今日のメモは不眠症に関するデータ。
当院に筋骨格系症状のご相談でお越しになる患者さんにも不眠症でお悩みの方は少なくない。気分障害や不安症と密接に関連する不眠症は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動、呼吸障害、ナルコレプシー、特発性過眠症と関連し、睡眠相後退症候群は特によくみられる不眠症の原因。
睡眠時間や睡眠の質の変化は、耐糖能の低下、グレリン(オレキシジェニックホルモン)の低下、高カロリー食品への欲求の増加など、代謝過程に大きな影響を及ぼし肥満リスクを高くする。
過去の解析では、睡眠の質と病気の有無、寿命との間に直線的な関係があることが明確に観察されている(92,340人対象)。
現在、睡眠の質の概念を定義する普遍的基準を確立しようとされており、REM(急速眼球運動)相やSWS(徐波睡眠または「深い睡眠」)相などの指標が検討されている。
SWSはホメオスタシス欲求を満たし、日中の良好な認知パフォーマンスを促進する役割を担う睡眠の構成要素のひとつで、前の覚醒期間からの学習材料を脳に定着させるための重要な要素であり、レム睡眠とSWS間のシナプスを回復させることが個人の健康にとって必要と考えられている。
最近の研究では、SWSがアルツハイマー病(AD)患者において特に重要であることが示され、AD患者ではSWS時間が短く、そのことが認知機能低下の程度と関連することが分かっている。また、AD患者ではSWS減少は脳βアミロイド斑の蓄積を有意に増加させ、睡眠の変化はADの前臨床段階でも生じている。
近年、不眠症の緩和のために処方薬に代わる選択肢として植物性化合物が注目されている。
メリッサ・オフィシナリス(MO)は「レモンバーム」として親しまれている植物で、鎮静作用や神経系への強壮作用があるとされており、主にヨーロッパ諸国、地中海地域、中東諸国で記録されている現代医学的利用では、抗不安作用、抗ウイルス作用、鎮痙作用、気分調整作用、認知促進作用、記憶促進作用が臨床的に記録されている。
MOには揮発性化合物、トリテルペノイド、フェノール酸、フラボノイドが含まれており、単離された抽出物や純粋化合物は、アセチルコリンエステラーゼ、ガンマアミノ酪酸(GABA)受容体、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)との相互作用を含む多くの薬理作用が示されており、不安症に関連した不眠症に対する有益な臨床効果も確認されている。
MO化合物のなかでも最重要クラスが”ヒドロキシ桂皮酸”である。
このクラスには、桂皮酸、クマリン酸、フェルラ酸、クロロゲン酸、そしてロスマリン酸も含まれる。ロスマリン酸は、ペアミント(Mentha spicata)、シソ(Perilla frutescens)、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)にも含まれる天然ポリフェノールで、in vitroではロスマリン酸のGABAトランスアミナーゼ阻害活性が明確に示され、複数の動物実験では睡眠潜時を減少させて、総睡眠時間を増加させる効果が実証されているが、プラセボ対照ヒト試験では睡眠の質に関する結果は賛否両論でまちまち。ヒトで明確な効果が見られないのは、経口での生物学的利用能が低いことに起因している可能性がある。
リンクのデータは、フィトソーム™(MOP)として製剤化されたMOエキスが睡眠の質に関連する補助的役割を果たすかどうかを検証したもの。
ポリフェノール活性成分の経口利用能を改善するためにMOPとして製剤化されたMOエキスの前向き二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験。
【結果】
治療群では不眠重症度指数(ISI)が有意に低下し(平均6.8±4.1)だったのに対し、プラセボ群では9.7±3.7で、2.9ポイントの有意な低下が認められた。
SWS相の持続時間は平均15%増加し、REM相は10%減少した。
治療群の87%が睡眠の質の改善を報告したのに対しプラセボ群では30%で、カイ二乗検定による有意差が認められ、MO効果が強調された。
身体活動や不安レベルに有意な変化は認められなかった。
【結論】
