ビタミンB群の一日の必要量は各ライフステージで変化する。
妊娠・授乳期における母親の栄養不良やビタミンB群などの微量栄養素の欠乏は、小児期から成人期にかけての身体機能や認知機能が大きく影響する可能性がある。
また、栄養不足や微量栄養素の欠乏は母親のうつ病やストレスの原因となり、ひいては赤ちゃんの状態にも影響を与えるため栄養素に関する知識の共有は非常に重要だろう。
乳幼児期では、食事や身体活動などの環境要因が乳幼児の生理的・心理的発達に影響を与え、成人後の健康や寿命に影響を与えることが証明されている。
また、乳幼児期における母乳育児とミルク育児の比較や、特に肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病といった疾患の発症に関する後年への影響に関心が高まっている。
成人期は食事と健康との間に複雑な関連性があり、健康的なライフスタイルを獲得・維持するためには良好な栄養状態が重要な役割を果たす。
体重減少、心肺機能障害、消化器関連障害、免疫反応の低下、創傷治癒などの潜在的リスクは栄養不良により増加する。
高齢者においては、アルツハイマー病、糖尿病、肥満、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、心血管疾患リスクを防ぐために栄養状態に注目する必要がある。
さらに、骨粗しょう症、骨格筋の衰え、創傷治癒の障害など、高齢者の栄養失調には他の疾患も関係する。これらはすべて、加齢による炎症と免疫力の低下が関係している。
幼少期や妊娠中など、特定の時期にビタミンB群の1つまたは複数の需要が増加し、健康全般や脳機能に悪影響を与える可能性があることを示す証拠が積み上がっている。
Dietary Vitamin B Complex: Orchestration in Human Nutrition throughout Life with Sex Differences
・チアミン(B1)
娠中および授乳期
妊娠中のチアミン欠乏は、妊娠悪阻(HG)として知られる極度の吐き気と嘔吐を引き起こし、ウェルニッケ脳症(WE)やコルサコフ症候群(KS)につながる可能性がある。
チアミン欠乏は、授乳期、妊娠中、身体活動の増加時に最もよく起こる。
中枢神経系は高いエネルギーを必要とし、脳のエネルギーは主にグルコースから得られている。
グルコース代謝障害は神経系疾患の原因となることから、母親と乳児の健康のためにチアミンの補給が必要。
乳児期
生後6ヶ月の乳児のチアミン摂取量は、母親の摂取量に依存する。
欠乏した場合の乳児の成長障害を避けるため、母親による補給が推奨される。
母乳栄養児はチアミン欠乏症のリスクがある。乳児期のチアミン欠乏症は、大豆ベースの粉ミルクの摂取、ベジタリアン食の場合にも起こり得る。
乳児期のチアミン欠乏は、過敏症、嘔吐、運動失調、睡眠パターンの変化などを引き起こす可能性がある。また、乳幼児期チアミン欠乏の長期的な影響として、運動障害、発作、心ブロック、運動能力の遅れが挙げられる。
小児期
チアミン欠乏と小児の自閉的特徴との関連が指摘されている。チアミン誘導体(チアミンテトラヒドロフルフリルジスルフィド)50mgを1日2回、2ヶ月間投与したところ、社会性、認識力が改善された。
さらに、小児のうつ病、気分の落ち込みや怠け癖もチアミン欠乏との関連が示唆された。
成人期
チアミン欠乏症はアルコール乱用と関連する。
アルコール代謝により、血液脳関門を含む体内へのチアミンの輸送が減少する。
また、アルコールによる肝障害はチアミン貯蔵とリン酸化を低下させるため、チアミン欠乏を助長する。チアミン不足の状態でアルコール摂取を急に中止すると、グルタミン酸の機能と放出が亢進し、グルタミン酸過活動による神経毒性を引き起こす可能性がある。
