これまでにも妊娠中栄養学についてブログでデータをご紹介してきたが、今回は人工甘味料に関するデータをまとめてみたい。
食品のクオリティにこだわることの有益さをとくSNSアカウントが増え、栄養学の情報に接する機会は増えているが、一般的に人工甘味料(AS)の消費量はここ数十年で増加の一途を辿っているようだ。
ASの摂取はインスリン抵抗性(IR)、2型糖尿病(T2DM)、肥満、心血管疾患のリスクを高め、生殖系にも悪影響を及ぼすことが多くの研究で示唆されている。
また近年では、妊娠・授乳期の最適でない母親の栄養状態が、心代謝疾患、肥満、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や無排卵などの生殖障害など、子孫における障害発生のリスクに影響を与えることが知られいる。
妊婦はASを頻繁に摂取しており、妊婦の4分の1以上(29.5%)が妊娠中にASを摂取し、そのうち5%以上が毎日摂取していると報告されている。
妊娠糖尿病(GDM)と診断された女性では、半数弱(45.4%)が妊娠中のAS摂取を報告しており、9.2%が毎日摂取していると報告した。
また、サッカリン、スクラロース、アセスルファムK(Ace-K)などのASは、授乳中の女性の母乳からも検出されており、これらの化学物質が授乳中の乳児に移行する可能性を示唆している。
さらに、母親のAS摂取が1歳と7歳の子供の肥満発生率の増加に関与していることが、ヒトを対象とした研究から明らかになっている。
マウスを使った研究では、経口給餌後の羊水と母乳にAce-Kが含まれており、成人してからAce-Kに対する雄の子孫の甘味嗜好が増加することが明らかになっている。また、母親のASと果糖(Fr)の摂取が母親の代謝機能障害を引き起こし、胎児の発育に悪影響を及ぼすことが明らかになっている。
しかし、以上のような背景があるにもかかわらず、妊娠中のAS摂取に関する規制やガイドラインは不明瞭なままで、データも少ない。
リンクの研究は、妊娠中および授乳中の母親のAS(Ace-K)への暴露が、雄および雌の子孫の代謝マーカー、雌の発情周期および関連する卵巣遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることを目的としたもの。
妊娠中マウスに、妊娠・授乳期間中の標準飼料に水(CD)、果糖(Fr)、またはAS(AS;12.5mM Ace-K)のいずれかを添加したものを与えた。離乳後の子は、実験の残りの期間CD食で維持した。
12週目に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施。
AS群の雌はFr群に比べて耐糖能が低下したが、雄は低下しなかった。
AS群およびFr群の雄の子孫では、CD群に比べて生殖腺脂肪の脂肪細胞のサイズが増加した。雌の子孫では、CD群に比べてFr群で脂肪細胞のサイズが増加した。
雌の子孫のASグループではCDグループに比べてFasn遺伝子の発現が増加する傾向が見られた。
また、母親のASおよびFrは雌の発情周期に悪影響を与え、排卵に関連するマーカーに変化をもたらした。
以上の結果、母親の食事におけるAce-k摂取は耐糖能異常を引き起こし、脂肪細胞の大きさに男女特異的な影響を与えるだけでなく、雌子孫の発情周期や関連する遺伝子マーカーにも大きな影響を与えることがわかった。
世代間の影響という観点からも、人工甘味料摂取の潜在的な悪影響を浮き彫りにするものであると結論。
・果糖を多く含む砂糖入り清涼飲料水などの母親の食生活は、子孫の代謝性疾患の増加の原因となっている。この研究では、ASとFrを母親が摂取すると、雌雄のマウスで体重増加に変化がなかったにもかかわらず脂肪細胞の肥大化が進み、耐糖能が低下した。
