世界共通の習慣「シエスタ」
大規模な調査では、イギリス国民の28%以上が午後に昼寝をしていると推定され、スイス、北欧諸国、米国では40%を超える数値が出ている。
地中海沿岸やアジア諸国ではもっと高い数字が出るかもしれない。
シエスタが健康に与える影響を調査した研究では、昼寝後の意識を改善や運転者の眠気を減少させるかどうかなど神経・心理的研究が多い。
一方で、シエスタが心臓血管系イベントに影響を与えるというデータもある。
シエスタの心血管保護作用を提唱した研究と、心血管リスクの増加、死亡率の増加と関連しているとする矛盾した研究結果が存在する。
このような矛盾やその原因となる生物学的メカニズムはいまだに解明されていない。
メタボリックシンドロームは、肥満、血圧上昇、血糖値上昇、中性脂肪上昇、HDL低下といった心血管系への危険因子で、メタボリックシンドロームは、死亡率のほか、2型糖尿病、がん、手術合併症、認知症、心不全などのリスク増加と関連している。
シエスタとメタボリックシンドロームの関係を調べた新しい研究では、シエスタの長さが重要とされ、シエスタの時間が40分未満の場合はメタボリックシンドロームのリスクが減少するが、シエスタの時間が長い場合はリスクが増加することが示唆されている。
リンクのデータは、地中海の集団におけるメタボリックシンドロームの発症に対する昼寝の長さの影響を調査することを目的としたもの。
ベースラインでメタボリックシンドロームの構成要素を持たない9161人の参加者を対象に平均6.8年の追跡調査後にメタボリックシンドロームの構成要素の発症を評価した。
オッズ比を推定し、ロジスティック回帰モデルを用いて夜間の睡眠時間や睡眠の質、その他の食事、健康、ライフスタイルの要因など潜在的な交絡因子を調整。
1日の平均シエスタ時間が30分以上であることとメタボリックシンドロームの発症との間には正の相関関係が認められた。
1日の平均昼寝時間が30分以下の群と昼寝をしない群では、メタボリックシンドロームの発症リスクに有意な差は認められなかった。
さらに解析を進めると、1日の平均昼寝時間が15分未満の場合、メタボリックシンドロームのリスクが減少する可能性が示唆された。
この研究では、シエスタとメタボリックシンドロームのリスクとの関連性を示すJカーブモデルが支持されたが、保護効果はこれまで提案されていたよりも短いシエスタの長さの範囲に限られることが示唆された。
Risk of Developing Metabolic Syndrome Is Affected by Length of Daily Siesta: Results from a Prospective Cohort Study
・メタボリックシンドロームに関する調査結果の解釈
スペインの大学を卒業した地中海沿岸の人々を対象に、30分以上の昼寝とメタボリックシンドロームの発症との間に正の相関があることを発見した。
この結果は、長時間の昼寝はメタボリックシンドロームのリスクを増加させるという過去の研究と一致している。
2016年に行われた288,883人の参加者を対象としたレビューとメタアナリシスでは40分未満の昼寝に保護効果があると報告されたが、昼寝とメタボリックシンドロームの間に正の関連があると確信できるのは、1日の昼寝時間が60分を超えた場合のみであるとしている。
一方、最近の横断研究では、90分を超える昼寝はメタボリックシンドロームのリスクを高めるが、30分程度の昼寝はメタボリックシンドロームを予防する可能性があると指摘している。
・メタボリックシンドロームの構成要素に関する解釈
肥満
1日の平均昼寝時間が30分以上の場合、肥満と正の相関があることがわかった。いくつかの横断研究で長い昼寝と肥満との関連が指摘されているが、中国の横断研究では30分~1時間の昼寝の習慣がBMI≧25kg/m2で判定される過体重のリスクの減少と関連しており、我々の以前の前向き研究では30分の毎日の昼寝が肥満のリスクの減少と関連していた。同じコホートを対象とした2つの研究の間にこのような明らかな違いがあるのは、肥満の測定方法の違い(先行研究ではウエスト周囲径ではなくBMIを使用)、サンプル集団の違い(先行研究ではベースライン時に肥満のある参加者のみを除外したが、我々はメタボリックシンドロームの基準を持つ参加者を除外した)、昼寝の分類の違い(先行研究では30分以内の昼寝と30分以上の昼寝を別々のグループに分けたが、我々の研究ではこの2つのカテゴリーを統合した)に起因する。
トリグリセリド
平均30分以上の昼寝は、高トリグリセリドのリスクを高めることがわかった。昼寝の時間が長く、頻度が高いことと高トリグリセリドとの間にはこれまでにもクロスセクション研究で正の相関が報告されている。
・メタボリックシンドロームの残りの基準
過去の研究では、昼寝の長さと2型糖尿病、30分以上の昼寝と高血圧との間に正の関係があることが示されていたが、昼寝の長さと血圧、昼寝の長さと血糖値上昇との間には関係が見られなかった。
・生物学的説明
起床時に起こる血圧の上昇と心血管の変化によってもたらされる継続的な影響により、シエスタが心血管死亡率と関連していることが示唆されてきた。
この理論では、シエスタを取ることで睡眠から目覚める一日当たりの回数が増え、それによって関連する心血管リスクが増加するとしている。
しかしこの研究では、シエスタと血圧上昇との間に有意な関連を見いだすことはできなかった。
おそらくこの理論は、シエスタする時点ですでに高血圧や心血管疾患を患っている人に最も関係があると思われる。
シエスタとメタボリックシンドロームとの間に観察された関連性の生物学的説明の大部分は、概日リズムに見出されるであろう。
概日リズムはエネルギー摂取量、エネルギー消費量、および食物に対する生理的反応と同様に、睡眠のタイミングと質に強く影響する。
概日リズムの乱れは耐糖能を低下させ、エネルギー消費量を減少させ、食欲とエネルギー摂取量を増加させる。
社会的な時差ぼけ、シフトワーク、夜間の光への曝露といった形での概日リズムの乱れは、メタボリックシンドローム、体重増加、心血管死亡率とも関連している。
昼間の暗闇への曝露によって、あるいは昼下がりに生理的に起こると考えられているコルチゾールのディップの時間を昼寝の時間が超えた場合に、昼寝が概日リズムを乱す可能性があると思われる。
結論
健康な人であっても、長時間の昼寝は肥満や心血管疾患のリスクを高めるという証拠を共有することが重要。
昼寝は時々にして、30分以内にすべきである。
運動や早歩きなど、午後の注意力や認知力を高める他の方法を知ってもらい、医療関係者は夜に十分な睡眠をとることの利点を強調すべきである。
睡眠障害のある人には、睡眠不足による悪影響を最小限に抑えるため、昼寝以外の方法を推奨すべきである。