今回のブログは久しぶりのスポーツ栄養学。
クルクミン混合ホエイの有効性を検討したデータをまとめてみたい。
過度な運動負荷によるは筋損傷は筋組織においける炎症反応の発現、活性酸素種(ROS)やフリーラジカルの産生、酸化ストレスを誘発する。
激しい運動による炎症と酸化ストレスは組織の回復にも不可欠だが、過剰になり制御できなくなると二次性筋損傷を引き起こす可能性がある。二次性筋損傷は筋力低下、神経筋機能低下、疲労、可動域減少、筋肉痛を引き起こし、結果的に、身体パフォーマンスに負の影響を与える。
そのため、筋損傷を治療目的で抗酸化作用や抗炎症作用成分を摂取することが現在では一般的になっている。
機能筋組織の良好な反応を促進する栄養の中でも、Curcuma longa Lから抽出された主要なクルクミノイドであるクルクミン(CCM)が特に注目されている。
CCMの持つ抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節作用は様々な病気に良い影響を与えることが研究で示されており、中でも心臓保護、抗腫瘍、肝保護の可能性が強調されている。
またポリフェノールの一種であるクルクミンは、サルコレンマの破壊、細胞外筋線維マトリックス異常、筋原繊維収縮成分の歪みなどを特徴とする筋肉痛や損傷を軽減し、身体パフォーマンスを向上させることが示されている。
過去の研究で、CCMとホエイプロテイン(WP)を単独で摂取すると運動によって引き起こされる筋損傷を減衰させることが示されている。
しかし、CCMを添加したWPCの有益な効果の増強、特に筋組織の完全性の維持、酸化バランスの改善、または炎症反応の減衰、その結果としての激しい運動中の筋肉の病理組織学的変化に関してはエビデンスが不足している。
リンクの研究は、CCM添加WPが急性プロトコルの激しい運動をさせたWistarラットの筋肉の酸化バランス、炎症プロセス、病理組織学的変化に対する効果を評価することを目的としたもの。
結果
WPC+CCM群およびCCM群は、筋肉組織におけるIL-6の発現を減少させ、IL-10の発現を増加させた。
CCMは標準的なAIN-93M ETおよびWPC + CCM ET食と比較して、ET後のカルボニル蛋白質を減少させた。
WPC+CCMおよびCCMを摂取した動物では、より高い一酸化窒素濃度が観察された。
WPC + CCMまたは単離CCMの摂取は、筋肉内の炎症性浸潤および線維性組織の領域を減少させた。
WPC + CCMおよび単離CCMは水泳試験による炎症および酸化的損傷の軽減に寄与していると結論。
Curcumin-Added Whey Protein Positively Modulates Skeletal Muscle Inflammation and Oxidative Damage after Exhaustive Exercise
・クルクミン添加乳清タンパク質濃縮物の摂取が、酸化マーカーの減少、抗酸化酵素の増加、炎症と血中乳酸の減少効果をもたらし、その結果、筋肉の形態が変化することを示した。
・激しい運動による筋損傷はフリーラジカル生成と関連し、炎症に関連した活性酸素が生じることで筋膜の乱れ、タンパク質の酸化、細胞機能の変化などの細胞障害を引き起こす可能性がある。内因性抗酸化システムが過剰フリーラジカルを除去できないことに伴う酸化ストレスの増大は、回復を損ない運動パフォーマンスを低下させる。
・CCMを添加したWPCは、単離クルクミンへの曝露と同様に、より高い抗酸化活性を提供した。
WPCとCCMが筋組織の抗酸化酵素を有意に活性化し、組織の保護活性を有することを示している。
・CCM混合WPC投与により、水泳消耗試験の実施によって誘発されたフリーラジカルおよび活性酸素に誘発される過酸化脂質の減少が認められた。
