近年、筋肉や筋膜のマッサージやリリース、柔軟性向上効果が謳ったいろんなデバイスが販売されている。
フォームローラー(FR)もそのうちの一つで、多くの家庭で使われていることだろう。
提唱されているFR使用方法は、1セットあたり30~120秒のローリングを1~3セット行うこと
で、関節可動域とパフォーマンス向上が得られるというのが一般的。
メカニズムとして、
・軟部組織に一定の圧力が加わることで皮膚受容体に過負荷がかかり、痛覚や伸張耐性が抑制される。
・血流増加と、筋膜炎の発生率や炎症の結果としての筋膜の過緊張の減少に関連
が挙げられる。
この2つのメカニズムはパフォーマンスの向上にも貢献すると考えられている。
またFRの使用で循環好中球が増加することで、筋肉の治癒が促進される可能性もあるという。
しかし、FRの利点を調査したレビューの大部分は、FR使用後急性期の可動域(ROM)増加に焦点を当てたもので、FR使用後の柔軟性、回復、パフォーマンスに対する長期的な効果(4週間以上)を調査している文献はほとんどなく、特に柔軟性に対するFRの長期的効果についてはコンセンサスが得られていない。
リンクの研究は、フォームローリング(FR)の柔軟性とパフォーマンスに対する長期的効果に関する既存文献をレビューしたもの。
2022年1月にFRに関連するトピックについて電子データベースを検索。
含まれる研究は、以下の基準を満たした。
・英語で書かれた査読済みの論文
・4週間以上のFR介
・モーターを使用しないFR装置
・対照群の存在を伴う無作為化対照試験
・柔軟性、回復、パフォーマンスに関連するあらゆる下半身パラメータ
この基準を満たした研究は9件であった。
結果
長期的なFRは、柔軟性の改善に関して矛盾する結果を示した。
これらのレビューの論文の大部分は、パフォーマンス向上に対するFRの有益な効果はないが、有害でもないことを示した。
組織の回復に対する長期的なFRの効果に関しては、情報がない。
Chronic Effects of Foam Rolling on Flexibility and Performance: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials
・今回、少なくとも4週間実施された9つの研究から、柔軟性、パフォーマンス、回復に対するFRの慢性的な効果を評価。
8つの研究は柔軟性に対するFRの効果の調査、6つの研究はパフォーマンスに対するFRの効果を決定するために調査されていた。
その結果、FRの柔軟性への効果は矛盾していたが、柔軟性が向上するとする研究が大半を占めた。
一方、研究のほとんどは、FRと対称群の間でパフォーマンス向上に有意な差がないことを示した。
最後に、回復について調査した研究はなかった。
・フォームローリングが柔軟性に及ぼす影響
FRの柔軟性に対する長期的な効果に関して、含まれる研究の大半はFRが関節可動域(ROM)を増加させる可能性を報告している。
ROMを改善するために必要な介入頻度は、週3回であり、各介入セッションは、3セット30~50秒のセットで構成されている。
FRは軟部組織の癒着による制限を取り除き、その結果として標的筋の伸展性を高めることによって柔軟性に影響を与えると考えられている。
しかしある研究では、前述の研究とプロトコルが類似しているにもかかわらず、FRの介入は股関節屈曲ROMを改善しなかったと報告されている。この矛盾した結果の理由の1つに、ローラーマッサージャーは、柔軟性の改善をもたらすための力を得るには十分でない可能性がある。
日本の研究では、痛みの感覚を減らして伸張耐性を高めるためのシグナル伝達を誘発するメカニズムにおいて、FRが筋肉に加える力程度では柔軟性の向上を促進するのに十分でない可能性があると結論づけている。
さらに、足関節背屈ROMに対するFRの影響を調査した3つの研究では、背屈ROMの改善を報告したのは1件のみであった。
足関節背屈ROMについて対照群との有意差を報告しなかった2つの研究ではランジテストによる測定が採用された。
ランジ動作は主にヒラメ筋を対象としているのに対し、FRは主に腓腹筋を対象としているため、差が出なかったことを部分的に説明していると考えられる。
現在、FRの柔軟性への効果は介入後2分以内に効果が得られ、約30~60分後には有益な効果が沈静化するとされている。
さらに、FRが筋膜をリリースするという確実な証拠はないが、軟組織構造(例:軟組織の弾性、筋硬度)、伸張に対する耐性(例:痛みの圧力閾値)の即時増加も観察されている。
・フォームローリングのパフォーマンスへの影響
このレビューでは、大多数の研究でFRはCONと比較してパフォーマンスに差がないことが示された。
FRの使用による身体パフォーマンスの長期的な改善を報告した研究は1件のみ。
その研究では変形性股関節症の患者にFRが適用され、毎日10分間、11~12週間、股関節と大腿部の筋肉にFRが適用された。
その結果、股関節の痛みが大幅に軽減され、身体機能が改善されたことが報告されている。
FRによる自重による圧力が股関節の軟部組織の再編成を促進し、血流と循環を増加させ、中枢神経系における痛覚を調節した可能性がある。
また、FRが結合組織の求心性受容体の伝達を促進した可能性もある。
さらに、FRが心理的なリラクゼーションの達成に寄与している可能性もある。
FRの使用時間に関する知見は結論に至っていないが、疼痛を軽減するために推奨されるFRの使用時間は約90秒。
FRの長期的な利点は、健康な集団におけるパフォーマンス向上に有意差はなかった。
一方、有害な効果も示さなかったようである。
パフォーマンス向上のために長時間のFR(9分以上)を使用する場合、神経の興奮性を抑制し、筋力出力を低下させる可能性があるため注意が必要。
FRは関節の伸展耐性と疼痛コントロールを改善し、運動中の関節ROMも増加させることができるが、これらの効果はスポーツパフォーマンスにおいては無視できるほど小さいか、選択的な測定では検出できない可能性がある。
・FRが回復に及ぼす影響
長期間の FR による回復マーカーを調査した研究はない。
結論
柔軟性に対するFRの長期的効果に関するコンセンサスは得られていない。
さらに、このレビューの研究の大部分はパフォーマンスに対するFRの非効果を示したが、長期的なFRはパフォーマンス向上のにおいて有害ではないようだ。
最後に、回復に対する慢性的なFRの効果に関しては情報がない。
文中に「長期的なROMの増加は、実際の軟部組織の構造の変化よりも、むしろ痛みの知覚の変化によるものと想定されている」という一文があって、解釈の仕方によって非常に面白い。
これを「良い効果」と捉えるか、「危険因子」と捉えるかは意見が分かれるところだろう。