したがって、アルコール離脱には脳の解毒のためにチアミンの補給が必要と考えられる。
チアミンは、妊娠適齢期女性の85-90%に見られる月経前症候群(PMS)の症状(気分の落ち込み、不安、緊張、腹痛、疲労、のぼせ、めまい)を軽減することが期待されている。
チアミンは、炭水化物やアミノ酸の代謝、神経伝達物質の生合成に関与しているため、PMS症状を軽減する可能性がある。
2016~2017年にイランで18~26歳の女子学生を対象に月経困難症の二重盲検臨床試験を実施した結果、チアミンは月経出血の持続時間を短縮、最小限の副作用で月経痛を治療できることがわかった。メカニズムは十分に解明されていない。
高齢者
脳内糖代謝障害は、高齢期においてアルツハイマー病(AD)が発症しやすいことを示している。
チアミン欠乏は脚気、WE、コルサコフ症候群を引き起こし、運動失調、精神錯乱、後に健忘というADと同様の症状を示す。
AD患者では、チアミン欠乏に関連したα-ケトグルタル酸およびピルビン酸デヒドロゲナーゼ酵素の活性およびレベルの低下が見られる。
・リボフラビン(B2)
妊娠中
リボフラビン欠乏症は子癇前症の危険因子の可能性。
リボフラビン由来の補酵素であるフラビンモノヌクレオチド(FMN)およびフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の不足は、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレスの増強、一酸化窒素の放出障害などの子癇前症の病態生理に関与すると考えられている。
授乳期における母親の平均摂取量は0.39mg/Lで、母乳中に0.01-0.55mgが分泌される。
この摂取量はRDAの1.6mg/Lより低い。
授乳中の母親はリボフラビンが枯渇しないように、リボフラビン消費量を増やす必要がある。
乳児期
リボフラビンが生後早期の脳発達に重要なことが報告されている。
リボフラビンは紫外線照射により破壊されるため、高ビリルビン血症の乳児に紫外線療法を行うとリボフラビンが欠乏する可能性がある。
リボフラビンを0.4mg/dayまで強化した離乳食により、乳児の栄養状態が改善される可能性がある。
小児期と思春期
近年、子供や思春期における片頭痛、痛み、注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に栄養処方が用いられる。
片頭痛の栄養処方としては、リボフラビン、マグネシウム、コエンザイムQ10など。
リボフラビンはミトコンドリアのエネルギー生産に関与することから、ミトコンドリア機能不全に関する片頭痛発作を軽減できる可能性がある。
成人期
ミトコンドリア機能障害と関連する成人の片頭痛治療の選択肢になる。
女性におけるリボフラビンの摂取はPMSの発生率の減少にも関連していた。
高齢者
リボフラビンは高齢者の2型糖尿病(T2DM)のリスクを低下させる可能性がある。
T2DMはインスリン抵抗性につながる酸化反応と関連している。
リボフラビンの予防的役割は、抗酸化作用と鉄の過負荷を軽減する能力に起因している可能性がありる。19,168人の健康な日本人男女を5年間調査した研究では、リボフラビン1.8mg/日の摂取によりT2DMのリスクが44%減少したが、これは女性のみだった。
・ナイアシン
妊娠中
妊婦は微量栄養素の欠乏に陥りやすくRDAは一般成人より高い。
ナイアシン14mg NEから18mg NEと、約25-30%余分に摂取する必要がある。
