2020年の我が国の出生率は大幅に減って人口は53万人程度減少し、2021年はパンデミックによりさらに減少したと予想される。
少子高齢化という最大の国難を迎えるにあたり、女性の社会的環境や健康状態をより良いものとすべく国を挙げて対策すべきだろう。
カイロプラクターとしてお役に立てることは産後のタイミング以降に限られてしまうが、ブログで情報発信することで誰かのお役に立つことができるかもしれない。
当院では患者さんとの会話の中で生まれた疑問や心配事を参考にしながら、なるべく最新のデータを基に情報を共有していきたいと考えている。
今回のブログは、妊娠中の栄養摂取とメンタルヘルスの関係についてデータをまとめてみたい。
妊娠中は、生理的・ホルモン的な変化と家族間および社会的な力学の変化が同時に起こるため、女性にとってストレスや不安が生じやすく、幸福感が低下しやすい時期であるため、女性の心理的負担を軽減するための方策が求められる。
過去の調査によると女性の5人に5人が産前うつになる可能性があり、中低所得国に比べて高所得国でよりその傾向が見られる。
また、妊娠中の女性は妊娠していない女性よりも自殺願望が強く、米国では妊娠中および産後の女性の死因の3番目が自死である。
近年、栄養精神医学はメンタルヘルスにおける食事の役割を調査する研究分野として急成長している。
当院のブログでも、妊娠中の栄養学について過去にいくつか記事をアップしてきた(1、2、3)。
過去の研究では、質の高い健康的な食事が、精神的な健康と気分を効果的に改善することを一貫して示唆している。
健康的な食事には、全粒穀物、果物、野菜、低脂肪タンパク質源、豆類の摂取、一方で甘い菓子類、精製炭水化物、時にはアルコールの摂取を制限することを推奨している。
いわゆる抗炎症性の地中海食を反映している。
過去の試験では、地中海食は社会的支援のみの場合と比較してMontgomery-Asberg Depression Rating Scaleスコア(MADRS;うつ病エピソードの重症度を示す尺度)を有意に改善できることを示している。
これは若年成人(17~35歳)を対象とした研究でも同様の結果であった。
また、地中海食の摂取による腸内細菌叢の改良による腸脳軸を介した精神疾患の軽減も多くの研究で考察されている。腸内細菌叢は体内のセロトニンの90%を産生する役割を担っているとするデータもある。
セロトニンの枯渇はしばしばうつ病と関連する。
しかし、食事とメンタルヘルスの関係を示す説得力のあるデータが多く存在する一方で、妊娠中の集団を対象としたデータは不足している。
リンクの大規模コホート研究は、微量栄養素の摂取が妊娠中の母親の精神的幸福のスコアと関連していると仮定し、妊娠初期の妊婦集団における食事摂取量と精神的健康との関係を調査することを目的としたもの。
妊娠コホートにおいて特定の食事パターンと精神的健康の関係について調査を実施した初めての研究。
Diet and Mental Health in Pregnancy: Nutrients of importance based on large observational cohort data
平均年齢32±4歳、BMI27の女性1,521人が解析に含まれた。
平均幸福度スコアは59%。
回帰分析の結果、食物繊維、マグネシウム、ナイアシン、チアミン、葉酸のいずれも妊娠集団の幸福と正の有意差があることが判明した。
妊娠初期の母体の栄養と幸福は関連しており、食物繊維、マグネシウム、そして特にビタミンB群が妊娠中のポジティブな精神的幸福を促進するために重要であることが示唆された。
・この研究で特定された重要と思われる栄養素は、食物繊維、特定のビタミンB群、マグネシウム。
タンパク質、亜鉛、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB6またはB12、リボフラビン、血中脂質プロファイルと幸福度の間に関係は示されなかった
