日本におけるうつ病の流行は深刻で、パンデミックによる生活様式の変化で罹患率はさらに加速している。
症状は、抑うつ気分、興味や喜びの欠如、疲労、気力の喪失、睡眠障害、不安、神経認知や性機能障害が特徴で、非常に衰弱しやすく、最終的には自殺念慮が最高潮に達することもある。
現在明らかになっている限りでは、中枢神経系、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸、自律神経系、免疫系など様々システムがうつ病の病態生理に関与している。
また、うつ病発症には酸化ストレスが関与することが近年指摘されている。
酸化ストレスは糖尿病など様々な疾患と関連しており、過剰な活性酸素の生成と抗酸化反応の欠如が、炎症、神経変性、組織損傷、細胞死などのプロセスを引き起こす。
実際に、うつ病はビタミンA、C、E、セレン、亜鉛、ビタミンB群(B6、葉酸、B12)などの抗酸化物質の摂取量低下と関連していることが明らかになっている。
リンクは、うつ病における酸化ストレスの影響とストレス応答、高レベルの神経炎症、神経伝達物質(特にセロトニン)によるシグナル伝達の不均衡、主に脳由来神経栄養因子(BDNF)を介した神経新生とシナプス可塑性の問題に焦点を当てたレビュー。
うつ病発症メカニズムにおける抗酸化作用の影響を知ることは、治療や予防などうつ病マネジメントに大いに役立つだろう。
以下長編になってしまったが箇条書き風にまとめてみた。
様々な化合物の名前が登場することでややこしい面もあるかもしれないがじっくり読んでみて欲しい。あなたのうつ症状の緩解に役立つ情報が転がっているかもしれない。
・酸化ストレスとうつ病
うつ病における活性酸素の役割はよく知られている。
過剰な活性酸素の発生と効率的抗酸化反応の欠如は、炎症、神経変性、組織損傷、細胞死などのプロセスを引き起こし、うつ病の病因や進行と相関する。
脳内脂質過酸化や一酸化窒素、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性など、この疾患の発症に重要なプロセスが高レベルの酸化ストレスにつながることを示す証拠もある。
これらのメカニズムは抗酸化反応の低下とともに、うつ病の発症と進行における重要な因子としての酸化ストレスの役割を浮き彫りにしている。
低酸素症は不安障害やうつ病に関与しているが研究数は少ない。このプロセスは、炎症、アポトーシス、セロトニン作動性経路の調節障害、ミトコンドリア酸化ストレスを促進することで脳内神経ホルモンの恒常性を乱し、うつ病発症リスクを高めることがエビデンスによって指摘されている。
低酸素関連経路を標的とすることは、慢性ストレスおよびうつ病性障害に対する有望な治療手段となる。
低酸素は高レベルの酸化ストレスに寄与しており、このレビューで強調したうつ病の文脈では重要。実際、低酸素虚血は神経細胞様細胞において活性酸素の増加を誘導する。
・酸化ストレスとうつ病関連ストレス応答
ストレス反応にはHPA軸が関与している。
この軸は肉体的または心理的ストレスに反応し、視床下部からコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)を放出する。このホルモンは下垂体を活性化して副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を放出し、副腎を活性化してグルココルチコイドやカテコールアミンなどストレス反応に関与する物質の産生を促進する。ヒト副腎の主要なステロイドはコルチゾール。
いくつかの研究では、抗うつ薬がHPA軸をダウンレギュレートしてストレス反応の程度を低下させることが報告されている。また、うつ病患者ではHPA軸の機能障害とCRH mRNAの発現レベル上昇が報告されている。
高濃度グルココルチコイドに長期間さらされると、シナプスの消失、神経細胞死、神経細胞の樹状突起の変化が生じる。
また高強度のストレスは、セロトニン作動性関連経路の障害、海馬や前頭前野などの一部の脳領域の体積、BDNFなどの遺伝子のエピジェネティックな変化と関連があることが報告されている。
In vivo研究では、コルチコステロン曝露後、酸化マーカー(過酸化脂質など)の増加や抗酸化酵素系(カタラーゼなど)の減少が報告されている。この研究では、ラットの海馬の酸化的傷害が認知機能の障害につながっている。
マウスを用いた別の研究では、圧迫傷害でうつ病および不安様行動を誘発した後、コルチコステロンおよび脳の酸化ストレスマーカーのレベルが上昇することが明らかになった。
