ボディービルダーが採用する、極端な栄養摂取、薬物やトレーニング戦略のほとんどはエビデンス強度が弱いデータまたはエビデンスがないソースから派生しているとされている。
多くの情報が一部の指導者の個人体験に基づくもので、ベテランのビルダーならまだしも一般人が急に真似ることで健康に与える有害なインパクトについて世界的に懸念が広がっている。
2020年以降有名なビルダーが亡くなったり、腎障害を発症したケースの論文が発表されるなど、直近で流行の筋肥大戦略のどこかに落とし穴がある可能性がある。
ご紹介するレビューは、ボディビルダーに見られる食事および非栄養補給戦略と、腎機能への影響との関連性を探ったもの。
ジムに通う多くの人が現在採用している戦略が健康的か非健康的かを判断する一助になれば幸いである。
Nutritional and Non-Nutritional Strategies in Bodybuilding: Impact on Kidney Function
・腎臓機能の測定
臨床における腎機能の推定は、主に血清クレアチニンの測定に基づく。
クレアチニンは、クレアチンおよびクレアチンリン酸の代謝の最終産物で、クレアチンは主に腎臓と肝臓でグリシン、アルギニンおよびメチオニンから生成され、骨格筋と心筋に運ばれてクレアチンキナーゼによるリン酸化を受けてクレアチンリン酸塩になる。
クレアチンリン酸塩は激しい筋収縮の初期段階において容易に利用可能なエネルギー源となる。
骨格筋はクレアチンおよびクレアチンリン酸の濃度が最も高い(~95%)ことからクレアチニンの主要な供給源だが、高タンパク食、特に調理した肉を含む食事もクレアチニンの供給源のひとつとされている。
クレアチニンの主な排泄経路は腎臓。クレアチニンは糸球体で濾過されるが尿細管分泌も受ける。したがって、血清クレアチニン値は腎機能の重要な指標ではあるが、筋肉量と照らし合わせて解釈する必要がある。
また、シスタチンCはより信頼性が高く正確な腎臓機能の指標であることが証明されている。
シスタチンCはGFR以外の決定要因が少なく、特に、血清クレアチニンのように筋肉量や食事との関連性がない。
しかし、同化作用のあるアンドロゲンステロイド(AAA)の使用により増加することが報告されていることから、血清クレアチニンとシスタチンCはボディービルにおける腎機能の正確な評価の探求に採用される可能性がある。
筋肉量や食事量が極端な場合には、シスタチンCを測定してeGFRをeGFRcr-cysとして報告するか、あるいはクリアランス法を用いてGFRを直接測定することが推奨されている。
・タンパク質補給
英国政府のガイドラインでは、0.75~0.8g/kg/日のタンパク質摂取が推奨されている。
アスリートの場合は1.4~2.0g/kg/日が、安全にトレーニング適応を助け、筋肉量の構築と維持を最適化するものとしている。
タンパク質は筋肉の同化作用に不可欠で、ボディビルダーを含む筋力とパワーのあるアスリートにはより高い摂取量が有効。
高タンパク食の使用は、腎機能障害を持つボディビルダーにも広く普及している。
他の研究者は、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)による末期腎不全を呈しているボディビルダーにおいて、2g/kg/日のタンパク質摂取を報告している。
また、10人のボディビルダーのうち8人が高タンパク食(2.8~5.1g/kg/日)を摂取しており、9人がFSGSを患っていることを発見した研究もある。
さらに、急性腎障害(AKI)を発症した4人のボディビルダーの総タンパク質摂取量が3.2〜4.2g/kg/日であることを明らかにた研究もある。
様々な腎臓の状態を持つ22人のボディビルダーのタンパク質摂取量は、20〜30g/kg/日という驚くべき数値も報告されており、これらの摂取量はポーツ競技に推奨される最高摂取量と同等かそれ以上。
しかし、いずれの研究でも高タンパク質摂取が腎機能障害の主な原因であるとは考えられていない。
ほとんどの場合、他の複数の行動も関与していたと考えられている。
