乳がん(BC)が肺がんを抜いて最も多く診断される癌となり、新規症例数は230万例(!)となり世界的に問題になっている。
様々な研究から、BC高リスクは年齢、初経・閉経年齢、出産、授乳、家族歴、遺伝的リスク、マンモグラフィ、乳腺良性疾患の既往歴、放射線、肥満、経口避妊薬、ホルモン補充療法、糖尿病と関連することがわかっている。
中でも高BMIは、閉経前女性では有益であるにもかかわらず閉経後女性においては乳癌リスクを上昇させる可能性があることがわかっている。
最近ではパンデミック下の生活様式に伴って「肥満」が世界的流行となっており、特に中心性肥満は肥満関連疾患の重大な危険因子である。
内臓脂肪の蓄積は抗酸化物質、炎症促進物質、活性酸素種(ROS)の放出を促進し、BCリスクを高める。
過去のレビューでは、ウエスト周囲径(WC)とウエスト-ヒップ比(WHR)は閉経後のBCを増加させたが、閉経前のBCは増加させないことが報告されたが、2016年に行われたメタ解析では、WCは閉経前および閉経後のBCと関連することが報告されている。
WCおよびWHRとBCの関連性を調査したそれぞれの研究結果は矛盾しており、論争が続いている。
リンクのメタ解析は、中心性肥満がBCに及ぼす影響とその用量反応関係の可能性について検討したもの。
結果
症例対照研究では、ウエスト周囲径(WC)とウエスト-ヒップ比(WHR)がBCと有意な正の相関がを示すことがわかった。
サブグループ解析の結果、WCで測定した中心性肥満は閉経前と閉経後のBCリスクを増加させ、WHRでも閉経前と閉経後で同じ関係が現れた。
ホルモン受容体陽性(HR+)とホルモン受容体陰性(HR-)のBCにおいても同様の関係が認められた。
前向きコホート研究では、WCとWHRが高いとBCリスクが増加する可能性が示された。
中心性肥満は閉経前および閉経後乳がんの危険因子であり、WCとWHRはそれを予測する可能性がある。
・症例対照研究および前向きコホート研究において、WCおよびWHRで測定される中心性肥満とBCとの間に有意な相関を見出した。
・WCとWHRが高いほどBCリスクが上昇し、閉経前ではBMIが高いほどリスクは低下した。
・2015年の研究では、閉経状態に関係なくWCとWHRがBCに関連していることが証明された。
・過剰な内臓肥満組織(VAT)には、炎症性サイトカインやアディポカインを分泌・放出するM1マクロファージが多く存在し、インスリン抵抗性やインスリン開始シグナル伝達経路の変化を引き起こし、BCの一因となる。
・中心性肥満の脂肪組織タイプである白色脂肪組織(WAT)は、TNF-α、IL-6、IL-1βを含む多くの炎症性サイトカインを分泌し、癌リスクを高める慢性炎症を引き起こす。
・肥満患者には老化細胞が多い(老化細胞は主に肥満時に内臓に蓄積し、脂肪沈着を起こす)。老化細胞は膨大な量の炎症性物質を分泌し、これが長期化すると組織障害を悪化させて腫瘍の成長を促進する。したがって、肥満は細胞老化を誘導することによって腫瘍の成長を促進する可能性がある。
・閉経前および閉経後の若い女性ではWCとWHRが高いとBCリスクが促進されることが示された。
・閉経前と閉経後では、中心性肥満とBCリスク上昇のメカニズムが異なる。閉経前の肥満群と過体重群は、正常BMI群よりエストラジオール濃度がかなり低いが、この関係は閉経後に逆転し、標準体重群が最もエストラジオール値が低くなる。エストラジオール値は一貫して中心性肥満と関連しており、WHR比やコンピュータ断層撮影法で測定した内臓脂肪面積と正の相関を示す。
・閉経後は総エストロゲンが著しく減少し、ほとんどのエストロゲンは脂肪組織で血漿中アンドロステンジオンがエストロンに変換されるアロマターゼに由来する。このアロマターゼ活性は体重とともに増加し、閉経後血漿エストロゲン濃度を上昇させる。内因的に産生されたエストロゲンは乳がんを誘発し、高血漿エストロゲン濃度とバイオアベイラビリティは閉経後BCリスクを高める。したがって、中心性脂肪はエストロゲン分泌を増加させることで閉経後BCを引き起こす可能性がある。