しかし、マウスにコレカルシフェロール(ビタミンD3)を投与すると、コルチコステロン反復投与によって誘発される抑うつ様行動と酸化ストレスが減少することが報告されている。
実際コレカルシフェロール投与後に、過酸化脂質、タンパク質カルボニル、亜硝酸塩の濃度が低下し、抑うつ症状が改善されている。
別のマウスモデル研究でも、コルチコステロン誘導の高レベル酸化ストレスマーカーがルテインによって逆転し、マウスにおける抗うつ様効果が支持された。
また、カロテノイドのクロシン-Iの投与もコルチコステロン誘発性神経炎症と酸化的障害を緩和し、その抗うつ作用が明らかになった。クロシン-IはSOD-2やグルタチオンレダクターゼなどの抗酸化物質の活性を誘導した。
カタルポールをマウスに投与すると、NF-κB およびNrf2経路の調節を介してHPA軸の過活動(コルチコステロン、ACTHおよびCRHレベルの低下)、中枢炎症および酸化的障害を抑制し、コルチコステロン注入マウスに抗うつ作用をもたらすことがわかった。
また、Myrcia pubipetala Miqの投与は、コルチコステロン投与マウスにおいて海馬と大脳皮質における抗酸化酵素活性のバランスを調節し、抗酸化作用を発揮した。
ラットのコルチコステロン誘発酸化ストレスに対するL-システインの効果も抗うつ的だった。
L-システインはコルチコステロン濃度を低下させ、抗酸化防御を高めることでコルチコステロンによって促進される酸化ストレスを減衰させた。
また、in vitroでラット褐色細胞腫細胞(PC-12)にHericium erinaceusを添加すると、神経保護作用が生じてコルチコステロンによる酸化ストレスが緩和されることが確認されている。
この神経保護作用は内因性抗酸化酵素活性の増強、細胞内活性酸素レベルの低下、高レベル活性酸素によって引き起こされるアポトーシスからの保護によるものだった。
上記の研究は全て、ストレス状況下でのHPA軸過剰活性とうつ病における酸化ストレスとの明確な関連性を裏付けている。
高レベルストレスは、抗酸化物質レベルの低下とプロオキシダントレベルの上昇を招きうつ病の発症と進行を促進する。
・酸化ストレスと神経炎症
いくつかの研究で、炎症とうつ病が関連していることが示されている。
実際、顆粒球、単球、腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン-6(IL-6)などの免疫マーカーのレベル上昇、ミクログリアの活性化がうつ病患者に認められる。
別の研究では、自殺したうつ病患者の前頭前野で、炎症性マーカー(IL-1β、IL-6、TNF-α、リンパ毒素A)の大幅に増加と抗炎症性マーカー(サイトカインIL-10、IL-1受容体拮抗薬(IL-1RA))のmRNAレベルが減少していることが明らかにされている。
ミトコンドリアでの活性酸素の高生産は炎症と非常に関係が深く、酸化ストレスを促進する。
酸化ストレスの増加は炎症反応の調節不全を引き起こし、炎症性反応(特に中枢神経系における神経炎症)を促進する。
活性酸素が過剰に存在すると細胞障害を促進し、マロンジアルデヒドなどの炎症性分子を形成し、過剰に活性化した炎症系と活性酸素の増加は相乗的に作用してうつ病の発症と進行を促進する。
マウスの酢酸鉛誘発認知障害とうつ病/不安様行動に対してリンゴのフェノール抽出物を投与すると、IL-6、および腫瘍壊死因子-αのレベルが酸化ストレス、神経炎症、およびアポトーシスの制御を介して減衰することが明らかになった。
桂皮酸を用いた別の研究でも、神経炎症と酸化ストレスを抑制することでリポポリサッカライド誘発うつ様行動を改善することが示された。実際に、うつ病マウスの海馬と大脳皮質における炎症性サイトカイン(IL-6とTNF-α)および酸化ストレスマーカー(SOD、グルタチオン、MDA)は、桂皮酸の投与により高度に改善されていた。
MDAはタンパク質の損傷と炎症性特性を持つ高度な脂質酸化物の生成につながる物質で、うつ病患者で検出される。
最近、クルクミンが脳内酸化ストレスを減少させることで、ラットのリポポリサッカライド誘発不安/うつ病様行動を減衰させることが明らかにされた。クルクミンはSODおよびGPx酵素の活性を増加させ、MDA濃度を減少させた。
また、p-クマル酸は様々な疾患における炎症と酸化ストレスに対して(活性酸素を消去することにより)保護的な役割を持つ化合物で、糖化最終生成物(AGEs)およびAGE(RAGE)の受容体、AGE-RAGEを介した神経炎症を抑制することでうつ病様行動を逆転させることが明らかにされた。
