本日のブログは、女性のうつ病と栄養失調に関するレビューをまとめてみたい。
研究者や医師側で完結しそうな部分および一般論は削除し、なるべく簡潔に今お困りの方に伝わるようにまとめてみたもののまぁまぁのボリュームに・・・。
普段SNSで情報集めている人には読むのはきついかも。
ブログ後半に具体的な栄養素が登場するので、めんどくさい方は前半は飛ばしても問題ない。
1990年から2019年にかけて、大うつ病性障害(MDD)は世界の疾病負担を増加させた要因の1つとされている。罹患者数はパンデミックでさらに増加しただろう。
うつ病患者は男性に比べて女性の方が多く、その比率は2:1。
この差の主な原因は生物学的要因にあるとされ、男性に比べ女性の方が遺伝する確率が高く、遺伝率は30~40%と推定されている。
うつ病罹患中は性ホルモンの作用により外的要因に対する患者の脆弱性が増大し、その反動でさらにうつ病が悪化する可能性が高い。
例えば思春期には、性ホルモンが活性化する最初の瞬間と月経の開始が焦点となり、女子は高レベルの慢性ストレスに悩まされることになる。
また、卵巣ホルモンの変動は月経前症候群(PMS)、産後うつ、閉経後うつなどのうつ病を発症するため、男女間の有病率の格差の原因のひとつ。
多量出血など特定周期のアンバランスは、MDDの診断と有意な関連があるとされている。
MDDは少なくとも60%の青少年に自殺願望を出現させ死因の第2位を占めているが、この事象は女子の思春期の初潮にも関連している。
過去の研究から患者の栄養状態がうつ病と密接に関係していることが判明している。
女性の場合(月経周期、出産、産後、更年期)、反復的食事パターンや特定の生理的状況により、特にビタミンD、オメガ3脂肪酸、メチル葉酸、S-アデノシルメチオニン(SAMe)などの微量栄養素の著しい欠乏がうつ病患者で観察される。
これらの成分は前臨床試験や臨床試験の対象になっており、MDD患者に対する補助栄養剤としての可能性が際立っている。
リンクのレビューは、女性うつ病患者、マクロおよびミクロ栄養素の欠乏(アミノ酸、ω3多価不飽和脂肪酸(ω3PUFA)、葉酸、ビタミンB12、ビタミンD、ミネラルなど)に焦点を当て、MDDの発症および経過期間における栄養不良の役割に関する情報を収集し、女性のメンタルヘルスおよび生活の質を改善する栄養介入プログラムに対する根拠を示すことを目的としたもの。
The Problem of Malnutrition Associated with Major Depressive Disorder from a Sex-Gender Perspective
・女性の大うつ病性障害
MDDは脳に存在するのか?
