今回のブログは、バスケットボール栄養学最新版をまとめてお届けします。
バスケットボールの試合中は間欠的な高強度パフォーマンスが長時間行われるため、生理的および代謝的な要求が非常に高くなる。
48分の試合中に3.2~6.8mmol/L(閾値以上)、最大心拍数の平均85%で5~6kmの距離を走ることが報告されている。
試合中の血中乳酸濃度の上昇は主なエネルギー源が解糖により供給されていることを示す一方、心拍数の反応は有酸素性エネルギー源の利用を間接的に示している。
1試合のカバー距離は、中速走行が21%、高速走行が20%、ジャンプ回数が12%で構成されていると報告されている。
この知見から、プレイヤーのエネルギー需要は有酸素および無酸素の両方の代謝経路に依存し、バスケットボール選手にとって炭水化物が主要な燃料源であることがわかる。
試合中に多くのエキセントリック筋収縮が反復されることを考慮すると、筋肉の修復とリモデリングに重要な役割を果たすタンパク質は試合後の回復に欠かせない栄養素と言える。
また、バスケットボール選手は試合中に大量の汗をかくため、試合前と試合後に最適な水分摂取を管理することも重要となる。
また、遠征(例:ロードトリップや飛行機での移動)は、身体コンディションやパフォーマンスに悪影響を及ぼすだけでなく、食べ物や飲み物の選択肢や摂取時間が制限されるため栄養戦略を準備および/または適用する際の障害となり得る。
以上のことから、バスケットボール選手、特に特別なトーナメントにおける栄養補給には試合に伴う生理学的要求と選手の特徴に関する特別な知識が必要であるにもかかわらず、バスケットボール界には特定の栄養ガイドラインが存在しない。
リンクのレビューは、生理学的ストレスが類似している他のチームスポーツから現在のガイドラインを適応させ、バスケットボールの生理学的要求と現在のスポーツ栄養ガイドラインに基いてバスケットボールトーナメントにおける最適な栄養戦略を検討し、短期間の国際トーナメントで管理できる実用的栄養戦略を提供している。
・トーナメント期間中の試合前、中、後における実践的栄養戦略
バスケットボール選手の1日あたりの食事摂取量について、いくつかの研究がなされている。
1日のカロリー摂取量は比較的多く(3500~5500kcal/日)、1日の炭水化物摂取量は大学および/または青年のバスケットボール選手において4~6g/kg BWと報告されている。
エリートバスケットボール選手では1日の炭水化物摂取量は〜5g/kgと報告されている。
この炭水化物量は、中程度から非常に高強度の運動からの回復のためにチームスポーツ選手の1日あたりの炭水化物推奨量の低い範囲(体重5~12g/kg)をちょうど満たしているが、試合日、特に短期トーナメントでは非常に高い強度でパフォーマンスが行われるため、より高摂取量が必要となる。
タンパク質摂取に関しては、1日のタンパク質摂取量は1.5〜2g/kg BMと報告されている。
この摂取量はチームスポーツのアスリートの推奨レベルだが、短期トーナメント中に骨格筋、骨および結合組織の修復を促進するためには、摂取タイミングに加えてこの量を試合前後および1日を通して分割摂取することが極めて重要であることを強調する必要がある。
下の図は、6日間で4試合を行うと仮定して、トーナメント期間中のパフォーマンスと耐久性を最大にするための重要な栄養戦略(具体的な食事内容、タイミング)を記している。
・試合前の栄養補給
試合当日は、トレーニング日よりもエネルギー消費量と炭水化物の必要量が多くなる。
週に1回プレーする場合は回復のための十分な時間があるが、数日続けてプレーすると水分やグリコーゲンの枯渇が進行するためパフォーマンスが低下する。
そのため、積極的に十分な量の水分と炭水化物を供給する必要がある。
バスケットボール試合日のグリコーゲン枯渇に関する特別な研究は無いが、チームスポーツのアスリートにおいて1試合毎に顕著なグリコーゲン枯渇が発生することが報告されている。
