一般的にあまりフォーカスされることのない栄養素と目の健康の関係だが、実際は非常に関連性が強い身体構造であり、様々なデータが発表されている。
今回のメモは、加齢黄斑変性と視力に関する最新データをまとめてみたい。
地図上萎縮(GA)は、加齢黄斑変性(AMD)の萎縮型の病態末期を指し、加齢とともに有病率は顕著に上昇する。GAは中心視野の深刻な喪失へと徐々に進行する。現在GA発症を予防したり、視力を回復させる治療法は存在しないことから、GAはQOLに大きな影響を及ぼすだけでなく多大な経済的負担をもたらしている。
過去に食事とAMDリスク(GAを含む)の関連性が研究されてきたが、GAの進行速度との関連を検討した研究は1件しかない。
この研究では、AREDS2のデータを用いて食事パターンレベルで分析し、GAの面積ベースの進行をアウトカムとして評価している。その結果、地中海食の遵守度が高いほどGAの面積ベースの進行が遅いことが示されたが、GAの進行に関与する分子メカニズムの解明や予防戦略の確立には生物学的に活性な栄養素レベルでの追加分析が必要である。GAの中心窩への進行を遅らせる栄養学的アプローチが開発されれば大きな臨床的価値を持つだろう。
リンクの研究は、過去の分析を以下3つの点で拡張することを目的としたもの。
1. これまでの食事パターンおよび構成要素レベルの分析に加え、栄養素レベルでの分析を追加する。
2. GAの面積ベースの進行に加え、中心窩への進行および視力変化を追加のアウトカム指標とする。
3. AREDSおよびAREDS2の両方を解析対象とする。
加齢性眼疾患研究(AREDSおよびAREDS2)において、代替地中海式食事指標(aMedi)、その9つの構成要素および個々の微量栄養素の摂取量を算出。混合モデル回帰分析を用いて、萎縮型加齢黄斑変性(GA)の面積、GAの中心窩近接度、および視力との関連を評価。
【結果】
研究対象はAREDSで657眼、AREDS2で1179眼だった。
GA面積の進行に関して、AREDS2においてaMediスコアが高いほど進行が遅く、MUFA:SFA(単価不飽和脂肪酸:飽和脂肪酸)の比率を除外した分析ではAREDSにおいても同様の関連が認められた。
摂取量が多いほど進行が遅かったのは、AREDS1/2でそれぞれ7つ(Bonferroni補正後では野菜と果物を含む)および4つ(Bonferroni補正後では果物と赤身肉の少ない食事を含む)の構成要素、および7種・15種の微量栄養素だった。
GAの中心窩近接度に関しては、AREDSでaMediスコアが高いほど進行が遅かった。
経口サプリメントの摂取量が増加するにつれてGAの中心窩近接度とaMediスコア・構成要素・栄養素との関連は弱まった。
AREDS2において中心窩を含まないGAを有する眼では、aMediスコアが高いほど視力低下が緩やかだった。
【結論】
食事と地図状萎縮(GA)進行の潜在的関係性を包括的に調査した結果、地中海食は面積ベースでの進行の遅延と関連していた。
最も重要な成分には、野菜、果物、赤身肉の減少など、植物性食品を中心とした食事の側面が含まれる。
地中海食は中心窩へのGA進行の遅延とも関連していた。最も検出力の高い非中心窩GA眼の解析では、地中海食は視力低下の遅延とも関連していた。
これらの知見は異なるAMD病期にある個人に対する、標的を絞った栄養戦略およびサプリメント戦略の潜在的利点を示唆している可能性がある。
・地中海食の遵守度が高いほどGAの面積ベースの進行が遅いことが示唆された。特に強く寄与した食事成分は果物と野菜を多く含み、赤身肉の少ない食事だった。栄養素レベルではカロテノイド(特にβ-カロテン)、ビタミン(A、B6、B12、葉酸、C、E)、一部のミネラル(特にカルシウム)、および食物繊維が最も強い保護的関連を示した。
・地中海食の遵守度が高いほど、GAの近接ベースの進行が遅く(=中心窩温存の傾向が強い)なることとも関連していた。特に野菜の摂取が強く関連し、β-カロテンが最も重要な栄養素として挙げられた。一部の指標では視力変化とも強い関連が見られた。
・AREDS2に基づくGA進行速度の推定では地中海食指数(aMedi)の第1三分位群と第3三分位群では、面積ベースの進行で約15%、近接ベースの進行で約32%の差があった。個々の成分でも顕著な差がみられ、**果物の摂取による進行速度の差は22%(AREDS1/2の面積ベース)、野菜の摂取による進行速度の差は53%(AREDSの近接ベース)**だった。