ヒトの全エキソームを解析したところ、デノボ・キヌレニン経路(3-ヒドロキシアントラニル酸 3,4 ジオキシゲナーゼをコードする HAAO 遺伝子とキヌレニナーゼをコードする KYNU 遺伝子)に変異が認められ、キヌレニンとナイアシン不足の関係が明らかになった。
ナイアシン欠乏症と胎児の多発性先天性奇形との間に明らかな関係が観察された。
両者ともNAD合成に関与しており、NAD欠乏はVACTERL奇形(椎骨異常、肛門奇形、心血管異常、気管食道瘻、食道閉鎖症、腎臓および/または橈骨異常、四肢欠損)につながる。
ラットを用いた前臨床試験で、母親がナイアシンを補給すると胚の突然変異が消失することが示され、妊娠中のナイアシン摂取の価値が明らかにされた。
授乳中
母親のナイアシンレベルが不足すると、母乳中のナイアシンの主要な形態であるニコチンアミドレベルに影響を与える。
乳児期
ナイアシンは正常な乳児期の発達と成長に不可欠。
ヒトの母乳中の含有量は約1.5mg/Lで、その前駆体であるトリプトファンの含有量は210mg/L。ヒトの母乳には1日に約5mgのナイアシンが分泌されることになる。
ナイアシンとパントテン酸の適切な摂取量は乳児では1.7mg/日であり、平均的な成長と知的機能に重要。
成人期
十分なナイアシンレベルは、ペラグラに関連した皮膚炎の発生を防ぐ。
局所または経口投与されたニコチンアミドは、アトピー性皮膚炎患者で通常損なわれる表皮バリアの完全性を回復することと関連していた。
ナイアシン摂取量17.53mg/1000kcal以上で認知機能が改善された。
ナイアシン摂取量の多さはLDL値の低下とそれに伴う酸化ストレスをもたらすと考えられる動脈流動性拡張と正の相関があることが示された。
19歳から25歳のアスリートのナイアシンRDAは、推奨カロリー摂取量を維持した上で、女性で22.8mg、男性で30.36mgが推奨されている。
・パントテン酸
妊娠中
妊娠中の女性は、パントテン酸を多く含む食品をより慎重に選んで平均的な血中濃度を維持する。
パントテン酸の摂取量が5.6mg/日以上、ビオチンとリボフラビンの摂取量がそれぞれ22.5μg/日、2.42mg/日以上多いとゲノム不安定性と関連して、催奇形性を引き起こす可能性がある。
小児期および成人期
ビタミンB5欠乏はまれ。
B5欠乏は、エネルギー生産および脂質合成の減少など、広範囲の代謝機能に悪影響を及ぼす可能性がある。
症状は、食欲不振、成長障害、皮膚炎、衰弱、運動失調から、麻痺、副腎肥大、潰瘍、肝脂肪症まで様々で、通常、他のビタミンの欠乏と誤診されるため、適切な治療が遅れることになる。
高齢者
パントテン酸の濃度が高いほど、認知障害患者における脳アミロイドβペプチド負荷が増加し、アルツハイマー病の症例が著しく悪化することが示唆されているが、この論争はより大規模な被験者グループを長期間にわたって分析してメカニズムを明らかにすることで、より包括的な科学的研究を行う必要がある。
40歳以上の908人の被験者を5年間調査した結果、パントテン酸は動脈硬化の発症・進展に重要な役割を果たす低レベル炎症の指標であるCRPレベルに逆相関することが明らかになった。
・ピリドキシン
妊娠中
胎盤はアルカリホスファターゼ(ALP)を産生し、活性型ビタミンB6(PLP)をピリドキサルに加水分解するためビタミンB6濃度が低下することから、血清PLP濃度を維持するために妊婦のビタミンB6の摂取量を増やすことが推奨されている(基準摂取量1.8mg/kg)。
妊娠中の女性のピリドキシンレベルを最適化するには、1日5.5~7.6mgのピリドキシンの投与で十分であることを示唆するデータもある。
