変形性関節症(Osteoarthritis:OA)は世界で5億2,800万人以上が罹患する退行性関節疾患で、関節軟骨の破壊、軟骨下骨のリモデリング、骨棘(骨棘)形成、滑膜の炎症が特徴。
慢性疼痛、こわばり、関節機能障害を引き起こし、高齢、家族歴、関節の使い過ぎが危険因子となる。
最近の研究では、OAがメタボリックシンドローム、肥満、低悪性度慢性炎症などの全身性因子の影響を受け、OA疼痛は関節損傷だけでなく全身的な炎症プロセスによっても引き起こされることが指摘されている。
また様々な研究で腸-関節軸がフォーカスされ、OAにおける炎症と疼痛調節における腸内細菌叢の役割が強調されている。腸内細菌叢組成のネガティブな変化(ディスバイオーシス)はOAを含む非伝染性慢性炎症性疾患に関与していることがわかっている。ディスバイオーシスは腸管透過性障害(リーキーガット)や炎症性メディエーターの産生および/または刺激を通じて、全身性炎症や疼痛に関与している可能性がある。
さらに、腸-脳軸に沿ったエネルギー代謝や骨代謝に対する腸内細菌叢の影響、腸内細菌叢異常の中枢性感作への関与が示唆されている。中枢性感作とは神経系が痛みのシグナルに対してより敏感になり、慢性痛が誘発される状態である。
代謝の観点では、腸内細菌叢代謝産物の中でもトリプトファン(Trp)由来の化合物は炎症と疼痛調節に関与する。Trpは必須アミノ酸で、インドール経路、キヌレニン経路、セロトニン経路における微生物由来代謝産物の前駆体。
インドール経路はアリール炭化水素受容体(AhR)のリガンドを産生し、粘膜免疫の維持と腸管透過性の調節に重要な役割を果たす。
キヌレニンとその代謝産物レベルの上昇はOAにおける炎症の亢進と関連し、OA疼痛の重症化に寄与している可能性がある。
セロトニン経路もTrpに由来し、腸-脳軸コミュニケーションや痛みの知覚に関与している。セロトニンレベルの変化は疼痛感受性の亢進と関連し、腸内細菌叢異常が関連するOA疼痛と関連している。
以上のように様々な形でOAに関与する腸内細菌叢、そして細菌叢代謝産物とOA関連疼痛の関係に対して近年ますます関心が高まっている。
リンクのレビューはOA患者における腸内細菌叢と疼痛の関係を分析した、メタ解析を伴う初の系統的レビュー。
OA患者の疼痛管理のための食事改善、プレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクスおよび/またはポストバイオティクスといったマイクロバイオームを標的とした介入法の開発に貴重な知見を提供する可能性がある。
【結果】
5件の観察研究がシステマティックレビューに含まれ、3件がメタ解析に含まれた。
2つの研究でOA患者における異なるトリプトファン代謝物と疼痛レベルとの関連が報告されていた。
他2つの研究でOAにおけるリポ多糖レベルと疼痛との相関が示された。
1件の研究でStreptococcus属の相対量と膝関節痛との相関が確認された。
【結論】
OA関連疼痛は、代謝変化(特にTrp代謝産物)や、LPSや特定の腸内細菌(Streptococcus属)の存在などの微生物的要因と密接に関連しているようだ。
局所的炎症と代謝の変化は患者が経験する痛みの強さを決定する重要な要素となる可能性があるが、頑健なメタ解析のためには方法論的に質の高い、より多くの研究が必要。
・個々の観察研究の結果、OA疼痛がTrp代謝および腸内細菌叢の変化、すなわち特定のレンサ球菌属の相対的存在量、Trp代謝に関連する微生物能およびLPSレベルと関連していることが示唆されたが、これらの結果はメタ解析では支持されなかった。
・5-OH-Trp、キノリン酸、3-OHキヌレニンレベルの上昇が痛みを伴う関節数の増加と相関することが発見され、これらの代謝産物が神経炎症ひいては痛みを増強する可能性が示唆された。
5-OH Trpの循環レベルと患者の有痛関節数との間の正の相関の報告は、線維筋痛症などにおける5-OH Trpサプリメントの既知の鎮痛効果とは対照的な所見。この明確なパラドックスは内因性5-OH Trp活性と外因性5-OH Trp活性に影響する代謝的背景、受容体感受性、炎症環境の違いを反映しているの可能性がある。
・5-ヒドロキシインドール酢酸と5-ヒドロキシトリプトホールレベルが上昇し、ILAやスカトールなどの代謝物レベルが低下するというより複雑なパターンが同定された。両研究とも、Trp代謝が痛みの発症に重要な役割を果たすことで一致している。
・LPS値とLBP値は、炎症および関節腔の狭小化や骨棘の存在といった膝関節の構造的変化と相関することが発見された。この所見はLPSが関節における炎症の局所メディエーターとして作用し、それによって痛みを増幅させていることを示唆している。
・血清LPSおよびオステオポンチン濃度の上昇が、肥満関連OAにおける疼痛増加と関連していることを発見。全身性炎症が疾患進行に影響を与えていた。腸内細菌叢の多様性と属レベルの組成に症例と対照群間で有意差は認められなかったが、LPSのような微生物成分が局所的、全身的に作用して疼痛を増大させる可能性があるという考えが補強された。
・ストレプトコッカス属の相対的存在量が高いほど、膝関節OAの疼痛が大きいことと有意に相関し、タバコの使用、アルコール摂取、BMIなどの因子とは無関係であることがわかった。
・・まだまだはっきりしないことが多い腸関節軸ですが、代謝産物の文脈は非常に興味深いですね。サプリで飲んでいる方はちょっと気をつけてもいいかもしれません。
アミノ酸は非常に重要な栄養素ですが、特定の疾患や条件下ではネガティブな作用を示す可能性を指摘するデータが増えてきました。
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