人間は平均して人生の約3分の1を睡眠に費やしている。
睡眠はヒト生体の回復をサポートし、肉体的疲労を軽減する重要プロセスである一方、睡眠不足や不規則な睡眠パターンは長期的に深刻な健康問題を引き起こす可能性がある。
最近の研究によると、1日の睡眠時間が9時間未満の学生は、記憶や知能をつかさどる脳の領域が縮小していることがわかっている。
また、睡眠障害は様々な疾患の潜在的兆候とも関連している。例えば、睡眠時間が短いと肥満リスクが高まることが観察されている。睡眠ダイエットを行っている人は体脂肪生成サイクルについてもう一度見直した方が良いだろう。
睡眠の質は乳児期から老年期にかけて劇的に変化し、睡眠時間の関連要素は、明暗への曝露、遺伝的要因、発育年齢、性別など様々な要素が関係している。
これまで研究者たちは様々な運動介入が睡眠の質に及ぼす影響を調査してきた。運動が睡眠に及ぼす影響は、運動誘発性の身体的疲労による脳の深い睡眠によって説明できるとされている。
様々な運動の中でも、有酸素運動が睡眠の質の向上に寄与する可能性がある。
有酸素運動中、体温は上昇するが、運動終了後は運動前より低いレベルまで低下するため体温リズムの平坦化が抑制され、その結果、運動誘発性疲労の増加が夜間の睡眠の質の向上に寄与するという。
また様々な文献を検討した結果、運動以外にも身体姿勢、呼吸機能、頭部前方偏位 といった要素も睡眠に複雑な関係があることが明らかになった。
では、睡眠の質に最も関連する要素は一体何なのか?
多くの人が疑問に思うことだろう。
リンクの研究は、大学生を対象に身体姿勢、身体運動、頭と首の体位と睡眠の質を調査したもの。平均年齢20.86±1.24歳、平均BMI23.41±2.56の学生96名が研究に参加。
【結果】
ピアソン相関分析により、カフェイン摂取量の増加が睡眠の質の低下と関連していることが示された。さらに、身体活動の増加は睡眠の質の改善と関連し、スポーツに従事している人は睡眠の質のスコアが高かった。身体活動が増加するとREEDCOスコアは減少し、右頭部と左頭部の得点は増加した。REEDCOスコアと右頭部、左頭部のスコアの間には有意な負の相関が認められた。
【結論】
カフェイン摂取量、身体活動レベルと睡眠の質の有意な相関が浮き彫りになった。
カフェイン摂取量と睡眠の質には正の相関が認められ、1日6単位以上のカフェインを摂取している参加者は、他のグループに比べて睡眠の質が有意に悪かった。
身体活動と睡眠の質には負の関係が認められ、週に3~5日運動をしている人は、運動をしていない人に比べて睡眠の質スコアが高かった。週7日運動している人は、他グループと比較してREEDCOスコアが有意に低かったことから、継続的で激しい運動は、身体的・心理的に一定の効果がある可能性が示された。
ピアソン相関分析では、年齢とカフェイン摂取量、運動頻度と喫煙の間に正の相関があった。
身体活動の増加は、REEDCO得点の低下および睡眠の質の改善と関連していた。
REEDCO、睡眠の質、頭頸部の関係から、これらの部位で行われる身体活動が健康に与える影響も強調された。
カフェイン摂取を減らし、定期的な身体活動を行うことが睡眠の質に良い影響を与え、健康全般に有益な結果をもたらすことを示唆している。
The Relationship between Sleep Quality and Posture: A Study on University Students
・睡眠時間の減少が姿勢制御障害につながる可能性を示す研究が数多くあるが、この研究では、睡眠の質と姿勢スコアとの間に有意な相関は認められなかった。別の研究では、24~36時間の睡眠遮断を行った参加者に予想されたような姿勢悪化は見られず、それどころか、いくつかの改善の兆候が報告された。
・1日のうちで時間帯と睡眠不足が姿勢制御に及ぼす影響を調べた研究では、睡眠不足が姿勢制御に及ぼす影響は時間帯によって異なることがわかっている。午前6時では、睡眠不足は姿勢制御に影響を及ぼさなかったが、午前10時と午後2時に、睡眠不足はCOP表面積とLFS比の有意な増加を引き起こしている。
上記のように睡眠時間短縮は姿勢制御の低下につながらないだけでなく、時間帯に関係する状態であり、体温、姿勢制御の日内変動と関連し、これらの変動は主に前庭系と関連している。
・現在のデータでは、運動頻度と睡眠の質の関係は統計的に有意ではないが、定期的に運動を行っている人は、ピッツバーグ睡眠質指数(PSQI)スコアが低い傾向にあり、睡眠の質が良いことが示唆される。
・一般に対象となった大学生の身体活動レベルは低く、3人に1人が過体重または肥満である。さらに、健康のために十分な身体活動を行っている学生は、全体の5分の1しかいない。女子学生の場合、身体活動スコアが低いほど抑うつスコアと不安スコアの高さと関連している。さらに、身体活動レベルと学業成績との間には正の相関があり、肥満度との間には負の相関がある。
・ピアソン相関分析によると、参加者のカフェイン摂取量が増加するにつれて睡眠の質の低下が見られた。また、大学生の試験ストレス時における睡眠の質と合法薬物(アルコール、カフェイン、ニコチン)の摂取との関係を調べた結果、カフェイン摂取量の増加が睡眠の質の低下と関連していることがわかった。
・興味深い発見は、スポーツ活動に多く参加する人ほど喫煙量が多いことだった。大学生を対象とした別の研究では、喫煙する学生は睡眠の質が低く、抑うつや不安レベルが高いことがわかった。この調査結果は、喫煙が睡眠の質に悪影響を及ぼすだけでなく、精神的健康にも悪影響を及ぼすことを強調している。
・ブラキシズム(歯軋り)も睡眠の質を左右する。大学生で、学業に追われるストレスから夜間ブラキシズムの有病率が増加しており、学業成績と睡眠中のブラキシズムとの間に正の相関が観察されている。他の研究では、178人の被験者のうち33%が不安やストレスと関連した睡眠時ブラキシズムを報告している。
定期的な身体活動の実践は夜間ブラキシズムの減少に影響し、その結果、睡眠の質が向上する。
偏頭痛や顎関節の治療でお越しになられた患者さんとの間で話題に上がることが多い睡眠障害。先日も睡眠障害と偏頭痛でお悩みの女性がお越しになられたので、関連文献はないか探していたところ興味深いものを見つけたのでまとめてみました。
まだまだ深掘りする必要がある「睡眠の質」ですが、今のところ明確なのはカフェインの摂取量と運動量が睡眠の質に関連するということ。
頭痛や首の痛みと同時に睡眠障害を併発してお悩みの方は、当院のカイロプラクティック治療に加えてパーソナルトレーニングもぜひお試しください。