CCMはその抗酸化作用により、粗面小胞体内のタンパク質のミスフォールディング、ひいてはその機能不全を引き起こす主要プロセスの一つであるタンパク質の酸化を抑制した。
・酸化ストレス下では、高濃度スーパーオキシドイオンは一酸化窒素(NO)と反応し、反応性窒素種(RNS)を形成する結果ペルオキシナイトライトが生成される。
NOはリンパ球活性化を抑制し、白血球の接着を低下させることで細胞ローリングや移動を防ぎ、組織の炎症プロセスの定着を抑制する。WPC+CCMおよびCCM摂取でNOレベルが上昇し、組織内の炎症性浸潤病巣が減少する。
・長時間の運動の後、筋損傷は好中球などの免疫系細胞の動員によって炎症反応を刺激し、マクロファージの移動のためのシグナルを送る結果、炎症の進行に関与する炎症性サイトカイン、成長因子、活性酸素、RNSの発現を媒介する。したがって、フリーラジカルの継続的な作用による持続的な組織損傷を避けるために、炎症過程を制御する必要がある。
WPCとCCM摂取によるIL-6発現レベル低下とIL-10レベル上昇は運動誘発性炎症の減衰を反映し、筋肉の回復を改善するため激しい運動後の炎症を制御する有望な治療法である。IL-10は、抗炎症性サイトカインで、初期炎症反応の発現後に免疫細胞活性化を抑制する。
IL-10濃度の上昇は、炎症の回復過程を加速させる。
クルクミンはIL-10の発現と放出を誘導する。
・過去の研究で、運動の数日前にクルクミンを摂取すると炎症反応が抑制されることが報告されている。
・WPCの抗炎症作用は、乳清タンパク質に存在し、酵素による加水分解、微生物による発酵、または食物タンパク質の消化管内消化によって生成される生物活性ペプチド濃度と関連している。
組織学的な評価では、WPC+CCMを投与した動物、CCMのみを投与した動物ともに炎症が少なく、炎症を抑制することが示された。さらにこれらの群では筋繊維の面積と直径の増加も確認でき、筋力向上と関連している可能性がある。
・動物実験では、WPC+CCMおよびCCMグループの動物と比較して、コントロールグループの動物がより顕著な結合組織を示したことを観察した。主にIII型コラーゲン繊維によって形成される結合組織の増加は筋繊維の減少を意味する。一般にコラーゲン線維の肥厚は、ある種の損傷、線維化過程の始まりと細胞死に関連している。これは炎症の慢性化、細胞死とそれに伴うコラーゲン沈着に至る退行過程の進展と関連している。
・AIN93M食を摂取した群では、筋肉組織における炎症の増加、結合組織の増加、筋肉の萎縮の発生が観察された。AIN93M食は、炭水化物を70%、タンパク質を15%しか含まないため、タンパク質合成が阻害される。過去の研究ではAIN-93M食を与えた動物が肝細胞における脂肪を増加させたことを示し、その摂取によるダメージが報告されている。
・WPC+CCMを補給したマウス群では、水泳耐久試験後の乳酸値が低かった。
運動中の筋肉や血液中の乳酸値の上昇は痛みや不快感を誘発し、労作感を増大させる結果、パフォーマンスを低下させる。
まとめ
・マウスの水泳負荷試験前にWPC+CCMおよび単離CCMを4週間摂取すると、IL-6の減少およびIL-10の増加を介して炎症反応を抑制することができた。
・WPC + CCMの摂取は、過労性運動による過酸化脂質を減少させ、CCM摂取はカルボニル化タンパク質濃度を減少させることが示された。
・WPC+CCMおよびCCMの摂取により一酸化窒素濃度が上昇し、心筋保護作用の可能性が示唆された。
・WPC + CCMおよびCCMの摂取は、筋肉内の炎症性浸潤および結合組織の面積を減少させ、筋繊維の面積と直径を増加させる。
・WPC+CCMの関連性により、過労性運動時の乳酸産生を低下させることができた。