・AREDSデータではaMediスコアが高いほど、GAの面積ベースの進行が遅い傾向があった。ただしこの関連は統計的に有意ではなかった。これはMUFA:SFA(単価不飽和脂肪酸:飽和脂肪酸)のパラドックス的影響による可能性が高い。実際に、MUFA:SFAを除外した分析では統計的有意な相関が示されている。一般に高MUFA:SFA比は健康に良い影響を与えるとされるが今回の結果では逆相関が見られた。これはおそらく地中海食パターン(植物性脂質摂取量の増加)を反映するのではなく、動物性脂肪の摂取量の増加を反映したためと考えられる。
・食事成分解析では特に野菜と果物の摂取が重要だった。また保護的な関連を示した栄養素として、抗酸化作用を持つビタミン(A、C)、カロテノイド(β-カロテン、リコピン)、および可溶性食物繊維が挙げられる。
・AREDS2データではaMediスコアとGAの面積ベースの進行の相関が統計的に有意だった。AREDSの結果と同様に、果物の摂取量が多く、赤身肉の摂取量が少ないことが特に重要だった。保護的な相関を示した栄養素は抗酸化作用を持つビタミン(特にビタミンC、E、β-カロテン)。一方で、飽和脂肪酸(SFA)はGAの進行速度を高める強い相関を示した。
・AREDS2解析ではaMediの高さとGAの近接ベースの進行の遅さに相関は見られなかった。AREDSでは野菜と果物の摂取が近接ベースの進行遅延と強く相関していたが、AREDS2で見られなかった。さらに保護的な関連を示した栄養素の数もAREDS2では少なかった。この理由としてAREDS2では経口サプリメントの摂取率が非常に高かったことがある。食事摂取との関連の強さは、以下の順に低下していた:
- AREDS参加者(抗酸化サプリメントを摂取していない群) → 最も食事との相関が強い(サプリ摂取が最も少ないため)。
- AREDS参加者(抗酸化サプリメントを摂取) & AREDS2参加者(ルテイン/ゼアキサンチンを摂取していない群)。
- AREDS2参加者(ルテイン/ゼアキサンチンを摂取) → 最も食事との関連が弱い(サプリ摂取が最も多いため)。
この結果は、サプリメントと食事の間にある程度の冗長性が存在することを示している。ただし、完全に冗長ではなく補完的な効果もある可能性が高い。
・非中心性GAの進行を遅らせるには、地中海食を摂取することと、抗酸化サプリメントやルテイン/ゼアキサンチンサプリメントを摂取することの両方が有効である可能性が示唆された。一般集団では食事とサプリメントの間の冗長性はより少なく、両方を併用することのメリットがより大きい可能性がある。つまり食事とサプリメントの両方を活用することで、GA進行抑制において最大効果を得られる可能性がある。
・慢性的な局所炎症がGA進行に関与しており、地中海食の構成要素や栄養素は全身炎症を軽減することが知られている。一部の成分は血管の健康を改善すると考えられており、これにより脈絡毛細血管(choriocapillaris)への影響を通じてGA進行を遅らせる可能性がある。また、腸内細菌叢の変化を介した経路も関与している可能性がある。
・これまでGA(地図状萎縮)進行が遅くなることと視力(BCVA)の低下が遅くなることには一定の関連があるかもしれないが、その関係性は限定的である可能性が高いと考えられてきたが、今回の研究ではいくつかの食事成分や栄養素において、BCVAの低下が緩やかになることが確認された。AREDS2のGA proximity(中心窩への進行)に関する研究では、地中海食指数(aMedi)が高いほどBCVAの低下が遅くなることが確認された。個別の食事成分では、果物の摂取量が多いこと、赤身肉の摂取量が少ないことが特に強い相関を示した。また、ビタミンEなどの複数の栄養素も有意な相関を示した。
・・・地図上萎縮と視力低下でお悩みの方は一度試してみる価値がありそうです。
今回ご紹介したデータは非常にシンプルでわかりやすいデータですが、実際はそれぞれの眼球構造によって適した栄養素が異なります。地中海色の構成も含め、眼に関するより具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
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