今回のブログは、ゴルファーの栄養学に関するレビューをまとめてみたい。
ゴルフプレイ中のエネルギー需要は、アマチュアからプロまで身体能力、持久力、テクニックなどの個々のレベルによって異なるため、各選手にとって最適な試合前、中、後の栄養補給(水分補給を含む)を把握することは非常に重要となる。
特に国内外への遠征が多いエリートアスリートにとっては、遠征による身体への影響を理解し、病気の予防やゴルフパフォーマンスの低下を最小限に抑えるために栄養が果たす役割を考慮することが重要となる。
リンクのレビューは、ゴルフパフォーマンスのための栄養戦略に焦点を当てた既存研究の知見を統合したもの。
Nutritional Considerations for Elite Golf: A Narrative Review
ゴルフにおける生理的要求
・ゴルファーの有酸素運動能力は他の持久力を要するスポーツと比較して一般的に低い。
ジュニアエリートゴルファーを対象としたWingateテストでは、ピークパワー値が722.3ワット(9.64W/kg)と報告されており、レスリング選手、陸上選手、サッカー選手と同様の結果となっている。
・典型的な18ホールの競技ラウンドでは3時間から5時間かかり、ゴルフコースの平均的な長さは7~8kmである。しかし、ゴルファーの技術力次第では1ラウンドで10~20km歩くこともある。
・ゴルフスイング全体の時間は2秒にも満たないが、トーナメントプロは競技中に2000回以上のスイングを行う。ゴルフスイングの始動を通して、地面から上に力がかかり、大きな運動力が腰、骨盤、股関節を通して発生する。
・気温、高度、コースの地形などの環境要因も体内のエネルギー調節に影響を与えるため、身体の生理学的状態に影響を与える。
ゴルフのエネルギー需要
・競技パフォーマンス維持のために必要な栄養を十分に補給し、満たすためには、活動に必要なエネルギー需要とエネルギーコストを理解することが重要だが、エリートゴルファーのパフォーマンスにおけるエネルギー需要に関する文献は少なく、各ゴルファーの方法論や要求が異なるため研究間の比較が困難になっている。例えば、プロゴルファーはキャディーの助けを借りて18ホールプレーするのに対し、アマチュアは自分でバッグを持ちながら36ホールプレーする(米国のアマチュア形式)ため、トレーニング中や競技中に大きなエネルギー消費が生じる。
最近の研究でクラブの異なる運搬方法(キャリーバッグ、手動トロリー、電子トロリー)のエネルギー消費量(EE)が調査され、その結果1ラウンド当たりのEEは663kcal~756kcalであった。このデータは、エリートゴルファーのEEが3.4kcal±1.0kcal/分である可能性を示している。
さらに、ゴルフは4.8代謝当量(METs)とほとんどの人にとって中程度の強度の活動であることが研究で強調されている。
エリートゴルファーの身体的特徴
トレーニングにおける必要条件
・ゴルフはスキル・ベースのスポーツとしてスイング技術やパッティング技術を磨くことに重点が置かれ、また昨今のコースの延長により総ドライビング距離が競技会での成功を予測する上で非常に重要なものと考えられ、その結果ウエイトトレーニングが重要視されてきた。
しかし有酸素系トレーニングを軽視すべきではなく、実際に有酸素系トレーニングがより良いパフォーマンスを発揮することを示唆する証拠がある。
・ゴルファーの体格はこれまであまり注目されてこなかったが、最近のエリートゴルファーは、より良い体格への移行がパフォーマンスに有利に働く可能性があることに気づいている。ゴルファーのためのフィジカル・トレーニング・プログラムは、今やエリート・プレーヤーのレジメンに不可欠な要素であると考えられている。
・体脂肪レベルが高く、フィットネスレベルが低いと身体の耐熱性が低下し、肉体疲労を起こしてケガのリスクが高まる。もちろん、ゴルフパフォーマンスは当然損なわれる。
