競技者にとってアスリートパフォーマンスの向上は日々の至上命題であるし、チームを構成する各種トレーナーや私のような治療家にとってもスポーツパフォーマンス向上のための「真理」に対するあくなき探求は、自ら終わらせなければ終がりなく、日々向き合うテーマである。
しかしストイックにアスリートパフォーマンスを追求するがあまり、最も大事な『選手の健康』が脇に置き忘れられたままにとかくなりがちである。
若くして命を落としたり、精神を病むアスリートが増えていることはその事実を顕著に表していると言っても過言ではないだろう。
今回のブログは、究極のアスリートパフォーマンスを追求しつつ、選手の長期的な健康を保護するためのヒントになる栄養学的データをまとめてみたい。
アスリートにとって、OFF、ONシーズン問わずトレーニング中のコンディションを最適化し、トレーニング後の適切な回復を促進するためには、適切な栄養を摂取することは不可欠。異なる食事パターンはアスリートパフォーマンスにそれぞれ異なる効果をもたらす。
さらに、ヒトの腸管には腸内細菌叢として知られるダイナミックな細菌群が生息しており、胃腸バリアの強化、免疫機能の向上、グルコースおよび脂肪代謝の調節などヒトの健康に有益な影響を及ぼしている。
また、近年では食事に含まれる食物繊維やアントシアニン(ACN)などの特定の微量栄養素とアスリートパフォーマンスとの間のメディエーターとしての腸内細菌叢の潜在的役割に注目が集まっている。しかし、多くの研究は腸内細菌叢を通じた食事パターンとスポーツパフォーマンスの関係を深く調査するよりもプロバイオティクスサプリメントがスポーツパフォーマンスに及ぼす影響を主に評価しており、これは食事パターンにおける様々な栄養素間の複雑な相互作用や、スポーツパフォーマンスへの具体的な影響に関する科学的理解が限られていることに起因している。
リンクのレビューは、複数の食事パターンがアスリートパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを検討した最近の研究を要約し、栄養が介在する腸内細菌叢の相互作用がアスリートパフォーマンスに関与する可能性のあるメカニズムを提案。競技者に”的を絞った食事パターン”によるスポーツパフォーマンス向上に関する知見を提供することを目的としたもの。
専門用語が多く長文になってしまうが、なるべく簡潔にまとめてみたい。
興味がある方は是非最後までお付き合いを。
Dietary Patterns, Gut Microbiota and Sports Performance in Athletes: A Narrative Review
腸内細菌叢
・ヒトの微生物叢は、細菌、古細菌、真菌、ウイルス、バクテリオファージ、原虫からなり、これらの微生物は出生時から人体の様々な部位にコロニーを形成し、主に口腔や鼻腔、皮膚、泌尿生殖器管、消化管に集中している。特に消化管内では、宿主細胞と同程度の微生物細胞数が存在することが最近明らかになっている。微生物濃度は消化管に沿って徐々に増加し、特に嫌気性分類群が豊富である。胃では酸性のpHが細菌の存在を制限するため、乳酸桿菌、カンジダ、連鎖球菌、ヘリコバクター・ピロリに代表される細菌が最も少ない。大腸内は良好なpHがバクテロイデス、クロストリジウム、ビフィドバクテリウム、腸内細菌科などの細菌にとってより適した生息環境を作り出しており、これらの菌種のほとんどは偏性嫌気性菌で多糖類の分解や短鎖脂肪酸(SCFA)の産生に関与している。
・長い歴史の中で、細菌がヒトに対して病原性を持つという観点に焦点を当てた研究が行われてきた。その代表的なものが、化膿レンサ球菌、百日咳菌、コリネバクテリウム・ジフテリア、クロストリジウム・テタニ、サルモネラ・チフス菌、ビブリオ・コレラ、その他多数だが、微生物叢の大部分は非病原性でありヒトの健康にとって重要でさえある。例えば、難消化性の食物残渣を処理し、宿主の代謝ホメオスタシスに寄与するSCFAを産生する。SCFAはその後、粘膜や全身循環に影響を与え、末梢臓器や組織に影響を及ぼす。SCFA以外にも数多くの微生物代謝産物が様々な生理機能において重要な役割を果たしている。
