加齢は恒常性の破綻に関連する漸進的かつ不可逆的プロセスであり、体組成の変化(除脂肪体重の減少や脂肪量の増加)を誘発する。
過去の疫学研究によると過体重/肥満成人の割合は加齢とともに増加し、腹部肥満は全身性炎症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドロームの重要な危険因子になる。一方で、彼にの進行によってサルコペニアとして知られる筋肉量と筋力の進行性喪失が生じ、肥満と併存するケースもある。サルコペニアのメカニズムははっきしりしていないが、年齢、性別、身体活動レベルおよび食習慣がサルコペニアの危険因子として知られている。
高齢者におけるサルコペニアの発生率は男性よりも女性で有意に高いことが示されており、70歳までに筋肉量が20〜40%減少する。
加齢は筋肉の水分含有量の減少とも関連している。体内の水分含有量は生涯を通じて徐々に変動する傾向があることから、欧州食品安全機関(EFSA)は女性に対して2.0 L/日、男性に2.5L/日の水分摂取量を推奨している。
また欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)は、水分のおよそ20%が食品から、80%が液体から摂取されることを考慮して、高齢者女性に1.6 L/日、男性に2.0L/日の水分摂取量を推奨している。必要な水分量は、主に性別、年齢、身体活動の程度など、多くの要因によってグループ間でかなり大きく異なる。
過去の研究では、水分摂取量の減少と尿路結石症、膀胱線維症、便秘、尿路感染症、喘息、歯科疾患、心血管疾患、糖尿病、緑内障、膀胱癌、結腸癌などの様々な疾患リスクの増加との相関関係が実証されている。
一部の研究では、水分摂取量が多いほど体組成が健常になる可能性があることが示されているが、高齢者を対象とした研究は稀である。
リンクの研究は、高齢女性における水分摂取量、食事酸負荷、および体組成の関係を評価し、これら二つの要因と体組成との相互関係を評価したもの。
自立生活を送る195名の65~84歳女性が参加。
体組成はファンビーム型二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いて評価された。潜在的腎酸負荷(PRAL)と水分摂取量は、3日間の食事記録法を用いて評価。
【結果】
高水分摂取量は、アンドロイド脂肪、グイノイド脂肪および総体脂肪量の有意な低下、ならびに除脂肪体重増加と関連していた。
評価された身体測定指標のうち、四肢除脂肪量(ALM)のみが「低PRAL食」と「高PRAL食」の間で有意な差を示した。
低PRAL食は高PRAL食と比較して、有意に低いエネルギー値、低いタンパク質摂取量、および高い植物性対動物性タンパク質比を特徴としていた。
【結論】
健康な高齢女性における高水分摂取がより健康的な体組成、すなわち腹部脂肪量、臀部脂肪量、総体脂肪量の低下、および除脂肪量の増加と関連していることが示された。
水分摂取量とPRALの間に有意な相関は観察されなかったが、より酸性化しやすい食事パターンは除脂肪量に悪影響を及ぼすように見えた。この研究は、この関係において植物性対動物性タンパク質の比率が重要である可能性を強調している。
Water Intake, Dietary Acid Load, and Body Composition in Aging Females
・水分摂取量が多いほど、腹部脂肪量、臀部脂肪量、総体脂肪量が有意に低く、除脂肪量が多いなど、より健康的な体組成と関連していることが示された。
・水分摂取量の増加は総エネルギー摂取量の減少により、過体重および肥満成人における体重減少と関連している。この分野の研究で高齢者を対象としたものはごくわずかだが、水分摂取は肥満高齢者]および非肥満高齢者においてエネルギー摂取量を減少させることが示されている。米国国民健康栄養調査(NHANES)の全国代表サンプルでは、水分摂取が不十分な成人は水分補給が十分な成人に比べてBMIが高く、肥満である可能性が高かった。