・過去の研究で、食物繊維、ビタミンB群、亜鉛、マグネシウムを多く含む地中海食とDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食の両方が、うつ病や気分の低下に変化を及ぼすことが示されている。
抗炎症性の地中海食が、ハイリスク群の人々のメンタルヘルスアウトカムを改善することが一貫して示されている。
・この研究では、全粒粉、果物、野菜に含まれる栄養素がメンタルヘルスの改善と関連していることを強く指摘している。上記の食品に多く含まれる繊維質が、妊娠中のコホートで観察された利点の根源であることを示唆している。
食物繊維とメンタルヘルス
・いくつかの先行研究で非妊娠集団の食物繊維摂取が、精神的健康を予測する上で重要であることを示唆ししたが、推奨摂取量を満たしているのは参加者のわずか20%と非常に低い割合であることがわかった。
食物繊維を多く摂取することによる健康上の利点として、不安の発生率の低下、幸福感と生活満足度の向上、マイクロバイオームの健常性維持、妊娠中に繊維を摂取した場合の子供の認知発達の改善などがある。
・全粒粉、果物、野菜は食事における主な食物繊維源である。
新鮮な生の果物や野菜は、缶詰の加工品と比較してメンタルヘルスに最も顕著な影響を及ぼしたとする研究もある。
・健康で多様な腸内細菌が精神的な健康と幸福に寄与することを示すデータある。
腸脳軸ための免疫、内分泌、代謝経路が数多く存在し、食物繊維はプレバイオティクスとして腸内細菌の多様性を向上させる。
食物繊維の摂取量が少ないと、ディスバイオシスが起こり、宿主の健康に大きな影響を与える可能性がある。
・セロトニンの生成に腸内環境は重要な役割を果たし、微生物の多様性が高いほどセロトニンの産生量は多くなる。単一の細菌がセロトニン生産を全面的に担っているわけではない。
セロトニンは重要な神経伝達物質で、セロトニン経路の崩壊はうつ病の病態生理に共通する特徴。
・食物繊維は、その抗炎症メカニズムを介してうつ病の症状を改善する可能性がある。
うつ病は炎症状態であると考えられており、抗炎症特性を持つ食事は幸福感の低下を軽減するのに有益であることが証明されている。
SCFAは抗炎症反応を引き起こす重要な代謝産物で、食物繊維の摂取によってうつ病が改善される理由を説明している。食物繊維の摂取量が少ないとSCFA産生が減少し、繊維の代わりにアミノ酸を発酵させた有害な代謝産物が増加する。
さらに、食物繊維は抗炎症作用のあるフェルラ酸を放出する。
微量栄養素と幸福感
・この研究では、マグネシウムと亜鉛などいくつかの微量栄養素が幸福感を促進する役割を果たす可能性が示唆された。これらは、地中海食やDASH食によって主に得られる。
・2018年の動物試験とヒト試験の両方で、うつ病とマグネシウム摂取の逆相関が実証された。
マグネシウムは中枢神経系への関与が特徴で、欠乏は炎症性反応と関連している。
・亜鉛もうつ病と関連することが文献で示されている。
亜鉛がうつ病リスクに関連すると考えられる経路、抗炎症性、セロトニン経路、視床下部下垂体副腎(HPA)-軸が挙げられる。
妊娠中の集団において、コルチゾールレベルによって周産期、特に産後のうつ病に関連するHPA軸の変化を捉えることができることが明らかされている。
腸脳軸をターゲットにしたプレバイオティクス、亜鉛の栄養介入は、うつ病治療においてHPA軸を変化させるために採用されている。
・妊娠中の集団における食事と幸福感の関係を示すものとして、ビタミンB群、特にナイアシン、チアミン、葉酸と母親の幸福感との間に有意な関連があることを指摘した。
ビタミンB群は妊娠に関連する多くの利点について他の文献でもよく報告されているにもかかわらず、今日まで、母親のメンタルヘルスにおける役割を調べたデータはない。
ナイアシンは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)およびNADリン酸(NADP)の一部で、末梢および脳細胞の機能に重要。
葉酸はしばしば抗うつ剤と一緒に処方されるが、葉酸が気分の改善に独自の役割を果たす可能性を示唆している。
チアミンの欠乏はうつ病様神経症状として現れる。