他の研究では、比較的短期間とはいえ、高タンパク食を単独で摂取しても有害な影響を及ぼさないことが分かっている。
5人の健康なレジスタンストレーニングを受けた男性に、2.5 ± 1.0 から3.5 ±1.4g/kg/日を2年間摂取させたところ腎機能に対する有意な影響は見られなかったとする報告もある。
同様に、14人のレジスタンストレーニングを受けた男性に2.51~3.32 g/kg/日を1年間摂取させた無作為化クロスオーバー試験でも、有害な腎臓への影響は観察されなかった。
どちらの研究でも、腎機能に関連するパラメータは、血清クレアチニン、血中尿素窒素、eGFRのみ報告されている。
一方で、高タンパク食は腎不全の既往がある人に問題を引き起こす可能性があることを示す証拠がある。
高タンパク食は糸球体過濾過を引き起こし、糸球体内圧を上昇させ、構造的な損傷につながる可能性がある。
長期的な疫学調査では、タンパク質の摂取量が多いと腎臓の機能がより急速に低下することが分かっている。
慢性腎不全(CKD患者)では、タンパク質摂取量を少なくすることが強く推奨されている。
ボディビルダーはバルクアップ(筋肉量を増やすためのカロリー増)またはカッティング(体脂肪を減らすための競技前のカロリー減少)など、トレーニングの特定の段階において異なる栄養戦略を採用する。
大会前の1週間は炭水化物が主な栄養素となり、高タンパク質の消費は維持される。
ある研究では、ボディビルダーは1日のタンパク質摂取量を増量期の2.5g/kg/日から減量期に〜3.0g/kg/日に増やしていた。
一方でベースラインのタンパク質摂取量が、競技3日前に2.68g/kg/日から2.48g/kg/日にわずかに減少していることを発見した研究もある。
同様に、増量時には4.16±1.28g/kg/日のタンパク質が摂取され、減量時には3.56±1.43g/kg/日に減少することを明らかにした研究もある。
腎機能障害に関連するボディビルダーのタンパク質摂取量について詳述した研究は、いずれも対象者のトレーニング段階を明記していない。
正確な摂取量を確定し、関連するリスクを定義するためには、異なるトレーニング段階における摂取量を複数回評価することが必要。
全体として、高タンパク質食が健康なボディビルダーにおける腎機能障害のリスク上昇に寄与するという直接的な証拠はほとんどない。
報告されたFSGS症例では、他に原因となりうる習慣を併用していた。
腎臓に障害がある場合、そのリスクはより高くなる可能性があるがエビデンスは乏しく、さらなる研究が必要。
・クレアチンサプリメント
クレアチンの補給は、除脂肪体重や体力の増加、運動後の回復の改善、ケガの予防など、パフォーマンスを向上させる特性が認められているため、あらゆるレベルのアスリートで人気が高い。
ボディービルダーで最も一般的に使用される非ホルモン系サプリメントの一つでもある。
通常、4回等量(4×5g)を毎日(~0.3g/kg/日または20g/日)5~7日間摂取し、筋肉にクレアチン負荷をかける。その後、3~5g/日を維持量として使用する。
この投与戦略は、レジスタンストレーニングの利益を増大させることが示されている。
腎機能障害を持つボディビルダーにおけるクレアチン使用については7つの研究で確認されているが、具体的な投与戦略について概説しているのは5つで、消費された維持量は推奨量とは異なっていた。
極端なケースでは、推奨される維持量の22倍にあたる210g/日を消費したことが報告されている。
ここでも、クレアチン補給が単独で行われることはなかった。
アナボリックステロイド(AAS)、NSAIDS、利尿剤の使用を明確に否定している研究は1件のみで、2件の研究では栄養摂取や他の薬剤の使用など他の要因ついては一切触れていない。
ボディビルダーにおけるクレアチン補給と最も頻繁に関連する腎臓症状は、急性間質性腎炎(AIN)と急性尿細管壊死(ATN)ですが、これは比較的低用量を摂取する個人で発生したもの。
先に述べたように、報告されていないが他の薬物も消費されていた可能性もあり、クレアチン製剤の賦形剤が真犯人である可能性もある。
9.7 ± 5.7g/日という高用量の維持量を4年まで長期にわたって使用しても有害な影響がないことが示されている。
