筋骨格系障害の治療ではエクササイズの併用が重要。これは間違いのない事実だが、実際に採用されている方法論のエビデンス強度は低く、再現性もないことから採用には注意が必要かもしれない。
肩関節インピンジメント症候群(SIS)は肩関節複合体における複数の疾患を包括する概念で、2つのタイプが存在する。一つは一次性インピンジメントで、肩峰下滑液包の構造的変化によって、肩峰下滑液包が狭小化するもの。もう一つは二次性インピンジメントで、構造的変化を伴わずに肩峰下滑液包が狭小化するケース。

SISはローテーターカフ病変、肩関節不安定性、肩甲骨運動障害、上腕二頭筋の病変、肩甲上腕関節内旋可動域制限など複数の疾患の結果として生じる。
またSISは、特定のスポーツ種目によっては最大外旋を伴う水平外転および一定量の肩関節外転時に痛みを生じる。オーバーヘッドモーションを多用するアスリートにおけるSIS有病率は5~36%とされている。
”治療的運動”はSIS患者に推奨されており、疼痛と機能障害を軽減するのに効果的で、費用対効果の高い介入と考えられてきたが、『効果的だ』という言説の一人歩きにもかかわらず、最適な運動の種類、負荷量、期間、期待されるアウトカムは確立されていない。
治療的運動プロトコルの細部の不透明さはこのプロトコルの再現性を失わせ、アスリートに不要な混乱を強いる可能性がある。
さらに、現在までオーバーヘッドアスリートのSIS治療のための運動療法介入の質を評価した系統的レビューは存在しない。
したがって、臨床診療において運動介入の質を改善して適用するために、その質レベルを確かめることは非常に重要と考えられる。
リンクの研究は、オーバーヘッドアスリートのSIS治療のためのCERTチェックリストを通じて、既存運動プロトコルの質を評価したもの。組み込まれた研究の方法論的厳密性を判断するためバイアスリスクも評価。
【結果】
5つの研究が包含基準を満たし、4つのRCTと1つのケースシリーズで構成された。
CERTスコアは6から13の範囲(中央値=8、四分位範囲=1)で、報告の質が最適でないことを示した。
一般に報告されたCERT項目にはトレーニング機器の使用と運動の調整が含まれていたが、アドヒアランス、モチベーション、介入の忠実性などの重要な側面は一貫して過少報告されていた。組み込まれた研究のいずれもCERTガイドラインに従った運動介入の包括的な詳細を提供しておらず、再現性と臨床応用が制限された。
【結論】
オーバーヘッドアスリートにおける運動ベースのSISに対する介入の報告の質は、依然として不十分。CERTが要求する条件を満たしたのは、5研究のうち1つのみだった。CERTスコアの中央値は8(四分位範囲1)で、最大スコアを達成した研究はなかった。
今後の研究では運動強度、ボリューム、進行、回復期間などの主要なパラメータを定義するために、より標準化されたアプローチを採用する必要がある。
また、患者の参加を促進し、治療効果を最適化するためにアドヒアランスとモチベーション戦略を研究プロトコルに体系的に組み込む必要がある。
・最適な運動の種類、用量、期間、期待されるアウトカムは依然として不明。他の系統的レビューでは肩甲上腕関節内旋可動域制限および内旋筋と外旋筋の比率の不均衡が、オーバーヘッドアスリートにおけるオーバーユースによる肩関節傷害のリスク要因であることが説明されているが、これらのリスク要因を修正するためには傷害発生率と有病率を減少させることを目的とした新しく標準化された再現可能プロトコルを作成する必要がある。
・分析により2016年以降に発表された記事で、運動介入を計画するためにCERTチェックリストの使用に言及したものはなかったことが明らかになった。SISを有するオーバーヘッドアスリートに対する運動プログラムを作成するために、CERTチェックリストは依然として使用されていないと結論付けることができる。
・RCT評価により適したRoB2ツールではなく、方法論的質の評価のために修正版Downs and Blackチェックリストを採用した。この決定は5つの論文のうちの1つであるケースシリーズを分析に含めたため。研究の質は、1つは良質、3つは中程度の質、1つは質の低いものだった。この結果は、オーバーヘッドアスリートにおけるSISを調査した研究における厳密な設計不足を明らかにしている。
トレーナーさんたちの言うことや与えられるメニューが人によって異なることから、困った経験がある方も少なくないと思いますが、運動療法に関してはこれが現実。
SNSに溢れる「〇〇治療はこのトレーニング!」はまず眉唾だと思ったほうが賢明かもしれないですよ。