高強度のトレーニングが達成する最適なパフォーマンスのもう一つの側面。
それは、著しく高いエネルギー消費と筋損傷、酸化ストレス、それに伴う心疾患や慢性疲労、筋骨格系損傷など、身体への過度な負担による病変が挙げられる。
それらの病変やアスリートパフォーマンスの低下を防ぐためには水分、ビタミン、ミネラルの補給が不可欠となる。
ビタミンは生命維持に不可欠な多くの化学反応の調節に役割を果たす重要な微量栄養素だが、水溶性ビタミンは体内に蓄積されないため、意識的な摂取が重要である。
ビタミンB群(B1、B2、B3、B5、B6、B8、B9、B12)やビタミンCが水溶性にあたる。
脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は食事の脂肪とともに吸収されて肝臓や脂肪組織に蓄積される。
ビタミンDを除く脂溶性ビタミンは、主に果物や野菜に含まれている。
1種類以上のビタミン欠乏は、重篤かつ時に不可逆的な病的状態を引き起こすことがある。
逆に、ビタミンの過剰摂取による「副作用」は一般的ではないが、大量摂取によって吐き気、下痢、嘔吐を引き起こすことがある。これらの症状はビタミンの投与量を減らし、バランスの良い食事を摂ることで改善する。
ビタミンは免疫系の活性化に重要な役割を果たし、COVID-19および免疫不全症において役割を持つことが観察されている(特にD)。
リンクのレビューは、ヒトの生物学的プロセスにおけるビタミンの関与、特に、アスリートにおけるビタミンの関与に焦点を当てている。
スポーツにおいて、腸内細菌叢をサポートし、心血管系や筋損傷を回避するために微量栄養素がいかに重要であるかを強調する内容となっている。
以下簡単にまとめてみたい。
The Biological Role of Vitamins in Athletes’ Muscle, Heart and Microbiota
・ビタミンAは創傷治癒を促進し、病気や感染症、特に肺に影響を及ぼすものに対する免疫系の維持に関与している。
さらに、フリーラジカルとの闘いにも関与する。
競技スポーツ選手は酸素使用量が増えるため、抗酸化ビタミン欠乏のリスクが高い。著しい欠乏は高反応性酸素分子の増加を引き起こし、酸化的損傷を引き起こす可能性がある。
・ビタミンEとAは抗酸化物質の役割を持ち、特にビタミンEは細胞再生を促進し、活性酸素(ROS)の形成から保護する。十分な抗酸化状態は、急性運動や持久的運動活動後の回復期において、健康な筋機能を維持するために重要である。
・ビタミンDは、骨の健康に重要な役割を果たす。
またビタミンDは、自然免疫における重要な調節因子である広域抗菌ペプチド(AMP)の遺伝子発現をアップレギュレートし、また腫瘍神経症因子-α(TNF-α)やインターロイキン-6(IL-6)などの炎症性サイトカインの発現をダウンレギュレートしている。IL-6やTNF-αを含むいくつかの炎症性サイトカインは、運動後に上昇し、過労(オーバートレーニング)症候群と関連する。
・ビタミンKは、血液凝固過程の主役であり、骨のリモデリングに関与するタンパク質の機能性に関与する。Kの欠乏は、骨のターンオーバーの増加や骨折のリスクと関連している。
生体内におけるビタミンの役割と機能
・ビタミンA
ビタミンAの供給源として、動物性食品(肉、魚、卵、その派生物)が挙げられる。
緑色、黄色、オレンジ色の植物にはカロテノイドが含まれ、これはプロビタミンAとして作用する。
特にβ-カロテンは食品のオレンジ色に寄与し、一般的にニンジンやサツマイモに含まれる。
ビタミンAは、激しい運動で発生するフリーラジカルを中和する抗酸化ビタミンに属する。
ビタミンAの十分な摂取は活性酸素の除去に貢献し、心不全や筋損傷を予防する。
米国国立衛生研究所(NIH)のビタミンAの推奨量(RDA)は、成人男性で900μg、成人女性で700μg。
ハイパービタノーシスAは、過剰なビタミンA摂取による毒性作用。症状は頭痛、吐き気、嘔吐、貧血。
ビタミンAの大幅な摂取削減によって治療され、ほとんどの場合、完全に回復する。野菜や果物からカロテノイド(β-カロテンなど)を大量に摂取しても、ビタミンA過剰症の原因にはならない。
一方、ビタミンA欠乏の症状は夜盲症など暗闇への順応が難しくなることで明らかになる。
欠乏が進むと角膜症に至ることもある。
さらに、皮膚や呼吸器、消化器、尿路の粘膜の角化が起こることもある。
