パワーリフティングはベンチプレス、デッドリフト、フリースクワットで可能な限り高重量を持ち上げるスポーツ。
パラリンピックにおけるパワーリフティングはベンチプレスに限定される。
高負荷トレーニングは筋の微細損傷を増加させ、トレーニングセッション間のアスリートの回復時間を長くし、計画したトレーニング量に影響を及ぼす。トレーニング計画からの逸脱は疲労、筋損傷、筋骨格系傷害リスクを増加する傾向があることから、アスリートの障害予防とパフォーマンス向上にはトレーニングセッション間に十分な回復を行うことが不可欠であり、回復促進のための戦略を立てる必要がある。
近年のトレーニング後の回復を促進するメソッドとして、薬物、サプリメント、CWIなどの方法が用いられている。中でもCWIは論争の的となっており、2つのメタ解析ではCWIが筋損傷と疼痛の軽減に中程度の効果がある可能性が示されている。
一方で、CWIは筋肉痛と炎症を軽減して回復プロセスを促進するが、トレーニング後にCWIを頻繁に使用すると長期的な筋力や筋肥大の向上が損なわれる可能性があることを示唆する研究もあり、適切なCWIの使用に関する結論は纏まっていない。
リンクの研究は、パラパワーリフティング選手におけるトレーニング後の様々な回復方法が筋損傷に及ぼす影響を評価したもの。
11名の男子アスリートが対象のクロスオーバー研究。
筋損傷は血液生化学マーカー(サイトカインIL-6、IL-10、TNF-α)と、最大等尺収縮力(MIF)、MIFまでの時間、筋力発達率などの等尺力指標を用いて評価。
受動的回復(RP)またはCWIの評価は、回復プロトコルの前、直後、24時間後と48時間後に行った。
【結果】
等尺性最大筋力(MIF)はCWI適用48時間後に有意に改善した。
生化学的マーカーの分析では、異なる時点における回復法間の有意差は得られなかった。
IL-6は、CWI前とCWI2時間後、CWI15分後とCWI48時間後の間に有意差があった。
【結論】
筋損傷は代謝、筋構造、微小血管の変化から生じる可能性があり、全身的影響と局所的影響の両方をもたらす。
介入は局所的回復のいくつかの側面に影響を及ぼすが、全身的影響は依然として持続することが示された。
24時間後の時点では、CWI法が受動的回復を上回ったことが示唆された。
CWIは静的な筋力指標においてより優れており、PRと比較してCWIではMIFがより安定したままだった。
PRによるトレーニング直後の瞬間と比較して、CWIは同じ瞬間でもPRよりも優れた値を示した。
さらに、48時間後でのCWIは特にMIFまでの時間の点で優れていた。
CWIは受動的方法と比較して、特にトレーニング後24時間および48時間における静的筋力指標に関して、よりよい回復をもたらしうる重要な方法であると考えられる。
実用的応用として、激しいトレーニングセッションの後や競技会における特定の動作に関してより良い回復を助け、結果としてトレーニングやパフォーマンスへの反応を向上させる方法として冷水浸漬を散発的に使用することが考えられる。
またCWIは、常温の水を使用する他の療法と比較して筋肉痛を改善し、より優れた神経筋回復をした。CWIの使用は運動誘発性筋損傷(EIMD)の軽減に効果的であることが証明されており、パラリンピックのパワーリフティング選手だけでなく、高負荷でより激しいトレーニングを行う他の競技の選手にも適応される。
最大等尺筋力への影響
・過去の研究では、トレーニング後のCWIが特定の生理学的適応を促進し、筋力トレーニングに悪影響を及ぼすことが示されている。この主張は、CWIが筋肥大に関連する側面には有害な影響を及ぼすが、パワー/筋力発達率のような神経的側面に関連する指標は改善する傾向があることに基づく。したがって、運動後の回復にCWIを適用することはボディビル など形態学的側面を目的とした筋力トレーニングにはマイナスの効果をもたらし、パワーリフティングのような神経的側面に重点を置いた急速な力の発生にはプラスの効果をもたらす可能性がある。
・この研究ではCWIと筋力指標との間に正の相関が認められ、CWIを運動後の回復、特に急速な筋力回復に関連づけた他の研究と一致していた。
筋損傷の生化学的マーカー
・TNF-α、IL-10に差は観察されなかった。介入後72時間までの評価ではCWIが血漿マーカーに影響を及ぼさなかった他の研究と一致している。しかしIL-6の評価では、回復プロトコール前、回復プロトコール15分後、回復プロトコール48時間後の時点で有意差が観察された。受動的回復法では差は観察されなかった。
・筋損傷は筋修復を目的とした炎症反応を引き起こす傾向がある。回復時はTNF-αのような炎症性サイトカインが放出され、筋損傷や組織分解のシグナル伝達に関与している。好中球、炎症性サイトカイン(IL-6など)、活性酸素種の放出は収縮機能障害や異化活性の増加などを促進する。特にTNF-αは運動誘発性筋障害後の収縮能の低下と関連している。
今回、受動的回復法とCWI回復法の間に有意差は認められず、いずれの方法でもTNF-αの有意な増加は認められなかった。この知見は、TNF-αに関してCWIが有効でない可能性を示唆している。
・CWIは末梢組織への血流を減少させ、炎症と運動後の筋浮腫を減少させる寒冷誘導性血管収縮を介して作用すると考えられる。CWIは遅発性筋肉痛を軽減し、筋力をより早く回復させるのに役立つ可能性がある。CWIが疲労回復に関係するメカニズムとして血中乳酸値低下が考えられる。寒冷にさらされると乳酸の除去速度が高まるため、激しい運動後の代謝回復が促進される可能性がある。
・CWIは炎症性サイトカインの放出を抑え、二次的筋損傷を抑制する。冷水浸漬はタンパク質合成に関連して作用し、短期的には有益な炎症の減少が見られるが、トレーニング後に頻繁に寒冷にさらされると長期的には筋適応が減衰し、筋成長と強化に必要な同化プロセスが阻害されることになる。
・・・CWIを適宜行えるアイテムを常備するのも現実的に難しいので、アイシング用品やフットバス用品の代用などでCWIを行ってみてはどうだろう。