他の精神神経疾患とは異なり、MDDの場合は脳の特定の部位に変化があるわけではない。
他の病気とは対照的に、MDDでは局所的変化ではなく脳のさまざまな部分に影響を及ぼす
過去の研究により構造的および機能的な変化が示されてい部位は、前頭葉、頭頂葉、海馬、扁桃体、線条体、尾状核、視床、帯状核における灰白質の量の変動。
前頭葉はMDD患者において最も変化が大きい領域と考えられている。
視床は感情のコントロール、記憶のコントロール、覚醒に密接に関係する。概日リズムの維持と睡眠覚醒パターンの成立にも直接的に関与している。
うつ病の患者さんでは、灰白質の減少や形状の変化により脳の体積が減少する。
この萎縮は、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の変化によるグルココルチコイドレベルの上昇の結果として起こる。この脳領域の機能的・構造的な変化は、感情処理の異常や認知欠陥につながることが証明されている。
MDDに伴う細胞・分子レベルの変化
神経栄養因子は、神経細胞ネットワークの可塑性と形成に関与している。
脳由来神経栄養因子(BDNF)はこのファミリーに属し、神経細胞新生、シナプス可塑性、および基本的な神経細胞機能の調節に関与している。
神経栄養因子はBDNFのシグナル伝達調節ネットワークに従って、抑うつ行動と抗うつ行動の両方を誘発する可能性がある。
ストレスと、さまざまな脳領域(扁桃体、海馬、前頭前野など)におけるBDNFの発現およびシグナルの変化との間には密接な関係があり、抑うつ行動の出現と相関することが示唆されている。
また、コルチゾール(ステロイドホルモン、グルココルチコイド)はうつ病の病態生理の発現に関与する。ストレス刺激下でHPA軸が活性化された結果、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生され、副腎を刺激してコルチゾールが合成される。
MDD患者では高コルチゾール血症がHPA軸の過剰刺激につながり、神経伝達物質の代謝が明らかに阻害される。
グルタミン酸、GABA、アセチルコリンなどの神経伝達物質の濃度がMDD患者では低いことが示されている。
MDDに関連する全身の変調
IL-6、腫瘍壊死因子(TNF-α)などの多種多様な炎症性サイトカインに加え、いくつかの抗体(リボソーム抗体-P、抗Nレセプターメチル-D-アスパラギン酸)がうつ病の炎症過程に関与していることが分かっている。
ストレス要因によって中枢神経系に生じた病変が免疫カスケードを誘発し、カスケードの過程で炎症性サイトカインが血液脳関門を通過して血中濃度が上昇する。この調節障害はHPA軸の活性化を増長し、大うつ病性障害に特徴的な病的メカニズムのサイクルを生じさせる。
この文脈で、免疫系と腸内細菌叢の密接な関係を示唆する証拠がある。
一例として、腸内細菌の代謝に応じた免疫サイトカインの産生が挙げられる。
HPA軸の過剰刺激は腸管バリアの透過性を上昇させ、エンドトキシン血症と呼ばれる現象を誘発し、細菌のエンドトキシンが血液循環を通過して末梢に炎症が起こる。
炎症シグナルは迷走神経を介して中枢神経系(CNS)に達し、グリア細胞の神経炎症反応が促進される。
この一連の現象がうつ病患者の全身状態をより悪化させることになる。
MDDの病態生理には他の要因も介在している。
多くの研究が、MDD患者における概日リズムの乱れを論じている。
また、脳は酸化しやすい脂質を多く含み、酸素を必要とする構造であるため、活性酸素の作用に特に脆弱である。うつ病患者は細胞の抗酸化力が変化するため、活性酸素が増加することが観察されている。
ここまで記述したポイントに関連する概要の図。
・女性MDDに特有の病態生理
生物学的メカニズム
女性の場合、神経シナプス関連遺伝子の増加、免疫機能やミクログリアのマーカー減少が観察され、男性でとは対照的。
うつ病女性では抗炎症反応が減弱しており、症状が重い人ほど減弱していることが調査により確認されている。