患者が若ければ若いほど、ビタミンA欠乏の影響はより深刻になる。
さらに、新生児/小児では、成長遅延や感染症がよく観察される。重度のビタミンA欠乏症の新生児/小児では、死亡率が50%を超えることもある。
・ビタミンD
ビタミンDは食物を摂取することで肝臓に蓄積されるか、日光からの紫外線が皮膚に当たってビタミンD合成の引き金となり内因的に産生される。
ビタミンDは2つの形態(1)エルゴカルシフェロール(植物性食品に含まれる)(2)コレカルシフェロール(体内で合成される、または植物性食品に含まれる)で存在する。
ビタミンDを多く含む食品は、タラ肝油、脂肪分の多い魚(サケ、カキ、エビ)、バター、卵黄、キノコ類(唯一の植物性ビタミンD源)、レバー肉など。
ビタミンDはカルシウム代謝の調節因子であるため、骨の石灰化や低カルシウム血症テタニー(筋肉が不随意に収縮し、けいれんや痙攣を起こす)の予防に有用。
また、炎症を抑えたり、細胞成長、神経筋および免疫機能 、グルコース代謝などのプロセスを調節する。
多くの組織にビタミンD受容体があり、25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)を1,25ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D)に変換するものが存在する。
食品栄養委員会(FNB)の成人におけるのビタミンDのRDAは600μg。
ビタミンD不足の早期指標として、血清中のカルシウムとリンの減少、二次性副甲状腺機能亢進症、血清アルカリホスファターゼの増加などが挙げられる。
遅発性の指標としては、骨格のミネラル化不全、筋力低下、腹痛などがあげられる。
ビタミンD過剰症は、カルシウムの腸管吸収および骨吸収の亢進により引き起こされ、高カルシウム血症となり、これは排尿および口渇の増加が見られる。
高カルシウム血症を放置すると、軟部組織および腎臓、肝臓、心臓などの臓器にカルシウムが過剰に沈着し、疼痛および臓器障害を引き起こす。
最近の研究で、ビタミンDの欠乏は筋機能と強度を低下させ、骨折のリスクを高め、トレーニングやパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があることが報告されている。
一方で、アスリートにおける血清ビタミンD濃度の上昇は傷害発生率の低下とスポーツパフォーマンスの向上と関連している。
・ビタミンE
ビタミンEは4種類のトコフェロール(α-、β-、γ-、δ-トコフェロール)、4種類のトコトリエノール(α-、β-、γ-、δ-トコトリエノール)の8種類のアイソフォームからなる脂溶性化合物で、生体膜の脂質構成成分。
ビタミンEの主な供給源はアイソフォームによって異なり、α-トコフェロールはナッツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、豆類、アボカド、ひまわりの種などの食品に主に含まれ、緑葉野菜や強化シリアルにもかなりの量が含まれている。
ビタミンEは老化や激しい運動、糖尿病、心血管や神経変性疾患、がんなど、酸化ストレスから悪影響を受けるすべてのプロセスにおいて重要な保護因子と見なされている。
FNBは1日あたり15mgのビタミンEを推奨。
ビタミンE欠乏症は、ヒトではまれ。欠乏症は食事性脂肪の吸収または代謝の異常の結果として起こる。
ビタミンE過剰症に関して、文献上で有害事象は報告されていない。
エンデュランススポーツは酸化的低密度リポタンパク質(LDL)濃度の上昇を引き起こし、アスリートを動脈硬化の発症リスク上昇の素因とすることが分かっているが、ビタミンE濃度が高く保たれていれば、酸化LDL濃度を低下させることができるとする報告がある。
アスリートにおけるビタミンEの摂取は、動脈硬化などの有害事象の発症に対抗するための合理的な選択肢と言える。
・ビタミンK
ビタミンKは体内に蓄積され必要な時に使われている。
血液凝固因子の肝合成や骨の健康を維持するタンパク質の機能性を確保する上でも重要な役割を担っている。
主に野菜(トマト、ほうれん草、キャベツ、カブ菜)に含まれる。
また、腸内細菌叢によっても産生される。
FNBの定める摂取量は成人男性で120mg、女性で90mg。
ビタミンKは心臓の健康を改善し、癌リスクを低減し、骨密度を増加させる栄養素と考えられる。
健康なアスリートにおいては体力を向上させるという報告がある。
・ビタミンB6
