妊娠適齢期女性で多く観察される甲状腺機能障害。
甲状腺機能低下症は顕性甲状腺機能低下症(OH)と潜在性甲状腺機能低下症(SCH)に分類され、妊娠中や産後の生理状態は甲状腺機能や甲状腺自己免疫反応の変化が伴う。
母親の甲状腺機能低下症がうまくコントロールされないと母乳量や質が低下し、乳児のエネルギーやヨウ素不足を招き、乳児の成長・発達に悪影響を及ぼす。
出産後の母親の甲状腺機能低下症が慢性化すると、疲労、便秘、月経障害、記憶力の低下、脂質異常症、動脈硬化、心機能障害のリスク上昇などの有害転帰に繋がることから、甲状腺機能低下症の女性において産後の甲状腺機能を正常に保つことは、母体と乳児の健康にとって重要である。
リンクのデータは、顕性甲状腺機能低下症(OH)/潜在性甲状腺機能低下症(SCH)の252名の妊婦における産後の甲状腺機能の関連因子を分析し、ビタミンDカテゴリーの影響を探ったもの。
甲状腺ホルモン、甲状腺自己抗体、血清25OHD値を妊娠第1期(T1)から産後12ヶ月目まで記録。
結果
産後12ヶ月目に甲状腺機能が改善したのは36.5%、甲状腺機能低下症が継続したのは37.3%、甲状腺機能障害を発症したのは26.2%だった。
ビタミンD充足度、TPOAb陽性、T1におけるTgAb陽性は、産後の甲状腺機能の独立した予後因子だった。
T1におけるビタミンDの充足は産後の甲状腺機能改善の独立因子として示されたが、産後の甲状腺機能障害の発症に対する保護効果はTPOAb陽性患者においてのみ確認された。
Cox回帰分析ではビタミンDカテゴリーの効果がさらに確認された。
妊娠中および産後に25OHDが高値だと産後の甲状腺機能の改善を予測でき、産後の甲状腺機能障害発症のリスクを低下させることは注目に値する
妊娠中および産後の適切なビタミンD摂取は産後甲状腺機能にとって有益である可能性がある。
Vitamin D categories and postpartum thyroid function in women with hypothyroidism
・甲状腺機能低下症女性において、妊娠中および産後のTPOAb陽性、TgAb陽性、ビタミンD充足率は産後甲状腺機能と相関していた。
・T1におけるビタミンD充足度だけでなく、妊娠中および産後の25OHD高値が産後甲状腺機能の改善および甲状腺機能障害の発症リスクの低減を予測することが証明された。
・妊娠中の相対的免疫抑制が解除されると、出産後に免疫系のリバウンドが起こる。TPOAb陽性者は、産後に甲状腺機能障害を発症する頻度が高いことが示された。産後の甲状腺機能、特に甲状腺機能障害には自己免疫が重要な役割を担っている。
・ビタミンDは免疫細胞の分化と成熟を制御し、サイトカインの発現を調節することでAITDの進行に影響を与える。メタアナリシスではビタミンD補給がAITD患者の血清TPOAbおよびTgAb力価を顕著に低下させることが示された。
・中国の横断研究ではTPOAbおよびTgAb陽性は甲状腺機能および25OHD欠乏症と関連していた。この研究では、発症した産後の甲状腺機能障害に対するビタミンD充足の保護効果はTPOAb陽性の対象者にのみ観察された。この保護効果はビタミンDの免疫調節の役割に起因すると考えられる。
・内分泌学会臨床実践ガイドラインでは、妊娠中および授乳中女性は少なくとも600IU/日のビタミンDを必要とし、血中25OHD値を75nmol/L以上に維持するためには少なくとも1,500-2,000IU/日のビタミンDが必要としている。
・アメリカで行われた大規模試験では、ビタミンD補給(コレカルシフェロール、2,000IU/日)を5年間続けると、自己免疫疾患の発症を25~30%抑制できることが報告されている。
別の研究では血清25OHD値が125nmol/L以上だと甲状腺機能低下症リスクが低く、抗甲状腺抗体価も低下することが報告されている。