーニング上級者の方は早速取り入れてはいかがでしょうか?