今回のブログは咀嚼とうつ病の関連性についてのデータをまとめてみたい。
高齢者を対象としたデータだが、若年層に広がるうつ病の原因の一端が垣間見えるかもしれない。
咀嚼=咀嚼筋による下顎のリズミカルな運動は、他の身体活動と同様に抑うつ症状を改善することが過去の研究で示唆されている。
英国、日本、トルコの研究では、ガムを噛む介入を行った参加者(健康なボランティアや大学生)は介入を行わなかった対照群よりも抑うつ症状のレベルが低かったことが報告されたのだ。
英国のガムをよく噛む人は、抑うつ症状の有病率が用量反応的に低かったとが報告されている。
これらのデータは咀嚼運動がうつ病性障害の発症を予防する可能性を提起し、咀嚼運動を増加させる硬い食感の食事がうつ病性障害を予防するための貴重な知見を提供する可能性がある。
過去に食事の硬さが抑うつ症状に及ぼす影響を扱った研究はない。
リンクの研究は、日本人高齢男性における食事の硬さと抑うつ症状との関連を検討した初めての研究。
日立健康調査Ⅱ(2017~2020年)のベースライン調査に登録された60~69歳の男性1487人が対象。
結果
複数の変数で調整後、食事の硬さの第3三分位群における抑うつ症状のORは有意に低かった。
食事の硬さは日本人高齢男性における抑うつ症状の有病率と逆相関していた。
・1487人の高齢日本人男性において、食事の硬さが最高水準にある参加者は、最低水準にある参加者よりも抑うつ症状を有する可能性が低いことが観察された。
この関連は社会人口統計学的変数、ライフスタイル関連変数、および潜在的に保護的な栄養素の食事摂取量の両方で調整した後も有意だった。
・7~19日間ガムを噛む介入は英国の健康なボランティアおよび英国、日本、トルコの大学生において抑うつ症状に好ましい効果を示し、ガムを噛む頻度と抑うつ症状との間に逆相関があることがわかった。
・食事の硬さは、気分調節栄養素(すなわち、n-3 PUFA、VB6、VB12、葉酸、Mg、およびZn)の摂取量と正の相関を示した。食事の硬さと抑うつ症状との関連は、硬さそのものよりも硬い食事が持つ好ましい栄養素プロファイルに起因している可能性が示唆される。
一方で、食事の硬さと抑うつ症状との間に観察された関連はそれらの栄養素摂取量を調整してもほとんど変わらなかった。
この知見は、食事の硬さ自体が抑うつ症状と関連しているという仮説を支持する。
ガムを噛むと前頭前野腹側部が活性化し、気分調節を司る神経伝達物質であるセロトニンの血中濃度が上昇することが示された。
別のヒト実験では、ガムを噛むことでストレス負荷介入中の唾液コルチゾールレベル、不安、心理的ストレスも減少した。これは、咀嚼が海馬と視床下部-下垂体-副腎軸を介して気分に影響を与えることを示唆している。
・動物実験では、普通食マウスに比べてソフト食マウスで神経細胞の増殖、分化、生存、シナプス形成を促進する海馬の脳由来神経栄養因子のmRNA発現およびタンパク質レベルが低下したことが報告された。
年齢問わず、抑うつ症状でお困りの方は習慣的に食事の硬さに拘ってみてはどうだろう。