・ハンディキャップの少ない男性ゴルファーを対象に、最大筋力増加に焦点を当てた18週間の筋力トレーニングプログラムの効果を調べる研究では、ハンディキャップ5以下の男性ゴルファー10人を対照群(CG)と治療群(TG)に無作為に分け、最大筋力トレーニング(ウェイトリフティング)、爆発的筋力トレーニング(プライオメトリクス)、ゴルフに特化した筋力トレーニングを行った。通常のゴルフトレーニングにこのトレーニングを加えた結果、最大筋力、下肢の筋力発揮、クラブヘッドとボールスピード療法においてドライビングパフォーマンスが向上した。これらの改善は、6週間のゴルフ特異的トレーニング期間中も、5週間の休養期間後も変化しなかった。
エリートゴルフのための栄養学的考察
エリートゴルファーに考慮すべきエネルギー必要量、多量栄養素の摂取量、水分補給の状態、サプリメントに関する推奨事項
エリートゴルファーのためのエナジー補給
炭水化物の必要量
・炭水化物はエンデュランス系スポーツや高強度スポーツのトレーニングや競技を向上させる。中強度の長時間運動では、イベント前の食事とトレーニング/競技中に摂取する栄養が重要になる。一般的なスポーツ栄養ガイドラインでは、運動前の食事は運動の約1~4時間前に摂取し、筋肉と肝臓のグリコーゲンを補充することが推奨されている。
中強度の運動では筋と脳に最適なエナジーを確保するために、1時間あたり30~60gの炭水化物摂取が必要である。
・ゴルフスイングでは遅筋と速筋の両方が使われ、無酸素性と有酸素性で必要なエネルギー系統が異なるため、競技中に炭水化物を摂取することの重要性が強調される。
・ゴルフのラウンド中は血糖値が10~30%大幅に低下し、集中力、意思決定、奥行き知覚に悪影響を及ぼす。最近の研究では18ホールの競技中に、競技の前半に食事を摂らなかったゴルファーは平均して血糖値が20%低下することが判明しており、このような血糖値の変化を緩和するには炭水化物摂取が必要である。
・ゴルフ競技ではエネルギー利用を最大化するために競技前の炭水化物摂取と競技中の少量頻回炭水化物摂取を考慮することが重要。
・成長期間中の選手は様々なトレーニング様式を考慮することが重要であり、それに見合った栄養素が必要。筋力、プライオメトリクスおよびモビリティワークに重点を置いたトレーニングセッションでは筋グリコーゲンが最大40%減少する可能性があり、トレーニング期間中のグリコーゲンの補充には1日あたりの十分な炭水化物摂取が必要である。
研究では1日あたり体重1kgあたり3~5gの適度な炭水化物摂取が推奨され、トレーニングスケジュールの状況に合わせて摂取する必要がある。
リカバリー
・トレーニングや競技からの最適な回復には、炭水化物、タンパク質、水分、電解質補給が必要。タンパク質は運動からの回復に重要な役割を果たし、ゴルファーのトレーニング適応を最大化し、病気にかかるリスクを減らし、最終的にゴルフコースでの長時間パフォーマンスに役立つ。
・除脂肪体重の増加を達成するとき、アスリートにとって重要な点は回復を高め、筋肥大を促進するために筋タンパク質合成(MPS)を最大限に刺激すること。用量反応試験により、平均体重の男性がレジスタンス運動後のMPSを最大に刺激するには、20gの高品質タンパク質で十分であることが明らかにされている。運動をしている人の一般的なタンパク質摂取量ガイドラインは、1.4~2.0g/kgBW/日の範囲で、筋力トレーニングを行っている人は1.6~2.2g/kgBW/日の摂取が推奨されている。
・最近の研究では、1日4~5回の食事で、1回に20~40gのタンパク質を摂取することが、筋肉の成長と回復に最適であるというエビデンスが示されている(人によっては多すぎる可能性もあるので柔軟に)。
・ゴルフパフォーマンスからの回復が最終目標なのか、トレーニング適応が最終目標なのかにかかわらず、ゴルファーは20~40gの高品質タンパク質を4~5回の食事で1日に均等に摂取することが重要。朝の食事、ゴルフコース及び昼食、夕方、睡眠前にタンパク質を重点的に摂取する。
