近年の食事パターンの大きな変化の一つに、動物性タンパク質と脂肪のエネルギー摂取割合が高くなり、植物性タンパク質と炭水化物からのエネルギー摂取が減少したことが挙げられる。
過去にブログで紹介した数多くの研究の中で、動物性タンパク質の摂取率と、糖尿病、心臓病、脳卒中といた慢性疾患や、高所得国に多いがん(結腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなど)罹患率の間に強い正の相関があることが示されている。
こうした様々な観察から、動物性タンパク質の過剰摂取は慢性疾患の発症や死亡率の一因になっているのではないかという仮説が生まれた。
最近の研究では、動物性蛋白質由来の食事エネルギーの割合が高いほど全死因死亡率および心血管系死亡率のリスクは増加するが、がん関連死亡率のリスクは増加しないことが一貫して示されており、過去の研究と矛盾する結果となっている。
また、動物性蛋白質の個々の食品源の消費量に関連した死亡リスクを調べた場合に、一般的に赤身肉や加工肉の摂取量が多いほど全死因死亡率、心血管死亡率、がん関連死亡率のリスクが上昇することが報告されているが、鶏肉や乳製品の摂取はそれらの疾患の死亡率と逆相関する。
動物性蛋白質摂取に関する所見のばらつきは、栄養素としての動物性蛋白質そのものが死亡リスクの上昇に寄与する真の原因であるかどうかに疑問を呈している。
また、脂肪リスクに関する所見は他の生活習慣に関連した危険因子、特に喫煙、肥満、アルコール摂取、運動不足などによる交絡因子の結果だったのではないかという疑問もある。
この疑問にさらに深く取り組むため、リンクの研究はEPIC-ハイデルベルグコホートから、他の主要リスク因子(喫煙、脂肪率、アルコール摂取、教育レベル、身体活動)の調整前および調整後で、様々な種類の肉および乳製品の摂取レベルに関連する死亡率ハザード比(HR)の推定値に矛盾を生じさせるかどうかを検討したもの。
結果
赤身肉や加工肉の摂取量が多く、牛乳やチーズの摂取量が少ないのは現在ヘビースモーカーである者、肥満のある者、アルコール多飲者だった。
年齢、性別、総エネルギー摂取量を調整したリスクモデルでは、赤肉または加工肉の摂取量が多いほど全死因死亡率、心血管死亡率、がん関連死亡率が上昇することが示された。
喫煙歴、体脂肪率、アルコール摂取量、身体活動レベルでさらに調整すると、加工肉摂取と心血管死亡率、チーズ摂取とがん死亡率との関連を除いて観察されたすべての統計的有意性は消失した。
この知見は交絡因子が大きいことを示唆しており、栄養素としての動物性蛋白質が死亡リスクの主要な決定因子であるという仮説を支持しない。
・過去の研究では、動物性蛋白質摂取量の増加と総死亡率および心血管系死亡率の増加との関連が一貫して示されているが、がん死亡率との関連は示されていない。今回の知見は、動物性蛋白質が心血管系死亡率や癌特異的死亡率の主要な危険因子であるという仮説を明確に支持するものではない。
・年齢、性別、総エネルギー摂取量で最小調整したモデルでは、動物性蛋白質に寄与する異なる食品群(赤肉、加工肉、鶏肉、乳製品)の摂取レベルと、総死亡リスクおよび原因特異的死亡リスクについて対照的な関連が観察された。
具体的には、赤肉や加工肉は、心血管系およびがん特異的死亡率だけでなく、総死亡率のリスクも増加させたが、鶏肉や乳製品はリスクを減少させた。
・重要なことは、喫煙歴、脂肪率、アルコール摂取量、身体活動量で調整するとほとんどの関連は統計的に有意でなくなるほど減弱した。
・期間、研究集団、使用した食事評価ツールの種類、または共変量調整の違いにより、世界中の前向き研究間で異質性が生じている可能性があるが、メタアナリシスではほとんどの場合、赤肉または加工肉の摂取量に関連して心血管系およびがん関連総死亡リスクが高く、鶏肉、チーズ、または牛乳の摂取量に関連してリスクが低いことが示された。
・過去のメタアナリシスでは今回の知見と同様に、加工肉摂取は一貫して全死因死亡率、特に心血管系死亡率と強い関連を示したが、加工されていない赤肉との関連は系統的には観察されなかったことも注目に値する。
・現在ヘビースモーカーである人、肥満やアルコール摂取量の多い人は心血管疾患や癌の危険因子である赤身肉、加工肉、鶏肉の摂取量がかなり多いことがわかった。対照的に、アルコールの常用者では牛乳摂取レベルがかなり低かった。
さらに、赤身肉や加工肉の摂取量が多く、チーズや牛乳の摂取量が少ないのは正規の教育水準が低い人に特徴的であることも観察された。
まとめ
動物性蛋白質の食物源のどれもが、喫煙、アルコール摂取、体重過多とは別に、心血管系または癌関連死亡リスクにとって意味のある決定因子であるという説得力のある証拠は見いだせなかった。