パワーリフティングやボディビルの世界では、トレーニングの質、回復、タンパク合成効率を高める手段としてサプリが多様されていることはご存知の通り。
今回のメモは、金肥大に関連するサプリをどのような目的のためにどんな位置づけで扱い、摂取するのが最適かを検討したデータを簡単にまとめてみたい。
栄養補助と生物学的メカニズム、そして形態的直接指標(筋厚や筋断面積)との関係を整理することで、より実践的なサプリ戦略に改善できるようになるだろう。
リンクのレビューは、メカニズムの妥当性と超音波/MRIといった直接的な形態指標を統合し、どの条件で栄養補助が筋肥大をもたらすかを明確にすることを目的としたもの。
タンパク質/EAA、クレアチン、HMB、補助成分を階層モデルに整理して、メカニズムと形態的アウトカムのつながりを示す枠組みを提示している。
現在のエビデンスの批判的評価であると同時に、仮説検証ではなく概念的な質問を用いてメカニズムと形態指標の関係を説明する構成をとっており、以下の分析的質問が事前に設定された。
Q1. 超音波/MRIによる筋厚・筋断面積は、除脂肪量よりも筋肥大の特異的な指標となるか。
Q2. タンパク質/EAAは、基礎摂取量や食事ごとのロイシン供給が不十分な場合に特に形態的利益をもたらすか。
Q3. クレアチンは主にトレーニング量/質の向上を介して筋肥大に貢献するか。
Q4. HMBの効果は高負荷やエネルギー不足といった条件に依存し、十分に訓練された状況では弱まるか。
Q5. オメガ3、シトルリン/硝酸塩、コラーゲンは直接的な筋肥大ではなく、トレーニングや回復の促進を通じて作用するか。
46件の試験をまとめた結果
・タンパク質/必須アミノ酸(EAA)は、1日の摂取量が体重1kgあたり1.6g未満、または1食あたりのロイシン供給量が2〜3g未満の場合に一貫して効果を示した。摂取量がおおよそ2.0g/kg/日を超えると、効果は頭打ちになった。
・クレアチン(3〜5g/日、ローディング有無は問わず)は、8〜12週間以上の介入で筋厚または筋断面積を有意に増加させた。これはトレーニングボリュームや質の向上を介して生じる効果。
・HMB(3g/日)は、高負荷トレーニングやカロリー不足の状況では有用性を示したが、十分に栄養を摂っているレジスタンストレーニング経験者ではほぼ中立的だった。
・オメガ3脂肪酸(1〜2g/日)、シトルリン(運動前6〜8g)、コラーゲン(10〜15g/日+ビタミンC)などの補助成分は、主にトレーニングの許容性、回復、結合組織の適応を助けるもので、直接的に筋肥大を起こすわけではない。
提案される階層モデル:
タンパク質/EAAを基盤とし、クレアチンを増幅剤、HMBを条件付きの補助的成分、そしてオメガ3・シトルリン・コラーゲンなどを補助要因として位置づける。
Nutritional Supplements for Muscle Hypertrophy: Mechanisms and Morphology—Focused Evidence
ガイドとなる分析質問(Q1〜Q5)との統合
形態学的エンドポイント(Q1との関連)
超音波やMRIによる計測は、DXAやBIAのようなリーンマス指標に比べ、肥大のより特異的な指標であることが明確に支持される。リーンマスの初期増加は水分やグリコーゲン、非収縮性成分の影響を受けやすい一方で、画像計測は実際の筋原線維の増加を反映する。ただし、画像法自体も計測部位、測定者の熟練度、標準化の程度が異なるため、ばらつきが生じる。単一部位の超音波では、選択部位次第で過小評価・過大評価が起こりうる。MRIはより堅牢だがコストが高く使用頻度が低い。したがって、今後の研究では、計測ランドマークの標準化と再現性の報告が不可欠である。これらが整備されなければ、本来の画像法の優位性は十分に活かされない。
蛋白質/EAAの基盤的役割(Q2との関連)