・腸内細菌は糖、アミノ酸、ビタミン、その他ヒトの代謝に不可欠な成分の合成にも関与している。さらに、上皮細胞の増殖とターンオーバーを促進することによって消化管バリアの強化に積極的に関与し、その生理的機能を高めている。Toll様受容体(TLR)はこのプロセスで重要な役割を果たしており、小腸の上皮細胞内ではパネス細胞が腸内細菌を認識し、その後TLRの活性化を通じて多様な抗菌因子の発現を開始し、病原性細菌の侵入を効果的に防いでいる。さらに、微生物叢は免疫グロブリン(IgA)分泌を刺激し、病原性細菌の増殖とコロニー形成を阻害する抗菌性分子の産生を促し、その結果腸関連リンパ組織(GALT)の発達が促進され、宿主の免疫系が強化される。
・一方で、微生物組成の量的・質的不均衡や種の多様性低下を特徴とする腸内細菌叢異常(ディスバイオーシス)は、糖尿病、心血管疾患、炎症性腸疾患(IBD)、NAFLD、肥満など様々な疾患を引き起こす可能性がある。典型的な腸内微生物の3~5%を占めるアッカーマンシア・ムシニフィラが肥満患者では減少しており、バクテロイデス門に属するアリスティペス・プトレディニスは2型糖尿病と肥満患者で増殖することは注目に値する。
腸内細菌叢とアスリート・運動の関係
・アスリートや活動的な人は運動不足のヒトに比べて糞便細菌の多様性に富み、有益な種が豊富である(リンクデータ表1参照)。したがって、炭水化物およびアミノ酸代謝経路の活性化から明らかなように微生物代謝が亢進している。さらに、定期的な持久系運動は腸内細菌叢組成を調整し、炎症関連プロテオバクテリアの存在を減少させる。一般的に、アスリートはアッカーマンシア属やプレボテラ属がより豊富で、腸内細菌叢の中でも宿主の健康を促進する種が豊富である。
・アイルランド男子ラグビー選手を対象に行った研究では、アスリートは運動不足の対照群と比較して腸内細菌叢のα多様性が高く、高BMI(BMI >28)と低BMI(BMI < 25)の両コントロール群と比較して糞便微生物叢に大きな多様性を示した。また、エリートアスリートの腸内細菌叢は22の細菌門で構成されていたが、低BMI群と高BMI群ではそれぞれ11と9の細菌門しか認められなかった。痩せ型の表現型に関連するアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の増加が、高BMI群と比較してプロアスリートと低BMI群で観察されたことは注目に値する。アッカーマンシア・ムシニフィラは良好な代謝機能と関連しており、栄養豊富な腸の粘液層に生息するムチン分解細菌である。
さらにこの研究では、アスリートでは炭水化物とアミノ酸の代謝経路の活性が高いことが示されている。
・上記の知見は、運動が腸内細菌叢の組成変化を誘発するという考えを支持する証拠となる。ある研究では、食習慣、体重、体組成などの因子をコントロールしながら、持久系運動の介入によって、座りがちでトレーニングをしていないフィンランド人女性の腸内細菌組成に変化が誘発されることが示されている。持久系運動は腸内の炎症関連プロテオバクテリアレベルを低下させる一方で、ウェルコミクロビウム属とアッカーマンシア属メンバーの相対存在量の増加をもたらすこともわかった。
・レジスタンストレーニングも腸内細菌叢に影響を及ぼす。ある研究では、10週間のレジスタンストレーニングは、今までトレーニングを受けたことのない若年成人のα多様性を改善することが示された。
・ヒト臨床研究において、スポーツパフォーマンスに対する腸内細菌叢の正確な影響を決定することは、栄養、遺伝、環境因子が複雑に絡み合っているために困難だが、無菌動物モデルがスポーツパフォーマンスに対する腸内細菌叢の影響を解明するためにすでに採用されている。ある研究では、特定病原体フリー(SPF)、無菌(GF)、バクテロイデス・フラギリス、(Bacteroides fragilis)gnotobioticマウスの水泳能力を調査した結果、疲労困憊するまでの時間はSPFマウスが最も長く、GFマウスが最も短かった。