MOPが参加者の睡眠の質を改善し、不眠症の重症度を軽減するのに有効であることを実証した。MOPは不眠症に対する薬理学的治療に代わる、自然で安全な治療法である可能性がある。研究はプラセボ群を含む厳密なデザインで実施されており、プラセボ群を含めることで観察された改善を介入により正確に帰属させることができ、潜在的交絡因子を最小限に抑えることができたことで、安定した信頼性の高い結果を得た。
・身体活動が睡眠に及ぼす効果は、顕著な改善の達成が顕在化するまでに時間がかかったり、より集中的な介入が必要であったりする可能性がある。身体活動と睡眠の質が不安症に影響されるメカニズムは完全には解明されていない。
・不眠症の併存疾患は第一位が不安・抑うつ障害、他の精神疾患、心血管疾患、認知症がそれに続く。不安の強い人は睡眠の質と睡眠継続時間が著しく減少し、過覚醒、リラックス困難、入眠や睡眠維持の妨げとなる否定的思考パターンにつながる。不安が睡眠問題を引き起こすのか、または睡眠問題が不安関連障害と因果関係にあるのかを確定することは困難。
・22年のレビューでは、日中のパフォーマンス、運動速度、実行機能の改善、睡眠の質の知覚の改善、夜間の安眠感との中程度の相関により、SWSが睡眠の質と日中の最適なパフォーマンスにとって重要である可能性が示唆された。
・徐波睡眠が海馬依存性の宣言的記憶の統合に重要な役割を果たすことが示されている。この統合過程は脳波のゆっくりした振動によって組織化され、新しく符号化された表象が再活性化されて海馬と大脳新皮質の長期記憶部位に再分配される。
・加齢によるSWS減少が認知症リスクと関連するかどうかを明らかにするために17年間の追跡調査を行った研究では、年間のSWS減少が1%ポイント上がるごとに、認知症リスクが27%増加することが示された。SWSは大脳新皮質での記憶形成を担う海馬の自発的再生に支えられているため記憶の定着に最も効果的である。
・レム睡眠は体温の夜間サイクルと関連しているようであり、レム睡眠潜時の減少はうつ病患者における睡眠の最も強固で特異的な特徴のひとつとしてうつ病リスク増加と関連している。
また、レム睡眠の機能不全が認知機能低下やADに重大な影響を及ぼす可能性もある。
・レム睡眠は気分調節にも関与しているようだ。実際、睡眠初期の否定的な夢(眠り始めに見る)は睡眠中の気分調節の過程を反映し、睡眠後期の否定的な夢はこの気分調節過程の失敗を示すことが観察されている。
・不眠症グループと快眠者グループで睡眠時間の主観的測定と客観的測定を比較する研究を行った結果、睡眠時間の主観的測定と客観的測定の間に大きな系統的差があり、両グループで食い違いがあった。不眠症患者の79%が総睡眠時間を過小評価し、21%が過大評価していたのに対し、快眠者グループでは逆に59%が睡眠時間を過大評価し、41%が過小評価していた。この結果から、主観的な睡眠測定は客観的測定と一致しないため有効とはみなされず、客観的睡眠評価も主観的経験を反映しないため有効とはみなされないと報告されている。
・睡眠の主観的改善はCGI-I尺度を用いて評価され、被験者の87%がMOP摂取期間中に様々な程度の改善(わずかに改善、大きく改善、著しく改善)を報告したのに対し、プラセボ群では30%しか改善を報告せず、サプリメント群に比べその程度はかなり低かった。
プラセボ群では半数以上の参加者が睡眠の質に変化はなかったと報告し(53%)、17%は最初の状況に比べて悪化したとさえ報告している。
対照的にMOP群では、被験者の67%がわずかな改善を、10%が有意な改善を、さらに7%が非常に良好な変化を示した。
睡眠の質は睡眠そのものの知覚と結びついた主観的心理的要素が強いという証拠があることから、この研究結果はMOPの有効性を確信をもって断言するもの。
・・・データを書き出していて、MOPと組み合わせたらより効果がブーストされそうな化合物がいくつか頭に浮かんだので、個人的にベアリングのデータも蓄積していこうと思います。
睡眠障害における具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
Lineまたはメールによるカウンセリングに基づき、皆様の症状や体質に合わせて食事デザイン、サプリメントの選択、排除すべき食材などを最新データを元にデザインし、ご提案いたします。