今年は年明けから股関節痛のご相談が非常に多い。
ダンス中に発症したスポーツ障害から股関節関連筋群の片側サルコペニアに関連する退行変性疼痛まで症状は様々。
治療に対する反応の良し悪しは発症後時間が経っていればいるほど芳しくなく、回復に時間がかかるのは明らか。
ちょっとした筋骨格系症状でも「鎮痛剤でなんとかなるだろう」で済ませずお早めに当院にご相談ください。
さて、本日のブログは女性の股関節痛に特に関連する、閉経初期から中期における”筋肉量低下”要因に関する興味深いデータをまとめてみたい。
閉経は、視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸活性の低下によるエストロゲンホルモン(17-βエストラジオール(E2))の内因性合成減少に起因する。
E2は月経周期の活性と維持における役割がよく知られているが、抗酸化作用や神経筋接合部(NMJ)におけるアセチルコリン(Ach)受容体の集積を保護する役割を通じてサルコペニアの予防や神経筋機能の維持にも重要な役割を果たしている。
閉経に伴う内因性E2の減少は酸化ストレスを引き起こし、炎症性メディエーターである腫瘍壊死因子α(TNF-α)や核内因子κкB(NF-кB)の発現を増加させることを示すエビデンスがあり、閉経に伴うE2減少が炎症性サルコペニアを媒介し、筋肉の質(MQ)と筋機能に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。
サルコペニアは加齢に伴って生じるMQ、筋肉量、パフォーマンス(筋力、パワー、持久力)の漸進的な低下をもたらす。
サルコペニアに伴う筋機能低下は、運動単位の活性化と機能する運動単位数の減少によって起こる。E2レベルが劇的に低下する更年期が始まると筋機能低下は指数関数的に速い速度で起こり、その一因としてAch受容体クラスター形成の低下とそれに続く神経筋接合部変性(NMJ)が挙げられている。NMJの有害な影響は運動単位および筋線維活性化が全体的に低下させ、筋パフォーマンスを低下させる。
閉経後後期(10年以上の無月経)はより顕著なサルコペニアと関連することはわかっているが、一方で閉経後早期から中間期(無月経10年未満)の神経筋分解への影響はよくわかっていない。
リンクの研究は、閉経前(PRE-M)女性と比較して閉経後(POST-M)女性における循環E2レベルの低下が軸索およびNMJ変性のバイオマーカー(NfL、CAF、NT)、炎症促進状態(TNF-α)、筋タンパク質分解(UTNF)のレベルの上昇に伴って起こるかどうかを明らかにすることを目的としたもの。
また、POST-M女性におけるE2レベル低下が、筋量、MQ、運動単位/筋の活性化、筋パフォーマンスの低下も引き起こすかどうかを明らかにしようと試みている。
横断的デザインを採用し、PRE-M(n=6)とPOST-M(n=6)の食事分析データを収集し、参加者は血液と尿サンプルを提供した後、体組成、運動単位の活性化、筋パフォーマンスを評価。
【結果】
POST-M女性では、E2、運動単位活動、筋質、筋パフォーマンスはPRE-M女性よりも有意に低かったが、アグリンc末端フラグメント(CAF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、尿中タイチンのレベルは有意に高かった。また、POST-M女性はPRE-M女性よりも総カロリーとタンパク質摂取量が少ないことが示された。
POST-M女性におけるE2および食事性タンパク質の摂取量の減少は、NMJの分解、炎症、筋タンパク分解のバイオマーカーレベルの上昇と関連しており、運動単位の活性化および筋の質の低下と関連している可能性がある。
【結論】
サルコペニアリスクは、循環E2の漸減とともに増加する。
多くの女性はE2濃度が低下したまま人生の半分近くを過ごすことになるので、このことは注目に値する。
閉経後早期から中期の女性コホートでは、E2、タンパク質摂取量、抗酸化作用の減少がTNF-α濃度を上昇させた可能性が高いと結論した。
アグリンをCAFに分解するニューロトリプシン(NT)の活性の上昇はNF-кBの活性を上昇させて筋タンパク分解を促し、その結果チチンN末端フラグメント(TNTF)を増加させた。
この炎症とタンパク質分解カスケードの最終作用が、E2が正常レベルの閉経前女性と比較してNMJの完全性、運動単位の活性化、MQに有害な影響を与えたと考えられる。
・閉経は内因性E2の減少から始まる生理的変化のカスケードを引き起こす。月経女性の正常なE2値は、子宮周期の相によって30~400pg/mLの間で変動し、閉経後の女性では15~40pg/mLである。
・POST-M群におけるE2の有意な低値は、CAF、NT、TNTF、TNF-αの有意な高値と関連して起こった。さらに、POST-M女性では運動単位/筋の活性化、MQ、筋力が有意に低いことが示された。
・E2には酸化負荷の増加によって引き起こされる神経細胞死を予防する能力がある。E2の抗酸化作用と神経保護作用はホルモンとしてのゲノム特性ではなく、A環のフェノール構造と疎水性フェノール分子としての基本的な化学特性に依存している。E2は過酸化物産生を低下させるため、フリーラジカルの発生源から身体組織を保護することができる。E2は転写率をアップレギュレートし、マンガンやスーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼの細胞外アイソザイムの酵素活性を増加させることが示されている。