最近の研究では、患者の性別によって微生物叢に大きな違いがあることが観察されている。
病態の重症度と微生物叢の状態を関連づけることが可能で、女性ではレンサ球菌やクロストリジウム属が優位になると負の影響が見られる。
後者は卵巣以外のエストロゲンレベルの調節に関与し、閉経後女性や高齢男性において異なる疾患リスクに影響を与える。
エストロゲンの文脈ではエストロボロームの役割は注目に値する。
エストロボロームは血中のエストロゲン濃度を調節する腸内細菌に属する遺伝子群。
ホルモンの変動に伴う現代的なうつ病エピソードの出現は明らかであり、特に思春期、産後、更年期の移行期に顕著に表れる。
プレボテラ属、ルミノコッカス属、ロゼブリア属などの短鎖脂肪酸を産生する菌は、閉経後女性では閉経前女性に比べ減少しているなど、ホルモンとエストロボロームの関係を裏付ける証拠が存在する。
MDDの一つの病型である産後うつ病(PPD)には、ホルモン、遺伝、免疫前駆物質が病態生理に関与している。バイオマーカーはアロプレグナノロンで、抗不安作用と抗うつ作用を持つプロゲステロンの代謝物でで、産後の低アロプレグナノロンはPPD発症のリスク上昇と関連するとされている。
その理由の1つとして、GABA受容体との相互作用が考えられる。
下の図は人生の様々な時期における女性のホルモン動態
・女性のMDD
男性に比べ女性のMDD発症率は2倍。
この事実は、抗うつ薬の処方が女性では約17.2%であるのに対し、男性では8.2%であるという事実にも表れている。
卵巣ホルモンの変動は、PMS、産後うつ病(PPD)、閉経後うつ病(PMD)といった臨床症状を引き起こし、有病率格差の原因の1つである。
90年代後半の研究では、女性の大うつ病症状である興味の喪失や睡眠サイクルの変化、ストレスやイライラなど、この疾患の典型的な症状がより強く現れることが観察されている。
また、食欲増進や体重増加、強迫観念の出現も代表的な症状。
また、女性では不安障害の出現が多く観察される。
*性差の観点から見たMDDにおける栄養失調の重要性
一般に栄養失調は、不足と過剰の両方の観点からエネルギー摂取と消費の間の不均衡をもたらす食生活が反映する様々な症状を包含する。
最近の研究では、MDD患者の13%が生涯摂食障害を持ち、39%が食行動障害を示したのに対し、うつ病性障害と診断されていない参加者ではそれぞれ3%と11%であった。
うつ病の女性では、食行動に異常がある割合が高いと結論。
また、卵巣ホルモンの振動は、「感情的飢餓」や糖分を多く含むより口当たりのよい食品への欲求と密接な関係がある可能性がある。
女性を対象とした研究では、食欲をそそる食べ物に対する反応が周期を通じて異なり、エストロゲンの濃度が高い段階では感情的空腹感が減少し、逆にプロゲステロンが優勢な黄体期には食欲が高まるという結論が出されている。
食欲をそそる食べ物は飛躍的に増加する
暴飲暴食に陥りやすい女性は生理的状態に対する認識が低下し、結果として食事制限を行い、ドーパミン神経系に悪影響を及ぼす可能性がある。
食事パターンの違いによって、ある種の大栄養素の過剰と他の栄養素の不足が生じ、また、患者のホメオスタシスに重要な役割を果たすと思われるある種の微量栄養素の不足が生じることになる。
・大栄養素
大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂肪)は認知や脳の機能に中心的な役割を果たす。
女性の場合、大栄養素の消費量は月経周期によって変化するようだ。
例えば、月経周期の黄体期にはタンパク質(特に動物性タンパク質)の摂取量が増加し、排卵後には1日あたりの炭水化物摂取量が増加することが報告されている。
これらの変動は性ホルモンの変動によるものであり、これらのホルモンの体内での働きや作用を確保するために十分な食事摂取が重要である。
脳
MDD患者では糖代謝能の低下が観察され、高血糖は自殺行動や脳内ネットワークの崩壊と関連があるとされている。