同様に、クレアチン補給と高タンパク質摂取(1.2〜3.1g/kg/日)およびレジスタンストレーニングは、クレアチニンクリアランスおよびアルブミン尿に明らかな影響を与えなかった。
全体として、クレアチン補給がボディビルダーにおける腎障害の発症リスクを増加させるという証拠はなく、結論に至っていない。
クレアチンの補給が本当に懸念すべき原因であるかどうかを確認するためには、さらなる研究が必要。
・アナボリックステロイド(Anabolic Androgenic Steroids)
現在、レクリエーションスポーツ選手によるアナボリックステロイド(AAS)の使用は、プロスポーツ選手の使用率を上回っているとされる。
ボディビルダーにおけるAASの使用について評価した最近の研究では、現在進行形のステユーザーでは過去の使用歴のあるものや非使用者に比べてAKIの有病率が高く、腎不全のリスクが高い可能性があることが示唆されている。
AASの使用は、AKI、AIN、FSGS、腎硬化症といった腎臓疾患と関連するが、すべてのケースで他のボディービル習慣も実践されていた。
ボディービルに関連する13の論文のうち、3つの論文ではAASの使用の有無が明記されておらず、2つの論文でのみ使用が否定されている。
残りの8件は、AASの使用歴があることが確認されたが、具体的な使用量、種類、使用期間を詳述しているのは4件のみ。
内分泌学会の声明では、AASの使用はFSGSを含む重大な合併症の発生につながる可能性があるが、心血管系のリスクは腎臓へのリスクより大きいと警告されている。
FSGSは顕在化するまでに長い曝露期間を要するケースもあるが、不顕性腎障害は早期に発生する可能性がある。
AASは腎障害に関連する複数の経路に影響を与える可能性があるが、その証拠は主に動物実験によるデータに限定されている。
アンドロゲンは、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)を刺激し、血圧上昇および塩分と水分の尿細管再吸収による水分貯留の増加をもたらす。
エンドセリンの産生が増加すると、求心性および遠心性の血管収縮が起こり、分裂促進作用が増加する。
RAAS活性とエンドセリンの増加は、NADPHオキシダーゼを介して酸化ストレスを増加させる可能性がある。
さらにアンドロゲンは、カスパーゼ依存性のアポトーシス経路を活性化することによって腎尿細管細胞のアポトーシスを促進し、腎臓の線維化の進展に寄与する。
テストステロンは、インターロイキン-1b、腫瘍壊死因子α、インターロイキン-6などの炎症性サイトカインの産生に関与し、CKDの進行を加速させる可能性がある。
AASの使用が腎臓の健康にもたらす脅威はタンパク質やクレアチン摂取よりも実証されているが、ボディビルダーにおいては腎臓にとって有害となりうる習慣が共存しているために複雑になっている。
ビタミン
ビタミンは健康維持に必要な多くの生理機能を支えるために、生涯を通じて必要な量が変化する。
ビタミンAやビタミンDは大量に摂取すると体内に蓄積され、高ビタミン血症になる可能性がある。
ボディビルダーは、ADEと呼ばれる油性物質に含まれるビタミンA、D、Eを大量に注射することが知られており、その摂取は人間の健康や腎臓の機能に害を及ぼすとされている。
ADE’化合物のヒトへの使用が最初に報告されたのは1980年代後半のブラジルで、ADEはもともとビタミン欠乏症や感染症にかかった牛や馬の治療に獣医の専門家が使用していた。
ADEがボディビルダーに使用される主な理由は、ビタミンそのものではなく油性キャリアの役割であり、筋肉に注入されると異物反応と局所的な偽肥大が起こり、筋肉の同化ではなく局所的な液体貯留によって筋肉の体積が増加するため。
ビタミンの使用に関連して腎臓の状態を報告している6つの研究のうち、4つは投与量、使用期間について具体的に説明している。
ボディビルダーが使用した「ADE」の量は、牛に推奨される量よりはるかに多く、腎臓の病態は一般的な高カルシウム血症や二次性AKIから、腎石灰化症とCKDに発展するものまで様々であった。