蛋白質および必須アミノ酸は筋肥大の土台であり、基礎摂取量が不十分、または食事ごとのロイシン量が閾値に届かない場合に効果が明瞭となる。摂取量が1.6〜2.0g/kg/日を超えると効果は頭打ちになり、追加サプリメントによる形態学的利益はほとんど見られない。
このため、栄養状態の悪い群や初心者では強い効果が出る一方で、十分な摂取を行う熟練トレーニーでは反応が乏しくなる。この「栄養状態依存性」を考慮しないと、結果には一貫性がなくなる。
クレアチンの「ボリューム増幅」作用(Q3との関連)
クレアチンは直接的な筋肥大刺激というよりも、トレーニング量と質を向上させ、その累積効果として形態学的変化を生む。リン酸クレアチンの再合成を支え疲労を遅らせることで、週間単位・月単位でのワークロード拡大につながり、その結果として筋厚やCSAの増加が観察される。ただし、8〜12週間以上の介入が必要で、短期試験では効果が出にくい。初期数日は水分貯留が主、数週間でパフォーマンス向上が現れ、長期的な過負荷が続いて初めて形態学的変化が出る。この時間軸を理解すると、短期研究の「無効結果」と長期研究の「有効結果」のギャップが説明できる。クレアチンは「パフォーマンスを介した二次的肥大」をもたらすと理解すべき。
HMBの条件依存性(Q4との関連)
HMBの効果は文脈依存的で、高負荷期、オーバーリーチング、カロリー不足では有用な可能性がある一方、十分なカロリーと蛋白質を摂取する者では効果が乏しい。
自由酸型(FA-HMB)は生物学的利用能が高く、肯定的結果はこの型に多く見られるが、業界資金の研究が多く、選択的報告や出版バイアスの可能性が高い。一方、独立研究では中性〜否定的結果が多い。よって、HMBの議論は生物学的な「不一致」よりも、方法論や資金源の影響を強く受けている可能性がある。総じてHMBは「特定状況では有用かもしれないが、普遍的な肥大サプリではない」と位置づけるのが妥当である。
補助サプリは「促進因子」(Q5との関連)
オメガ3、シトルリン/硝酸塩、コラーゲンには、生理学的には合理的な作用(アナボリック感受性向上、血流改善、結合組織サポートなど)があるが、形態学的エビデンスは乏しい。多くの場合、CSAや筋厚そのものではなく「回復・耐容量・練習継続」を支える効果が観察される。つまり、これらは「筋肥大の直接ドライバー」ではなく、「トレーニングの質を支える因子」として理解されるべきである。
実践的応用
形態学的エビデンスから得られる階層モデル
Tier 0(大前提):プログレッシブオーバーロード
どのサプリも適切な過負荷なしには効果を発揮しない。トレーニング量、強度、密度を適切に記録し、可能な場合は特定部位の画像計測を併用する。
Tier 1:蛋白質/EAA
1食あたり0.3g/kg、またはロイシン2〜3g相当を1日3〜5回に分けて摂取。摂取量が不十分な個人で最も効果が明瞭。1.6〜2.0 g/kg/日を超えると効果は頭打ち。
Tier 2:クレアチン
3〜5g/日(ローディング有無は任意)。パフォーマンスを支え、累積トレーニング量を増大させることで長期的に肥大へ寄与。
Tier 3:条件依存の補助サプリ
HMB(3 g/日)は高負荷・減量期には役立つ可能性があるが、通常の状態では限定的。
オメガ3はEPA/DHA摂取が少ない場合に回復やアナボリック感受性をサポート。
シトルリン/硝酸塩は血流やパフォーマンス改善が中心で、直接的な肥大効果は弱い。
コラーゲン+ビタミンCは結合組織への効果が主体で、間接的にトレーニング継続を助ける。
トレーニング歴、性別、目的に応じた応用
初心者や休止後の復帰者では、蛋白質/EAAとクレアチンが特に有効。
熟練者では蛋白質の分配最適化、クレアチンの維持、オメガ3やコラーゲンによる回復・組織サポートが重要。
・・・スポーツ栄養学に関するご質問は日頃からたくさんいただきますが、サプリの選択や摂取について迷走してるかたはこういったデータを参考に一回ベーシックな形にリセットするのもいいと思います。
プロテインが多からず少なからず、適量を”探す”のも楽しみの一つじゃないですかね。