・水分摂取は交感神経活動と血漿ノルエピネフリンレベルの増加を介して、代謝率を大幅に増加させることが示されている。水分摂取はエネルギー摂取量の減少と脂肪酸化の増加という2つのメカニズムを通じて減量に適している。生理学的に水分摂取量の増加は血液量の増加をもたらし、それに伴って適切な心房圧が上昇する。これによって心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の放出が起こる。ANPの短期間の静脈内流入は脂質酸化の急速な増加と関連している。また、水分摂取はアルギニンバソプレシン(AVP)を減少させる。AVPは腎臓の水分排泄の主要内分泌調節因子であり、脂肪組織のエネルギー代謝の負の調節因子である。
・AVPシグナルと腸内細菌叢の組成の間には、双方向の調節的関連がある可能性がある。研究では腸内細菌叢が肥満発症と進行に重要な役割を果たすことが確認されている。また、水分摂取がヒトの腸内細菌叢の形成に必要である可能性も示唆されているが、この関係についてはほとんど知られていない。慢性的な軽度の水分不足が肥満促進にとどまらず、心血管疾患、糖尿病、癌、アルツハイマー病の一因となる可能性があることも強調すべきである。
・過去に水分摂取と食事の酸性化能力との関係を評価した研究はない。この研究では、水分摂取量とPRALの間に有意な関係は観察されなかった。PRAL指数の値も身体測定パラメータと相関しなかった。評価された身体測定指標のうち、ALMのみが「低PRAL食」(クラスター1)と「高PRAL食」(クラスター2)の間で有意な差を示した。
・TwinsUK研究の18~79歳女性2689名では、除脂肪量はよりアルカリ生成的食事負荷と正の相関があった。243名の60歳以上の高齢者グループでは、総除脂肪量の割合は女性のみでPRAL四分位群間で有意に減少したが、男性では減少しなかった。さらに、この負の相関はタンパク質摂取量が少ない(1日あたり体重1g/kg未満)女性で最も顕著だった。
香港の地域在住の65歳以上の中国人高齢者3122名を対象とした4年間の前向き研究では、食事酸負荷が低いほど四肢骨格筋量(ASM)の減少が遅いという証拠が示されている。腎機能は加齢とともに低下するため、高齢者はPRALやNEAP指数で測定されるわずかにアルカリ性の食事であっても体内の酸性化に対して特に脆弱である。
・筋肉量維持にはタンパク質摂取が不可欠だが、除脂肪体重の維持において植物性対動物性タンパク質の比率が重要であることが示唆された。タンパク質の種類がサルコペニアに与える影響を直接評価した研究は限られているが、中年および高齢の中国人集団を対象とした研究では動物性または植物性の供給源に関わらず、高タンパク質摂取はALMとその指標(ASMI)のより顕著な維持および骨格筋量増加と関連していた。一方で、中国のサルコペニアのない65歳以上の参加者においては、総タンパク質や動物性タンパク質ではなく、植物性タンパク質摂取量が多いほど筋肉量の減少と歩行速度の低下が少ないことが観察された。また、植物性タンパク質を多く摂取する女性ではフレイルリスクが低く、動物性タンパク質を多く摂取する女性ではリスクが高いことが示されている。
・・・これから水分補給の重要性がメディアで連呼される時期がやってきますが、水分補給にはこういった側面もあることを頭の片隅においていただけたらと思います。
PRALに関しては食事成分のコントロールによって酸化状態をコントロールできるでしょう。
より効率的な抗酸化食に関する栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
ダイエット、様々な疾患に特化した体質管理にも非常に有益な内容になっています。
当院に直接お越しいただくか、またはLineまたはメールによるカウンセリングに基づき、皆様の症状や体質に合わせて摂取カロリー数の計算や、食事デザイン、サプリメントの選択、排除すべき食材などを最新データを元にパッケージでデザインし、ご提案いたします。お気軽にお問い合わせください(お電話、LINE、インスタグラムのメッセージまたは連絡先をご利用いただけます)