尿細管間質にリン酸カルシウムが大量に沈着し、不可逆的な間質線維化と尿細管萎縮を伴うこともあった。
高カルシウム血症を引き起こすビタミンD中毒の発症には、1日あたり20,000〜30,000IUが必要。
他の研究で報告されているボディビルダーのビタミンD摂取量は40,000IU/日で、25(OH)D値は150ng/mLと、これまでに報告されたビタミンD中毒の200mng/mL以上よりやや低い値であった。
ビタミンA中毒はまれであるが、破骨細胞を介した骨吸収を増加させることにより高カルシウム血症を引き起こすが、研究ではビタミンA濃度は上昇していたが正常値の上限内であった。
つまり、化合物「ADE」中のビタミンだけが高カルシウム血症の原因ではない可能性がある。
しかし、複合型ADEの使用が高カルシウム血症、AKIおよび腎石灰化症を引き起こす可能性が最も有力視されている。
・非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)
高用量のNSAIDsの定期的な投与はAKIの発症要因となり、CKDの進行を加速させるなどリスクを著しく増加させる。
NSAIDSの使用は、ボディビルダーにおける腎障害の報告において十分に認識されていない要因であると考えられる。
・脱水と利尿剤
ボディビルの大会前数日間のピーキング戦略には、ワークアウト方法の変更、筋グリコーゲン量を増やすための多量栄養素、水分、電解質の摂取、皮下水分の最小化、腹部膨満感の最小化、筋肉の明確さの最適化などが含まれる。
これらの目的を達成するために利尿剤やインスリンなどの有害となりうる薬剤を使用し、低カリウム性四肢麻痺などの危険な結果をもたらしたケースもある。
大半の戦略において大会前最終日に脱水とナトリウムの枯渇が伴うが、これは腎機能障害のリスク上昇と関連している。
利尿剤の使用歴が否定的であることを明確に立証した研究は3件のみ。
・その他のサプリメント/刺激剤と横紋筋融解症
このレビューの文献検索の範囲では見つからなかったが、一般人が容易に入手できる栄養補助食品(DS)は他にも数多く存在する。
ビルダーが使用している注目のDSの1つに「ハイドロキシカット」がある。
これは減量と筋肉増強のための製品で、Garcinia cambogia, Cissus quadrangularis, caffeine, Ma Huang (ephedra) および緑茶を含んでいる。
caffeineはボディビルダーに最も人気のあるプレワークアウト刺激剤だが、筋力パフォーマンスの改善には安全なカフェイン投与量の上限である〜6mg/kgの大量補充を必要とする。
2018の研究では、ボディビルダーが大量のエネルギードリンクやホットドリンクを消費し、数人のボディビルダーがカフェインの推奨安全摂取量を超えていることを発見した。
ハイドロキシカットの摂取とカフェインは、ともに横紋筋融解症の発症に関連している。
ビルダーがこれらのサプリメントや刺激剤を摂取している場合横紋筋融解症のリスクが高まる可能性がある。
横紋筋融解症は、急性腎不全やその他の複数の臓器機能不全の発症にもつながる可能性がある。
横紋筋融解症は激しい運動や過度の運動により筋骨格系細胞が損傷し、損傷した細胞膜を介して血液中にクレアチンキナーゼやミオグロビンの濃度が上昇する病態を指す。
ミオグロビンは腎臓から排泄され、尿を赤色または褐色に染めるため、横紋筋融解症による腎障害の主因と言われている。
横紋筋融解症の三大症状は、筋肉痛、脱力感、暗色尿であり、運動誘発性遅発性筋肉痛(DOMS)として見過ごされることも少なくない。
結論
ボディビルダーは、日常的に腎臓に有害となりうる多くの栄養的および非栄養的行為を行っている。
蛋白質の大量摂取やクレアチンの補給よりも、蛋白同化作用のあるアンドロゲンステロイドや、特にビタミンA、D、Eの大量摂取によるダメージについてより強力な証拠が存在する。
利尿剤の乱用やNSAIDsの使用など、脱水の習慣は潜在的なリスクを伴う。
適切なアドバイスを提供できるように、個々の習慣や組み合わせに関連する臨床的および不顕性的な害を特定するためにさらなる研究が必要。