したがって、前日にカーボローディングで大量の糖質を摂取することは、バスケットボール選手にとって有益である。
36-48時間の高炭水化物摂取でグリコーゲン貯蔵量は〜90mmolから〜180mmol/kg wet weightに増加し、その後2日間同じ条件でも安定していることが実証されていることから、大会2日前からのカーボローディングはパフォーマンス維持と回復促進に有効な戦略である。
試合は大会のスケジュールによって異なる時間帯に行われるため、試合前の食事は、朝食、昼食、夕食、または、軽食の形で摂ることになる。
試合の1~4時間前に炭水化物を供給する消化の良い食事を摂取することが推奨される。
一般的に選手は試合の3~4時間前に合計1~4g/kgBWの炭水化物を、試合の45~60分前に1~2g/kgBWの炭水化物を摂取することが推奨される。
タンパク質を摂取、高繊維質の食品や高脂質の食品はそれぞれ胃腸の不快感や消化の遅れの原因となるため避けることが推奨される。
十分な水分補給は、試合中のパフォーマンスにとって非常に重要。
食事とともに十分な水分を摂取することで、試合当日に良好な水分補給状態を保つことができる(試合前8~12時間以上)。しかし、プレーヤーが水分補給をするのに十分な時間や水分量がない場合、試合直前に積極的な水分補給をする。
水やスポーツドリンクなど、約500mLを試合の少なくとも4時間前に補給することが推奨される。
尿が出ない、または尿が濃い場合は試合の約2時間前に約300~500mLの水分摂取を推奨し、試合前に余分な水分を尿として排出するのに十分な時間を確保する。
ナトリウム(20-50mEq.L-1)を含む水分摂取や少量の塩味のスナック菓子は、喉の渇きを刺激するので、プレーヤーに水分摂取を促すことができる。
・試合中のエネルギー・水分について
エネルギーと水分摂取が不十分な場合、試合中に疲労が生じる。
1試合で発生するグリコーゲン枯渇や水分不足は小さいかもしれないが、数日間のトーナメントでは選手は貯蔵グリコーゲンが少ない状態で次の試合に臨み、脱水を起こす可能性がある。
試合中の水分摂取の目的は、過度の脱水(水分不足による2%以上の体重減少)を防ぐこと。
トレーニングや試合中の体重の変化をモニターして、各選手の運動中発汗量を推定し、各選手個別の水分補給プログラムを作成しておく必要がある。
中程度の脱水状態(~2%)はバスケットボール選手のスキルや動作パターン、スプリントやシュートのパフォーマンスに悪影響を及ぼす。
バスケットボールプレイ中に炭水化物および/または炭水化物-電解質溶液を摂取すると、特に4ピリでスプリントスピード、疲労までの時間、認知機能および気分状態が改善されるというエビデンスがある。
現在、試合中の炭水化物摂取量は30~60g/hが推奨されている。
バスケットボールは断続的かつ爆発的であるため、選手は試合中に少量かつ頻繁に炭水化物や水分を摂取することが有益。実際にタイムアウト、クォーターとハーフタイムの間、選手交代は補給の機会を提供する。
30~60gの炭水化物を摂取するパターンを選手ごとに確立する必要がある。(例 1-2-1アプローチ:第1クォーターブレークで15g、ハーフタイムブレークで30g、第3クォーターブレークで15g)。
塩分損失を補うために、ナトリウムも体液に加える必要(議論の余地あり)。
一部のプレーヤーは塩分の損失により筋痙攣を起こしやすくなる。
スポーツドリンクの高ナトリウムバージョンは痙攣リスクを減らすために使用される。
筋けいれんに関しては、疲労や筋の過負荷により筋への抑制性インパルスと興奮性インパルスのピクルスジュースの摂取は筋痙攣を最小限に抑えるための栄養介入として注目されている。
ピクルスジュースに含まれる酢酸は、酸味の原因となって口腔咽頭受容体を刺激し、特定の神経感覚入力を活性化させることで筋痙攣を軽減させると考えられている。
