シカゴブルズの黄金期を牽引した名将・Phil Jackson監督はマインドフルネス瞑想をコーチングに取り入れ、マイケルジョーダンにも実践させていたという。
マインドフルネスがアスリートパフォーマンスの関連性のデータは過去にもいくつか紹介したが、今回は最新データをまとめてみたい。
ヒトのアスリートパフォーマンスの向上(ライバル選手の台頭)と競技演出のエンターテインメント化、SNSでの誹謗中傷などによる選手の精神心理への負担は年々増す傾向にあり、スポーツ心理学の分野ではパフォーマンス心理学(人間の最適なパフォーマンスに影響を与える心理的要因を研究する心理学の一分野)をいかに応用して、プレッシャーのかかる状況下でのスポーツパフォーマンスを高めるかが大きなテーマになっている。
過去数十年間は、アスリートパフォーマンス向上のために心理スキルトレーニングが用いられてきた。
心理的スキルトレーニングは、思考、感情、身体感覚などの内的プロセスのセルフコントロールを強調する一群のメンタル調整テクニック(イメージ、ポジティブセルフトーク、目標設定など)で、多くの研究結果によって心理的スキルのトレーニングは、アスリートの心理的特性の改善に寄与する可能性があることが示されている。
しかし一方で、、それらのOLD FASHIONな心理的スキルトレーニングによる運動能力の実質的な変化(向上)は観察されていない。
OLD FASHIONな心理的スキルトレーニングの限界を考えると、パフォーマンスを向上させるための新しいアプローチが必要と考えられる。
マインドフルネスは仏教の概念から引き出されたもので、マインドフルネストレーニングの効果の心理的メカニズムは、気づきと受容、無執着、慈悲に要約される。
ここ数十年、マインドフルネスに基づく介入が世界中で注目され、スポーツパフォーマンス関連だけでなく、GOOGLEといった大企業も社員の幸福のために取り入れている。
近年、マインドフルネス-アクセプタンス-インサイト-コミットメント(MAIC)トレーニングが、東洋文化的背景を持つアスリートに取り入れられ、実際に、ダーツ、射撃競技、水泳選手を対象とした一連のMAIC介入研究では、MAICトレーニングが競技成績だけでなく、心理的成果(マインドフルネス、受容、フロー状態、不安軽減、トレーニング、競技満足度など)も大幅に改善できることを示している。
しかし、バスケットボールにおけるマインドフルネストレーニングの効果を検討した唯一の先行エビデンスは、マインドフルネスの実践がバスケットボール選手のフリースローパフォーマンスを向上させることができることを示唆したもの。
コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、スティーブ・カーなどの著名なバスケットボール選手やコーチがマインドフルネス瞑想を実践し、気分調節やシュートパフォーマンスに良い影響を与えることを公に述べているが、あくまで口伝であり、明確なエビデンスは乏しい。
このギャップを埋めるため、リンクの研究は大学バスケットボール選手の心理的対処能力とシュートパフォーマンスに対するマインドフルネスの介入効果を探っている。
マカオの大学バスケットボール男子選手43名が対象。
通常のバスケットボールトレーニングに加えて、介入群(n=23)には7週間のマインドフルネストレーニング(週一回・一時間)を実施。対照群(n=20)はマインドフルネス・トレーニングを一切受けなかった。
結果:介入により、マインドフルネスレベル、受容レベル、注意レベル、3ポイントシュート、フリースローシュートのパフォーマンスにグループ間およびグループ内の有意差が認められた。
7週間のマインドフルネストレーニングプログラムが、バスケットボール選手の心理的アウトカムとシュートパフォーマンスを有意に改善できることを示唆すると結論。
・スポーツ心理学の分野におけるマインドフルネストレーニングの利用は拡大しており、多くの研究者の注目を集めている。この研究では全体として、マインドフルネス介入により、気づきレベル、受容レベル、注意レベル、スリーポイントおよびフリースローのシュートパフォーマンスに、グループ間およびグループ内で有意差が観察された。
有意な群間差はすべて中~大の効果だった。
心理的アウトカムに対する介入効果
・MAICトレーニングの主な目的は心理的スキル、特にマインドフルネスレベルを高めること。
介入前、選手のマインドフルネスレベルは介入群と対照群との間に有意な差はなかった。
介入後、介入群のアスリートのマインドフルネス、受容、注意のレベルは、対照群のアスリートに比べて有意に高いことがわかった。さらに、介入群の心理的アウトカムもベースラインと比較して有意に上昇したことから、マインドフルネスグループ内でも有意な変化をもたらすことが示された。
・研究者は、MAICが心理的アウトカムの改善において一貫した成功を収めた理由として介入プログラムに価値と洞察が加わっていることを指摘した。価値と洞察は、行動の柔軟性、価値の明確化、自己調整、発露といった一連の心理的成果の変化をもたらす、極めて重要な心理的構成要素である。
・マインドフルネストレーニングによってもたらされる注意力の向上は、スポーツ関連の怪我や燃え尽き症候群リスクの低下など、他のポジティブな効果にもつながることが証明されている。
先行研究では、ポジティブな感情調節効果(スポーツパフォーマンス不安、恐怖、ストレスの軽減、フロー状態の改善など)が繰り返し示されている。
シュートパフォーマンスへの介入効果
・マインドフルネス介入は、スリーポイントおよびフリースローのパフォーマンスを有意に改善することが明らかとなった。ミッドレンジのシュートパフォーマンスは有意に改善されなかった。これは、スリーポイントやフリースローを行う前に、選手はシュート前の動作を準備するが、ミドルレンジのシュートはドリブルなどのモーションの最中がほとんどで、選手がシュートの準備をする時間があまりないためと考えられる(個人的な意見では、瞑想マスターになればモーションの最中も気づいていられると思う。ただそこまでの領域に行くまでには競技の練習時間を割いて瞑想しなければならず本末転倒になる確率が高いだろう。瞑想の天才でもいれば別だが)。
・先行研究では、マインドフルネスがフリースロー率を有意に向上させることができるというエビデンスを裏付けている。
この研究では、マインドフルネスがスリーポイントシュートのパフォーマンスを向上することが証明され、グループ内でも有意な差が観察されている。スティーブ・カーは、ゴールデンステイト・ウォリアーの選手のスリーポイントシュート率が高い秘密は、マインドフルネスの追加トレーニングにあると明かしている。
・さらなる研究が必要であるが、7週間の短期マインドフルネストレーニングプログラムがバスケットボール選手のマインドフルネス、受容、注意のレベル、およびフリースローとスリーポイントシュートの精度を高めることを明らかにした。
心理的およびパフォーマンスのポジティブな変化をもたらすことを裏付ける実証的な証拠を提供した。
私はミャンマーの僧院とヴィパッサナー瞑想合宿で呼吸瞑想、歩行瞑想(アスリートはこれもおすすめ)慈悲の瞑想を教わった。
現在は、治療中に慈悲の瞑想を行っている。
独りで座って迷走に明け暮れるよりも、気軽に、そしてより実践的に身近なものとして慈悲心と気づきを育める気がしている。