栄養に関する考察
エリートゴルファーのシーズン
・大会期間中やその他のシーズン中(プレシーズンやオフシーズン)には、ゴルファーのトレーニング負荷は変動するため、栄養ピリオダイゼーションを考慮する必要がある。トレーニングや競技の多い日はエネルギー需要に見合った食事/エネルギー摂取を行い、トレーニング以外の日はエネルギー需要が低いので食事/エネルギー摂取を少なくする。
・エネルギー利用可能量(EA)は、除脂肪体重(FFM)に対するエネルギー摂取量と運動エネルギー消費量の差を反映する。トレーニング需要が考慮されないまま不十分なエネルギーしか摂取されない場合、低エネルギー利用可能性(LEA)につながる可能性がある。摂取量が30kcal/kgFFM/日未満のLEAが長期間続くと、健康とパフォーマンスに悪影響を及ぼす内分泌および代謝変化が生じる。
・LEAの健康への悪影響には、月経機能障害、骨の健康不良、内分泌の変化、成長と発育の低下、心理学的、心血管系および胃腸の問題、免疫反応の低下などがある。
・LEAは、スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)を引き起こし、傷害リスクの増加、トレーニング適応の低下、判断力や協調性の低下、過敏性と抑うつ状態の増加、筋力と持久力低下など競技パフォーマンスに影響を及ぼす。
・ゴルファーがオフシーズンの間に増加させる筋力、パワー、筋肉量を反映するようにエネルギーコストと筋肥大に関連するメカニズムを測定することは非常に困難だが、300~500kcal/日の追加摂取/余剰摂取は、筋量増加に役立つと広く考えられている。
水分補給とゴルフのパフォーマンス
・脱水は体温の上昇、心血管系の負担、グリコーゲンの過剰消費、認知能力低下などにより運動パフォーマンスに悪影響を及ぼす。BW2%以上の脱水は持久系パフォーマンスとスポーツ特有の認知パフォーマンスを低下させることが示されている。ゴルフ中に認知運動機能障害が生じると、正しいショットタイプを選択する能力やゴルフスイングの実行に影響を及ぼす。
・American College of Sports Medicineの報告によると、時速5~6kmで移動すると400mL/hの発汗量があり、これはゴルフコースでも同様である。
・ハンディキャップが0から+3までの大学男子エリートゴルフ選手15人の水分補給状態を評価した研究では、参加者の40%以上が競技前に脱水状態にあり、60%が競技後に脱水状態だった。ラウンドを終了するのに要した平均総ストローク数は、競技開始前に脱水状態にあったプレーヤーでは79.5±2.1ストロークで、非脱水状態のプレーヤーは75.7±3.9ストロークであったのに比べ有意に多かった。
・急性の軽度脱水がゴルフのパフォーマンスに悪影響を及ぼすことを観察した2012年の研究では、脱水状態では、非脱水状態と比較して9番アイアンクラブを使用して達成した全体的な飛距離に有意な差があることが示された。精度も脱水状態によって悪影響を受け、脱水状態のプレーヤー(7.9 ± 2.0 m)の不正確さは、非脱水状態のプレーヤー(4.1 ± 0.8 m)に比べて有意に高かった。
・選手は水分補給をした状態で競技を開始し、競技中にベースライン体重から1%以上体重が減少するような脱水を防ぐよう水分摂取計画を立てることが奨励されるべきである。
ゴルフパフォーマンスのためのサプリメント
カフェイン
・カフェインはアデノシン受容体拮抗作用、知覚労作レベルの低下、痛みの知覚、活動筋の運動単位のリクルーションを増加させるなどの効果で知られている。アスリートはカフェインのエルゴジェニックな効果を認識しており、約75%のアスリートが競技前にカフェインを摂取している。
・36ホールのトーナメントにおけるゴルフパフーマンスと疲労に対するカフェイン含有サプリメントの効果を調査した研究では、12人の男性ゴルファー(ハンディキャップ3~10)が二重盲検対照クロスオーバーデザイン試験に参加し、それぞれカフェイン含有群(1.9±0.3mg/kg)またはプラセボ群に割り付けられ、2日連続で18ホールをプレー。