最近、ポリフェノールが炎症に関連したうつ病に対する有望な治療法であると報告された。
ポリフェノール化合物がうつ病におけるMAPKシグナル伝達経路を介した酸化ストレスや炎症を抑制することも示された。
レスベラトロールも抗酸化作用、抗炎症作用、抗うつ作用に関連している。
レスベラトロールが海馬の抗炎症性サイトカインと炎症性サイトカインのレベルを変化させ、SODとCAT活性を調節する抗酸化作用を誘発し、ストレス下動物におけるうつ様行動を抑制することが明らかにされている。
Tagetes minutaの花精油は酸化ストレスを減衰させ、細胞内経路BDNF-Akt/ERK2を回復させ、マウスにおける炎症とうつ様行動の減衰させている。
ヒトを対象とした研究では、コロナウイルス感染症(COVID)後に頻繁に観察される慢性疲労や感情的特徴は、高レベルの炎症、酸化的損傷、抗酸化防御の低下と関連していると結論付けている。
COVID-19の生存者における抑うつ症状も高レベル炎症と関連しており、前帯状皮質におけるグルタチオン低レベルと相関していた。
抗酸化物質であるビタミンEはうつ病患者の酸化ストレスと炎症に有効であることも報告されている。
サフランの摂取はヒトの神経細胞を酸化ストレスから保護し、ドーパミン、5-HT、およびBDNFの産生を刺激することが明らかになった。さらに、サフランは5-HTトランスポーター(SERT)の発現を抑制した。
マウスRAW264.7マクロファージを用いた研究では、5-HTとその代謝物が酸化ストレスを軽減し、マクロファージによる炎症性サイトカインの産生を抑制することが明らかになった。
産後うつ病モデルラットにおいて、プロバイオティクスであるLactobacillus caseiを補充すると、うつ病様行動が改善された。このプロバイオティクスはラットの腸内細菌叢組成を逆転させ、モノアミンとBDNF/ERK1/2経路の発現の増強、酸化ストレスレベルの低下(MDAの増加の抑制とSOD活性の促進)といったいくつかのプロセスを引き起こした。
抗うつ薬で治療した患者の海馬では、抗うつ薬未治療の患者と比較してBDNFの発現が増加していることが確認された。BDNFは海馬の神経新生にも重要な役割を担っている。
動物モデルでは定期的な運動後に神経新生が促進されることが報告されているが、ストレス(急性または慢性)はこのプロセスを低下させる。
副腎皮質ホルモンは神経新生を減少させ、BDNF、他の栄養因子(上皮成長因子(EGF)など)、および5-HTは神経新生プロセスを促進する。
うつ病は、海馬の神経新生の障害とも関連している。
欧米型の食生活は神経新生過程の減少と関連し、思春期におけるうつ病症状のリスク上昇と関連する。
Tagetes minutaの花精油の投与により、脳由来神経栄養因子 (BDNF)-protein kinase B (Akt)/ signal-related kinase2 (ERK2) のシグナル伝達経路が回復していた。
この研究では、酸化ストレスも緩和されマウスのうつ病様行動が減弱されました。
メラトニンが抗酸化マーカーを増加させ、メトトレキサートで前処理したラットの海馬と前頭前野の神経新生を増加させることを明らかにした研究もある。
実際に、メラトニンはNrf2とBNDF発現を改善することで動物の抗酸化防御を向上させ、シナプス可塑性をアップレギュレートし、神経新生の重要なマーカーであるダブルコルチンの発現を高めた。
Rosmaniric acidはBDNF/Nrf2経路の発現を促進し、heme oxydase-1やNAD(P)H quinone dehydrogenase 1(NQO1)などの抗酸化酵素の発現を導き、炎症性遺伝子の発現を低下させることでLPS誘発マウスにおけるうつ病行動を好転させた。
セラストロールとチモキノンは、塩化アルミニウムへの曝露によって減少したアセチルコリン、ドーパミン、セロトニンの濃度を回復させてラットの抑うつ行動や不安行動を緩和させた。これらの化合物はBDNFの発現を増加させ、ラットの脳内の酸化炎症マーカー(MDAやIL-6など)をダウンレギュレートした。
上記の証拠はすべて、活性酸素産生のアンバランス(酸化ストレス)と神経新生およびシナプス可塑性の障害との関連を裏付けるものであり、うつ病の病因に重要であることを示す。
結論
高レベル酸化ストレスの弊害を打ち消すことはうつ病治療の有望な戦略である。
このデータで発表されたすべてのデータは、それらのメカニズムを探ることでうつ病に対する効果的な治療法の答えを見つけることができることを実感させる。