先日のブログに続き、肥満関連のデータをまとめてみたい。
今回のテーマは「肥満と癌の関連性」について。
パンデミック下の生活様式の影響もあり、現在世界的に肥満が問題になっている。
肥満は冠動脈疾患、糖尿病、高血圧、変形性関節症、睡眠障害、精神疾患などの慢性疾患と関連し、悪性腫瘍リスクを高めるという証拠が増えている。
乳がん、結腸・直腸がん、食道がん、胃がん、胆嚢がん、子宮がん、膵臓がん、卵巣がんとの関連が指摘され、これらの癌リスクを高めるだけでなく、肥満は癌サバイバーにおけるがんの再発や死亡リスクを高める可能性がある。
リンクのレビューは、肥満と癌に関する最新情報を提供することを目的に、肥満とがん転帰との負の相関に関する最近のデータをレビューしている。
2022年9月以前に発表された研究論文に限定し、疫学、がんの発症メカニズム、がんの発症と再発リスク、肥満管理について調査した研究に焦点を当てた結果、
全がんの約4~8%が肥満に起因し、閉経後乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、食道がん、膵臓がん、肝臓がん、胆嚢がんの危険因子であることがわかった。
体脂肪が過剰になるとがん特異的死亡率が約17%上昇していた。
メカニズムとして、脂肪酸代謝の変化、細胞外マトリックスのリモデリング、アディポカインや同化ホルモンおよび性ホルモンの分泌、免疫調節障害、慢性炎症が関与していることが示唆された。
また、肥満は治療時の副作用を増加させ、がん治療に関する治療の決定に影響を与える可能性がある。
食事管理や行動療法と組み合わせた運動介入は効果的な管理手段と考えら、肥満が関連するがんにおける体重減少戦略はがん治療の重要な構成要素として重要な介入であると結論。
Obesity and Cancer: A Current Overview of Epidemiology, Pathogenesis, Outcomes, and Management
・成人期の体重増加は、閉経後乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、腎がん、高リスク前立腺がんの発症リスク上昇と関連することを示唆する証拠が得られた。
524万人が参加し、22種類のがんが新たに166,955例発生した大規模集団ベースの研究では、BMIと最も一般的な部位特異的がんとの強い関連性が裏付けられた。
体脂肪の増加は、卵巣がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、腎臓がん、大腸がん、子宮内膜がん、その他のがんの発生確率の増加と関連していた。
・国際がん研究機関(IARC)の2020年報告書では、肥満と13種類のがんリスクについて強いエビデンスが報告されている。
閉経後乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、食道がん、膵臓がん、腎臓がん、肝臓がん、胃がん、胆嚢がん、卵巣がん、甲状腺がん、多発性骨髄腫、髄膜腫は、肥満の人が罹患しやすい。
肥満と口、咽頭、前立腺、男性乳房がん、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫との関連を示す証拠は中程度だった。
最も治療が困難な3つのがん(膵臓がん、食道がん、胆嚢がん)、最も流行している2つの悪性腫瘍(乳がん、大腸がん)では、肥満者において高いリスクが示された。
・204のシステマティックレビューとメタアナリシスの包括的レビューで過剰な体脂肪とがんリスクとの関係を調査され、BMIが5kg/m2増加するごとに、男性の直腸がんのリスクが9%増加すること、また、胆道系がんリスクが56%増加することが報告された。
・ホルモン補充療法を受けたことのない女性の閉経後乳がんリスクは、成人期に体重が5kg増加するごとに11%増加したのに対し、子宮内膜がんリスクはウエスト・ヒップ比が0.1増加するごとに21%増加した。
・肥満と乳癌リスクとの関連は複雑で、閉経前に診断された乳癌では逆相関または中立的な関係で、閉経後女性の特にホルモン受容体陽性乳癌では正の相関があるとされている。
BMIが正常な女性では全身脂肪レベルが上昇すると乳癌のリスクが上昇し、また体幹脂肪5kg増加につきホルモン受容体陽性乳癌発症のリスクが56%増加するというエビデンスがある。
・肥満に伴う閉経後乳癌の原因として、インスリン抵抗性、乳房脂肪組織の炎症、アロマターゼ酵素の発現亢進、レプチン上昇などが挙げられる。
・リンチ症候群患者では、大腸がんと肥満の間に性別に特異的な関連があるようだ。
リンチ症候群の患者を対象とした4研究のメタアナリシスでは、肥満男性では健康体重の男性に比べて結腸・直腸癌のリスクが2倍であることが報告されている。
女性では結腸直腸癌の有意なリスクは認められていない。
・肥満はがんリスク上昇だけでなく、早期がん再発リスクを高め、劣悪な治療成績と相関する可能性を示唆する証拠がある。特に内臓脂肪組織の沈着に起因する中心性肥満は、進行との関連が指摘されている。
・230コホート研究の系統的レビューとメタアナリシスにより、過体重と肥満は全死亡のリスク上昇と関連していることが示された。また、一部の悪性腫瘍の予後不良とも関連していた。
また、630万人のがん患者を対象とした203研究の系統的レビューおよびメタ解析では、肥満が全死亡率およびがん特異的死亡率の上昇と関連していることが示さた。
・乳癌、大腸癌、子宮癌の肥満患者は、全体的に生存率が悪かった。
乳癌、大腸癌、前立腺癌、膵臓癌の肥満患者は高い癌特異的死亡率と関連し、乳癌、大腸癌、前立腺癌、胃食道癌の肥満患者では高再発率が確認された。