・プロバイオティクスサプリメントの効果に関するレビューでは、アスリートにとってのプロバイオティクスの利点がいくつかまとめられている。著者らは、プロバイオティクスの投与が消化管疾患や上気道疾患の症状を軽減し、身体能力を高め、運動後の回復を改善し、気分を改善する可能性があることを示している。腸内細菌叢組成とスポーツパフォーマンスとの間の有意な相関が示唆されている。
食事パターンが腸内細菌叢に及ぼす影響
・ヒト腸内細菌叢組成を形成する上で食習慣は重要な役割を果たしている。24時間以内の腸内細菌叢組成に食事パターンが大きな影響を及ぼすことは多くの研究で強調されている。食事パターンは、ベジタリアン、肉食、バランス食に大別でき、それぞれが腸内細菌叢の明確なプロフィールを示す。食事パターンが異なると、ファーミキューテス属、バクテロイデーテス属、プロテオバクテリア属、アクチノバクテリア属の割合が明らかに変化する。食事介入によって誘発される腸内細菌叢の変化は24時間以内に観察され、中止後48時間以内にベースラインレベルに戻る。腸内細菌叢組成の変化による影響は、炭水化物およびタンパク質の発酵、腸の炎症、脂質酸化、アミノ酸利用能の増加、タンパク質同化の促進が含まれる。
ケトジェニック・ダイエット
ケトジェニック・ダイエット(KD)は脂肪分が多く、炭水化物の摂取量が少なく、タンパク質やその他の必須栄養素が適切な割合で含まれていることが特徴。
ケトジェニックダイエットの主な4タイプ:
・炭水化物4%、脂肪90%、タンパク質6%
・炭水化物20%、長鎖トリグリセリド脂肪10%、中鎖トリグリセリド脂肪60%、タンパク質10%
・炭水化物10%、脂肪65%、蛋白質25%
・炭水化物10%、脂肪60%、蛋白質30%
上記のようにKDには決まった栄養比率がない。しかし脂肪の割合が高く、炭水化物の割合が低い。この食事パターンの第一の目的は、炭水化物の摂取を制限することによって、グルコース代謝を脂肪代謝にシフトさせること。その結果KDは効果的に血糖値を下げ(?)、遊離脂肪酸とケトン体の産生を増加させ、それによって神経細胞の興奮性に影響を与える。KDの特徴は、ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸、酢酸、アセト酢酸)の産生で、ケトン体の増加は抗炎症および抗酸化活性、免疫調節、腸の可動性およびバリア機能、細胞の成長および分化、イオン吸収、ならびに遠位潰瘍、クローン病、大腸がん予防に寄与する。KDは当初、難治性てんかんの治療に使用されていたが、医療技術やスポーツ科学の進歩に伴い、その応用範囲は徐々に拡大している、
とはいえ、KDには限界がある。例えば、グリコーゲンを酸化に利用する筋機能は長期のケト化適応の後、損なわれてしまい、酸素供給が制限されたときに、より効果的なエネルギー源となる利用可能なグリコーゲンを利用できなくなる。したがって、より強度の高レベル持久系運動のパフォーマンスが制限され、アスリートの傷害リスクが高まる可能性がある。
植物ベース食
・植物性食品は炭水化物を多く含み、エネルギー密度が低く、脂肪分が少なく、コレステロール、抗生物質やホルモンが含まないことが特徴。植物性食品を長期的に摂取することは、多くの慢性疾患リスクを減らす。
・西洋食グループ、フレキシタリアングループ、ベジタリアングループ、ビーガングループの4つの食事パターンのいずれかを実践した258人の微生物組成を調査した研究では、西洋食グループは、バクテロイデス属、ラクノスピラ科1属、ブチリコッカス属、ラクノスピラ科UCG_004属、ヘモフィルス属が最も少なかったが、一方で菜食主義者グループは最も高い値を示した。
菜食主義者グループにおけるラクノスピラの高存在量は、植物性多糖類を酪酸のようなSCFAに広範囲に発酵させていることを示している。酪酸は大腸上皮細胞の重要なエネルギー源として機能し、腸の炎症を制御し、ヒト結腸がんを予防する。
さらに、ビーガン食は、身体組成、血流、抗酸化能、全身性炎症、グリコーゲン貯蔵に影響を与えることで、持久系スポーツのパフォーマンス向上や回復促進に貢献する可能性も示唆された。
高タンパク食