さらにASおよびFrは、排卵、アンドロゲン変換、不規則な発情周期のリスク増加に関連するマーカーの変化を通じて、雌の子孫の生殖システムに影響を与える可能性が示唆された。
・母親がASを摂取しても雄子孫ではOGTT後の耐糖能には影響がなかった。この保護効果は雌の子孫には見られず、逆にOGTTではFr群に比べてASを摂取した母親の雌の子孫では耐糖能が上昇していた。
・脂肪細胞の形態を評価したところ、母体のFrとAS摂取は雄の子孫の生殖腺脂肪組織に脂肪細胞の肥大を誘発した。雌ではFrでのみ見られたが、AS群ではCD群と比較して脂肪細胞のサイズが大きくなる傾向が見られた。雌雄ともに脂肪細胞の分布FrとASの両方の曝露により大きなサイズに偏った。
脂肪細胞の肥大化は、肥満がなくても脂肪代謝機能障害、脂質異常症、赤血球増加症、T2DMの共通の予測因子である。それは、マクロファージのリクルートの増加、およびその他の炎症性アディポカインと関連している。
・皮下脂肪細胞の肥大化はFrを摂取した母親の子孫である雌に見られたが、雄の子孫には見られなかった。このことは、女性の子孫は男性の子孫に比べて、母親の食事が脂肪組織の形態に与える影響がより全身的である可能性を示している。
・母親のASとFrの摂取が子孫のメタボリックヘルスに及ぼす影響を調べるために、脂肪形成、炎症、特定の代謝経路に関連する遺伝子群を調べた結果、母親のASとFrの摂取に伴い雄ではなく雌の子孫がFasnの発現量を増加させる傾向が見られた。Fasnは脂肪生成、インスリン感受性低下や肥満と関連し、ヒトの脂肪細胞ではインスリンによって発現が増加する。
雌子孫におけるこの傾向は、インスリン感受性や後年の脂肪蓄積のリスクが高まることを示唆している可能性がある。
・ASは羊水と母乳の両方から検出されており、これが子孫の腸内細菌叢を変化させたり味覚の好みを変える可能性が示唆されている。甘いものを好むようになると子供はその後の人生で高糖質の食品を好むようになることで肥満に関連した食事をするようになり、その結果二次的な健康問題が引き起こされる可能性がある。
・ASとFrを摂取した母親の子孫では、不規則な発情周期が増加することがわかった。
母体が高フルクトース食にさらされると、マウスの雌の子孫で発情周期の不規則性が増加することが示され、母体の栄養状態の変化が子孫の生殖健康の側面に影響を与えることが確認された。
・発情周期の乱れを詳しく調べるために卵巣遺伝子の発現を評価した。
母体がFrを摂取すると、ASに比べてPGRとCyp17A1の遺伝子発現が低下した。
PGRは排卵前期の卵胞の顆粒膜細胞に発現し、卵巣機能や排卵の調節に関与するプロゲステロンの作用を媒介する。また、Frを摂取したラットの雌の子孫ではPgrの卵巣での発現が低下しており、母体の果糖摂取が雌の子孫におけるエストラジオールのホメオスタシスの障害に関与していると考えられる。
CYP17A1の高発現は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)女性のアンドロゲン濃度の上昇や月経不順に関与していると考えられている。
PGRと同様、CYP17A1は黄体形成ホルモン(LH)によって制御されている。
AS摂取の母親の子孫はLH濃度が高く、それが卵巣遺伝子の発現増加の原因となっている可能性がある。
・Frは、CD群とAS群の両方に比べて雄の子孫の血漿テストステロンを増加させた。
思春期の雄ラットにFrを30日間摂取させたところ、血漿テストステロン濃度が上昇し、精巣と精巣上体の発達が損なわれたという過去の研究結果と一致する。
・本研究では、ASの摂取量を標準的なソーダ1缶分(1日)に相当する量とした。
多くの研究では、効果を誘発するために超生理学的な濃度のASおよびFrを使用するが、この研究では低濃度のASが母親の摂取後に子孫に影響を及ぼすことを示すことができた。