現在推奨されているピクルスジュースの量は、練習、トレーニング、競技における筋肉のけいれんを軽減し管理するために70~100mL(酢酸0.35~0.66g)。
上記の戦略はすべて実践前にトレーニングで体幹を確認されるべきであることに注意。
温度調節が可能な屋内以外の温暖な地域で試合スケジュールが立て込んでいたり、移動が多い場合には、
(I)事前に現地の環境条件を把握し、発汗量が多くなる危険性を判断すること
(II)十分な水分補給をした状態でゲームを開始すること
(III)高温多湿の環境での試合では、水分摂取量を増やすこと
が非常に重要。
・試合後栄養補給と水分補給
試合を連日行うトーナメントでは回復のための栄養補給が不可欠。
栄養戦略次第では回復時間が短くなることに加え、移動による疲労、エネルギーや水分の大幅な消耗によって次の試合の前に補給しなければならない栄養上の課題が多く発生する。
さらに、高強度プレーによる筋損傷や負傷が起こる可能性があり、その回復と修復も必要。
実際のトーナメントにおける研究では、3日間連続でバスケットボールをプレーすると累積疲労が生じることが実証されている。
さらに、炭水化物(およびタンパク質)の補給を促進する食事戦略にもかかわらず、筋グリコーゲンの回復過程が1試合後には72時間まで延長することもある。
グリコーゲン合成酵素は試合後最初の30分間で最も活性化し、試合後2時間と比較して45%高い筋グリコーゲン濃度を提供するたことから、まず選手は試合直後に消耗した筋と肝臓のグリコーゲン貯蔵量を回復することを目標とすべきである。
試合後の回復期間が24時間以内である場合、プレーヤーは運動後最初の4時間に1時間あたり1~1.2g/kgの炭水化物を摂取し、グリコーゲンの再合成を促進することを目標とする必要がありる。
回復期に炭水化物(0.8~1g/kg)にタンパク質(0.3~0.4g/kg)を追加すると、炭水化物のみの1~1.2g/kg摂取と比較して、同様のグリコーゲン合成を行うことができることから(損なわれない)、試合後の炭水化物とタンパク質の混合物は回復のもう一つの基本的要素である筋タンパク質合成を促進する。
バスケットボール選手はスポーツの性質上、筋損傷や筋機能の低下を誘発する可能性がある。
試合後の栄養戦略は、筋タンパク質合成(MPS)にも照準を合わせるべきである。
0.25g/kgのタンパク質摂取はMPSの刺激を最適化するが、最近ではより高用量(0.4g/kg)はより大きなMPSが得られると報告されている。
MPS刺激は試合後3時間までに最大化されるため、選手は試合後30分以内にタンパク質を摂取するようにし、3-4時間ごとに摂取し続けることがMPSを最大化するために有効。
動物性タンパク質(ホエイなど)はMPSの主なトリガーとなるロイシンの含有量が多く、消化・吸収が速い。
ベジタリアンやヴィーガンの選手は、大豆タンパク質が選択肢になり得る。
既存のエビデンスでは、消化吸収の遅いカゼインタンパク質を夜睡眠前に摂取することでMPSが増加し、タンパク質バランスが改善されることが示されている。
夜間の睡眠時間(7~9時間)は、個人がタンパク質を摂取しない最も長い時間。プレーヤーは睡眠前に30~40gのカゼインタンパク質を摂取することで、回復をサポートすることができる。
・遠征・移動のための栄養戦略
遠征は、プレーヤーの栄養ルーチンに影響を与える。
移動中に直面する可能性のある問題は、フライト中の水分補給、目的地で入手できる食事、ケータリングプラン、衛生基準、試合の目標や新しい環境から生じる特別な栄養ニーズなど。
飛行機、バス、列車での移動中は、空気の状態により水分の損失が増えるため、航空会社、バス会社、列車会社に、追加の水分サービスを提供するかどうか確認が必要。
海外旅行先では、衛生面も考慮する必要がある。
