お花見しながら↑くらいの大ジョッキでドイツビールを飲みたいなぁ・・・なんて思いつつ、本日のブログはアルコール性ミオパチーと呼ばれる骨格筋機能障害に関するデータ。
慢性的なアルコールの大量摂取は主に脳、心臓、肝臓、膵臓といった臓器や様々な組織に対する悪影響をを及ぼし、少なくとも60近くの急性および慢性疾患と関連している。
また、アルコール性ミオパチーと呼ばれる骨格筋機能障害は、アルコール依存症患者の最大50%に見られる。
アルコール性ミオパチーの骨格筋の機能障害のメカニズムはアルコールによる筋タンパク質合成の障害。
さらに、タンパク質代謝の不均衡に加えて酸化ストレスやミトコンドリア機能障害も、アルコールによる筋量および筋力の低下の病態生理学的メカニズムとして関与している可能性がある。
マウス研究では、慢性的なアルコール摂取は抗酸化活性を乱して酸化ストレスのマーカーを増加させ、ミトコンドリア呼吸数を減少させることが分かっている。
また筋管のエタノール処理を行った研究では、スーパーオキシド分解経路のアップレギュレーションとミトコンドリア酸化的リン酸化成分の減少が引き起こされることが確認されている。
さらに、アルコール処理した筋管やアルコール摂取マウスの骨格筋線維において、呼吸障害と活性酸素種(ROS)産生の増加が確認されている。
アルコール性ミオパチーのもう一つの修正可能な危険因子は、貧しい食生活。
アルコール摂取と同様に、高脂肪食の摂取はミトコンドリア呼吸の障害と活性酸素の産生の増加を示すことが示されている。
総カロリーの35%以上が脂肪からなる高脂肪食の摂取は、心血管疾患、肥満、糖尿病、癌を含む無数の疾患や状態に関連している。
骨格筋は大きなエネルギーを必要とするため、骨格筋の健康はミトコンドリアの最適な機能に依存的である。
ミトコンドリアは細胞エネルギーの主要供給源で、細胞内の活性酸素の大部分を生成し、正常な状態では抗酸化物質がフリーラジカルを中和して活性酸素の増加のバランスをとっているが、病的状態ではバランスが崩れて酸化ストレスにつながる。
酸化ストレスは筋萎縮を引き起こすため、様々な筋疾患と関連している。
さらに近年の研究では、高脂肪食(HF)の摂取がアルコールによる心機能、創傷治癒、脳機能および行動、肝疾患への影響を悪化させることが明らかにされている。
慢性的な大量のアルコール摂取とHF食の摂取は、独立して骨格筋の酸化ストレスとミトコンドリア機能障害に寄与する危険因子であることが示されているが、これらの危険因子の同時作用は依然として不明。
リンクの研究は、アルコールと異なる食餌組成がミトコンドリア活性と酸化ストレスマーカーに及ぼす影響を評価することを目的としたもの。
雌雄マウスを、アルコール(EtOH)フリーのHF食、HF+EtOH食、または低脂肪(LF)+EtOH食に無作為に分け、6週間摂取させた。
試験終了後、骨格筋の電子輸送系複合体活性と発現、および抗酸化活性と発現を測定。
HF + EtOH食を与えたマウスの筋肉では、EtOHなしのHF食に比べ、複合体IおよびIIIの活性が低下していた。
HF + EtOH食を与えたマウスの筋肉では過酸化脂質が増加し、抗酸化活性が低下していた。
HF食の摂取は、骨格筋のミトコンドリア健康状態および酸化ストレスに対するアルコールの悪影響を悪化させる可能性があると結論。
High-Fat Diet Augments the Effect of Alcohol on Skeletal Muscle Mitochondrial Dysfunction in Mice
・HF食とEtOHの組み合わせで骨格筋ミオグロビン濃度が有意に低下し、血漿中のミオグロビン濃度が有意に上昇する。これは、血流へのミオグロビン漏出を示唆する。
循環血中のミオグロビン濃度の上昇は、ミトコンドリアミオパシーの特徴。
