複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome: CRPS)は外傷や手術の治癒後にも痛みが残る病態で、主な症状は灼熱感のある継続的な痛みだが、CRPSの症状には炎症型または熱感型と慢性型または冷感型の2つの表現型があるとされている。
症状は通常、患部の感覚運動(筋力低下、振戦、ジストニア、知覚過敏、アロディニア)、血管機能(皮膚の温度や色の変化)、浮腫や発汗、栄養学的変化を伴い、上肢または下肢に限局している。
現在定義されているCRPSの形態は、CRPS I型(アルゴジストロフィー)、CRPS II型(カウザルギー)、CRPS not otherwise specified(NOS)、CRPS with remission of some features(CRSF)。
アルゴジストロフィーでは患肢の遠位部に非皮膚性のパターン(局所性)を示し、カウザルギーは明らかに検出可能な神経損傷後に発症する。
CRPS-NOSは、他の病型を部分的に再現しており、他の疾患ではうまく説明できない。
CRSFは部分的な寛解を伴う新しいタイプのCRPSで、その特徴はまだ十分に定義されていない。
CRPSは、痛みの原因や発症メカニズムがほとんど解明されていない。
事故や骨折、手術後に発症することがあるが、若年層では緊張、捻挫、骨折などの軽微な事故に伴って発症することもある。
CRPSの前駆症状に骨折や捻挫など外傷が多いことを考えると、運動強度と頻度はCRPSリスクを高めることにつながる可能性がある。
過去にスポーツ活動におけるCRPSをテーマにした包括的なレビューは今のところない。
リンクのデータは、スポーツ選手のCRPS I型(アルゴジストロフィー)に関する最新レビュー。
PubMedおよびWeb of SciencでアスリートのCRPS I型(algodystrophy)を調査することを目的とした論文(2021年6月30日までに発表された、英語で書かれた原著論文)を選択。
15件の論文(ケースレポート12件、ケースシリーズ3件)が選ばれ、10歳から46歳の合計20名の臨床例(女性15名、男性5名)が含まれていた。
対象患者はサッカー)、陸上競技またはランニング、ホッケー、体操、バスケットボール、バレーボール、水泳、トライアスロン、野球、ハンドボール、パワーリフティング、レスリングなど様々な競技の選手。
患部は下肢が最も多く、診断までの期間は2日から4年であった。
結論
CRPS I型は若年層および下肢における有病率が高いことが示唆されたが、女性での有病率が高いことも確認された。
アスリートのCRPSを取り上げた研究の数は限られており、対象となる患者の数も限られていた。
これまでに得られた知見では、CRPSは若いアスリートにも見られることがわかっている。
早期診断は介入効果や予後に影響するため、若年者であっても原因とは不釣り合いな痛みを伴うスポーツ傷害は、CRPSを特徴づける臨床所見を検査すべきである。
しかし、CRPSを持つアスリートの症状を最小限に抑え、迅速かつ安全に活動に復帰するための最良の治療法は確立されていない。
さらなる研究が必要と結論。
Complex Regional Pain Syndrome in Athletes: Scoping Review
・CRPSは60~70歳で発症率が高く、特に高齢者では手術や骨折などの外傷後に発症することが多いが、報告例ではほとんどが若年者に発症している。
これはおそらく若年者ではスポーツ関連の傷害の発生率が高いためであると考えられる。
・患部に関しては、一般人では上肢が下肢よりも多く 、スポーツ選手ではほぼすべての患部が下肢にあることがわかった。これは、スポーツの現場では下肢の損傷(捻挫、骨折、打撲など)が多いことから説明できる。
最も多い誘因は捻挫で、患部はふくらはぎ、膝、足首、足などの下肢が最も多い。手首への発症を報告した研究は1件のみであった。
・スポーツ選手は、過去の外傷やオーバーユースよる損傷、CRPSを直接的または間接的に誘発する可能性のある臨床症状(骨減少症や無月経、うつ病など)、片頭痛のようにCRPSの素因となる疾患を併発しているケースもある。
精神疾患とCRPSの関係はまだ明らかになっていない。
・von Willebrand病の微小血管障害のように、他の併存疾患をCRPSの発生に関連付けるための病原体仮説が立てられている。
・注目すべきは、併存疾患としてカルベ・ペルテス病を報告した研究が1件あることで、これが骨強度や除脂肪体重の低下に寄与している可能性が高い。
・このレビューに含まれる研究では痛みと身体機能が主に評価されており、情緒的な幸福、参加者における全体的な改善と満足度の評価、有害事象は調査されていない。
・治療法としては、薬物(ガバペンチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、ステロイド、オピオイド、リドカインを用いた局所療法)、理学・作業療法、心理カウンセリング、ケトロラックとリドカイン、またはロピバカインとクロニジンを用いた局所神経遮断(RNB)、ブピバカインとグアネチジンを用いた腰部交感神経遮断(LSB)など。RNBやLSBなどの侵襲的アプローチは、非侵襲的治療に反応しない患者の治療や、痛みのために理学療法が制限される場合。
CRPS患者の臨床シナリオと治療反応には大きなばらつきがあることを考慮すると、この疾患の管理は障害と活動制限を包括的に評価し、薬理学的および非薬理学的治療を含むマルチモーダルな介入を生物心理社会モデルに基づいて行うべきである。
・使用しないことによる筋肉の衰えや骨量の減少を防ぎ、早期に漸進的な機械的負荷をかけることは、特にアスリートのCRPSリハビリテーションにおいて重要なポイントとなる。