プレーヤーは、密封された水のボトルを準備するか、自分の目の前でボトルを開けることを確認する必要がある。
ビュッフェがある場合はよく調理されたものを選び、野菜がボトルや沸騰したお湯で洗われているかどうかわからない場合はサラダや生野菜を避けるべき。
・スポーツフードとサプリメント
本研究では、論文著者の現場での経験に基づき、急性および/または短期の投与後に試合で効果が期待できるいくつかの特定のサプリメントに関する簡単な情報を提示する。
カフェイン
運動60分前にカフェイン(3mg/kgBM)を補給すると、ジャンプ高、ボディコンタクト、バスケットボールゲーム中の全体的なパフォーマンスが向上することが示された。
また、カフェイン入り飲料(カフェイン3mg/kg BM)の摂取はプラセボと比較して、ジャンプの高さと脚の総筋出力を改善することが報告された。
適量のカフェイン(3~6mg/kg BM)は、日常的な量のコーヒー、スポーツドリンク、サプリによって摂取することができる。
一方、カフェインは睡眠パターンに悪影響を及ぼす可能性があるため、試合が夕方の時間帯に行われる場合、試合前の使用は考慮しなければならない。
重炭酸塩
重炭酸は過剰な胃酸を緩衝し、乳酸にマイナスの影響を与える。
ある研究では、バスケットボールの試合シミュレーションの90分前と60分前に0.2g/kgの重炭酸ナトリウムを補給すると、筋収縮要素が保護されることで疲労が減少したと報告されている。しかし大量摂取は試合前に胃腸(GI)障害を起こす可能性がある。
0.4g/kgの炭酸水素ナトリウムを3日間(1日3回に分けて)投与したところ、バスケットボールの模擬運動中、GIの副作用なしに反復スプリントとジャンプのパフォーマンスが向上したとの報告もある。
硝酸塩/ビーツジュース
一酸化窒素の産生を増加させ、運動効率・運動能力を高めることができる。
既存の文献にでは、硝酸塩の補給は筋収縮力、特にピークパワーとピークパワーまでの時間を早める可能性があることが示されている。
また硝酸塩の補給は、間欠的な運動パフォーマンス、スプリントパフォーマンス、認知パフォーマンス(すなわち反応時間)を向上させるという証拠も存在する。
よくトレーニングされた個人では硝酸塩の効果があまり現れないことから、比較的多量の硝酸塩を摂取する必要がある(1日6~12mmol)。
硝酸塩補給のエルゴジェニック効果は、急性および慢性補給の両方で報告されており、複数日(3~7日)の補給が訓練されたアスリートに適しているかもしれない。
洗口液の使用は硝酸塩の効果を鈍らせることがよく知られているため、アスリートは硝酸塩補給を行う際に洗口液の使用を避ける方が良い。
オメガ3
オメガ3脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)は、脳と筋肉の重要な細胞膜成分として膜機能を高める。
またオメガ3脂肪酸の抗炎症作用は、より早い回復を促進すると考えられている(注)。
オメガ3摂取による偏心運動誘発性遅発性筋肉痛(DOMS)の軽減を報告する研究もある。
・抗炎症作用(タルトチェリージュース)レジスタンス運動、高負荷エキセントリック運動、ランニング後のタルトチェリージュース摂取は筋損傷や炎症マーカーが軽減することが報告されている。
・クレアチン
クレアチンモノハイドレートの補給は短期間の高強度運動能力およびマルチスプリント性能を改善する可能性がある。クレアチン補給は筋肉の水分量を増加させるため、1~2kgの体重増加を引き起こすことがあるためランニングやジャンプを伴うチームスポーツの一部の選手にとって不利かもしれない。したがって、大会前にパワーウェイトレシオを損なう可能性のある体重増加を避けるために、「ローディング期」を避けた低用量プロトコルを提案する。
(注)魚類などから摂取する分には問題ないと思うがサプリで過剰に摂取した場合は、抗炎症作用が逆転する可能性もある。