イギリス陸軍を対象とした興味深い研究が発表された。
Pre-sleep protein supplementation does not improve performance, body composition, and recovery in British Army recruits
一つは、睡眠前のプロテイン摂取は英国陸軍新兵の1日の総タンパク質摂取量および窒素バランスを増加させるが、投与量にかかわらず英国陸軍BTの12週目の負荷試験後の筋回復を改善させず、筋機能、知覚痛、損傷も群間で同様の変化だったと報告。
負荷試験後の筋機能低下は観察されなかったことから、筋回復マーカーに対するタンパク質補給の影響は限定的だったとしている。
もう一つのデータは、睡眠前のプロテイン摂取は英国陸軍新兵の1日の総タンパク質摂取量と尿中窒素バランスを増加させるが、BT中のパフォーマンス結果、身体組成の変化、慢性的な回復指標を改善しなかったと報告。
・・・これまでは最も身体が回復する睡眠時はタンパク質補給は筋機能の回復を促進し、筋肉痛や運動誘発性の筋損傷を減弱させるのに非常に重要というのがコンセンサスだったはず。
まず、筋回復を改善させず、筋機能、知覚痛、損傷も群間で同様の変化だったと報告したデータでは、英国陸軍新兵において睡眠前のMOD(20g)およびHIGH(60g)タンパク質摂取が、負荷試験後の急性筋力回復に及ぼす影響を調査。結果、筋機能、筋痛、筋損傷の変化はグループ間で同様であり、相対量にかかわらず英国陸軍BT中の急性筋肉回復をサポートするためのタンパク質補給は支持されないと結論。
この研究では、炭水化物またはタンパク質の形でカロリーを追加摂取することでEIMDが抑制され、負荷後の筋回復を促進する可能性が指摘されている。炭水化物摂取はインスリン分泌を介して筋タンパク質の分解を抑制することが認められいる。
もう一つの、BT中のパフォーマンス結果、身体組成の変化、慢性的な回復指標を改善しなかったと報告した研究では、BTを実施する英国陸軍新兵において睡眠前の等カロリー中等量(20g)または高用量(60g)の1日あたりのタンパク質摂取が、パフォーマンス、身体組成、回復指標に及ぼす影響を調査。
1日のタンパク質摂取量が約50%増加し、1日のエネルギー摂取量が25%増加したにもかかわらず、英国陸軍のBT中の身体能力、身体組成、慢性的な回復マーカーを改善しなかった。
このデータは、慢性的なタンパク質の補給はパフォーマンスの結果、身体組成の変化、および回復を改善しないことを実証した陸軍集団における最初の研究。
タンパク質補給はエリートスポーツ選手、軍人、レクリエーションで活動する個人など、身体的に活動的な集団において1日の総タンパク質摂取量を増加させ、トレーニング適応を高めるための効果的な戦略であることが示されてきたが、全群で筋力とFFMに変化がなかったことから、蛋白質補給の効果が限定的であった可能性が高いとしている。
20~40gのタンパク質摂取は、運動に対する筋タンパク質合成(MPS)反応を最大化し、睡眠前に摂取することで一晩中MPSをサポートするとされてきたが、MPSと筋成長はエネルギーを必要とするプロセスであることを認識すべきである。
すべてのグループでFFMおよび脂肪質量の変化は同様であり、タンパク質の影響は観察されなかった。また、骨密度とBMCの全体的な変化の群間差は統計学的有意差には達しなかったが、補足的なエネルギー摂取は骨芽細胞の機能に影響を与える可能性があり、軍事トレーニング中の骨形成を増加させる可能性がある。炭水化物摂取は骨吸収マーカーを減弱させることが示されており、骨のターンオーバーに慢性的な影響を及ぼす可能性がある。メカニズム的には、炭水化物摂取がインターロイキン-6活性に影響を与え、破骨細胞新生と骨吸収を介して骨代謝を調節する。
また、慢性的な疲労マーカー(唾液中のコルチゾールとテストステロン、気分、週単位の疲労、日単位の筋肉痛、日単位の自覚的労力の評価)に対する蛋白質補給の影響はみられなかった。BTの後半週におけるタンパク質摂取群は非摂取群と比較してテストステロン濃度が高い傾向がみられ、
BT中のホルモン反応に対する追加的エネルギー摂取の有益な影響を示している可能性があるが、最終的に筋力およびFFMの適応を改善しなかった。
この研究で群間で観察された統計的有意差は、BTの最終週における筋緊張が高摂取群と比較して非摂取群で大きかったことだけだった。タンパク質補給がどのように緊張を緩和させるかは不明だった。
同様の研究を行った米軍における研究結果とは一致しない点も多く、決定的な結論にはまだ至らないが、イギリス陸軍の現時点での見解はこんな感じ。
多くのアスリートやボディビルダーがプロテイン摂取を中止し、食事からしっかりカロリーを摂る方向に移行したのも上記の結果を体感したことによる可能性がある。
明らかに食事で摂取した方が体の調子が良いというアスリートが多いのは、プロテインによるタンパク質の単体摂取よりも複合的に栄養素を補給した方が回復を促進するからだろう。
疲労マーカーの文脈から考えるスポーツ栄養学では全く異なる景色が広がっている可能性もあり、そういった意味で非常に示唆に富むデータだった。