糖分の摂取は脳に必要で、気分を向上させるという考えが広まっているが、この仮説を否定する有力な証拠があり、MDD症状である疲労感が大きくなることも示唆されている。
逆に炭水化物摂取量が少ない食事は代謝の低下を招き、逆効果になる可能性もある。
若い日本人女性のグループにおいて、高グリセミック指数食が月経前症状の減少と相関し、マルトース摂取とPMSの発症との間に直接的な関連を見出した研究がある。
同様に、若年および中年女性における高食事性グリセミック指数が、抑うつ症状の減少と関連することを明らかにした研究もある。
高グリセミック指数食は生殖年齢の女性の気分や脳機能に有益であると思われるが、食事由来の炭水化物について深く研究する必要がある。
タンパク質は、複数の生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。
動物実験では、雌マウスが周産期にタンパク質摂取を控えた場合、子孫が幼少期にうつ病症状を発症しやすくなることが観察されている。
同様に、タンパク質不足の若齢雌マウスでは、海馬の神経可塑性の前駆体遺伝子の変化や神経細胞の消失が認められている。
うつ病と関係がある大栄養素のもう一つは、脂質。
一般に、男性よりも女性の方が総脂肪と飽和脂肪の推奨摂取量を超える傾向がある。
トランス脂肪酸などディスバイオーシス(腸内細菌叢異常)を誘導する質の悪い脂質は、プロテオバクテリアなどの有害細菌の増殖を促進し、代謝プロセスに利益をもたらす細菌を減少させる。
ディスバイオーシスは腸脳軸の点からうつ病との関連が指摘されている。
閉経前の女性では、トランス脂肪酸の高摂取と抑うつ症状との間に正の相関があることが報告されている。
トランス脂肪酸の摂取は体内の炎症反応を増加させ、神経細胞膜の透過性を高め、ドーパミン作動性システムの障害と不安症状の出現を促進する。
一方、オメガ3多価不飽和脂肪酸(ω-3PUFAs)、特にエイコサペンタン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)は、正しい神経伝達と細胞シグナル伝達に重要で、MDD患者特有の炎症性サイトカインとMDDで上昇する炎症性エイコサノイドを抑制する力を持っている。
MDD女性は通常、ω-3PUFA摂取量が少ないことがわかっている。
ω-3 PUFAsの低摂取量に連動して、欧米化した食事ではω-6脂肪酸(ω-6FAs)の摂取量が増加する。近年、ω-6とω-3の比率が10:1から20:1まで変化している。
ω-6PUFAsの大量摂取はω-3PUFAsの脱飽和を妨害し、恒常性の喪失につながり、特に心血管疾患、癌の発生を促進する。
ω-6PUFAsの高摂取は、妊婦のうつ症状の高いリスクと関連しており、産後うつ(PPD)の潜在的危険因子として予測される。
妊娠適齢期、産後、その後の人生における微量栄養素欠乏
ビタミンはMDDの女性が影響を受けている必須微量栄養素。
ビタミンD(Vit D)は神経系の発達に決定的な役割を果たす。
Vit Dの合成と排出、およびビタミンD受容体(VDR)は脳に存在する。
ビタミンB12にはDNA合成、血球合成、神経機能に関連する作用が際立っている。
葉酸との相互依存により、B12が干渉するプロセスが増加する。
過去の研究により、これら2つの微量栄養素は、ホモシステインと同様に、神経伝達物質、細胞膜のリン脂質の一炭素代謝およびメチル化過程に関与することが明らかになっている。
B12と葉酸の濃度が低下はMDDの病態形成に寄与していると考えられている。
MDD女性がミネラルの必要量を満たしていることはほとんどない。
いくつかの研究では、MDD患者の血清亜鉛レベルが低いことが指摘されている。
亜鉛がもたらす影響は、グルタミン酸とGABAの恒常性を維持するために必要なプロセスであることが証明されている。さらに、亜鉛の利点の一部として神経可塑性プロセスを活性化する能力が挙げられる。
過去のメタアナリシスでは、鉄の摂取量(Fe2+)とMDDのリスクとの間に逆相関がある可能性が示唆されている。鉄分は、脳機能と密接な関係があることが知られている。線条体や海馬の機能はFe2+の欠乏によって損なわれ、その影響は甚大である。