ビタミンB6は体内に蓄積されないため、常時摂取する必要がある。
ビタミンB6は、アミノ酸、脂質、および炭水化物の代謝に関与している。
さらに、認知機能の発達、免疫機能、ヘモグロビン形成にも寄与する。
ビタミンB6は、魚、牛レバーなどの内臓、ジャガイモなどデンプンを多く含む野菜、果物などに多く含まれる。
FNBは男女ともにビタミンB5の1日あたりの推奨摂取量(RDA)を1.3mgに設定している。
ビタミンB6の欠乏は慢性アルコール依存症、妊娠、子癇前症や子癇、セリアック病や炎症性腸疾患などの吸収不良で観察される。症状は、小球性貧血、脳波異常、皮膚炎、うつ病や錯乱、免疫機能の低下など。
ビタミンB6の過剰摂取には、運動失調を特徴とする進行性の感覚神経障害、痛みを伴う皮膚病変、光線過敏症、吐き気や胸焼けなどの胃腸症状がある。
女性アスリートはビタミンB6欠乏の傾向がある。
アスリートにおけるビタミンと腸内細菌叢のクロストーク
・アスリートパフォーマンスにおける腸内細菌叢の重要性
最も代表的な腸内細菌叢系統はバクテロイデス類とファーミキューテス類(微生物種の約90%で、これらの細菌は代謝的、免疫的、および保護的な多くの生理学的プロセスにおいて重要な役割を担っている。
代謝機能の観点からは、細菌叢は栄養素の消化・吸収を促進し、健康に重要な代謝産物(葉酸、ビタミンK2、短鎖脂肪酸(SCFA))を供給している。
部分的に消化された食物、特に繊維は、細菌叢によってSCFA、すなわち酪酸、酢酸、プロピオン酸に発酵され、ホルモンおよび/または神経伝達物質様の活性を有する化合物を生成する。
これらは血流に放出され、腸の運動を調節するなど、異なる組織に対してその活性を発揮することが可能。
身体活動はSCFAの合成を調節し、特に酪酸合成に影響を及ぼすことが示されている。
近年、腸内細菌叢に対するビタミンの効果について数多くの研究が行われている。
ビタミンAは腸粘膜に存在するIgA分泌細胞へのB細胞の分化を決定する上で重要な役割を担い、これらの細胞は腸内細菌叢と相互作用する。
ビタミンDは腸管免疫に影響を与えることが報告されている。ビタミンD3の8週間の経口補給が、CD8+ T細胞の増加および腸内細菌叢の特定の変化(Proteobacteriaの減少およびBacterioidatesの増加)と関連していることを報告した研究もある。
運動などの身体活動も食事因子と同様に、「健康に関連する」腸内細菌叢を促進する。
具体的には、健康を促進する細菌種の豊富さや多様性、機能的経路の増加、粘膜免疫を調節することができる細菌の豊富さを刺激、およびバリア機能の向上が挙げられる。
座りっぱなしの対照群と比較して、アスリートは糞便代謝産物が増加し、全体的な健康状態が改善されてい流ことが明らかになっている。
一方で、アスリートはオーバートレーニングによる悪影響を軽減し、マイクロバイオームの構成を改善するために、ビタミンの摂取が非常に重要であることも事実である。
身体活動はSCFAsの合成を調節することが示されており、特に酪酸の合成に影響を及ぼしている。
スポーツ選手は慢性疲労症候群に罹患していることが多く、この症候群の発現と重症化には腸内細菌の異 常が重要な役割を果たすことが明らかにされている。
慢性疲労症候群に罹患した患者の腸内細菌叢を分析すると、健常者と比較して細菌種の多様性が低く、ProteobacteriaやPrevotellaなどの炎症促進種が増加し、特にFaecalibacterium prausnitziiやBifidobacteriaなどの抗炎症種が減少していることが明らかになった。
このような細菌叢の状態は、アスリートの身体的負荷に対してビタミンやプロバイオティクスが乏しい食事を摂取していることも原因であると考えられる。実際、慢性疲労症候群の患者は、ビタミンE、B、Kの不足に起因するビタミン欠乏症に陥っていることが多いことが報告されている。
炎症性細菌種の増加は、ビタミンKや、コバラミン(ビタミンB9)、葉酸(ビタミンB12)、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、リボフラビン(ビタミンB2)などの各種ビタミンB群を合成できるプロバイオティック細菌種(特にビフィズス菌と乳酸菌)の減少を引き起こす。
・アスリートの心疾患におけるビタミン欠乏