経口避妊薬(OCAs)を服用している非妊婦も、ビタミンBに対する要求が高い。OCAs服用中は、エストロゲンがアミノトランスフェラーゼ酵素を刺激し、ビタミンB6の代謝異常をきたして欠乏症となる。
妊娠中の女性のビタミンB6摂取は、妊娠初期の安定化から、出産後の気分の高揚、吐き気や貧血の改善にまで及ぶ。妊娠初期のピリドキシンレベルのモニタリングは、吐き気や嘔吐を減らし、妊娠を維持し、流産を予防するために不可欠。一般に、妊娠はジアミン酸化酵素と呼ばれる胎盤酵素の働きによって安定化するが、その活性はビタミンB6によって制御されている。
ピリドキシン欠乏症妊婦は自然流産や死産を経験することがあり、流産が多い女性にはビタミンB6サプリメントの処方が必要とされている。
また、ビタミンB6欠乏は、妊娠悪阻、吐き気、嘔吐に関連する。
ビタミンB6サプリメントは1日510mgまでの用量で、胎児の奇形のリスクを増やすことなく、上記の症状を効果的に改善することができる。
妊婦の合併症の中で最も頻度の高いものの一つが鉄欠乏性貧血だが、貧血の妊婦の中には鉄剤の補給に反応しない人がいる。そのような患者にビタミンB6を投与すると改善されるケースも観察されている。ビタミンB6はヘムやポルフィリン合成に必須かつ、赤血球による適切な鉄利用にも必須。したがって、ビタミンB6不足は一般的な貧血、特に鉄欠乏性貧血と関連する可能性がある。
妊娠28週目の出産前に80mg/日、出産後に40mg/日の量のピリドキシン補給は、産後うつを克服するための気分高揚剤として使用することができる。
胎児の正常な発育を確保する十分なPLPレベルを維持するために、妊娠中に4mg/日以上のピリドキシンを投与することが推奨されている。
授乳期
ビタミンB6は乳児の身長と体重の平均的な成長にも重要な役割を果たす。
授乳中の母親に対するピリドキシンのRDAは妊娠中女性と同じ。
ビタミンB6が不足している母親は、新生児にビタミンB6のサプリメントを与えることが推奨されている。
乳幼児期
グルタミン酸脱炭酸酵素は、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸と抑制性GABAとのバランスを維持する。一部の乳児はこの酵素に常染色体劣性遺伝の欠陥があり、バランスが興奮性のグルタミン酸の方にシフトして生まれる。この興奮状態は、非応答性多形発作として観察される。
10-300mg/日のピリドキシン投与で有意な改善がみられるが、ピリドキシン投与中止後に発作の再発が観察されたことから、これらの乳児には生涯にわたるビタミンB6サプリメントによる治療が不可欠。
小児期および思春期
ピリドキシンはチミジンの生合成および宿主の免疫応答に必要。
またビタミンB6は、5-ヒドロキシトリプタミン(5HT)、セロトニン受容体、カテコールアミンの合成および代謝を調節することから、小児期の行動障害症状の治療に広く用いられている。
例えば、自閉症、運動機能亢進症候群、統合失調症に伴う異常行動を改善する。
さらに、レベチラセタムなどの抗てんかん薬の補助薬として、興奮、過敏、抑うつなどの予防に有効。
ビタミンB6はマグネシウム(Mg)の取り込みを促進することで思春期に伴うストレスに有益な効果を発揮する。ストレスはMg低下と関連しているが、マグネシウムを与えるだけでは落ち着きやリラックスを得るには効果がない。
ピリドキシンは末梢での副腎皮質ホルモンの放出を抑え、うつ病や不安に関係する様々な神経伝達物質の中枢での生合成に影響を与えることから、100~300mg/日の用量で抗ストレス薬として提案されている。
成人期
ビタミンB6欠乏症の成人は、ピリドキシン反応性貧血と呼ばれる小球性低色素性貧血を発症し、ピリドキシンによってのみ改善されることがある。