胎生期
マグネシウム(Mg2+)は、人体の多くの生理的プロセスに関与する。
マグネシウムのカルシウム拮抗力は、NMDA受容体をブロックすることで気分に関係する。
また、モノアミン神経系とグルタミン酸神経系に関与し、BDNF発現を増加させて全身性の炎症を抑える。
月経、PMS、PMDDに関連する特定の微量栄養素の欠乏
女性の約20~25%が中等度から重度のPMSであり、最も重度のPMDDと診断される女性は5%と推定されている。有病率は思春期に増加する。
PMS女性は対照群と比較して、カルシウムとMg2+の濃度が低く、ビタミンD濃度も低い。
これらの事実から、女性の周期的変化とカルシウムレベルには関連があると考えられ、PMS患者にも影響があると思われる。
亜鉛は精神的のみならず身体的健康においても顕著な役割を担っている。
過去のレビューでは、ビタミンB6とMg2+の組み合わせでポジティブな効果が検出され、月経前不安の軽減に必須脂肪酸が有効である可能性が示されている。
さらに、非ヘム鉄の高摂取が月経前症候群の軽減と正の相関があるという指摘もある。
また、カリウムを多量に摂取すると逆にPMSのリスクが高まるが、これはおそらくアルドステロン作動薬の作用によるもので、体液貯留が増加するためと考えられる。
周産期・産後うつに関連する特定の微量栄養素の欠乏
PPD女性では、神経伝達物質とホルモンの両方の乱れと微量栄養素の変動に明確な関連があるため、それらの影響とそれぞれの抗うつ力を知ることが重要。
いくつかのコホート研究により、PPD患者では循環型ビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD(25-[OH]-D)濃度が低いことが示唆されている。
カルシウムはゴナドトロピンの活性化のためのシグナル伝達を刺激し、その結果、黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンが増加し、結果としてエストラジオール(E2)の産生を増加させる。
ビタミンDとカルシウムの相互依存は広く知られており、PPDにおいて重要な役割を果たすと考えられる。
産後はカルシウムの需要が増え、それに伴いビタミンDの需要も増加する。
しかし、PPD女性にビタミンDとカルシウムのサプリメントを併用した場合とプラセボを併用した場合の比較研究では、ビタミンDがPPDを減らすとは断言できないと結論づけられている。
ビタミンDは、PPDグループの症状改善に重要な役割を果たす可能性があるが、研究が不足している。
妊娠は、血球量の増加や胎児・胎盤の発達を伴い、Fe2+の需要量が急激に増加することが示唆されている。20週以上の妊婦142人を対象とした横断研究では鉄欠乏と周産期うつ病には関係があると結論づけられている。PPDに関連した研究でもこの逆相関が証明されている。
否定的な見解もあり結論は一貫しないが、ヘモグロビンや鉄の濃度が低いことと産後うつリスクとの間には有意な関係があるようだ。
ω-3PUFAs濃度の低下がPPDの発症を促す要因であることも示唆されている。
妊娠中にω-3の指数が5%以上の女性は、産後の翌年にうつ病に罹患するリスクが低い。
しかし、日本人女性のコホートを対象とした研究では、EPAとDHAのサプリメント摂取によるリスク低減の効果は認められていない。
ZnやMg2+などのNMDA受容体拮抗作用のある微量栄養素もこの分野で研究されているが、プラセボに対して投与した患者の症状改善には有意な結果が得られていない、あるいはごくわずかなプラス効果が見られるというのが実情。
しかし動物モデルでは、これらの微量元素の組み合わせにより、出生後のうつ症状の割合が減少しており、今後もこれらの微量栄養素の研究が必要。
閉経前後うつ病に関連する特定の微量栄養素の欠乏症
更年期は、過去暦がない女性でもうつ病症状が現れやすいと考えられている。