アルコールの反復摂取は急性筋損傷を引き起こし、血清ミオグロビン濃度を上昇させる。
・HF + EtOH食を与えたマウスは、EtOHなしのHF食に比べ、骨格筋の複合体Iおよび複合体III活性が有意に低下。
また、HF + EtOH食を与えたマウスでは、EtOHなしのHF食に比べいくつかの抗酸化酵素の発現が有意に増加。抗酸化酵素遺伝子の発現増加は、SODおよびGPx活性の低下と脂質過酸化マーカーであるMDAの上昇を伴っていた。SODはスーパーオキシドを酸素と過酸化水素に変換し、GPxは過酸化水素を水に変換して、活性酸素(ROS)に対する防御の第一線を構成している。
SODおよびGPx活性の低下は、慢性的な全身の酸化ストレスに対する反応であると考えられている。
・HF食とEtOH摂取の組み合わせは、ROS産生の増加に対応して、抗酸化物質の発現の代償的上昇をもたらす可能性があるが、抗酸化システムが過剰になることで逆に抗酸化活性が低下し、酸化ストレスが増加する可能性が高い。
・HF + EtOH食に伴う抗酸化遺伝子の増加は、酸化ストレスの増加によって説明できる可能性がある。
例えば、グルタチオン合成律速酵素であるGCLCは、酸化ストレスによって転写が制御される。
同様に、HMOX1はヘムオキシゲナーゼのストレス誘導型アイソフォームであり、酸化ストレス後にその発現が増加する。
・慢性的なアルコール摂取は、ミトフシン(Mfn)1発現の減少を介してミトコンドリア融合を減少させる。さらに、ミトコンドリア分裂因子であるダイナミン関連タンパク質1(DRP-1)を介したエタノールによるミトコンドリア断片化も報告されている。
・アルコールやHFなどの毒性物質は、ミトコンドリアタンパク質の翻訳後修飾とそれに続く不活性化を促進する酸化ストレスを誘発することがある。
肝毒性に関連する活性酸素によって翻訳後修飾され不活性化されるタンパク質の1つがGPxで、本研究ではHF+EtOH食負荷マウスでGPx活性の低下が観察された。
・アルコール摂取マウスにおいて、ミトコンドリア酵素であるアルデヒド脱水素酵素 2 (ALDH2) の発現も低下。ALDH2は、脂質過酸化生成物である4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)を含む他の有害なアルデヒドの代謝にも重要な役割を担っている。
ALDH2ノックアウトマウスをアルコールに暴露すると、ミトコンドリア機能障害が大きくなる。
ALDH2を過剰発現させると、アルコールによる心機能障害が減弱される。
ALDH2は、高脂肪食による心筋症も改善することが示されており、高脂肪食を与えたALDH2活性の低いALDH2変異マウスは、重篤なメタボリックシンドロームと心機能不全を示す。
ALDH2の減少は、HFとアルコールに暴露されたマウスにおける酸化ストレスの増加と電子輸送系複合体活性の低下をもたらす要因の可能性がある。
・注目点
本研究でも過去の研究においても、食餌間のアルコール摂取に関する交互作用や主効果が認められなかった。
本研究における食餌群間の差異はアルコール摂取量の差異ではなく、食餌の多量栄養素組成の差異によるものであると思われる。
LF+EtOH食とHF+EtOH食を与えたマウスを比較したところ、いくつかの顕著な違いが見られた。
血中ミオグロビン濃度は、HF+EtOH食マウスの方がLF+EtOH食マウスより有意に高く、SODとGPx活性はLF+EtOH食マウスの筋肉に比べ低下していた。
このように、HF食はアルコールの骨格筋への影響を増悪させる可能性がある。
結論
HF食の摂取はミトコンドリア機能に対するアルコールの負の影響を悪化させる可能性がある。
高脂肪食とアルコールの同時摂取は、代謝性ミオパシーを誘発し、抗酸化システムに負担をかけ、酸化ストレスのレベルを上昇させる可能性がある。