成人では、ビタミンB6の欠乏はTヘルパーレベルを低下させることで免疫反応に悪影響を及ぼす。
このような場合には、この年齢層の推奨量よりも多い50mg/日に達するピリドキシンの摂取が適切であり、強く推奨されます。
乳児と同様に、ビタミンB6の不足はGABAレベルを低下させ神経の興奮を増加させる。
成人期にはビタミンB6不足による痙攣は、摂取不足、肝臓疾患、妊娠、薬剤によるもので、ピリドキシンを十分に摂取することで痙攣が直ちに改善することが分かっている。
ピリドキシンは成人男性の大腸がんに対しては驚くほど有効。これは、PLPが細胞増殖の亢進や発がん性転換の際に過剰に発現するRNAポリメラーゼ、RNA逆転写酵素、DNAポリメラーゼを阻害する作用があるためと考えられる。
ビタミンB6欠乏によりカルニチン生合成が低下し、脂肪酸の蓄積と脂質プロファイルの変化が同時に起こることから高トリグリセリド血症の男性には、血漿コレステロール値を下げるためにビタミンB66が投与される。
男女とも、ビタミンB6を限界まで制限すると、長鎖PUFA、n-3およびn-6の血漿濃度が低下し心血管系疾患発症の可能性が高くなる。
高齢者
ビタミンB6欠乏症は栄養不良のない高齢者にも発生する。高齢、運動不足、血清アルブミン低値、アラニンアミノトランスフェラーゼ値、ホモシステイン高値は、ピリドキシン欠乏症と関連していた。過敏性腸症候群もビタミンB6欠乏症と相関していた。
・ビオチン
乳幼児期
ビタミンB7は、健康な髪、皮膚、爪を維持し、脳の異常を防ぐために重要。
乳児期のビオチン不足は脱毛症や皮膚炎に関連。症状は1日1mgのビオチン投与で回復する。ビオチンを徐々に中止しても再発は見られないので、患者は7ヶ月かけて0.5mg、0.25mg、0.1mgと徐々に投与量を減らしていく。ビオチンは乳幼児突然死症候群(SIDS)を引き起こす可能性があるため、急に中止しないことが推奨されている。これはSIDSで死亡した乳児の肝ビオチン濃度が、説明可能な原因で死亡した同年齢の乳児より低いという臨床観察に基づいている。
小児期
ビオチンを2.5mg/dayの用量で180日補給したところ、光沢のあるタイプと不透明なタイプの両方のトラキオニキアに有効だった。
トラキオニキアは小児期に発生する爪板の異常な荒れであり、ビオチン欠乏との関連が指摘されている。
成人期
ビオチニダーゼ欠乏は、成人のビオチン欠乏症の基礎となる原因の一つ。遺伝性疾患であるため、新生児は早期にスクリーニングを受けることで、成人期に遅れて発症し、脊髄症や不可逆的な神経学的障害を呈することを避ける必要がある。
高齢者
ビオチン欠乏症は、糖尿病、肝臓および皮膚障害、免疫および神経異常、てんかんなどの特定の疾患と関連している。高齢者のライフステージにおいて重要な骨ミネラルのホメオスタシスや、ビオチニルIgGを介したアレルギー性疾患や自己免疫疾患に関与している。
・葉酸
妊娠中と授乳期
葉酸は胎児の正常な神経および身体の発達に顕著な役割を果たす。
妊娠期の葉酸欠乏は出生時体重に影響を与えるほか、先天性神経管障害、心臓や尿路の障害、さらには癌など、胎児に深刻な悪影響を及ぼす。
神経伝達物質レベルの変化と髄鞘形成の制限による神経管欠損の発生は、乳児の認知機能、学習、記憶障害、脳萎縮など長期的な障害につながる。
また、葉酸の欠乏はインスリン抵抗性、糸球体硬化症、四肢の神経障害、母親の巨赤芽球性貧血などの代謝的影響を引き起こす可能性がある。
妊娠中および授乳期の葉酸の1日の必要量は通常より多く、成長期の胎児や乳児の高い要求を満たすために1日600~800μgに達する。