ビタミンD、鉄、カルシウム、Mg2+などの微量栄養素の血清レベルが閉経後うつ病の女性で低くなっている。
ビタミンD欠乏は、閉経に関連する骨量減少の発生率の上昇と相関している。
更年期には、ビタミンDレベルと抑うつ症状との間に負の相関があることも分かっている。
欠乏の主な原因は、食事からの摂取量の少なさ、屋外活動の制限による日光への露出の少なさ、カルシトリオール合成能の低下。
閉経後女性で値が標準値を超えている微量元素は銅で、これはMg2+の低濃度と相まって、うつ病に対する脆弱性を高めているようだ。
異なる年齢のMDD女性で観察された一般的な栄養不足の図
・MDD女性への栄養介入
脂肪酸
脂肪酸は体内で合成されない。
オメガ3は1日250mgが適量とされている。
多く含む食品はチアシード、大豆、亜麻、ナッツ、植物油、脂の乗った魚、貝類。
細胞壁中のEPAとDHAの増加は、うつ病の症状の改善とより大きな治療効果と相関している。
閉経後の女性において、精神症状の改善をもたらすためにEPAの摂取が推奨されている。
ビタミンD
ビタミンDより多く摂取するには、太陽からの紫外線を皮膚に浴びること。
牛乳、脂肪分の多い魚、野菜などの食品からも摂取することができる。
ビタミンDの活性型が生成され、腸の細胞に受容体(VDR)が存在することから、ビタミンDと腸の密接な相互作用が推測される。
女性の場合、閉経後は腸内細菌のバランスが崩れやすくなる。
ビタミンD3を補給することで、腸内細菌のバランスが整い、エストロゲンの急激な変化に起因する炎症が軽減されると考えられる。
ビタミンD生成に加え、太陽光への曝露は睡眠の質に良い変化を与え、気分に良い影響を与えることができる。
また、妊娠中期の女性890人を対象に行われたコホート研究では、ビタミンDが不足すると夜食のリスクが高まり、睡眠の質が損なわれることが判明している。
また、897人の思春期の女子を対象に行われた研究では、月経周期に関連する問題がない場合と何らかの症状がある場合の両方に、介入期間中の9週間に50,000IU/週のコレカルシフェロールを投与した結果、PMSと月経困難症の有病率がそれぞれ14.9%から4.8%、35.9%から32.4%に低下し、それに伴う心理・身体症状も改善した。
ビタミンB
ビタミンBの欠乏は認知障害や認知症などの脳障害発症の危険因子と考えられている。
ビタミンB9欠乏および高ホモシステイン濃度が、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連するホルモンの変化や散発的な無排卵と関連し、うつ症状や他の精神疾患の危険因子であると指摘する研究もある。
排卵と受胎能力を改善するための治療法として、ビタミンB群の補給が提案されている。
また、妊娠中の葉酸摂取は胎児の発育と神経管の形成に重要である。
最近の研究では、葉酸摂取によって妊娠中の精神的な症状に悩まされるリスクが低いことが指摘されている。
ミネラル
MDD患者ではミネラルレベルが乱れている。
一般に、銅が過剰で他のミネラルは不足している。
マグネシウムは神経疾患の病態生理に大きく関与しているマクロミネラルで、ある臨床試験では12週間のうち6週間248mg/日のマグネシウムを補給し、残りの期間は対照とすることで年齢や性別の差はなく、軽度・中等度のMDDの改善に有効であること、また、毒性が低く、速やかに作用することが証明された。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者を対象とした研究では、マグネシウム100mg、亜鉛4mg、カルシウム400mg、ビタミンD200IUを12週間摂取させたところ、プラセボ群と比較して、PCOS女性のホルモンプロファイル、炎症および酸化ストレスのバイオマーカーに有意な改善が見られた。これらの結果は、精神的な不快感や抑うつ症状の出現リスクを減らすことができ、出産年齢の患者の生活の質にとって利点となる。
また、若い女性を対象とした試験では、マルチビタミンと亜鉛7mg/日を10週 間にわたって併用したところ、怒り、抑うつ、落胆に関するスコアが減少し、血清亜鉛が増加した。
