腸内細菌叢が不安やうつの重症度を軽減することは多くの研究で明らかになっているが、睡眠障害に着目した研究は少ない。
この研究は、Lactobacillus plantarum PS128(PS128)が不安やうつ症状の重症度を軽減し、自律神経系の機能を調節して睡眠の質を改善するか調べたもの。
20〜40歳の参加者40名を、PS128群とプラセボ群の2つのグループに無作為に振り分けて二重盲検試験。
参加者は30日間、夕食後にPS128またはプラセボのいずれかを2カプセル摂取。主観的な抑うつ症状、不安、睡眠に関する質問票、小型ポリソムノグラフィーの記録を、ベースライン時、カプセル服用後15日目、30日目に行った。
PS128グループは対照群と比較して、Beck Depression Inventory-IIスコア(BDI-II)、疲労度、脳波活動、深い睡眠段階での覚醒が有意に減少した。彼らの抑うつ症状の改善は、脳波と睡眠維持の変化に関連していた。
PS128を日常的に投与することで、抑うつ症状、皮質の興奮、疲労度が低下し、深い睡眠の質が改善される可能性が示唆されたと結論。
Effects of Lactobacillus plantarum PS128 on Depressive Symptoms and Sleep Quality in Self-Reported Insomniacs: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Pilot Trial
・PS128投与群では抑うつ症状や疲労感が軽減され、覚醒の頻度が減少し、高周波の脳波活動が低下した。PS128グループの方がコントロールグループよりも安定した睡眠が得られた。
・睡眠不足を訴える不眠症患者は健常者に比べて抑うつ状態が強く、α波のレベルが高い。ストレスが少ない人は、デルタ波のレベルが高い。さらに、PS128グループのBDI-IIスコアが研究期間を通して改善したことから、PS128の定期的な摂取により、抑うつ症状および不安が長期にわたって改善されることが示唆された。
・PS128は自閉症スペクトラム障害(ASD)などの精神疾患に対して有益な効果を示している。このプロバイオティクス製品は、不安、多動性、衝動、および反抗/反抗的な行動を改善することが報告されており、ASDの子どもにおいてよりポジティブな効果があるとされている。
・PS128が不眠症患者のうつ症状を軽減できる可能性が示唆されたことから、気分障害にも効果がある可能性がある。これは、PS128に関する過去の研究と一致している。
・以前の研究ではPS128の使用によって、マウスの脳内のドーパミンとセロトニンのレベルが上昇することがわかっている。脳内のドーパミン濃度が高まると、覚醒や睡眠障害が促進され、ドーパミンが不足すると疲労感ややる気の低下が生じる。ある調査によると、D-2ドーパミン受容体アゴニストを低用量投与すると鎮静効果が得られ、覚醒度が低下し、徐波睡眠とレム睡眠が増加するという。一方、大量に投与すると、逆の効果が誘発される。
・前臨床試験では、PS128が脳内ドーパミンレベルを調整し、トライアスロン選手の運動パフォーマンスを向上させることが示された。PS128を摂取することで、介入群の参加者はドーパミンレベルが調整され、疲労を回避できた可能性がある。しかし、ヒト被験者の脳内ドーパミンレベルを測定することができなかったため、精神的健康に対するPS128の有益な効果が腸内細菌叢によるドーパミン調節によるものかどうかは判断できなかった。
・PS128はシータ波をデルタ波に変化させ、睡眠の質を促進する役割を果たしていると考えられる。同じ結果がREM時にも見られた。PS128群では、シータ波の割合が低く、デルタ波の割合が高かった。
・132人の被験者を対象にLactobacillus casei Shirotaの効果を調査した研究では、プロバイオティクスは、気分障害の人にのみ影響を与えることが示された。PS128に反応した人は皮質の興奮が抑えられ、深い眠りが得られるのではないかと考えられる。しかし、プロバイオティクスが脳波に影響を与えるメカニズムはまだ解明されていない。