・高タンパク食の実践は、より質の高いタンパク質を摂取することで体にアミノ酸を供給することができる。アミノ酸は腸内細菌叢を介して、分岐鎖脂肪酸やSCFA、アンモニア、硫化物、インドール、フェノール化合物に代謝される。これらの一部(SCFAsやインドールなど)は腸の健康に有益であるが、他の代謝産物(アンモニアやp-クレゾールなど)は腸上皮完全性を低下させる可能性がある。
・アスリートはかなり多量のタンパク質を摂取することが多い。ある研究によると、過剰なタンパク質が吸収されずに残っていると、大腸で特定の細菌の増殖を促進する可能性があるという。
この研究ではタンパク質10週間補給によって、バクテロイデーテス(Bacteroidetes)属の生息数が増加する一方で、ロゼブリア(Roseburia)属、ブラウティア(Blautia)属、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)など、健康全般に有益な分類群が減少することが判明している。
ボディビルダーの腸内細菌叢を比較した別の研究では、プロテイン摂取によって、クロストリジウム、バチルス、スタフィロコッカス、プロテオバクテリア(Proteobacteria)科などのタンパク質発酵菌の存在量が増加し、バクテロイデス、ラクトバチルス、ビフィドバクテリウム、プレボテラ、ルミノコッカス、ロゼブリア、フェーカリバクテリウムなど炭水化物発酵細菌の減少につながる可能性が示された。大腸で不完全に消化されたタンパク質が発酵すると、アンモニア、生体アミン、インドール化合物、フェノールなどの有毒代謝物が生成される可能性も強調されている。しかし、食物繊維の摂取基準を満たすことで高タンパク質摂取が腸内細菌叢に及ぼす悪影響が減弱される可能性も同時に示された。したがって、摂取するタンパク質と食物繊維の種類だ、量も厳密に管理する必要がある。
地中海式ダイエット
・地中海式ダイエット(MD)は果物、野菜、穀類、オリーブ油、豆類、木の実の摂取が多く、魚介類の摂取は控えめで、砂糖入り食品、赤身肉、進行肉、炭酸飲料の摂取が少ないことが特徴。
MDは比較的高い脂肪含量を示し、一価不飽和脂肪が飽和脂肪の2倍を占めていることが注目される。MDの一価不飽和脂肪の主な供給源はオリーブ油。さらに、MDは白身肉と赤身肉の適度な摂取を認めており、MDの遵守は、糖尿病、肥満、その他のメタボリックシンドロームに関連する代謝リスクを軽減、さらに認知機能を高めると同時に、悪性腫瘍や心血管系疾患のリスクも低減することが報告されている。
・あるレビューによると、MDにおける個々の食品および化合物の適用は競技アスリートにおける酸化ストレス、炎症、傷害、疾病リスク、および認知機能と血管機能にプラスの効果をもたらす可能性が示されている。
炭水化物の大量摂取
・高炭水化物食に関する研究は限られているが、十分な炭水化物の摂取はアスリートにとって極めて重要である。運動前・中に単純炭水化物(例、グルコース、フルクトース、スクロース)を摂取することは疲労を緩和し、水分補給および最適な体液バランスの維持を促進し、スポーツパフォーマンスを高める。特にラクトースは、運動前・中・後の効果的な燃料源として機能することでスポーツパフォーマンスの向上し、回復促進、ビフィズス菌や乳酸菌の個体数の増加など、 有益な影響を及ぼす可能性がある。
・多くのスポーツのアスリートはグリコーゲンの貯蔵を最大化し、膨満感や下痢などスポーツのパフォーマンスに悪影響を及ぼす問題やその他の好ましくない症候群を予防するために、難消化性の炭水化物を避け吸収の速い炭水化物を多量に摂取することが多い。しかし、速吸収性炭水化物を多く摂取することはトレーニング中や競技中のエネルギー貯蔵量を増やすことができるが、食物繊維の摂取量が少ないと短鎖脂肪酸(SCFA)の産生が減少したり、腸管通過時間が変化したり、細菌多様性が失われる可能性があり、それらはすべて長期的に健康に悪影響を及ぼす。
メディエーターとしての腸内細菌叢