・抗酸化作用に加えて、E2はエストロゲン受容体(ER)に結合して細胞内シグナル伝達経路を介して抗酸化酵素の発現をアップレギュレートする。その結果、E2はER依存的な機序で炎症性サイトカインやケモカインの発現を抑制し、抗酸化酵素の発現やアポトーシスの活性と抑制を調節することで活性酸素種の産生やアポトーシス誘発性のミトコンドリア/細胞損傷の増加をブロックし、神経細胞の減少を防ぐことができる。
・内因性E2の減少がNT活性をアップレギュレートすることが示唆された。POST-M女性では、循環中のNT(137.13対405.50ng/mL)とCAF(1208.40対3860.20pg/mL)の量が有意に多いことが観察された。NTの有意差の傾向は中程度で、強い効果量を示した。
NTはシナプス前神経終末に貯蔵され、NMJのシナプス活動によって不活性な酵素型として分泌される。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体のアップレギュレーションを必要とする活性化後、NTはアグリンを切断してCAFを形成する。
・NMDA受容体がTNF-αによってアップレギュレートされることを示すデータもある。NMDA受容体活性亢進は、ニューロン内の興奮毒性死メカニズムを促進する可能性がある。さらに、TNF受容体の細胞質ドメインには、NF-кBシグナル伝達経路とアポトーシス関連のカスパーゼを誘導する「デスドメイン」配列が含まれている。
・POST-M女性で観察された内因性E2の減少による酸化ストレスとTNF-αの炎症性促進が、POST-M女性で観察されたNTとCAF濃度上昇に関連している可能性が高い。E2は炎症性サイトカインであるTNF-αの阻害剤である。E2の減少は筋線維を酸化ストレスと慢性炎症にさらし、タンパク質分解活性を誘発し、正常なタンパク質のターンオーバープロセスを混乱させる。
・TNF-αの増加は成長ホルモンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)などの同化ホルモンの発現や活性も阻害する。TNF-α受容体の活性化はIкBキナーゼ(IKK)複合体経路を介したシグナル伝達によってNF-кBをアップレギュレートする。また、サルコペニアで生じる萎縮した骨格筋の再生に通常必要とされる筋原性分化を阻害する可能性がある。NF-кBは骨格筋の様々な遺伝子の転写活性化に関与する転写因子で、タイチンなどの無傷のサルコメア蛋白の蛋白分解経路の主要経路である。
・TNTF濃度は、PRE-M女性と比較してPOST-M女性で有意に高いことが観察された(20.69対11.10ng/mL)。このタンパク質のタンパク質分解活性の増加がPOST-M女性で観察されたMQ減少にメカニズム的役割を果たしたことを示している。
・加齢は機能する運動単位数の減少と関連し、筋力低下に直接影響する。NMJが老化し、CAFレベルが上昇するとアセチルコリンレセプター(AChR)クラスターが断片化し、神経支配が乏しくなる。
・POST-M女性はPRE-M女性よりもE2が少ないが、NTとCAFのレベルは高いことが観察された。E2による明らかなCAFの増加がNMJの完全性に有害な影響を及ぼし、それによって観察された運動単位/筋の活性化とMQの有意な低下に関与している可能性がある。加齢に伴う神経筋の変化として最もよく挙げられるのは、運動単位の機能低下である。AChRクラスター形成の減少やNMJ分解をもたらす運動単位の形態や特性には加齢に関連した変化があり、最大筋力やパワーの低下、収縮速度の低下、疲労性の増加など、運動能力の低下につながる。
・大筋力やパワーの低下、収縮速度の低下、疲労性の増加など、運動能力の低下とNMJの不安定性の根底にある主な要因は、シナプス前末端とシナプス後末端のミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、加齢に関連した神経変性につながる炎症が大きく関与している。
・筋肉量低下の危険因子としては、加齢、タンパク質摂取不足、運動不足、神経変性疾患、ホルモン欠乏症、全身性炎症などが挙げられる。加齢期には十分なタンパク質摂取が筋肉量を維持するために重要であり、タンパク質摂取不足は筋肉量の減少率、筋力、パフォーマンスを増加させる。PRE-M女性は1.47g/kg/日のタンパク質を摂取していたのに対し、POST-M女性は0.81g/kg/日だった。
・推奨食事摂取量(RDA)は、1日0.8~1.0g/kg。現在のRDAを超えるタンパク質摂取は、高齢になっても筋肉量と身体機能を維持するための戦略として提案されうる。最近のレビューでは、高齢者が筋肉量と身体機能を維持するために1.0~1.3g/kg/日のタンパク質を摂取する必要があることが示唆されている。
・POST-Mの女性はPRE-Mの女性より1日の総摂取カロリーが少なかった。この1日の摂取カロリーの差は群間で有意差はなかったが、中等度の有意傾向があり、強いエフェクトサイズがあった。十分な量のカロリー摂取はエネルギーの利用能と筋タンパク質合成を促進する上で重要な役割を果たすため、もしこの情報が参加者の典型的な食事摂取量を示しているのであれば、POST-M女性に観察されたMQ低下に関与している可能性がある。
・最近の研究で、5732人の高齢女性(平均年齢79歳)を調査したところ、参加者の56%しかタンパク質のRDAである0.8g/kg/日を満たしていなかった。
・加齢とともに脂肪量が増加し、筋肉量が減少することが示されている。閉経は体組成の著しい変化、腹部周囲脂肪や内臓脂肪の蓄積、それに続くFFMの減少と関連しており、安静時エネルギー消費量や自発的活動量の変化と関連している。E2レベルの低下はこれらの変化の重要な引き金となる。
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