過去に書いたブログは産後うつのデータが多かったが、今回は妊娠期間中のうつ病、産前うつについてのデータをまとめてみたい。
産前うつは特に妊娠第2期に発症する傾向があり、産後うつおよび低出生体重児やその後の発達段階におけるさまざまな情動、行動、および神経認知機能の問題など不良な転帰につながる可能性がある。
非妊娠集団における栄養と食事がうつ病に及ぼす影響が近年研究されており、果物、野菜、魚、全粒穀物を多く摂取する全体的に健康的な食事パターンがうつ病リスクを軽減することがわかっているが、妊娠中の女性の食事の質と産前うつとの関連および関連因子についての理解はまだ十分なレベルに至っていない。
健康な妊婦における食事の質と出生前の抑うつ症状には果たして関係があるのだろうか?
リンクの研究は、母親の食事の質と出生前の抑うつ症状との関連、およびこの関連に対する経済的幸福度の緩和効果を調査したもの。
妊娠後期の健康な妊婦43人を対象にEdinburgh Postnatal Depression Scaleを用いて評価。食事の質はAdapted Dietary Inflammatory Index(ADII)とHealthy Eating Index(HEI)-2015を試算。
結果
HEI-2015が高く、ADIIマイナスは出生前の抑うつ症状の少なさと関連していた。
経済的幸福度が低い妊婦では、炎症性の食事はより多くの産前うつ症状と関連していたが、経済的幸福度が高い妊婦ではその関連は有意ではなかった。
炎症の軽減を目的とした食事介入は、経済的に脆弱な妊婦のメンタルヘルスを改善する上で有望である可能性がある。
Maternal Diet Quality and Prenatal Depressive Symptoms: The Moderating Role of Economic Well-Being
・抗炎症性を特徴とするより質の高い母親の食事は産前抑うつ症状の減少と関連していた。
・母親の食事がHEI-2015ではなくADIIで測定された場合、経済的な幸福が食事の質と産前うつ症状との関連性を緩和した。経済的な幸福感が悪い妊婦は炎症誘発性の食事パターン(例:飽和脂肪と砂糖が豊富で、食物繊維と微量栄養素の摂取が少ない)を守っている場合、産前うつ症状に対する脆弱性が増加する可能性がある。
・妊娠中は胎児の発育のために栄養需要が高まるが、オメガ3多価不飽和脂肪酸、葉酸、ビタミンB群、鉄、カルシウムの摂取不足が一般に観察され、うつ病と関連している。
・食事の質の低さを示す精製糖質の大量消費は血糖値の急激な変化を通じてうつ病や不安症のリスクを高める可能性がある。
・食の質の低下とうつ病の関連には炎症が関与している可能性がある。例えば、高脂肪食は炎症と関連しており、飽和脂肪と精製糖質の大量摂取を特徴とする欧米食は炎症、うつ病、認知障害の増加と関連している。
・HEI-2015とADIIはともに産前うつ症状と関連していた。HEI-2015と比較して、ADIIはオメガ3多価不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミンおよびミネラル、カフェイン、エタノール、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸を含む、炎症マーカーとの関連が実証されている栄養素および食事成分のスコアを包含している。したがってADIIと産前うつ症状が相関しているという今回の発見は一般集団における炎症と抑うつとの関連を支持しするものである。
・食事の質の低下は妊娠中高血糖や妊娠糖尿病リスク上昇と関連している。妊娠高血糖は高確率で産前うつ症状と関連する。
・炎症性の食事と産前うつ症状の増大との関連は、経済的幸福度が低い妊婦で有意であり、経済的幸福度が高い妊婦では有意ではなかったことは興味深い。経済的な幸福度が悪いと妊婦は健康状態が最適でない状態になりやすく、炎症性食事が産前うつに及ぼす影響を悪化させるのかもしれない。
全米成人サンプルでは、低所得はIL-6、C反応性蛋白、フィブリノゲンの高濃度と関連して、これらは健康不良や疾病リスク増大させることが判明している。
このデータの知見は、抗炎症性食およびより質の高い母親の食事は、産前の抑うつ症状の軽減と関連していることを示しており、経済的に恵まれない妊婦が炎症促進性の食事を摂取することで産前の抑うつ症状に対してより脆弱になる可能性があるという新たな予備的証拠を提供している。
健康的で抗炎症性食の重要性について妊婦を教育し出生前の栄養改善を促進することは、妊娠中の母親のメンタルヘルスに対して良いサポートになるだろう。