これらの変化はプラセボ群では見られなかった。
抗うつ剤とサプリメントを併用した場合とプラセボを併用した場合の比較では、亜鉛を併用した場合の方が反応と回復が良好であったことから、MDD患者の集団にもメリットがあると考えられる。
S-アデノシル・メチオニン(SAMe)
SAMeは、生理機能全般および中枢神経系に関連するエピジェネティクス機構の強力なメディエーターとなり、アルツハイマー病やMDDなどの精神疾患の病態生理に関与すると考えられている。
さらに、炎症調節や腸内細菌の異常にも関与している。
抗うつ薬の補助としてSAMeを800-1600mg/日、6週間投与したところ、認知障害とうつ症状が改善されたとする研究がある。
治療に抵抗のある患者にも勧められる可能性があり、多くの臨床試験で肯定的な効果が示されている。
MDD患者におけるサプリメントとしてのSAMeの処方は、主に抗うつ剤と併用する場合に有益であると思われる。
クレアチンとアミノ酸
MDD患者におけるクレアチン代謝能力の低下と血清レベルの変化が証明されており、これらは食事からの摂取量の少なさと関係している。
前臨床試験と臨床試験の両方で、クレアチンに抗うつ力があることが実証されている。
動物モデルではクレアチン補給の効果に性差があることが示唆され、メスにおける抑うつ行動の改善が示唆されている。
また、異なる年齢の女性グループを対象に行われた臨床試験では、クレアチンが抗うつ薬の効果を改善し、MDD症状を持つ人々で減衰している神経ネットワークの接続を増加させ、ニューロンの完全性の改善を示す前頭前野のN-アセチルアスパラギン酸のレベルを増加させることが示唆された。
また、ドーパミン作動性神経伝達物質とセロトニン作動性神経伝達物質は、脳脊髄液中のクレアチンによって増加する。
さらに、性ホルモンの調節はクレアチンのホメオスタシスに影響を与える可能性がある。
血清クレアチンキナーゼ値は、月経周期や年齢によって差があり、月経周期の黄体期にはエストロゲン濃度の変動と同期して増加しますが、妊娠中や更年期には減少する。
クレアチンの補給は、更年期における筋力や骨強度の増加、妊娠中の脳損傷のリスク低下、睡眠パターンや認知力の維持など、さまざまな改善につながる。
うつ病患者はアミノ酸レベルが低下していることから、アミノ酸はMDDのための有効な栄養補助食品であると考えるのが自然。
トリプトファンにはセロトニンの分泌を促進する作用がありMDDに有効。
トリプトファンの補給は、治療前の不安や抑うつ症状を回復させる効果がある。
生物活性化合物
植物性エストロゲン
ポリフェノールの一種で、エストロゲンと似た働きをする。
大豆が主な供給源。
植物性エストロゲンには癌、心血管疾患、骨粗鬆症、更年期障害に効果があるとされている。
また、抗酸化力とエストロゲン受容体との関連から、神経保護の可能性があるす。
植物性エストロゲンの一種であるフラボノイドは、神経炎症プロセス、神経新生、GABA作動性およびモノアミン作動性伝達に積極的に介入している。
ヒト研究では、フラボノイドを豊富に含むオレンジジュース(1日5.4mg)を8週間摂取すると、腸内細菌叢のラクノスピラ科が増加し、BDNFシグナルの活性化と相関がみられた。
また、疫学研究センターのうつ病尺度の評価でもうつ病症状の改善が指摘されている。
産後女性を対象とした別の臨床研究でも、上記の事実が裏付けられている。
2週間にわたるフラボノイドの毎日の摂取は、不安と知覚された生活の質のパラメーターを優位に改善した。
カフェイン
カフェインには神経保護作用がある。
カフェインの摂取はうつ病リスクの低下と関連していることが示されている。
アデノシンA1/A2受容体の非選択的アンタゴニストであることから、カフェイン摂取は抗うつ剤治療の効果を向上させ、意欲障害の治療の改善をもたらし、ドーパミンレベルを増加させることが分かっている。
別の研究では、カフェイン摂取量が平均より多い女性(261mg以上)では、認知症やその他の認知機能障害を発症する確率が低いことが報告されている。
