妊娠糖尿病(GDM)の罹患率が近年上昇傾向にある。世界的にGDM発症率が上昇している中で、特にアジア人女性で顕著な発症率上昇が観察されている。
GDMは子癇前症、在胎不当過大児、新生児低血糖などの合併症のリスクを高め、母子ともに長期的な健康問題を引き起こす可能性が高くなる。
GDMのメカニズムは複雑で、インスリン抵抗性の亢進と妊娠による代謝要求の増大に対応するためのインスリン分泌不足の両方が関与する。インスリン抵抗性自体は妊娠中の正常な生理的適応だが、人によっては悪化してGDMの発症につながる。
近年、グルコース代謝におけるビタミンDの潜在的役割とGDMへの関与が注目されている。
ビタミンDはカルシウム吸収や骨代謝における機能以外に、糖尿病を含む様々な非骨格系疾患にも関与しており、血漿中25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]低濃度と、高血糖およびGDMリスク上昇との間に相関関係があることが示されている。世界で10億人近くがビタミンD欠乏症と推定されており、特に日光曝露の少ない地域、嗜好性を持つ妊婦に顕著な有病率がみられる。
研究では、血漿中の25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度が低いことと、高血糖やGDMのリスク上昇との間に相関関係があることが示されている。
また妊娠中のビタミンD補給が子癇前症や胎児の発育抑制といったGDM合併症リスクを軽減する可能性を示唆する新たなエビデンスも出てきている。
しかし妊娠中のビタミンD欠乏症や、GDMリスクが高い集団に対するビタミンD補給の至適投与量に関する知見にはいまだギャップがある。
リンクの研究は、多様な民族集団における妊娠初期の母親のビタミンD欠乏と妊娠糖尿病(GDM)発症の相関関係を調査したもの。
2018年から22年にかけて妊婦252人を対象に行われたレトロスペクティブ研究。
参加者は血清ビタミンD値に基づいて重度のビタミンD重度欠乏(25nmol/L未満)、欠乏(25~50nmol/L)、不足(51~75nmol/L)、十分(75nmol/L以上)に分けられ、年齢、民族、BMI、妊娠糖尿病の状態、季節性を調整した多変量線形回帰モデルを用いてAUROC(Area under the receiver operating characteristic)分析が行われた。
【結果】
・重度欠乏に分類された女性は、他のグループよりも空腹時グルコース値が高かった(5.73±1.24mmol/L)。
・GDMリスク上昇に関連するビタミンD閾値は45nmol/Lであることが同定された。
・南アジア女性はBMIが低いにもかかわらず、白人女性よりもビタミンD値が低く(41.17±18.03nmol/L vs. 45.15±16.75nmol/L)、ブドウ糖負荷試験(GTT)値が高かった。
・ビタミンD値は新生児出生時体重と正の相関を示した。
【結論】
この研究は妊娠糖尿病リスクを調整し、新生児の出生体重の転帰に影響を及ぼす母親のビタミンDレベルの重要な役割を立証する強固な証拠を提示している。
ビタミンD不足と空腹時および食後グルコース濃度の上昇との間に明確な逆相関を確認し、糖代謝を促進するために妊娠中に十分なビタミンD濃度を維持する必要性を強調する。
多変量線形回帰とAUROC解析の結果から、ビタミンD濃度45nmol/L以下はGDMリスク上昇の重要な閾値であることがわかった。
・平均ビタミンD濃度はGDM発症女性では発症しなかった女性と比較して著しく低く、ビタミンD欠乏がGDMの病因に寄与している可能性を示唆する先行研究と一致した。このことはビタミンD状態と糖代謝およびインスリン感受性を関連づけるエビデンスが増加していることを考慮すると特に重要。
・グルコース負荷試験(GTT)の結果が白人女性と南アジア人女性で異なっていることは、GDMリスクにビタミンDが関与している可能性をさらに強調している。白人女性は南アジア人女性と比較して平均BMIが高いにもかかわらずGTTの結果は低く、ビタミンD平均値は高かった。これはおそらく、皮膚の色素沈着や文化的慣習などの要因に影響されるビタミンD代謝における民族差がGDMリスクの違いに寄与している可能性がある。
これらの群間における新生児出生体重の統計学的有意差は、ビタミンDの影響が母体の転帰にとどまらず、胎児の成長にも影響を及ぼす可能性を示している。
・妊娠初期にビタミンDレベルがGDMリスクを調節する上で重要である。介入を効果的に行うには妊娠第1期以前または妊娠第1期中に開始する必要がある。
・・・重要なのは栄養学的介入を開始する時期。妊活中の方であまり日光に当たらない生活習慣の方や、ビタミンDサプリの摂取がない方は早速開始してみてはいかがでしょうか?
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