妊娠中の母親の食事内容が胎児の発育に大きな役割を果たすことは疑いようがない。
過去の研究では、
・栄養不足が出生時体重に及ぼす影響
・飢餓状態が子孫の統合失調症に及ぼす影響
・葉酸欠乏が神経管閉鎖障害に及ぼす影響
・魚の摂取が神経認知に及ぼす影響
などが実証されている。
また、食事要因と有病率が増加している自閉症スペクトラム障害(ASD)など特定の神経疾患との間に逆相関があることも近年報告されている。
ASDは社会的コミュニケーションや行動に影響を及ぼす神経発達疾患で、出生前に発症し、遺伝的要因と環境的要因の両方がその複雑な病因に寄与していることが示唆されている。
出生前の母親の食事はDNAメチル化、炎症、酸化ストレスなど、いくつかの潜在的機序を介してASDと関連している可能性がある。
妊娠中の食事パターンとASDの関連を検討した研究は過去に数件。それらの研究のほとんどは、「健康的 」な食事との逆相関を報告している。最大かつ最新の研究では、果物、野菜、魚、ナッツ類、全粒穀物の摂取量が多く、赤身肉や加工肉の摂取量が少ない健康的な食事パターンを妊娠中に遵守することで、ASD診断やコミュニケーション障害のオッズが低下することが報告されている。
一般に多くの研究が健康的な出生前の食事とASDリスク低下の関連を支持している一方で、研究デザインの違いなど一定のギャップや限界が存在するため、公衆衛生への応用が制限されている。
リンクの研究は、妊娠中の母親の食事摂取パターンとASD関連アウトカムとの関係についての知見のギャップを解決するため、大規模で社会経済的、人口統計的に多様な米国全体のサンプルであるEnvironmental influences on Child Health Outcomes(ECHO)コンソーシアムのデータを使用して、食事の「健康的な」側面と「不健康な」側面の両方を捉える3つの確立された食事パターンを調査したもの。
Environmental Influences on Child Health Outcomes(ECHO)コンソーシアムの14コホートから最大6084人の参加者(分析サンプルは1671人から4128人)において、出生前の食事パターンと、親が報告した自閉症スペクトラム障害(ASD)の臨床医診断やSocial Responsiveness Scale(SRS-2)スコアを含む子どもの自閉症関連アウトカムとの関係を調査。
【結果】
調整モデルでは、出生前の健康的食事指数(HEI-2015)の四分位が高いほどSRSスコアが低かった。
代替健康的食事指数(AHEI-P)スコアについても、総カロリーで調整すると同様の関連が認められた。
出生前の食事とASD診断との有意な相関はみられず、米国ベースの大規模研究では出生前の食事パターンとASD関連転帰との強い相関は示されなかったが、より広範な形質との微妙な関連は、出生前の食事がASD関連表現型にどのように関連するかをさらに検討する必要がある。
・全体として、妊娠中の女性とその子どもを対象とした米国の大規模サンプルにおいて、出生前の食事パターンスコアとASD診断との相関について強いエビデンスは認められなかったが、より健康的な食生活の遵守がASD関連形質の緩やかな低下と関連するというエビデンスは認められた。
・出生前の食事パターンと子どもの神経発達転帰との関係を検討した研究はほとんどないが、今回の知見は先行研究とほぼ一致している。HEI食事パターンとSRSスコアとの逆相関を示唆した研究はこの研究が初めて。
・ノルウェーのMother, Father and Child Cohort Study(MoBa)の84,548人(自閉症942人)とAvon Longitudinal Study of Parents and Children(ALSPAC)の11,670人(社会的コミュニケーション障害544人)を対象とした研究では、妊娠中にデータに基づく健康的な食事パターンの遵守が、ASD診断および社会的コミュニケーション障害のオッズ低下と関連していることが明らかになった。
また米国で行われたコホート研究では、妊娠中の母親の地中海食(肉類の摂取が少なく、果物、野菜、脂肪酸の摂取が多いことが特徴)遵守と、Infant Toddler Social and Emotional Assessment(乳幼児社会情緒アセスメント)の質問から得られた複合スコアで把握されるASD関連特性との間に逆相関があることが報告された。
中国で行われた2つの小規模症例対照研究では、偏った/不健康な出生前の食事によってASDのオッズが上昇し、妊娠中に果物や魚を多く摂取するとASDの確率が低下することが報告されている。
・経験的食事炎症パターン(EDIP)によって測定された、より炎症性の高い食事によってASDオッズがわずかに上昇するというエビデンスも観察された。
・肉類や加工食品の摂取量が多い欧米型食事パターンと、SRSで測定されたASD関連形質との間に有意ではないが正の相関が観察された。
・妊娠中の母体の免疫活性が重要な役割を果たすというエビデンスがあることから、炎症が重要なメカニズムであると仮定できる。HEIの遵守は炎症マーカーの低下と関連していることから、HEIスコアは抗炎症経路を介して神経発達転帰に関連する可能性がある。
・出生前のHEIの遵守は、胎児の脳の白質の発達と正の関連があることが分かっており、白質の発達の差はASDと関連している。
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