一方で、メラノーマ、肺癌、腎臓癌の肥満患者は非肥満患者と比較して生存率が良かった。
・肥満患者の予後不良は、基礎にあるメタボリックシンドロームやホルモン要因、低い身体活動、過小治療などのいくつかの要因に起因している可能性がある。
・標準的な治療法は、肥満がん患者においてより悪い転帰と関連する。
例えば、肥満患者における外科的切除は、創感染、手術時間の延長、および出血リスクの増加など術後合併症の発生率の上昇をもたらす。
さらに、放射線療法は肥満患者では成績が悪いことが示されている。これは、患者の脂肪の中で腫瘍が自由に動けることと、治療時のセットアップの難しさに起因すると考えられている。
・乳がん
肥満は乳がん再発リスクを高めるだけでなく併存疾患のリスクも高め、乳がんサバイバーのQOLに悪影響を及ぼす。
乳がんサバイバーを対象とした82研究のメタアナリシスでは、肥満が乳がん特異的死亡率および全死因死亡率のリスクをそれぞれ35%および41%増加させることがわかった。
トリプルネガティブ乳がんの女性8944人を対象とした13研究のメタアナリシスでは、肥満女性は標準体重の女性と比較して、無病生存期間と全生存期間が短いことが示された。
約30-50%の女性が化学療法中および化学療法後に体重を5%以上増加させ、それが診断後5年間持続する可能性があることが示された。
乳がん生存者23,932人を含む12研究の系統的レビューおよびメタ解析では、乳がん診断後の体重増加は、体重維持患者と比較して全死亡のリスクが12%高いことと関連していることが示されている。
体重増加率が10%以上の場合で死亡率の高リスクが明らかだった。
・大腸がん
大腸癌の予後は患者のBMIに影響される。
肥満患者では、末期癌(IIまたはIII)およびリンパ節転移の数が多くなる傾向があることが示されている。また、診断前の肥満は疾患特異的死亡率の上昇と全生存期間の短縮に関連するというエビデンスがある。
肥満は大腸がん特異的死亡率および全死因死亡率の14%上昇と関連している。
58,917名の患者を対象とした16件の前向きコホート研究のメタ解析では、がん診断前の肥満は大腸がん特異的死亡率22%および全死亡率25%のリスク増加と関連し、大腸がん診断後のBMI35以上は全死亡率13%のリスク増加と関連することが示された。
・膵臓がん
膵臓がんでは、筋量や筋機能の低下、脂肪量の増加、肥満のいずれもが予後不良因子とされている。
肥満が膵臓がん関連死亡のリスク28%増加と関連していることが明らかになっている。
13研究の系統的レビューとメタアナリシスでは、BMIが1kg/m2増加するごとに死亡率が10%増加することが明らかになった。
・子宮内膜がん
肥満は子宮内膜がんの主要な危険因子であり、子宮内膜がんの女性における劣悪な転帰と相関している。
子宮内膜がん生存者においてがんの診断前後にBMIおよびウエスト周囲径が高いことは、無病生存率および全生存率の低下と関連している。
46研究のメタアナリシスでは、肥満は子宮内膜癌女性における全死亡の34%のリスク上昇および再発の28%のリスク増加と関連することが示された。
・前立腺がん
BMIが5kg/m2増加するごとに、前立腺がん再発確率が21%増加する。
280,199人の患者を対象とした59研究のレビューおよびメタアナリシスにより、肥満は前立腺がん特異的死亡率を19%、全死因死亡率を9%増加させることが示された。
BMIが5kg/m2増加すると、前立腺がん特異的死亡率は9%増加し、全原因死亡率は3%増加した。
・肥満と治療関連副作用
肥満であることはがん治療に関連した有害事象を増加させる。
リンパ浮腫は乳がんの女性における腋窩リンパ節手術および放射線照射の合併症だが、
肥満乳がん女性におけるリンパ浮腫のリスクは体重が正常な女性と比較して数倍高い。
化学療法による末梢神経障害も抗がん剤でよくみられる副作用で、QOLの低下と関連しているがいくつかの研究で、肥満患者ではタキサン系およびプラチナ系薬剤による神経障害の発生率が高いことが示されている。
最近のエビデンスでは、過剰な体脂肪が治療関連の心毒性の高リスクと関連していることも強調されている。アントラサイクリン系薬剤とトラスツズマブのアジュバント投与を受けた早期乳癌の女性患者8745人を含む15研究のメタアナリシスでは、肥満が心毒性リスク47%上昇と関連していることが示されている。
また、肥満は放射線療法に関連した毒性を増加させる。
乳がん生存者15,623人を含む38研究の系統的レビューおよびメタ解析では、BMIが25を超えると放射線関連急性皮膚炎のリスクが11%上昇することが示された。
・がんサバイバーにおける肥満の管理
最も一般的な種類のがん(乳がん、肺がん、腸がん、腎臓がん)を含むいくつかの癌リスクと身体活動の間には負の相関があることが報告されており、代謝管理の強化や体重増加予防を通じて、がん予防に対する活発なライフスタイルの重要性が浮き彫りになっている。
体系的な運動と減量のための食事療法を組み合わせることで、運動または食事療法単独よりも体重が減少し、インスリン抵抗性や循環性ホルモンレベル、レプチン、炎症マーカーなどのがん関連血中バイオマーカーに最も大きな影響を与えることが実証されている。
乳がん生存者2028人を含む20研究のCochraneメタアナリシスでは、過体重または肥満の乳がんサバイバーにおける体重減少アプローチの効果が評価され、体重減少介入、特に食事、運動、心理社会的介入を含む複合的介入によって、体重、体格指数、ウエスト周囲径が減少し、全体的なQOLが向上することが明らかにされた。
肥満癌患者における体重減少戦略は、体重過多の癌サバイバーにおける癌特異的死亡率および全死亡率を減少させる癌治療の構成要素として重要な介入である。