・飽和脂肪の摂取は宿主中のLPS濃度を上昇させ、Toll様受容体4(TLR4)とCluster of Differentiation14(CD14)を活性化し、肥満、白色脂肪組織(WAT)における炎症指標の上昇、インスリン抵抗性を引き起こす。興味深いことに、この効果は飽和脂肪を摂取している被験者においてのみ観察された。この知見は、KDを実施するアスリートは炎症とインスリン抵抗性を避けるために不飽和脂肪の摂取量を増やす方が良いことを示唆している。また、VLCKDは腸内細菌叢を調整し、ホメオスタシスを回復させることで、肥満に有益な効果をもたらす可能性がある。腸内細菌叢を介したVLCKDと体重減少との関連について論じた研究では、VLCKD摂取によってブチリシモナスとオシロスピラの存在量が属レベルで増加したことが報告されている。特に、オシロスピラは高密度リポタンパク質、酪酸および痩せと正の相関があり、ブチリシモナスはエネルギー代謝および微生物叢と宿主の間のホメオスタシスと正の相関がある。これらの腸内細菌叢はどちらも減量に有益である。一方で、肥満と正の相関があるセラチアとシトロバクターの割合は減少していたことから、VLCKDは肥満に関連した腸内細菌叢異常症後の腸内細菌叢をポジティブに調整する可能性がある。
・腸内細菌叢はタンパク質の吸収と利用だけでなく燃料と貯蔵も提供し、炎症を調節することで骨格筋の同化と機能性にも寄与していることを示す証拠がある。プロバイオティクスであるバチルス・コアギュランス(GBI-30,6086)をタンパク質と一緒に摂取すると、上皮細胞の炎症が抑制されて栄養吸収を促進し、プロテアーゼ産生を刺激してアミノ酸の取り込みを増加させることが示されている。この効果は筋損傷を緩和し、筋回復を促進することでスポーツパフォーマンスを促進する可能性がある。
・動物性タンパク質と植物性タンパク質の比較に重点を置いた動物実験研究では、肉タンパク質を摂取は非摂取と比較して乳酸菌が増加し、ファーミキューテスとバクテロイデーテスの比率が増加する一方、酪酸産生菌(バクテロイデスやプレボテラなど)、LPS結合タンパク質、転写因子CD14レセプターのレベルが低下することが示された。LPS結合タンパク質はCD14に結合してマクロファージを活性化し、マクロファージは炎症性サイトカインを産生して炎症を引き起こすことは注目に値する。この知見から、アスリートが筋肉の炎症を緩和し、最適なスポーツパフォーマンスを維持するためには、非肉タンパク質よりも肉タンパク質を多く摂取する方が有益であるという仮説が成り立つ。
・様々な種類のタンパク質が腸内細菌叢に与える影響を調べたヒト対象研究で、飽和脂肪の高含有または低含有を研究デザインに組み込んだところ、飽和脂肪の摂取がタンパク質の種類による影響をカバーする可能性があることが示された。別の研究では、菜食主義者、ベジタリアンと雑食志向の欧米食スタイルが腸内細菌叢に及ぼす影響を比較した結果、菜食主義者とベジタリアンは動物性タンパク質を摂取する人よりもα多様性が高いことが示され、グリコーゲンの貯蔵を改善するプレボテラ属は食物繊維と植物性タンパク質をより多く摂取する人に多く見られた。
・タンパク質の生物学的利用能と吸収を高め、筋タンパク質の合成を促進することが、腸内細菌叢が筋肉量と機能に影響を及ぼす重要なメカニズムであると推察される。このメカニズムはおそらくSCFA産生によって制御され、インスリン感受性、炎症、および同化-異化バランスを維持するためのインスリン成長因子I(IGF-I)放出に影響を与える。
・果物、野菜、豆類、全粒穀物に含まれる複合炭水化物は、「微生物がアクセスしやすい炭水化物(MACs: Microbiota-accessible carbohydrate)」である。MACを多く摂取することで、脂質プロファイルの改善、血糖コントロール、体重減少が促進され、MAC摂取量が少ない場合と比較して炎症マーカーが減少することが示されている。MACは腸内細菌叢にも影響を与え、腸内での食物繊維発酵の最終産物であるSCFAを産生する種の増殖を調節する。SCFAは褐色脂肪組織におけるPGC-1αとuncoupling protein-1(UCP-1)のタンパク質発現を増強し、その後、熱発生と脂肪酸酸化を促進することが証明されている。この結果は、マラソンランナーのような体重を気にするアスリートにおいて、食物繊維を豊富に含む植物ベースの食事やMDを食事計画を優先的に考慮する可能性を示唆している。
