不眠症は日中の認知能力の低下、疲労、気分障害を伴い、動脈性高血圧、心筋梗塞、心不全、2型糖尿病、認知障害、神経変性疾患、大うつ病、職場や自動車での事故など多くの慢性疾患のリスクを著しく高め、死亡率を高めることから世界的な問題となっている。
閉経移行期から閉経後女性は、男性と比較して不眠症発症リスクが高く、ホットフラッシュ、寝汗、夜間頻尿などの更年期症状はその前駆症状と考えられている。
睡眠障害は更年期移行期に劇的に増加し、妊娠適齢期後期(40代後半頃)から更年期(50代前半)にかけて有病率は増加する。
更年期への移行に伴うエストラジオールの減少、卵胞刺激ホルモン、プロゲステロン、テストステロンの増加など、様々な性ホルモンレベルの変化は、睡眠の質の低下、睡眠の断片化、中途覚醒の増加と関連する。
また、肥満、逆流性食道炎、尿失禁、夜間排尿、甲状腺機能障害など中年期特有の病状も睡眠への影響を大きくする。
慢性不眠症は急性不眠症と比較して、死亡率、罹患率、事故リスクが高く、米国、英国、台湾のコホート研究では不眠症発生率は閉経後女性ではるかに高く、閉経の初期よりも後期に多く、閉経期終末期には約3分の1の女性が慢性不眠症を報告した。
慢性不眠症の閉経後女性は、すべての領域でQOLが有意に悪化することが示されている。
興味深いのは、酸化ストレスと慢性不眠症が双方向にサイクル的な複雑な作用を示すこと。
酸化ストレスは睡眠と覚醒のサイクルを崩すことで睡眠障害を引き起こす一方で、睡眠の質の低下は酸化ストレスを増加させて抗酸化物質レベルを低下させる。
原発性不眠症患者の血清中マロンジアルデヒド(酸化ストレスマーカー)濃度は、対照群に比べ有意に高いことが示されると同時に、抗酸化物質のグルタチオンペルオキシダーゼは睡眠不足グループでかなり低くなることが明らかになっている。
ビタミンEはフリーラジカルを駆逐して体内の細胞膜の破壊を抑え、炎症抑制作用のある抗酸化物質でフリーラジカルスカベンジャーとして機能する。
ビタミンEの推奨食事許容量(RDA)は1日あたり33.1IUで、最大摂取量は1日あたり1000IU。
多数の研究により、ビタミンEはエストロゲン欠乏によるホットフラッシュに効果があり、閉経後女性の骨形成と破壊に有益な効果があることが示されている。
しか抗酸化物質であるにもかかわらず、ヒト慢性不眠症治療に対するビタミンEの可能性を検討した臨床試験は行われていない。
リンクの研究は、慢性不眠症を有する閉経後の女性160名を2群に分け、ビタミンE摂取群には400IUのミックストコフェロールを毎日投与。
1ヵ月間の介入後、ビタミンE群ではプラセボ群に比べPSQIスコアが有意に低かった(睡眠の質が向上したことを示す)。
さらに、ビタミンE群ではプラセボ群に比べ改善度が有意に高くなった。
また、ビタミンE群では鎮静剤を使用する患者の割合が有意に減少した。
このデータは、睡眠の質を改善し、鎮静剤の使用を減らす、慢性不眠症の代替治療法としてのビタミンEの可能性を実証している。
・慢性不眠症の閉経後女性において、1ヶ月のビタミンE摂取は睡眠の質を改善し、薬剤使用を減らすことができることを示した。
・閉経後の各症状や骨の健康など、更年期におけるビタミンEの好効果を裏付けるエビデンスは多く存在する。
2011年、不眠症閉経後女性100名を対象に三重盲検無作為化比較試験を実施。
参加者は2グループに等しく分けられ、530mgのカノコソウ抽出物を含む錠剤を1日1回服用するグループと、プラセボグループに分けた。バレリアンエキス補給群はプラセボ群と比較して、PSQIスコアが統計的に有意に減少した。睡眠の質はプラセボ群のわずか4%に対し、バレリアン群では30%向上した。
・2011年の二重盲検ランダム化比較試験では38人の参加者を、大豆に含まれる天然由来の物質であるイソフラボンを80mg/日処方された女性と、プラセボを処方された女性の2群に分けた。4ヶ月間の介入後、イソフラボン群ではポリソムノグラフィーによる睡眠効率が、プラセボ群に比べて統計的に有意な改善を示した。
・2011年のマウス研究。一部のマウスを睡眠不足状態に誘導し、慢性的睡眠不足マウスにビタミンEを6週間与え、行動変化、空間学習、記憶力を定期的に評価。
また、海馬を解剖後、酸化ストレスマーカーを熱量免疫測定法により評価。
酸化ストレス、学習能力、短期記憶と長期記憶の両方において、ビタミンEを処方マウスはパフォーマンスが良く、酸化ストレスが少なく、抗酸化レベルマーカーが良好だった。
この結果はビタミンEが睡眠不足解消に好影響をもたらすメカニズムを説明できる可能性がある。
・ビタミンE補給は、酸化ストレスバイオマーカーを改善する作用を通じてストレスのステージを下げる、あるいは慢性化を解消する可能性がある。
この研究では、ビタミンE群の改善スコアはプラセボ群よりはるかに大きく、ビタミンEが睡眠の質を向上させたことが示された。
・ビタミンE推奨のの副次的目的は睡眠薬使用量の削減。
睡眠薬を使用する女性の割合の削減はビタミンE群がプラセボ群に対して有意に大きいことがわかった。ベンゾジアゼピン系(ロラゼパム、アルプラゾラム、ジアゼパム)の薬剤は、眠気、鎮静状態、めまいなどの副作用がある。
これらの副作用は、特に閉経後の女性では、ビタミンE摂取で軽減できる可能性のある転倒の危険性や動揺に対する自己反応性の低下を高めるため深刻である。