アスリートにおいて微量栄養素は、エネルギー代謝、ヘモグロビン合成、骨の健康維持、免疫系の刺激などに重要な役割を担っており、栄養不足は身体修復機能をマイナスに調整する可能性がある。
アスリートの食事で重要な役割を果たすビタミンには、ビタミンD、ビタミンB群、ビタミンC、E、Kで、いくつかの研究グループはヒトおよび動物モデルにおいて、ビタミンと心臓の構造および機能との関連性を確立し、特にビタミンDの欠乏に注目している。
ビタミンD欠乏は心臓突然死、特にアスリートにおいて相関関係が知られている。
いくつかの研究により、心血管疾患はビタミンD受容体(VDR)発現が増加することが明らかにされている。ビタミンD欠乏症の人にビタミンDを補給すると、VDRの実施が促進され、心筋、血管組織の構造リモデリング、および心筋細胞の収縮力の活性化がもたらされる。
さらに、ビタミンDは、心筋肥大の発生に関与する遺伝子をダウンレギュレートする。
スポーツ選手におけるビタミンD欠乏は、心収縮力、血管緊張、心臓コラーゲン量、および心臓組織に長期的な悪影響を及ぼす。これらの悪影響は、副甲状腺ホルモン(PTH)レベルの上昇の結果で、左心室肥大を引き起こす可能性がある。
心室肥大は駆出率を変化させて筋組織の低酸素症を引き起こし、運動能力を低下させる。
これらの因子は、有酸素運動や無酸素運動のパフォーマンスやスタミナに重要である。
さらに、ビタミンD欠乏は動脈硬化および内皮機能障害と関連する。
これらはビタミンD不足が心肺機能に悪影響を及ぼし、その結果、運動した筋肉への酸素と栄養の供給にばらつきが生じるという仮説を支持するものである。
ビタミンDのレベルが異なる4つのグループ:充足、不足、欠損、重度の欠損のアスリートを分析した研究では、重度の欠乏症アスリートは、大動脈基部および左心房の直径、心室中隔の直径(IVSd)、拡張期の左心室直径(LVIDd)、左心室質量(LVM)、拡張期の左心室容積(LVvolD)、ならびに右心房(RA)領域が不足および充足のアスリートに比べ有意に小さ胃ことが報告された。
またいくつかの研究では、重度のビタミンD欠乏症アスリートは、ビタミンD濃度が不十分または十分なアスリートに比べて心臓の構造パラメータが有意に小さいことが強調されている。
最近では、ビタミンKの欠乏も心血管系疾患のリスク上昇と関連していることが分かっている。
ビタミンKの欠乏は、血管石灰化および心血管疾患のリスクを増大させる。
アスリートにおける心臓血管の健康促進剤としてのビタミンKの潜在的な役割を調査した研究では、26人の男女のアスリートに8週間にわたりプラセボまたはビタミンK2の補給を行った。
その結果、ビタミンK2補給が心拍出量の有意な改善と関連することを示し、対照群と比較して心拍数とストローク量の変化の傾向があったと報告している。
・アスリートの筋損傷に対するビタミンの影響
トライアスロンやウルトラマラソンなど、エンデュランス系スポーツは筋肉にダメージを与える可能性が高く、損傷レベルはトレーニングの程度、遺伝、年齢、運動強度、水分補給の状態など、いくつかのパラメータに依存的である。
ビタミンDはゲノムおよび非ゲノムメカニズムを通じて核または膜受容体に結合して機能を発揮する。
前者は、核内受容体に結合することで活性化され筋細胞の増殖を調節する。
非ゲノム機構では、膜受容体に結合することで細胞内へのカルシウムイオンの流入、細胞内外のイオンレベルの調節、リンを含む化合物のホメオスタシス、PTH分泌の刺激などをもたらし、筋力の増加、筋収縮に関与していると考えられる。
さらにビタミンDは、筋肉量の負の調節因子であるミオスタチンの発現を阻害する。
ビタミンD欠乏はミオパチーを引き起こし、筋緊張を低下させ、II型筋繊維の分解を加速させて筋力とパワーに悪影響を与える。
ビタミンB6欠乏は高ホモシステイン血症およびホモシスチン尿症の主な原因である。
ホモシステインレベルの上昇は、筋機能の低下と関連している。
血管の炎症、血栓および血栓塞栓症は高ホモシステイン血症の結果であり、末梢動脈疾患(PAD)をもたらし、筋肉の損傷、炎症および筋肉の再生能力を喪失させる。
結論
このレビューで収集されたデータは、身体活動を伴うビタミン豊富な食事は深刻な病態の発症から体を保護することができることを示唆している。
特にアスリートにおいてサプリメントの摂取は、傷害の予防やパフォーマンスの向上に役立つと考えられる。
健康的なライフスタイルは、早期の細胞老化、心血管疾患、生物学的異常、筋損傷に対抗するために必要である