授乳期には母乳中の葉酸濃度に対応するために需要が増えるため、葉酸欠乏症リスクが高まる。
葉酸欠乏に伴う高ホモシステイン血症は、胎盤血管細胞のアポトーシスとDNA損傷を誘発し、母体内皮の機能不全を引き起こして重篤な合併症を引き起こす可能性がある。
高ホモシステイン血症は、妊娠第2期において妊娠合併症のリスクを約18倍に増加させることが明らかとなった。
一方、葉酸の過剰摂取は、乳児にメチレンテトラヒドロ葉酸のT対立遺伝子をもたらす可能性がある。このタイプのアレルを持つ乳児は、双極性障害、うつ病、統合失調症など、成人期に突然の異常な神経症状に悩まされる。
また、妊娠中に葉酸欠乏症になった女性の乳幼児は、後年、喘息になることが分かっているが、そのメカニズムはまだ不明。さらに、葉酸の欠乏は巨赤芽球性貧血や乳児神経管欠損症を引き起こす可能性がある。
成人期と高齢者
葉酸の一炭素代謝は酸化還元バランスに影響されるため、喫煙は葉酸の貯蔵と代謝を変化させる。
・コバラミン(B12)
妊娠中
妊娠初期には、DNA、RNA、タンパク質合成が増加するため葉酸とビタミンB12を補給する必要がある。
B12の1日の推奨摂取量は、妊娠中の女性は2.6mg/日、授乳中の女性は2.8mg/日。
葉酸とコバラミンが不十分な妊婦は、高い肥満度に悩まされることが観察されている。
コバラミンレベルの低さと低出生体重児(LBW)リスクの増加は、母親がビタミンB12欠乏に遭遇した時期によって異なり、第1期の欠乏はLBWのリスクを最大8倍まで高める可能性がある。
B12欠乏は、流産、早産、子宮内発育不全などの他の妊娠合併症にも関連する。
授乳中
母乳栄養児のコバラミン濃度は母親の状態に左右される。一方粉ミルクで育てられた乳児は、生後1年間にAI(コバラミン0.4-0.5μg/日)を満たすすべての微量栄養素を補給されているため、欠乏の危険性は少ないとされている。
母乳のビタミンB12含量は母親の食事とコバラミン状態によって異なるため、ビーガンやマクロビオティックの食事をしている授乳婦はビタミンB12のサプリメントを摂取する必要がある。
ヴィーガン食ではビタミンB12が制限されるため、常に補給する必要がある。
乳幼児期と小児期
乳児および小児におけるB12欠乏は、神経系、身体的成長不全(failure to thrive)、血液系の障害という形で現れ、神経系にも影響を与える。
症状の改善は様々で、貧血からの回復はコバラミンや葉酸、鉄サプリメントによる治療で加速することが分かっている。
一般に幼児期の栄養不良は、短期的にも長期的にも認知機能、学校の成績、IQスコアの低下と関係があると言われている。
ビタミンB12、チアミン、ナイアシの欠乏は認知障害と関連している。
パントテン酸は正常な発育と発達に不可欠な役割を果たすため、小児では1.7〜5.0mg/日の摂取が推奨されている。
ビタミンB12は、乳幼児期の早い時期に診断されないと欠乏症状が続くことになる。
その結果、学齢期のコバラミン欠乏症の子どもは、運動発達の変化、認知障害、言語能力などに悩まされるかもしれない。
成人期
成人期のコバラミン欠乏症の臨床症状は、疲労、感覚神経障害、神経精神症状、萎縮性舌炎(ハンター舌炎)、巨赤芽球症、好中球過多症から、脊髄の複合硬化、溶血性貧血、さらに汎血球減少などの重度障害。
高齢者
ビタミンB12の欠乏および/または加齢に伴うその機能障害は、加齢に伴う認知機能の低下、および明白な認知症の一因であることが認識されるようになってきている。コバラミン欠乏は、認知、心血管疾患、骨の健康など、加齢に伴う疾患や機能低下に加え、あらゆるライフサイクルにおいて細胞代謝に障害をもたらす。