カフェイン(CAF)またはプラセボ(PLA)は、18ホールの競技開始25-35分前に摂取され、参加者は9ホール終了後に2回目の投与を受けた(合計CAF/ラウンド3.8±0.6mg/kg)。中間地点で、血糖値の低下を防ぐことを目的とした食事も提供された(340kcal、炭水化物42g、脂肪12g、タンパク質24g)。結果、トータルスコア、パーオン率、ドライバーの飛距離はCAFの方がPLAより統計的に有意に良かった。
この研究では、カフェインを3~5mg/kgBWの範囲で摂取することで、ゴルフ特有の疲労を最小限に抑え、その結果、正確性とドライブの飛距離を向上させ、ゴルフのパフォーマンス向上に貢献できることが示された。
・カフェインと炭水化物の併用は、別々に摂取した場合よりもゴルファーの認知パフォーマンスを改善することが示されている。2009年の研究では、カフェインと炭水化物を摂取した場合の2mパッティングの成績は、プラセボに比べてラウンドの最終6ホールで有意に向上し、摂取群では70%のパットが成功したのに対し、プラセボ群では50%だった。
5mパッティングでは、最終6ホールでカフェイン+炭水化物群のパット成功率はプラセボ群に比べ有意に高かった(40%対25%)。また、18ホール全体のパット成功数も、プラセボ群に比べカフェイン+炭水化物群で有意に多かった。
クレアチンモノハイドレート
・2015年の二重盲検プラセボ対照試験では、ドラーバーのパフォーマンスを評価することを目的として、クレアチンモノハイドレート(CM)5g、コーヒー抽出物50mg、フルクトホウ酸カルシウムおよびビタミンDの混合物を組み込んだサプリメントの効果が調査され、4週間にわたってサプリを1日2回補給した選手は総ドライバー飛距離が伸びた。
平均ドライバー飛距離は269.9±18.5ヤードから283.5±23.1ヤードに有意に増加した。
加えてベンチプレス筋力が有意に向上し、サプリメント群ではピークパワーとピーク速度も有意に向上した。
エリート旅行ゴルファーの栄養問題
エリートゴルファーは、主要なトーナメントに出場するために、年間競技スケジュールのほとんどを州内または国際的な旅に費やすことがある。
これは、最適なベースライン状態に影響を与える傾向があるため、アスリートにとって大きな動揺とストレスを伴います。
複数のタイムゾーンをまたいで大陸間を移動することは、時差ぼけや概日リズムの乱れ(体内時計のリズムの変化)を誘発し、疲労、睡眠覚醒障害、気分の変化、便通障害、認知機能の低下などの症状を引き起こす可能性がある。
運動能力における概日リズムの重要性については、筋力、無酸素運動、有酸素運動など、さまざまな側面で明確な効果があることが証明されている。
複数のタイムゾーンをまたぐ急速な空の旅によって引き起こされる概日リズムの非同期化は、24時間の競技パフォーマンスに影響を及ぼす可能性がある。
また、競技のための移動は、しばしばアスリートの食行動や食の選択を変化させ、競技に焦点を当てた栄養目標や実践を損なう可能性がある。
アスリートは、自宅から離れた場所で不適切な食品を選択して間食することが多く、地元のレストランなどの便利な場所では、間食や不適切な「便利な」食事の購入が促進される可能性がある。
異なる国に旅行するアスリートは、馴染みのない食品、一般的な食品の入手不可能性、時差や時差ぼけによる食事の機会の違いなど、食品の選択に関連する多くの課題に直面する。
選手が豪華なホテルや宿泊施設に滞在するエリートレベルの大会では、十分な食事の選択が可能かもしれない。
しかし、小規模な大会では、一般的な食品を入手することが難しくなり、食品の選択、配送、環境に影響するため、アスリートは不利になる可能性がある。
旅行中のゴルファーが直面する最大の課題は、最適なパフォーマンスを促進する最適な健康と身近な食品摂取を確保する必要性である。