アントシアニン
アントシアニンは赤い果実に含まれるフラボノイド系色素で、ブルーベリーに含まれている。
近年、アントシアニンが心血管疾患、神経疾患、糖尿病などのリスク回避に寄与することが知られている。また、アントシアニンがプレバイオティクスとしても作用する可能性も報告されている。
動物研究では、アントシアニンを豊富に含む飼料を与えたラットにおけるNFκB経路の活性化、TNF-α、IL-6およびzona occludens(ZO-1)タンパク質のmRNAの発現減少、消化器系の健康状態の改善という結果が得られている。
またアントシアニンの補給は、メタボリックシンドロームの女性のC反応性タンパク質の濃度を減少させ心臓代謝リスクの改善にもつながる。
閉経女性を対象にしたこのポリフェノールの臨床試験では、骨量の減少に伴う痛みの軽減、身体症状や膣乾燥の改善、睡眠障害や循環障害の改善など、健康への有用性が確認されている。
レスベラトロール
レスベラトロールは、赤ブドウ、赤ワイン、一部のナッツ類に含まれるポリフェノールの一種。
細胞保護作用、抗酸化作用、抗炎症作用がある。
最近の研究では、疲労、睡眠の質、不安や抑うつ行動(快感消失など)に対する有益な作用が注目されている。
またレスベラトロールを補給すると、モノアミン酸化酵素(セロトニンとノルエピネフリンの分解に関与)の減少をもたらし、セロトニンが増加するとの報告がある。
カンナビジオール
CBDには向精神作用がなく、てんかんや慢性疼痛、パーキンソン病など、さまざまな疾患の治療薬として利用が世界的に検討されている。
CBDとうつ病の関連メカニズムとして、脳の神経新生と神経可塑性を刺激することが挙げられる。
MDDの病態の特殊性におけるCBDの利点を推奨するためには、今後のさらなる研究が必要。
プロバイオティクスとプレバイオティクス
近年、腸脳軸の乱れに対して神経栄養因子の調節活性を持つ細菌代謝産物として「サイコバイオティクス」という概念が生まれた。
Bifidobacterium breve CCFM1025のように改変された菌株を投与すると、失われた細菌叢が再構成され、短鎖FA、BDFN、セロトニンの産生が増加することが確認された。
また、OXT/AVP複合体は腸内細菌によって制御することができ、Lactobacillus reuteriは現在までに知られている主な制御因子の1つ。
同様に、細菌株の組み合わせ(B. bifidum W23, B. lactis W51, L. brevis W63、L. casei W56、Lc. lactis W19など)は、軽度または中等度のMDD患者の記憶プロセスと悲しい気分の改善することがデータによって証明されている。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)女性にLactobacillus acidophilus、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus fermentum、Bifidobacterium bifidumの混合物と200μg/日のセレンを投与した結果、グルタチオンが増加し、それに伴って抗酸化反応が高まり、C反応性タンパク質などの炎症マーカーが減少したことが確認された。
結論
食事はMDDの発症と進行に関わる中心的な要素であり、MDDに罹患した多くの女性は栄養不良である可能性が高く、不十分な多量栄養素の摂取と微量栄養素の欠乏を呈している。
これらは神経伝達異常に関連し、性ホルモンレベルとその作用にマイナスの影響を与える可能性がある。
さらに、ディスバイオーシスが顕著な炎症環境を促進し、脳機能やMDDに関与する他の病態生理学的メカニズムを変化させる可能性がある。
ここで述べた月経周期、妊娠中、更年期などの条件、うつ症状と大きく関連しているため女性のメンタルヘルスを改善する目的で、性差の観点からMDD患者の統合的治療の推進を奨励する。