スポーツパフォーマンスににおける心理的要因に関するデータを今回はまとめてみたい。
過去にも何回かアスリートにおける瞑想の重要性を説くデータをご紹介したが、今回ご紹介するデータは「フロー状態」に注目した興味深いデータ。
心理的要因がアスリートの行動に強い影響を与え、アスリートパフォーマンスはアスリート本人が受ける認知的・感情的変化に大きく起因することは過去のデータ、選手やコーチたちの経験からも事実であることは間違い無い。
したがって、アスリートのパフォーマンスを最適化し、その基盤となるより最適な精神的ウェルビーイング状態をアスリート向けに開発する必要がある。
最適な精神的ウェルビーイング状態の要因の1つに「フロー」状態がある。
フロー状態は深い集中と注意の最適な精神状態として概念化されており、生産性やパフォーマンスの改善、ポジティブな感情や幸福感とも相関している。
アスリートはフロー状態に入ることで、高プレッシャー状況下でも緊張や不安、自制心の必要性(自らの精神を抑圧)といった状態を超越して精神状態を拡張することができるだろう。
フロー状態になるための介入戦略の研究では、マインドフルネスに基づくメンタルトレーニングが、アスリートの気質的フロー状態(潜在的投影特性として)を改善し、行動におけるフロー状態(フロー体験)を達成するための予測・促進因子として関連する可能性が示唆されている。
加えて、マインドフルネスに基づく介入はアスリートに感情的・心理的な幸福をもたらすだけでなく、スポーツ傷害リスクの減少、認知的・感情的柔軟性の向上、ストレスや不安レベルの減少、否定的思考や自己批判の減少、困難な状況への対処の可能性という側面でも肯定的に捉えられている。
”マインドフルネス”と精神的な解放性をもって今この瞬間に気づくことである。
高アスリートパフォーマンスが動作中の瞑想状態の関連と、マインドフルネスとフロー状態の間の相関関係を強調する複数の研究がある。
それらの研究では、マインドフルネスとフローには経験的互換性があり、両者は最適な精神状態に関連するだけでなく意識的な活動に有利に働くことや、フローとマインドフルネスの構成要素には共通点があること、フローに入る方法の一つは今この瞬間に集中することが指摘されている。
したがって、マインドフルネスに基づくフロー・トレーニングは、アスリートの精神的な幸福を向上させ、”今この瞬間”の意識を発達させることでアスリートたちが最も動揺する誤動作思考に対して受容、非判断、融和意識を築けるようになり、セルフ・コンパッション、スポーツ・アサーティブネス、感情的自己調節を誘導してネガティブな反応性が低下し、アスリートが意図的に行動する心理的繁栄へと導く可能性がある。
しかし、チームスポーツにおける戦術的意思決定プロセスとフロー状態を分析した研究は少なく、特にパフォーマンスの戦術的要素への影響を分析した研究はほぼない。
リンクの研究は、マインドフルネスに基づくフロー・トレーニング・プログラムがハンドボール選手の気質的フロー状態、精神的幸福感、日常生活におけるマインドフル特性、スポーツマインドフルネス、意思決定に影響を及ぼすかどうかを分析するこしたもの。
マインドフルネスに基づくフロー・トレーニング・プログラムは、気質的フロー状態、意思決定、精神的幸福感、スポーツマインドフルネスに影響を与えるのではないか?
