近年、炎症性肺疾患が世界的な公衆衛生問題になっており、WHOによると呼吸器感染症は世界における死亡原因および疾病負担の第4位を占めている。
同様に喘息有病率も過去数十年の間に増加しており、小児で最も多い慢性疾患となっている。
小児における炎症性肺疾患の発症には、妊娠中の母親の脂肪摂取が関係している。
動物実験では、妊娠中の母親の高脂肪食が離乳期の子供に気道炎症、気道過敏性、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染への感受性を高めることが証明されている。
同様にヒトを対象とした観察研究と介入研究の両方から、子孫の喘息や喘息関連症状リスクは母親のn-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)摂取量と負の相関関係があることが示されている。
妊娠中の母親の脂肪酸(FA)状態は、一般的な炎症と子供の免疫系の発達に関連している。
具体的には、母親の食事中のn-6/n-3PUFA比が重要とみられ、母親の食事中のn-6FAは炎症促進メディエーターであるのに対し、n-3FAは抗炎症作用を有することが報告されている。
リンクの研究は、母親のFA状態と子孫の炎症や肺疾患との関連を検討したもの。
多変量正準相関分析(CCA)を用いてMEFABコホートのデータを分析することで、妊娠中の母親の脂肪酸(FA)の状態と子どもの炎症マーカーおよび肺の状態との関連を調べている。
MEFABコホートでは妊娠16週、22週、32週および出生時に39種類のリン脂質FAが母体血漿中で測定。子どもの炎症マーカーと炎症性肺疾患の医師診断を7歳時に評価。
結果
妊娠中の母親のFAレベルは7歳時の子供の炎症マーカーと有意に相関し、ミード酸(20:3n-9)がこの相関に最も重要なFAだった。
ミード酸の重要性をさらに検証するために、出生日の母親のミード酸濃度と7歳時の子供の炎症性肺疾患の発症との関係を調べた結果、子どもの性別で層別化した後では出生日の母親のミード酸濃度は、男児では自己申告による喘息および肺感染症の医師の診断と、女児では気管支炎および肺障害の総数と有意に関連していた。
・この論文では、妊娠中の母親の血漿中FA濃度が7歳時の子どもの炎症マーカーと有意に相関していること、ミード酸が妊娠の異なる時点(22週から分娩まで)でCCAに最も寄与する脂肪酸であることが確認された。
出生日の母親のミード酸濃度が、女児では自己申告の喘息、気管支炎、肺疾患の総数と、男児では自己申告の肺感染症と有意な相関があることが示された。
・母体のFAプロファイルは妊娠期間を通じて徐々に変化することが確認された。
・7歳時の子どもの炎症マーカーと、妊娠16週、22週、32週および出生時の母親の血漿中FA濃度との多変量解析の結果、出生前のすべての時点において母親における様々なFAの血中濃度が7歳時の子どもの炎症マーカーと有意に相関していた。
子どもの炎症マーカーと関連したFAのうち、ミード酸は複数の時点(22週以降のすべての時点)において、多変量相関における有意なFAとして同定された。
・ミード酸はn-9系PUFAで、生体内でオレイン酸からFatty acid desaturase 1(Fads1)、Fatty acid desaturase 2(Fads2)、Elongation of very long chain fatty acids protein5 (Elovl5)という酵素によって伸長と脱飽和を経て合成される。Fads1、Fads2およびElovl5はn-6およびn-3PUFAであるリノール酸(LA)およびα-リノレン酸(ALA)を、アラキドン酸(AA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)のような、それぞれの長鎖誘導体へと伸長および脱飽和化する。n-3、n-6およびn-9PUFA間で代謝経路が共有されているため、n-3およびn-6 PUFAレベルが低いとミード酸合成が亢進する。そのためミード酸は必須脂肪酸欠乏症のバイオマーカーと考えられている。
・ミード酸は炎症性メディエーターとして作用し、肺感染症、喘息、気管支炎などの炎症性肺疾患の経過に寄与する可能性がある。これらのデータから、母親は妊娠中に必須脂肪酸を十分に摂取しミード酸のデノボ合成を避けるべきだと推測される。
・出産当日の母親の血漿中のミード酸レベルと、子供の肺疾患の医師の診断との関連を調べた結果、出生日の母親のミード酸濃度は小児のいくつかの肺疾患の診断と正の相関を示した。性別で層別化した後の相関は、喘息、気管支炎、肺感染症の回数では女児で有意であったが男児では有意ではなかった。このような性特異的な相関は、肺の発達や肺疾患に関する男女間の既知の違い(性ホルモンなど)に関連している可能性がある。
・母体の脂肪酸状態と小児の炎症との関係におけるミード酸の重要性は、必須脂肪酸欠乏のバイオマーカーとしての役割によるものなのか、炎症性メディエーターとしてのミード酸自身の生物学的機能によるものなのか、あるいはその両方の組み合わせによるものなのかを今後の研究で調査する必要がある。