・総タンパク質摂取量と腸内細菌叢多様性の間に逆相関があることが明らかになった。高タンパク質食を摂っているレジスタンススポーツ選手(ボディビルなど)ではSCF産生常在菌が減少していることが示された。高タンパク食と低食物繊維食の組み合わせは腸内細菌叢組成に有害な影響を及ぼす可能性があることが推察され、、食物繊維が高タンパク食においても重要な役割を果たしていることを示唆している。
・様々な食事パターンの中でも果物や野菜は重要な構成要素で、特に果物のポリフェノールサブクラスであるアントシアニン(ACN)を豊富に含む果物は重要である。この生物活性化合物は強力な抗酸化作用と抗炎症作用を有し、運動誘発性筋損傷(EIMD)に関連する二次的カスケードを効果的に調節する。デルフィニジンとシアニジンは、最も広く研究されているアントシアニンで、この生物学的利用能は腸内細菌叢との相互作用によって高められる。ACNの糖鎖部分は大腸の細菌酵素によって加水分解を受け、アグリコン型からプロトカテク酸、バニリン酸、没食子酸などのさまざまな化合物に変化する。ある研究frは、シアニジンは一貫してプロトカテク酸に変換され、酸化ストレスの軽減、ミトコンドリア生合成の促進、骨格筋線維のII型からI型への転換など筋肉の健康のために複数の保護機能を発揮することが示されている。酸化ストレス軽減とミトコンドリア生合成に対するこの効果はアスリートの疲労回復に役立つ可能性がある。
・人間は遺伝子操作はできないが、αアクチニン-3遺伝子(ACTN3)のような特定の遺伝的因子が骨格筋線維転換に決定的役割を果たす一方で、それを改善する戦略として食事パターンを利用できる可能性があるということで骨格筋線維のII型からI型への転換は大きな注目に値する。
・ACNの加水分解に関与する細菌酵素は、バクテロイデス属、クロストリジウム属、ユウバクテリウム属などの複数の属に存在する可能性があり、微生物叢の構成が異なるとACNの生体内変換経路も異なる可能性があり、有益なものから未知のものまで、多様な効果をもたらす可能性がある。
・体重を厳密にコントロールする必要があるアスリートは、短期間で減量できるケトジェニックダイエットを検討するかもしれないが、この食事パターンには限界がある。例えば、重量挙げの選手や高強度自転車競技の選手の筋力強化には適さない。ボディビルダーのように筋量と筋力を増やそうとするアスリートには高タンパク質食が適している。脂肪減少を促進するためにエネルギー摂取を制限している期間、より多くの筋肉タンパク質を生成し、除脂肪体重の減少を防ぐ必要があるからである。
・他の食事パターンと比較して、地中海食は多くのアスリートに適している。有酸素系競技者も無酸素系競技者もこの食事パターンを選択することができ、その長所は高いエネルギー需要をサポートできる食品が豊富であることと、回復を促進する抗酸化物質、必須ビタミン、ミネラルを摂取できることである。
いかがでしたか?
アスリートの方でイマイチ体調が優れない方は参考になる内容だったと思います。
競技の特性やオフ・オンシーズンなど様々な条件で食事パターンの要素を使い分けるといいかも知れませんね。
決して日本の栄養マーケティングにありがちな、ケトは〇〇に効く!とかそういう解釈はではなく、どの食事パターンのどの要素を時期別にどのように取り入れるのか細分化してデザインしてくださいね。より具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。スポーツ障害からの回復にも非常に有益な内容になっています。
Lineまたはメールによるカウンセリングに基づき、皆様の症状や体質に合わせて摂取カロリー数の計算や、食事デザイン、サプリメントの選択、排除すべき食材などを最新データを元にパッケージでデザインし、アスリートパフォマンス向上のためのより詳細な栄養戦略をご提案いたします。
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