気質的フロー状態とスポーツマインドフルネスは、精神的幸福感、日常生活におけるマインドフル特性、意思決定と正の相関があるのではないか?。
という二つの仮説を考慮し、フローやマインドフルネスと他の変数との関係の強さを検証している。
105人のアスリート(女性51人、男性54人)を実験群(n=53)と対照群(n=52)に分けて分析。
【結果】
実験群は対照群に比べて、意思決定、精神的幸福感、気質的フロー状態、インドフル特性、非判断、再集中において有意な改善を達成したことが示された。
ピアソン分析では、気質的フロー状態とスポーツマインドフルネスと精神的幸福感の間に正の相関があることが示された。
また、意思決定やコントロール感覚(SC)と日常生活におけるマインドフル特性との間に逆相関が示された。
【結論】
研究結果からマインドフルネスに基づくフロートレーニングは、意思決定、精神的幸福感、気質的フロー状態、スポーツにおけるマインドフルネスに効果があることが明らかになり、アスリートの日常生活におけるマインドフル特性にも効果があることが明らかになった。
気質的フロー状態と、気づきや再集中などスポーツにおけるマインドフルネス因子の両方が統合的に作用し、精神的幸福感と相関していた。
フロートレーニングは、アスリートのコート外での生活とプレー中の行動をつなぐ役割も果たしているようだ。
意思決定やコントロール感覚と日常生活におけるマインドフル特性との間に逆相関があることは注目に値する。
・マインドフルネスに基づくフロー・トレーニング・プログラムは、アスリートの意思決定プロセスの改善、介入前と介入後の対照群との関係において有効であることが証明された。また、スポーツにおける非判断および再集中、精神的幸福感、日常生活におけるマインドフル特性という因子において気質的フロー状態に関する有意な結果が得られ、仮説が確認された。
・マインドフルネス・トレーニングによって達成されるフロー状態の向上と精神的幸福感には、介入前後で、精神的抵抗、対処戦略、心理的柔軟性との間に関係があることが研究で明らかになり、仮説が部分的に確認された。
・気質的フローと再集中は相関し、それらはアスリートの精神的幸福と正の相関を示し、収束することが示された。他の研究では、マインドフルネスとフローとの間に強い関連性があるだけでなく、実践者にとってさまざまな有益な結果があることが示されている。したがって、精神的幸福感の向上は、フローに対する優れた気質とマインドフルネスの適切なレベルを伴うだけでなく、アスリートパフォーマンス向上の優れた指標となる可能性がある。
さらにこの正の相関は、フロートレーニングプログラムが、スポーツ活動以外の活動において気質的フロー状態とマインドフルネスを実験的に高める能力をアスリートに提供する可能性があることを示した。スポーツ活動とスポーツ以外の活動は切り離されたものではなく、アスリートがコート上で経験する精神状態は、コート外での行動に関連している可能性がある。
・マインドフルネスはアスリートに自身の現実を再認識する可能性を提供するだけでなく、今この瞬間の気づきや、特定の反応パターンを断ち切る行動の方向転換も提供する。この意味で、今回気質的フロー状態と気づきや再集中の要因との関係が確認された。この結果は、気質的フロー状態、気づき、再集中がアスリートのパフォーマンスにおいてより重要な役割を占める可能性を示している。
・日常生活におけるマインドフル特性と意思決定の逆相関に関しては、試合中に生じる問題状況に対して選手自身がより機能的な意思決定を行うなど、試合中の意思決定の質を向上させることが目的である場合、選手は認知的注意を外的要素から解離させる必要があることが示唆された。
・選手たちは試合の瞬間をコントロールできていると感じているとき、より良い決断を下すだろうと予想されたが、結果は逆だった。選手たちはチームスポーツの本質である予測不可能な状況でもコントロールしようとすることでより良い決断を下せない可能性があり、不安や自信喪失といった内的機能不全を経験することになる。このような状況は内的葛藤の引き金となり、ミスを犯したり、優れたパフォーマンスを発揮できなくなる負の連鎖に陥る。
・アスリートは試合の問題状況を理解した上で決断を下す必要があるが、同時にそれをコントロールできないという事実を(好奇心、開放性、非判断性をもって)受け入れる必要がある。
そうすることで自動的に反応せず、自分の反応を自己調整できるようになる。コントロールしようとする感覚を求めるあまり、選手たちはある種の精神的柔軟性の欠如、創造性の欠如、意思決定の重要な側面である独創性の欠如に陥る可能性がある。
・目の前の状況に対してコントロールの必要性をあまり感じない場合、選手はよりよい内的バランスを達成し、よりよい思考の流れを得ることができ、それが現実をよりよく認識することにつながる可能性がある。マインドフルネスに基づくフロー・トレーニング・プログラムがアスリートパフォーマンスと日常生活にポジティブな影響を与えたことは、フロートレーニングが様々なアスリート集団に再現できる可能性があることを示す重要な証拠となる。
…いかがでしたか?
マインドフルネス瞑想にもいろんな種類があるが、アスリートの方におすすめなのは集中系の呼吸瞑想よりも歩行瞑想。
動作の瞬間瞬間に気づきを保つ瞑想はまさにフロートレーニングにうってつけだろう。
下の動画はスマナサーラ長老の解説。私は長老の10日間リトリートに参加した経験があるが、多くの人に分かりやすいようにシンプルに噛み砕いて伝えてくれるので参考になると思う。
リトリート参加後ミャンマーに行く機会があり、チャンミ瞑想センターで仏僧たちに混ざって何時間か歩行瞑想を体験させてもらったが、これはとても勉強になる体験だった。
チャンミにいた僧たちは非常にゆっくりと丁寧に動作の瞬間瞬間に気づきを保っていた。
下の動画の三分の一くらいの非常にゆっくりとしたペースで歩行瞑想を行っており、私もそのペースで行うようになってから気づきの感覚をより深く理解できるようになった。
是非皆さんもスローに丁寧に試してみて欲しい。