前十字靭帯(ACL)損傷は男子よりも女子アスリートの方が受傷リスクが高い。
理由として、生体力学的および解剖学的因子な違い、月経周期(MC)中のホルモン変動がある。特に、卵胞期および排卵前後の数日間は損傷リスクが高まる時期と考えられており、関節安定性や神経筋制御に対する月経周期関連のホルモンの影響が原因になっている可能性がある。
しかし、それを示すエビデンスは質、量ともに限定的。
ACL損傷の(神経)筋肉リスク因子のうち、股関節外転筋力の低下が関与するというエビデンスはだけは十分に確立されているが、姿勢制御の低下に関するデータは一貫していない。
骨盤底筋も、姿勢制御と股関節筋機能の両方を調節することでACL損傷リスクに影響を与える可能性がある。女性の骨盤底筋は深部安定性に不可欠で、機能的運動中に共活動する。股関節の外転筋・内転筋、および骨盤底筋は相乗的収縮を示すことから、一つの筋群の最大活性化が他方に影響を与える可能性がある。
例えば、股関節運動中の共収縮の弱さや欠如は尿失禁(UI)の一因となる。
UIはエリート女子選手、特に球技などの高衝撃スポーツ選手の26%で報告されており、集中力、パフォーマンスおよび姿勢制御を損なう可能性がある。
排卵が中程度のUI増加と関連しているように、月経周期フェーズとUIの間には相互作用がある可能性がある。これはACL損傷感受性が高まる時期と一致する。
総じて、骨盤底機能、月経周期フェーズ、およびUIがACL損傷感受性に影響を与えうるという仮説が成り立つ。
初期研究では、股関節外転筋力は初期卵胞期(EFP)に低下する可能性が示唆されており、姿勢制御、特に月経前症候群(PMS)を持つ女性では後期黄体期に低下する可能性が指摘されている。
リンクの研究は、UIの有無にかかわらず、エリート女子チームスポーツ選手におけるACL損傷リスク因子、具体的には姿勢制御と股関節筋力に対する月経周期フェーズの影響を調査したもの。
【結論】
エリート女子アスリートにおいて、月経周期(MC)フェーズ単独ではACL損傷リスク因子に及ぼす影響は限定的である一方で、ホルモン変動、および「症状負担」が姿勢制御や股関節筋力とより強い関連を示す傾向にあることがわかった。
MCおよび症状のモニタリングをルーチンのアスリート管理に統合することは、パフォーマンスの最適化、健康維持、および損傷予防戦略の精緻化に向けた実践的なアプローチとなり得る。
The Influence of Menstrual Cycle Phase and Urinary Incontinence on Potential ACL Injury Risk Factors with a Focus on Hip Strength and Postural Control in Elite Female Team Sport Athletes: A Pilot Study
・この研究は、MCフェーズ単独の直接的影響はACL損傷リスク因子に対して限定的である一方で、症状の重症度やホルモンレベル(特にプロゲステロンとエストラジオール)が姿勢制御や股関節筋力と関連している可能性を浮き彫りにした。これは、アスリートの評価やトレーニングの適応において、MCフェーズ単独よりも個々の生理学的・症状的なプロファイルの方が関連性が高い可能性を示唆している。
尿失禁(UI)とACL損傷リスク
UIを有するアスリートは有意に高い内転:外転比を示す。これはACL損傷のリスク因子である相対的な股関節外転筋力の弱さを示唆している。このリスクは、姿勢制御をサポートする股関節や体幹筋群と共活動する骨盤底筋によってさらに影響を受ける。
骨盤底筋の収縮不全はUIの一因であり、間接的にバランスや股関節筋力に影響を及ぼす可能性がある。
また、UIはスポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)複合体の潜在的構成要素として提案されている。
UIと月経異常の間に有意な関連は報告されていないが、この研究では、当初スクリーニングされた24名のアスリートのうち10名において、当初は正常月経に見えたものの、潜在的な月経異常が観察された。
エリート女子アスリートにおけるACL損傷の神経筋リスク因子
試験では、最も困難な条件である「閉眼(EC)での片脚直立」における静的姿勢制御のリスク因子のみが、MCフェーズとUIグループの間で有意な交互作用を示した。
非UIグループでは、総動揺路長がMCフェーズ間で有意に異なり、一般的にACL損傷リスクが最も高いとされる排卵期(OP)に最も良好な値が観察された。しかし、多くののACL損傷は静的タスク中ではなく、急激な方向転換や突然の減速などの高強度かつ動的な動きの中で発生するため、静的姿勢制御がエリートチームスポーツにおけるACL損傷リスクの予測因子かどうかは不明。
月経周期フェーズと神経筋肉パフォーマンス
特定のMCフェーズにおける神経筋変化は、損傷リスクの増加と直接的な因果関係がない可能性がある。
研究では、リスクに関連する指標パフォーマンスはMCフェーズを通じて一貫しており、排卵期(OP)や初期卵胞期(EFP)において一部の指標でわずかな改善が見られた。 具体的には、低エストラジオールおよび低プロゲステロン濃度はパフォーマンスの低下と関連し、逆に、通常OPにピークを迎える高テストステロンレベルはより良好な筋力結果と関連していた。
また、動機付けや行動的要因も考慮すべき。女子アスリートはOPにおいて動機付けやリスクテイク行動が増加することが知られており、これが物理的パラメータとは独立して損傷リスクに影響を与える可能性がある。
月経症状がパフォーマンスと損傷リスクに及ぼす影響
エリート女子アスリートでは、MCフェーズやホルモンレベル単独よりも、症状(symptoms)がパフォーマンスや損傷リスク因子と最も強く関連しているようだ。研究では、症状負担がMC関連のアウトカムにおける最大の変動要因であり、内因性ホルモンの変動よりも症状の方が意味のある影響を及ぼすという先行研究を支持した。
実用的な観点では、この変動性はアスリート中心のモニタリングと管理を通じて症状を直接ターゲットにできるため心強い。月経周期そのものをACLリスクの主要な指標とすべきではない。
・・・ACL損傷を始めとする、女性アスリートのスポーツ障害に対する月経の影響についての過去のデータは歯切れの悪い論文が多かったですが、今回ご紹介したデータによってようやくモザイク画のモナリザが実際のモナリザにくっきり浮かび上がってきたような、「じゃぁ実際にリスク低減のためにこれ実践できるよね」っていう部分が明らかになった非常に役立つデータではないでしょうか。